テスラのFSDリコール、ディーラーへの持ち込み不要 「修理」は無線で

OTA(Over The Air)のメリットの1つ



米EV(電気自動車)大手テスラはこのほど、ADAS機能を備える有料ソフトウェア「FSD(Full Self-Driving)ベータ版」に関連したリコールを届け出た。対象車両は約5万4,000台とみられるが、このリコール対応は速やかに完結する可能性が高そうだ。


その要因は、無線通信でソフトウェアを更新する「OTA(Over The Air)」だ。コネクテッド化された車両であれば、ソフトウェアの不具合は基本的にOTAで対応可能で、マイカーをわざわざディーラーに持ち込むことなく修正することができるのだ。

この記事では、テスラのリコール概要とともに、OTAのメリットについて解説していく。

■テスラのリコール概要

今回のリコールは、FSDアップデートに伴い車両がローリングストップを行う可能性があることを問題視されたものだ。

ローリングストップとは、クルマが停止線で完全に停止せず徐行して進行することを意味する。要するに一時停止違反だ。


テスラのADAS(先進運転支援システム)には、信号機や一時停止標識を認識して自動車を制御する運転支援機能が備わっているが、2021年10月のアップデートで運転特性の切り替えを可能にするプロファイル機能が実装された。このプロファイル機能の一部のモードを利用した場合、ローリングストップや頻繁なレーンチェンジ、追い越し車線の継続走行などを行う可能性があるという。

この際のアップデートは車両制御に不具合が確認されたためすぐに撤回されたものの、2022年1月のアップデートで再びプロファイル機能が復活し、ローリングストップ制御に対する危険性が改めて指摘される事態となった。

このため、米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)とテスラが協業し、リコールを決定したようだ。

リコール対応はすべてOTAによるソフトウェアアップデートで実施されるため、対象となったテスラ車のオーナーは無線通信環境を確保しておけば、その他は特にすることはなく、車両は自動的に改善されるという。


■OTAとは?

OTAは、無線通信を経由してデータを送受信することを指す。今日、スマートフォンなどで当たり前のように利用されている通信技術だ。

自動車の電子化・高度化が進展しソフトウェア依存度が増す自動車業界では、車載通信機の搭載によるコネクテッド化が今後加速し、ソフトウェア更新を容易なものへと変えていくことが予想される。

ハードウェアに比べ更新サイクルが短いソフトウェアを常に最新の状態に保つことで、自動車のライフサイクルを通じ機能の維持・向上を図ることが可能となる。近い将来、こうしたOTAによるソフトウェア更新がスタンダードとなる時代が訪れることはほぼ間違いなさそうだ。

■国内のリコール状況
プログラムミスに起因するリコール案件は相対的に増加

国土交通省自動車局の統計資料を参照すると、リコールの届出件数と対象台数は総じて右肩上がりの傾向にある。

年度ごとのばらつきが大きいため、各年代における10年スパンの年間平均値を算出すると、1970年代(1970~1979)は届出件数22.6件で対象台数60.8万台、1980年代は30.3件で61.4万台、1990年代は71.7件で143.4万台、2000年代は267.5件で462.2万台、2010年代は348.1件で943.8万台となっている。

1970年代と比べると、2010年代は届出件数・対象台数ともに約15倍まで増加していることがわかる。

一方、分析結果の資料が残る2003年度以降のリコール発生原因の推移をみると、不具合発生原因の区分上「プログラムミス」に分類されている届出は、2003年度は2件で全体の約1%に過ぎなかったが、2008年度は12件で4%、2013年度は26件で7.6%、2018年度は42件で9.3%、2019年度は52件で12.3%となっている。

全体としてリコール案件が増加する中、プログラムミスに起因する案件が相対的に増加していることが分かる。事例としては、エンジンコントロールユニットの制御プログラムやエアバッグコントローラの制御プログラム、ハイブリッドパワートレインコントロールモジュールにおけるモータ駆動力制御プログラム、パワートレーンコントロールユニットにおける回生ブレーキのプログラム、自動変速機におけるエンジン制御用コンピュータ内の変速油圧制御プログラムなど多岐に渡る案件が示されている。

自動車のあらゆる機能が電子制御化され、ソフトウェアによって管理される時代が到来しており、この傾向はADASや自動運転技術の高度化、コネクテッド化、電動化が進む今後、ますます加速していくことが予想される。

ソフトウェアに起因する不具合は、リコール案件に限らず増加していくことはほぼ間違いなさそうだ。

■OTAアップデートに関する取り組み

国土交通省は2020年11月、適切なソフトウェアアップデートを確保する環境整備の一環として、自動車の特定改造などの許可制度を創設・開始した。

道路運送車両法の改正により、電子制御装置に組み込まれたソフトウェアをアップデートし、性能変更や機能追加を大規模かつ容易に行うことが可能となったことを踏まえ、許可における具体的な要件や手続きを規定するために必要な関係政省令の整備を行った。

保安基準適合性に影響を及ぼすソフトウェアアップデートを、電気通信回線の使用、つまりOTAによって行う行為や、このアップデートに向けたソフトウェアを整備事業者などに提供する行為を対象とし、国土交通大臣への届出やソフトウェアアップデートの実施状況、アップデートに関する情報の記録・保管、サイバーセキュリティに対する脅威や脆弱性の監視、検出、対応などを求める内容だ。

また、同月には、自動車メーカー各社がリコールステッカーを廃止した。リコール改善措置済みであることを周知するため車両に貼付していたものだが、OTAでのソフトウェア更新によってリコール作業を行う場合、オーナーはディーラーなどへ車両を入庫することなく改善措置が実施できることから、リコールステッカーの貼付を廃止した。

このように、OTAによるソフトウェア更新を前提とするリコール対応などの仕組みも着々と整備されているのだ。

■【まとめ】近い将来OTAアップデートが標準仕様に

ADASや自動運転技術、各種情報サービスなどが搭載・拡張されていく今後の自動車は、ますますソフトウェア依存度を高めていく。近い将来の自動車は、パソコンやスマートフォンなどと同様に通信機能が標準化・必須化し、アップデートを繰り返しながら機能やサービス性を高めていくことになりそうだ。

ソフトウェアに起因するリコールも例外ではなく、車載インフォテインメント機能による通知のもと、ボタン1つで対策済みとなるケースも珍しいものではなくなっていくのだろう。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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