もし自動運転機能が壊れたら… テスラの「ドアがあかない事件」から考える

ホンダはレベル3の作動に通信条件



米EV(電気自動車)大手テスラのモバイルアプリに障害が発生し、テスラオーナーが一時的にマイカーに乗車できなくなる事態が発生した。


こうした事案は、自動車が高度にスマート化・コネクテッド化された未来において頻発する懸念がある。特にコネクテッド技術が必須となる自動運転車は、ネットワーク障害などの影響で使用不可となる恐れがあるのではないか。

この記事では、テスラの事案を題材に自動運転とネットワーク障害の関連について解説していく。

■テスラの障害の概要
テスラの障害はアプリの不具合が原因?数時間後に復旧

テスラの障害は、日本時間2021年11月20日早朝に発生した。テスラオーナーがマイカーにアクセスできなくなる事象が発生し、報告が相次いだようだ。この事象は米国内にとどまらず、世界中に波及した。

EV専門ニュースサイトのElectrekによると、アプリに不具合が生じ、アプリ経由でテスラ車を操作する機能が使用不可能になったという。スマートフォンをデジタルキーとして使用していたオーナーはドアの解錠などができず、立ち往生したようだ。なお、従来のカードキーやBluetooth接続などは可能だったようだ。


復旧までに数時間を要した模様で、ツイッターにはオーナーからの障害情報が多く投稿された。テスラCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏は「ネットワークトラフィックの冗長性が誤って増加した可能性がある。二度と起こらないよう対策を講じる」としている。

テスラによる公式発表は出されていないようだが、Electrekはテスラのモバイルアプリのアップデートに起因するものと推測している。

コネクテッドサービスへの影響

テスラのネットワーク障害はこれが初めてではない。2018年4月にアプリとAPIがほぼ1日ダウンしたほか、2020年9月にも大規模なネットワーク障害が発生したようだ。

こうした影響は、コネクテッド機能の拡充に伴い大きなものへと変わっていく。現行のコネクテッドサービスの大半は、あくまで付加サービスの位置付けであり、仮に通信障害が起きても一部サービスが使用不可になるのみで、自動車の運転そのものに支障を及ぼすことは基本的にない。


例えば、オペレーターによる案内サービスや車の状態を知らせる機能などは、一時サービス停止に陥っても走行に支障は生じない。ユーザーエクスペリエンスの問題だ。

スマートフォンを介してドアの解錠やエンジン始動などを行う機能も、本来の手段は基本的に利用可能なため、根本的な問題には至らない。ただし、スマートキーを常備せずスマートフォンをデジタルキーとして日常的に利用している場合、Bluetooth接続も不可となれば出先で立ち往生する可能性はありそうだ。

今回のテスラの問題は、このレベルに相当する。各オーナーは不具合の原因がわからず、ロードサービスを頼むケースなども想定される。

このほか、テレマティクス保険や商用車向けの運行管理サービスにおいては、通信障害で走行データが送受信されない場合、どのような対応がなされるのか。走行データが一時的に記録装置に保存され、復帰後に送信されるのか、あるいは障害発生中の走行は換算されないのかなど気になるところだ。

【参考】テスラの通信障害については「いまテスラ車に障害が起きているか調べる方法」も参照。

ADAS自動運転レベル3への影響

では、ADASや自動運転機能においてはどうか。

例えば、ハンズオフ運転を可能にする日産のADAS「プロパイロット2.0」は、高精度3次元地図やGPSを活用して高度な運転支援を行う。地図データそのものは新しいデータがあれば自動で更新が行われるが、ナビゲーションからの情報がこない場合などは一部のハンドル支援が作動できないようだ。また、GPS信号を受信できない際もハンドルを握るよう警告が発せられる。

【参考】プロパイロット2.0については「日産の自動運転・ADAS技術を解説!Pro PILOTの強みは?」も参照。

条件付きで自動運転を可能にするレベル3もほぼ同様で、ホンダの「トラフィックジャムパイロット」は、走行条件として「高精度地図及び全球測位衛星システム(GNSS)による情報が正しく入手できていること」を掲げている。

ハンズオフが可能なレベル2も自動運転が可能なレベル3も、通信条件が整っていなければしっかりとハンドルを握らなければならないようだ。

【参考】ホンダのトラフィックジャムパイロットについては「ホンダの自動運転レベル3搭載車「新型LEGEND」を徹底解剖!」も参照。

テスラに話を戻すと、こうしたネットワーク障害が起こった際、ADAS「Autopilot」や「FSD」は使用可能なのか。テスラは高精度3次元地図を使用しないため、GPS通信が無事であればADASそのものは問題なく稼働しそうだが、システム高度化に向けFSDなどは走行データを随時送受信している。

ADASそのものは本来ネットワーク通信を必要としていないものの、こうしたバックヤードの通信がプログラムに影響し、ADASの作動に及ぶ可能性なども考えられそうだ。

こうした懸念はテスラに限ったものではない。コネクテッド機能が高度化し、自動車の制御系統などとの関わりを深めれば深めるほど、ネットワーク障害の影響が波及するシステムの範囲もより広くなっていく可能性があるのだ。

■自動運転レベル4への影響
間接的な障害がメインに波及する恐れも

ドライバーレスの走行を可能とするレベル4の場合、通信障害は致命的となる。一般的な自動運転システムは高精度3次元地図を必須要素とするほか、リアルタイムの交通情報をモバイル通信システムや路車間通信(V2I)などを活用して随時受信し、安全性能を高めているからだ。

走行中にこうしたネットワーク障害が発生した場合、自動運転車は被害を最小限に抑えるミニマル・リスク・マヌーバー(MRM)などのシステムによって路肩などに安全に車両を停止させるが、復旧の見込みが不明であるため、乗客の不安は募る一方だろう。

ネットワーク障害ゆえに管理者側からリアルタイムでアナウンスを行うこともできない可能性が高く、あらかじめこうした事態を想定した乗客への案内・指示手段を講じておく必要がある。

また、ネットワークが無事であっても、OSなどのアップデートに伴う不具合や、クラウド側のプログラムの不具合に起因してシステムに障害が発生するケースも想定される。

スマートフォンなどでも、通信に問題がなくともOSの不具合によって各種アプリが使用不可能になることがある。最悪、スマートフォンそのものが機能しなくなることもあるだろう。

間接的な障害がメインシステムに波及し、すべての機能が制限される可能性なども考慮し、対策を講じておく必要がある。

サイバーセキュリティ対策も必須に

通信関連で課題となるのが、ハッキングなどに対するサイバーセキュリティだ。万が一自動運転車が乗っ取られた場合、その影響は人命に直結する。あの手この手で侵入を試みる悪質ハッカーは後を絶たず、強固なセキュリティ対策は永遠のテーマとも言える課題だ。

自動車向けのアプリやカーナビゲーションなどから自動車制御を試みるハッキング実験なども行われており、現行車両において脆弱性が指摘されるケースも少なくない。自動運転車においてはこれまで以上にさまざまな取り組みが進められ、改善を繰り返していくことになるのだろう。

【参考】サイバーセキュリティ対策については「コネクテッドカー×セキュリティ、市場拡大で大手参入が活発化」も参照。

■【まとめ】ネットワーク対策は最重要項目 あらゆる観点から対策を

自動運転が普及した将来、「大規模ネットワーク障害で自動運転車がいっせいにストップ」――のようなニュースが大々的に報じられる日が訪れるかもしれない。

こうした事態を完全に防ぐことは無理かもしれないが、バックアップ通信システムや乗客への対応、迅速な現場対応など、あらゆる観点からシミュレーションを行っておく必要がある。

コネクテッドカーや自動運転車をスタンダードな存在へと押し上げるためには、最重要項目となるネットワーク対策が必要不可欠なのだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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