宅配ロボの自動運転化、「遠隔(現地無人)」という重要ステップ

車道における「レベル4ロボット」実現への道



出典:テムザック公式サイト

自動走行ロボット実用化に向けた取り組みが加速している。多くは歩道などを走行する小型のロボットだが、車道走行を見越した開発も行われており、各地で実証が進められている。

現段階では、実証環境こそ整ったものの、実用化に向けた走行ルールはまだ定められていない。課題はまだ山積しており、研究や実証を通じて一つひとつの課題を解決し、一歩ずつステップアップを図っていかなければならない。


この記事では、自動走行ロボット開発の現状や課題とともに、進化の過程について解説していく。

■制度整備が必須の宅配ロボット

配送を担う自動走行ロボット、通称「宅配ロボット」は、各地の集配所や小売店舗などから各戸へ荷物を届ける役割を担う。いわゆるラストワンマイルだ。物流現場におけるドライバー不足の解消や業務の効率化、買い物弱者の支援、オンデマンド配送の実現などに期待が寄せられる。

宅配ロボットは、歩道などを走行する小型ロボットや車道を走行する比較的大きいサイズのロボット(車両)の2つに大きく分けることができる。また、小型ロボットはさらに屋外型・屋内型に分類することも可能だ。このほか、ドローンや対象者を自動追従するタイプなどもある。

【参考】関連記事としては「知ってる?警察庁が「自動配送ロボット」を7種類に分類」も参照。


実用化に向けては、道路交通法上の扱いや保安基準といった法整備をはじめ、高齢者や子ども、障がい者を含むさまざまな歩行者が存在する歩道においてどのようなルールのもと調和を図っていくべきか、事故時の責任をどう整理すべきかなど精査しなければならない。

歩道を走行する小型ロボットは、機体のサイズや走行速度、安全上備えるべき装備、歩行者らとの通行優先順など、現行法上明確に定義されていないのが現状だ。

なお、目安として「特定自動配送ロボット等の公道実証実験に係る道路使用許可基準」において、「長さ120センチメートル以下、幅70センチメートル以下」「時速6キロメートル以下」といった要件が示されている。将来的には、実証経験をもとにこうした要件を詰めたものが整備されることになるものと思われる。

▼特定自動配送ロボット等の公道実証実験に係る道路使用許可基準
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/robotkijun2.pdf


また、車道を走行するタイプのロボットについては、スペックによるが大方は第一種原動機付自転車(ミニカー)や超小型モビリティの区分に分類され、一般的な自動運転車と同様無人走行は認められていない。人が乗ることを前提としない宅配ロボットは、人の移動用途の自動運転車とは必須要件が異なる部分もあるため、どのような位置付けとなるか今後の議論に注目だ。

このほか、機体の開発をはじめ、歩道向けの高精度3次元地図の作製や、宅配ロボット向けの新たな配送プラットフォームの開発や従来の配送プラットフォームとの連携の在り方など、開発面でもまだまだ詰めていかなければならない点は多い。高精度3次元地図は、協調領域として整備すべきか否か――といった議論も必要になりそうだ。

■自動走行ロボット開発の現状と課題
走行ルールや道交法における類型化が第一の課題に

遠隔監視・操作型の自動走行ロボットの公道実証は、実験車両から遠隔に存在する監視・操作者が映像や音によって実験車両の周囲や進行方向の状況を把握し監視・操作する形態で、道路運送車両の保安基準の規定に適合していることが求められる。

歩道などを走行する実証において近接による常時監視が必須かどうかは定かではないが、現在行われている実証の多くは、万が一の際にすぐに対応できるよう安全面を考慮し、目視できる場所からロボットを監視しているものと思われる。完全無人はまだ先であり、時速6キロ未満で地道に実証を重ねている段階が現在の状況だ。

現状の課題を整理すると、第一に宅配ロボットは法律上の扱いが不明確であり、歩道や車道における走行ルールが確立されていない点が挙げられる。歩道、車道それぞれの走行ルールが明確にならなければ、ルールに合わせた開発を行うことができない。

速度制限の柔軟な運用も論点となる。一律の規定に捉われず、例えば歩行者が少ない歩道などにおいては、搭乗型移動支援ロボットのように時速10キロ以下まで可能にする――などの観点だ。安全性を重視する点は否定しないが、速度が遅すぎると配達量や配達範囲が制限されることになりかねないためだ。

宅配プラットフォームやフリートマネジメントシステムも必須に

開発面では、完全無人を実現する自動運転システムや宅配プラットフォームの開発をはじめ、1つのロボットが複数カ所に配達するシステムや複数台のロボットを管理するフリートマネジメントシステム、積載物に対する汎用性の拡大なども必要となりそうだ。

自動運転システムに関しては、人の移動用途と同様、完全無人を達成しなければ真のメリットは生まれない。遠隔制御システムの確立をはじめ、1人が複数台を適時監視する遠隔によるレベル3、そして基本的に監視を必要としないレベル4を達成することで省力化を図ることが可能になる。近接監視者など保安要員を必要としない段階から、一段ずつレベルアップを図っていかなければならない。

プラットフォーム関連では、複数のロボットを効率的に運用するシステムが求められるほか、異なる事業者の荷物を1つのロボットが配送するなどさまざまなケースが想定されるため、事業者間のシステム連携もカギを握る。ファーストマイルからラストワンマイルまでの配送をどれだけ効率化することができるか、ロジスティクス全般の変革が求められそうだ。

また、配送可能なモノの種類をどれだけ増やすことができるか、宅配ロッカー部分の開発も重要となってくる。配送需要が本格化すれば、単純な小包をはじめ生鮮食品や壊れやすいもの、冷凍・冷蔵食品など、積載物に対する汎用性が求められる。複数配達を可能にするモデルであれば、冷凍や冷蔵、保温食品などを同時に積載可能なロッカーがあれば重宝しそうだ。

このほか、ユーザーインターフェースの観点も忘れてはならない。発送や受け取り、ロボットの到着時間や位置情報などの通知や受け取り手法など、誰もが容易に行うことができるシステム・手法も求められる。

■宅配ロボット実証の現状
レベル4に向け一段ずつステップアップ

現在行われている実証は保安要員が目視で監視しているケースが多いものと思われるが、今後は近接保安要員なしの遠隔監視のみによる運用が一つのステップとなる。その後、遠隔監視を常時監視から適時監視へ――といった具合で遠隔レベル3への進化を果たし、原則監視も必要としないレベル4達成に向け一段ずつステップアップを図っていくのだ。

そのためには、一にも二にも実証が必要不可欠だ。あらゆる場面を想定し、経験を積み重ねて課題を一つずつ克服していかなければならない。

テムザックやNTTドコモが新たな取り組みに着手

ロボット開発を手掛けるテムザックは2021年10月、自社開発したスマートモビリティ「RODEM(ロデム)」を活用し、NTTドコモと都市再生機構が神奈川県横浜市で実施する実証に参加した。

RODEMは人の移動を担う1人乗りの自動運転パーソナルモビリティで、これまで京都府や栃木県、神奈川県など各地で実証が行われている。このRODEMにスマートロッカーや顔認証カメラなどを搭載して配送仕様のRODEMを構築し、団地空間において団地入口から住棟まで日用品などを配送する実証を行った。

ロボットの運用や遠隔監視・操作者は、エンジニアではなく専門知識を持たない一般スタッフが行ったようだ。運用操作画面での監視をはじめ、地図に表示されるロデムの現在地情報や周辺映像をもとにコントローラーを用いた遠隔操作なども簡単に行うことができる仕様という。

出典:テムザック公式サイト

保安要員や高度な知識を持つ専門スタッフなしで運用できる体制は、本格実用化後を見越した取り組みとも言える。小売店舗や宅配事業者らがロボットを導入しやすいシステム・オペレーションの構築もポイントとして見逃せないところだ。

テムザックやNTTドコモらの取り組みは、国の「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」の1つだ。同事業ではこのほかパナソニックや日本郵便など10事業が採択されており、各地でさまざまな実証を進めている。

こうした実証は、システム面の開発のみならず、制度設計に向けた貴重な材料となる。効果的な運用の在り方や浮き彫りとなった課題、社会受容性など、実証を通じて明らかになった各種情報を参照・精査し、制度は作られていく。その意味でも、さまざまな条件下で実施された実証が必要不可欠となるのだ。

■【まとめ】2021年度中に関連法案提出、道交法では新たな類型を設定

小型の自動配送ロボットの制度整備に関しては、機体の安全性・信頼性向上に向け産業界における自主的な基準や認証の仕組みの検討を促すことなどを前提に2021年度中に関連法案の提出を目指している。道路交通法においては、新たな類型を設ける方向で検討を進めているという。

開発面では、2022年度概算要求において「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」として18.7億円を要望している。さまざまなサービスロボットの開発・実装を促進するとともに、自動配送ロボットの活用に向けた技術開発や実証を引き続き実施していく方針だ。

本年度、そして来年度もますます実用化に向けた取り組みが加速していきそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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