札束舞う自動運転界…AI技術者1人に100億円も 買収合戦過熱

大手がスタートアップに照準



自動運転システムや電気自動車(EV)の開発競争で大転換期を迎えている自動車業界。大手同士の提携や出資、買収などで業界の構図も目まぐるしく変わっている。とりわけ大手企業によるスタートアップ企業の買収は盛んで、新興企業ならではの柔軟な発想や技術をどんどん取り込んでいる。


さて、このスタートアップの買収に関して、見方を変えれば技術とともに「人材・技術者」を買っているともいえる。米自動車大手のフォード社が2017年、人工知能(AI)の開発を手掛けるアルゴAI社を約10億ドル(1100億円)で買収したが、同社の社員は10人ほど。1人あたり100億円強というとてつもない値がついており、年収だけでは語れない自動運転に関わる技術者の価値をここからも垣間見ることができる。

2016年には、米自動車大手のゼネラルモーターズ(GM)社が自動運転技術を開発するクルーズオートメーション(Cruise Automation)を約10億ドル(1100億円)で買収。クルーズ社の社員は40人で、1人当たり22億5000万円換算だ。

■1人1人のエンジニアがいるからこそ

創業から間もないスタートアップ企業は得てして社員数が少なく、中核をなす技術の評価次第では破格の値が付くからこその数字と言える。ただ、ニュースバリューとしては技術そのものや経営トップだけに注目が集まりがちだが、それを支える一人ひとりのエンジニアがいるからこその評価であることを忘れてはならない。アルゴAI社のブライアン・サレスキー最高経営責任者(CEO)が述べた「従業員は全員がオーナー」という言葉が物語っている。

以下、近年のスタートアップ企業の買収・出資をいくつかピックアップしてみた。


  • 2017年3月、米インテル社がイスラエルのモービルアイ社を153億ドル(約1兆7500億円)で買収した。
  • LiDAR技術を開発するイスラエルのイノヴィズ・テクノロジーズ(Innoviz Technologies)社が2017年9月、自動車部品メーカーの米デルファイ社やカナダのマグナ社などから6500万ドル(約72億円)を資金調達。また、韓国のサムスンとソフトバンクの韓国法人からも800万ドル(約9億円)を調達した。
  • GM社が2017年10月、LiDAR開発の米ストロベ(Strobe)社を買収。金額は非公表となっている。このほか、EVバスメーカーのプロテラ(Proterra)社やHD地図技術・AV用ソフトウェアを開発するアッシャー(Ushr)社などにも投資している。
  • 自動車部品大手の独コンチネンタル社が2016年3月に3DフラッシュLiDAR事業を手掛ける米Advanced Scientific Concepts(ASC)社、2017年7月にインテリジェントモビリティなど各種ソリューションを開発するシンガポールのクアンタム・インベンションズ(Quantum Inventions)社、同11月にサイバーセキュリティを手がけるイスラエルのアルグス社の買収をそれぞれ発表した。
  • トヨタ自動車は2018年6月、配車サービスを手がけるシンガポールのグラブ(Grab)社に10億ドル(約1100億円)を出資すると発表した。
  • AI安全運転支援デバイスを開発する米ナウト(NAUTO)社は2017年7月、BMW、トヨタ、GM、ソフトバンクなどから総額1億6000万ドル(約180億円)を資金調達した。
  • 独ダイムラー社はライドシェアサービスを展開する米ヴィア・トランスポーテーション社に2.5億ドル(約275億円)を出資。このほか、ドバイでライドシェアサービスを展開するカリーム(Careem)社やドイツの配車アプリ「マイタクシー(My Taxi)」へ投資・買収するなどライドシェア分野に力を入れている。
■気になる日本の自動車メーカーの人材戦略

自動運転業界での人材争奪戦は今後もますます過熱していくものとみられる。世界企業が巨額の資金を投入して技術者の囲い込みに乗り出す中、トヨタ自動車や日産自動車、ホンダなどの日本の大手自動車メーカーの今後のエンジニア獲得戦略にも注目していきたい。



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