移動や物流用途で実用化に向けた動きが加速する自動運転。法整備が整い次第、実用実証は一気に全国に広がる可能性が高い。わずか数年以内の未来だ。
一方、自動運転技術の多用途化を目指す動きもある。その1つが小売りをはじめとした移動店舗型モビリティだ。自動運転・無人化によるコスト減だけでなく、固定店舗ではなし得ない移動型特有のメリットを生み出す。
この記事では、移動型店舗に関する取り組みとともに、自動運転技術などがどのように移動型店舗のビジネス性を増強させていくかを解説していく。
記事の目次
■移動型店舗の特徴・メリット・将来性
最大の特徴は「立地」にとらわれないこと
移動型店舗の最大の特徴は、モノを販売したりサービスを提供したりする「立地」にとらわれないことだ。従来の固定型店舗の場合、基本的に各種サービスは店内で行われるため、立地が重要となることは言うまでもない。賃料などのコストを考慮しながら、より多くの集客が見込める場所を求めて出店するのがスタンダードだ。
固定型店舗では最重要とも言える立地だが、移動型店舗ではこの立地の観点にとらわれない運営が可能になる。時期や時間帯、曜日、天気、イベントなどその時々の状況に合わせ、最適と思われる場所を選ぶことができるのだ。出店場所によっては許可が必要となるが、比較的自由に出店場所を選択することができる。
人流データや移動データを使って売上の最大化が図れる
そしてこうした際に重要となるのが、人流をはじめとした各種データだ。曜日や時間帯などによってどこに人の流れがあるのか、またどういった嗜好を持っているかなど、人の動きや特性などを見極め、より効果的な出店場所や商品を選択するのだ。
人の移動データは、スマートフォンなどのGPSデータをはじめ、基地局との接続データ、駅やバス停、ターミナルなどの交通施設の通過データ、交通量データ、ビルや交差点などに設置された定点カメラなどによるセンシングデータ、各施設の決済データなど、さまざまな方向から蓄積されている。
こうしたデータに過去の売上データなど販売予測に直結するデータを掛け合わせることで、移動型店舗による売り上げの最大化を図っていくのだ。
自動運転技術やリモート接客の導入で、コストを軽減
移動型店舗は固定型店舗に比べ賃料などの固定費は少ない場合が多い。また、自動運転技術を導入することで販売そのものを無人化し、人件費を浮かすことができる効果も大きい。
無人販売やリモート接客システム、無人決済システムなどを導入する必要があるが、予想通りの売上が立てばこうしたコストはすぐに吸収できそうだ。
■単純な移動型店舗の取り組み例
Mellowの「SHOP STOP」の取り組み
移動型店舗関連では、モビリティを活用した空地活用や店舗型モビリティの開業支援などを手掛けるMellowの取り組みが象徴的だ。
同社が展開するモビリティビジネス・プラットフォーム「SHOP STOP」は、ビルの空きスペースにキッチンカーをはじめとするさまざまなショップ・モビリティを配車するサービスで、現在首都圏を中心に380カ所で展開しているという。
出店場所の確保をはじめ、開業や経営サポートをワンパッケージにしたキッチンカーのサブスクリプションサービス「フードトラックONE」なども提供しているほか、公園や団地などに定期的にキッチンカーを出店する社会実験などにも取り組んでいる。
DATAFLUCTは「WHEEL kitchen」の実証実験
データサイエンス事業を手掛けるDATAFLUCTは、2020年11月から約1カ月間にわたり、キッチンカーで自宅周辺まで本格的な料理を届けるサービス「WHEEL kitchen」の実証実験を東京都内で実施した。
データサイエンスを活用した新しい移動販売サービスで、今後飲食以外のサービス拡大も予定しているという。ビッグデータの力によって新たな商圏を作ることや、最適化アルゴリズムによって利益を最大化すること、SaaSシステム連携と需要予測、データ解析によって業務工数を大幅に削減可能としており、データ活用を主軸にした事業展開に要注目だ。
三井不動産は「モビリティ構想」に着手
一方、三井不動産は2020年、ヒト・モノ・サービスの移動に着目したモビリティ領域における取り組み「モビリティ構想」に着手した。働き方や暮らし方が多様化し、ライフスタイルの変化が加速する中、MaaSをはじめとしたモビリティによって新たな価値創出に取り組む方針だ。
例えば、「仕事」「暮らし」の重なる領域においてワーケーションのニーズが新たに生まれているが、ここにモビリティを活用することにより、多様なアセットを効率的に組み合わせて使い分ける効率的な移動サポートや、不動産の枠組みを超えた可動型の柔軟なサービスの提供が可能としている。
また、まちづくりの観点では、モビリティサービスによってカフェや飲食店、公園などのアウトドアフィールドなどのコンテンツへのアクセスが容易になるが、コンテンツ自体をモビリティに搭載して移動することも可能になり、駐車場をこれらのモビリティサービスの拠点として活用することも考えられるとしている。
不動産とモビリティサービスが結びつくことで、「自らが移動する」「コンテンツが移動する」という2つの選択肢が生まれ、目的に応じて多様な不動産コンテンツを選んで利用する生活が実現するという発想だ。
同社は取り組みの第1弾として、2020年9月から12月にかけ、首都圏や近郊5カ所で10業種11店舗の事業者とともに移動商業店舗のトライアルイベントを実施している。
【参考】三井不動産の取り組みについては「「店舗群」が自ら移動!自動運転車で「次世代小売」、カギはDX」も参照。
「店舗群」が自ら移動!自動運転車で「次世代小売」、カギはDX https://t.co/3ZhJTS3RMR @jidountenlab #自動運転 #小売 #DX
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) February 13, 2021
■自動運転車を活用した取り組みも登場
移動型店舗に自動運転を導入する取り組みもスタートしている。三越伊勢丹と三井物産、不動産コンサルティングを手掛けるリアルゲイトは2021年7月、モビリティサイズにした実店舗で特別なショッピング体験ができる移動型コンシェルジュショップの実証実験をリアルゲイト本社で実施した。
オフィスワーカー向けのサスティナブルな購買体験とライススタイル提案のサービスにより、特別な購買体験を創出する狙いで、この取り組みの中でトレーラーハウス型モビリティとともにソニーとヤマハ発動機が共同開発した自動運転車両Sociable Cart(ソーシャブルカート)「SC-1」が活用された。
ヤマハの自動運転技術とソニーのエンターテインメント映像技術を融合させたモデルで、室内や車体側面には高精細ディスプレイがビルトインされている。実証では、SC-1を小型ショップ空間として活用し、映像技術によって三越伊勢丹の接客サービスを提供したという。接客不可能な「無人化」のデメリットをリモート接客で効果的に補う好例と言えそうだ。
■【まとめ】移動型店舗はビッグデータや自動運転でビジネス性が拡大
多様化するライフスタイルを背景に、移動型店舗の需要は今後伸びていくことが考えられる。また、各種ビッグデータを活用したデータマーケティングやDX化の浸透、そして自動運転技術の実用化によってビジネス性が大きく向上し、近い将来大ブームが巻き起こる可能性もありそうだ。
MellowやDATAFLUCT、三井不動産などの取り組みも、今後自動運転技術を組み合わせて新たな進化を遂げる可能性は否定できない。従来の不動産型店舗に移動・無人化を結び付けた新たな業態が、スタンダードな存在へと変わっていく最初のフェーズを今まさに迎えているのかもしれない。
【参考】関連記事としては「窓の代わりに高精細ディスプレイ!ヤマハとソニー、自動運転車を共同開発」も参照。