自動運転の仕組みは2種類!「非人間型」と「人間型」

センサーとAIベースにさまざまな技術が登場



自動運転の各機能・システムは、よく人間に例えられる。センサーが「目」、AI(人工知能)が「脳」といった具合だ。人間による従来の運転操作をコンピュータで代替するのが自動運転のため、この例えは正しいと言える。


ただ、世界で開発中の自動運転システムの多くは、この目と脳以外の技術も併用し、自動運転の精度を高めている。

この記事では、センサーとAIに特化した自動運転システムを「人間型」、その他の技術も必須とする自動運転システムを「非人間型」と称し、それぞれの仕組みや特徴について解説していく。

■「非人間型」の自動運転の仕組み
非人間型センサーとAIがベースに

現在世界で主流となっている自動運転システムは、カメラやLiDARミリ波レーダーなどの各センサーで車両の周囲360度の状況を把握し、そこに映し出された物体などを検知・解析して車両を安全に走行させる。

各センサーが総じて「目」の役割を担うが、LiDARを活用している点がポイントだ。LiDARは、数百メートル先まで3次元で立体的にモノを捉え、距離を計測することができる。人間の目にはない機能だ。


人間の目に近い機能を持つカメラに、こうしたさまざまなセンサーを統合することで、自動運転車の目としての機能を総合的に高め、物体検知精度をより確実なものにしているのだ。

各センサーが収集したデータは、自動運転の脳となるAIが解析する。映し出されたモノやその動きを正確に捉え、自車両をどのように制御すれば安全に走行できるかを考える役割だ。

これらセンサーが周囲の状況を正確に映し出しデータ化する技術や、そのデータをリアルタイムで解析し制御指示を出す技術が自動運転の根幹をなす。

また、自車位置特定には、GPSをはじめとした衛星測位システムをベースとするのが一般的だ。衛星測位システムだけでは精密に自車位置を特定できないことが多いため、「非人間型」ではさまざまなシステムを併用して自車位置情報を補完する。一方、後述する「人間型」は、従来通りカーナビゲーションレベルの地図情報と衛星測位システムで自動運転を成立させる。


自動運転システムの精度を高めるさまざまな補完技術を活用

上記のセンサーとAIシステムだけでは、現状道路交通におけるあらゆる状況に対応しきれない。このため、自動運転システムの精度を高めるさまざまな補完技術の開発も盛んに進められている。

その代表格は高精度3次元地図の活用だ。事前に道路、及び周辺の車線や標識、構造物などを3Dマッピングして構築した地図をデジタルインフラとして活用するのだ。

自動運転車は走行時、この地図から道路の車線や標識、信号、交差点などの位置や情報を入手し、安全走行やルートプランニングに役立てるとともに、車載LiDARなどがリアルタイムで検出したデータと地図上のデータを照合することで、現在位置を正確に把握することが可能になる。

例えば、GPS情報が10メートルずれていた場合、自動運転車は高精度3次元地図上においても10メートルずれた状態で走行していることになるが、車載LiDARなどが交差点の信号機を捉えて自車からの距離を計算することで、地図上における誤差を埋めることが可能になる。つまり、地図上にマーキングされた何かしらの目印・ランドマークと、実際にセンサーが捉えたランドマークを比較することで、自車位置情報を補正することができるのだ。

また、高精度3次元地図に渋滞情報や事故情報などの各種交通情報や信号現示情報などリアルタイムの交通情報を付加することもできる。あらかじめさまざまな情報を入手することで、安全性を高めることが可能になる。

こうした情報は、情報提供機関からの直送信をはじめ、道路インフラと送受信するV2I(路車間通信)などさまざまな通信手法で入手することが想定される。

このほか、磁気マーカーを活用した自動運転システムなども存在する。あらかじめ道路に埋め込んだ磁気情報を車両で読み取りながら走行する仕組みだ。実社会においても、視覚障がい者向けに点字ブロック(誘導用ブロック)や音が出る信号機などが社会インフラとして設置されているが、自動運転車もある意味同様にインフラの力を借りながら安全性を高めることができる。

目や脳となるセンサーやAI以外にも、さまざまな技術・システムをフル活用して自動運転の精度を高めることが、早期実用化・普及につながっていくのだ。

■「人間型」の自動運転の仕組み

一方の人間型は、カメラを主体としたセンサーとAIのみで自動運転の実現を目指すタイプだ。代表格には米テスラが挙げられる。

人間の目に最も近いセンサーはカメラと言われている。目は眼球内の水晶体がレンズの役割を担い、目に入ってきた光エネルギーを網膜が電気エネルギーに変換し、神経を通じて脳に伝達される。また、左右2つ備えることで立体視が可能になり、遠近感などもつかみやすくなる。

カメラも複眼化することで物体との遠近感、いわば距離を計測することも可能になる。将来技術となるが、カメラとAIの組み合わせが最も人間の目と脳の関係・機能を再現できるはずだ。人間の目の機能を再現できれば、LiDARなどが必要なくなるのは言うまでもない。

自車位置情報と行き先・目標地点までのナビゲート機能は必要なため、GPSなどの衛星測位システムと地図は使用するが、あくまで従来のカーナビゲーションシステムレベルの使い方となる。

AI信者のイーロン・マスクCEO率いるテスラは、コンピュータビジョンに重点を置いた自動運転開発を進めており、近年中に完全自動運転を実現すると豪語している。LiDARは不必要と言い切り、高精度3次元地図を活用する方針も打ち出していない。

【参考】関連記事としては「地図はいらない!テスラ流の「人間的」自動運転とは?」も参照。

現行のテスラ車には、センサーシステムとしてサラウンドカメラ8台とミリ波レーダー、超音波センサーが搭載されており、同一車線内でハンドル操作や加減速を自動で行う(支援する)自動運転レベル2相当の機能「オートパイロット」を提供している。

テスラは、これらのハードウェアをベースに、ソフトウェアのアップデートによって将来「フル セルフドライビング」を実現するという。つまり、カメラを主体とした現行のセンサーシステムで自動運転に臨むスタンスなのだ。

こうしたセンサーとAIのみの自動運転システムは、1つの理想像と言える。センサーシステムの構成がシンプルなため、複雑なフュージョン技術などを擁することなくソフトウェアを構築できる。LiDARや高精度3次元地図なども必要としないため、コストも削減できそうだ。

実現すれば地理的な「ODD」の制限は一気になくなる?

この人間型自動運転システム最大の利点は、自動運転レベル5に限りなく近づくことができる点だ。純粋にセンサーがリアルタイムで映し出した周囲の映像をもとにAIが車両を制御する仕組みのため、ODD(運行設計領域)における道路条件や地理条件に制限がなくなるのだ。

ODDは、高速道路や一般道の区別や車線数などをもとした道路条件と、仮想的に線引きした地理的境界線内などをもとにした地理条件、天気や日照状況などの環境条件、速度制限やインフラ協調の有無、連続運行時間といったその他の条件に大別できるが、人間型自動運転システムは高精度3次元地図の整備状況などに依存しないため、基本的に道路条件や地理条件をクリアし、どこでも走行可能となる。

厳密には、自動車専用道路とそれ以外の道路で区別するなど一定の段階を踏むものと思われるが、ひとたび専用道路以外の領域に踏み込めば、道路・地理条件は一気に広がることになる。

一方の非人間型の場合、道路・地理条件を拡大するためには高精度3次元地図の整備が必要となり、世界各地の道路を網羅するには莫大な時間とコスト、労力を要することになる。

悪天候時などに課題が残るためレベル5達成にはさらなる技術の進歩が必要不可欠となるが、高精度3次元地図などオプション的要素を必要としないシステムならではの可能性がそこに眠っているのだ。

■【まとめ】主流は非人間型だが、20〜30年後の未来は…?

人間型、非人間型ともにベースはセンサーとAIであるため、非人間型は「武装型」といった方が適切かもしれない。人間型が備えていないLiDARや高精度3次元地図といったアイテムを駆使して自動運転を実現するためだ。

現在、LiDARの価格は大きく低下し、高精度3次元地図も効率的に作製・更新する技術開発が進んでいるため、主流の非人間型が今後も自動運転レースを優勢に進めるものと思われる。しかし、イーロン・マスク氏のようにセンサーとAIのみで自動運転の実現を目指す試みも間違いなく理想の1つだ。

20年、30年後の社会はどのような自動運転システムが普及しているのか。こうした区別を超越した新たな技術が主流になっている可能性も考えられ、今まさに新技術が生まれようとしているかもしれない。各社の開発動向、そして社会の動向に引き続き注目したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事