日本最大のタクシーアプリを展開し、現在、上場の準備をしているGO株式会社。先月11月、一部メディアに対してGOの広告掲載の条件として、広告代理店から「ライドシェア記事の削除」の通知が行われた件がSNSで炎上した。
自動運転ラボは渦中のGOの中島宏社長に単独取材を決行。通知が行われた背景や内情について、独白してもらった。その内容は「GO社長が独白!「ライドシェア記事NG」事件、ちらつく川鍋会長の影 「意図せず起きた」」の記事の通りだ。
この中島氏の独白で印象的だったことが、日本交通の元会長でありGOの代表取締役会長の「タクシー王子」こと川鍋一朗氏はライドシェアの全面解禁に反対の意向を堂々と表明している一方、株主構成や会長・社長という立場から実質的に川鍋氏の部下と見られがちな中島社長は、ライドシェアに中立的な立ち位置をとっており、この2人のスタンスには明確な違いがあるということだ。
会長が全面解禁に反対しながらも、すでにライドシェアの配車も可能になっている状況にあるGOアプリ。いわば「ダブルスタンダード」とも言える状況がGOの社内に存在する中、前回記事に続く本稿では、中島氏が口にした知られざるGOの事業展望、そして自動運転ラボ主宰の下山哲平だけに語った苦悩について紹介する。
▼GOタクシー、広告継続の条件に「ライドシェア記事を削除」 突然の通知、猶予は1週間
https://jidounten-lab.com/u_50972
▼GOタクシーの「ライドシェア記事NG」騒動、著名人も反応 解禁の議論、再び活発化
https://jidounten-lab.com/u_51024
▼GO社長が独白!「ライドシェア記事NG」事件、ちらつく川鍋会長の影 「意図せず起きた」
https://jidounten-lab.com/u_51220
記事の目次
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■「上場すれば1社が強い影響力を及ぼせない」
【編集部】GOは日本交通にルーツがあるタクシーアプリで、現在も日本交通が大株主だ。そしてGOの川鍋会長は日本交通の創業者一族であり、GOと日本交通は切っても切れない関係にある。そのため、「川鍋氏の意向=GOの方針」という印象が強い。
下山 世の中の多くが「GOは日本交通系」と思ってるのは事実。でも川鍋会長の考え方とGOの一企業としての方針が違うというなら、極端な話、中島さんが日本交通を大株主ではなくすぐらいの姿勢にならないといけないと思います。
中島社長 いやまあ、(日本交通は)大株主で、しかも創業株主なので、私の一存だけで決められる話ではないです。これは当社がどうこうの問題ではなく資本の論理として。なお実際問題、日本交通は特別な株主でありパートナーであることは紛れもない事実です。
ただ、我々は上場を目指してるということを表明しており、パブリック(公開企業)になろうとしている。その状態で、(GOの)プラットフォームに参加しているタクシー会社の1社が、プラットフォームに強い影響力を及ぼしてはいけない。
いずれにしても、上場したら1社が強い影響力を行使することは絶対できない。証券会社や監査法人、東証の目も入るので。公明正大に「1社が強い影響力を行使できません」という状態を整えることが、パブリックになるメインの理由です。だから早く(GO株式会社を)パブリックにしなきゃいけない。
ただ「パブリックになったところで(日本交通の)影響あるんでしょ?」と言われてしまうのでは、運命なのでしょうがないです。
下山 パブリックになろうとすればするほど「社長である中島さんの意思決定では動きが決めれない会社なんですか」という意地悪な質問が投資家から投げかけられることも増える気がしますが、それにはどう回答されますか?
中島社長 その質問が「川鍋さんが代表取締役会長であり続けた方がいいと思ってるんですか?」という趣旨だとすれば、現時点ではイエスです。続けた方がいいと思っています。タクシー業界から信用されることが、現在のGOの経営フェーズ上の重要なポイントの一つであるからです。「将来プラットフォーマーが横暴なことをするのではないか」と心配するタクシー事業者様が多いのも実態としてはある中で、川鍋さんが会長であることが、タクシー事業者様にとっては圧倒的な安心材料になっています。
■「『沈黙が金なり』と思い、発言しなかった」
【編集部】純粋にGOを独立した企業として見た場合、配車プラットフォーマーとしてタクシーの配車もライドシェアの配車も手掛けているため、ライドシェアが全面解禁されればGO社の事業規模は確実に拡大する。そのため、川鍋会長に忖度せず、GOは企業として堂々とライドシェアの全面解禁に賛成すればいい、という見方もある。
中島社長 例えば、GOの株主には金融関係の会社、ベンチャーキャピタリストなどもいらっしゃいますが、そういった業界の方々の多くは「全面解禁をやればいいじゃん」と言う。ビジネスのことだけ考えたら、ライドシェアを全面的に解禁してサービスの供給量が増えれば増えるだけGOの数字が伸びるので、「UberやDiDiと徒党を組んで全面解禁やりなさい」「なんでやらないんですか」とすごい言われます。
一方で逆もいる。タクシー業界の方々から、机を叩いて「(いまの日本にある課題は)タクシー業界が全部解決するから、まさかライドシェアに賛成とか言わないよね」といったことを言われます。このように、両面から言われる難しい立場。
皆さんあまり気づいていないかもしれないですけど、GO株式会社という人格では、この一連のライドシェアの議論の中では意見表明していません。
下山 なぜはっきり意見表明をしないのでしょうか。
中島社長 ちょっと広報に怒られるかもしれないですけど、「沈黙が金なり」と思ったからです。これはもう偽らざる事実です。誤解を与える発言をすると、マイナス方向のヒュージインパクトが発生するので。
背景まで理解して表現してくれるメディアさんには話せるんですが、大体、切り取るので。切り取られると(マイナスの)ヒュージインパクトが出る。切り取られて誤解を与えるぐらいなら、黙ってる方のメリットがよっぽど大きく、経済合理性がありました。
■「全面解禁ならGOのビジネスはとんでもなく伸びる」
下山 事実上、すでに今はGOでライドシェアの配車はできるものの、まだタクシーの配車規模と比べると、あってないようなもの。なので実質的にはGOはタクシー会社のアプリであり、今後、タクシー業界としてライドシェアに対してどう向き合っていくべきなのか知りたいです。当面、どうやって稼いでいくべきなのか。
中島社長 まずスタンスについてしっかり言っておくと、「GO≒日本交通」「タクシー業界の代弁者」と見られることは甘んじて受け入れますが、我々自身は本当に純粋にあくまでプラットフォームだと思っております。
ただこの瞬間は、GOの強みの源泉がタクシー業界のシェアが高いことにあるのは事実。一方、ライドシェアが全面解禁になったら、GOのビジネスがとんでもなく伸びることも確実です。
下山 全面解禁になったらGOとUberの戦いになってしまいます。タクシーアプリ各社がシェア獲得に向けてクーポンを乱発したように、札束での殴り合いがもう1回始まります。
中島社長 確かにクーポン合戦が始まりますが、今この瞬間、GOはユーザーシェアが高い。ネットワーク効果(※ユーザーが増えるほど、サービスの価値が向上すること)がかなり働くので、とんでもなく下駄を履いた状態で、Uberさんと戦うことになる。つまり、GOにとっては、全面解禁はウェルカムです。数字だけの面で言ったら。
もう1回クーポン合戦になって、また400億〜500億円を調達して、もう1回投資して大赤字になっても勝ち切るっていうのは、とてもカロリーが高い業務になるので嫌な面もありますが、事業規模が大きくなるという意味では歓迎すべきことです。
■「雇用で最適化した方がリープフロッグ的」
【編集部】日本版ライドシェアでは、タクシー事業者しかライドシェアのサービスを提供できず、ドライバーはタクシー会社に雇用される形態となっている。この点について、ドライバーの働き方の自由度が確保されない、といった批判の声もある。
中島社長 「業務委託でいいんじゃないか」「雇用(という形式)は、けしからん!」とか言っているのは、日本だけです。世界ではまず業務委託型から始まって、その後、労働法が厳しくなり、どんどん形態が雇用に変わっています。
アメリカもヨーロッパも「自由にやらせればいいじゃん」「労働時間管理しなくてもいいじゃないか」から始まって、問題が起こって、客観的に見たら世界は業務委託型より雇用型の方に近づいてます。もう何周も回って近づいています。
日本の場合、歴史的には雇用型でずっとやってきてるため、今は「個人事業主さんにやらせたらいいじゃないか」「アメリカがそうなってるぞ」っていう声が多いですが、「いや、もうアメリカではそうなってません」「ちゃんと勉強してください」と言いたい。
私は、ライドシェアは雇用型で最適化した方が、リープフロッグ(※カエル跳びのようにいきなり最先端に到達する、という意味)的で最先端、という見方をしてます。
下山 「業務委託型か雇用型かを働き手が選べる形態で良い」という声には、どう応じますか。
中島社長 交通系やタクシー系に携わり始めてから7、8年経ちますが(※中島氏は元DeNA役員)、すごいと思ったのは、運行管理や安全マネジメントにタクシー会社は血のにじむような努力しているということ。ほとんどの人はタクシーの営業所に行ったことがないし、安全管理や労務管理の現場も見たことないので、知らないと思うんですが、だから日本のタクシーの安全レベルがこんなに高い。
その枠組みを外してしまうと何が起こるのか。「外してみないとわかんないじゃん」と言いたい気持ちはよく分かるのですが、(日本の交通業界では)歴史的に外したことがあり、その結果、何が起こるのかはもう分かっています。
かつて国がバスの料金自由化や参入自由化を進め、自由競争に委ねたら、格安バスによるバス移動がワーッと出て、象徴的に軽井沢のバス事故が起きました。そして象徴的な事故が起こると、国を挙げて、国民を挙げて再発防止という話になります。
【編集部】交通業界ではかつてバス事業の規制緩和が過当競争を招き、ずさんな運行管理や労務管理などが問題となった。2016年1月に長野県軽井沢町で15人が死亡した格安スキーバスの転落事故では、バス事業に新規参入したばかりの運行受託会社が運転手の健康診断や適性検査などを怠っていたことが世間に知れ渡った。
■「超アナログでしかできない安全管理もある」
下山 今の話にはすごい違和感があります。なぜテクノロジーが発展していなかったときの事例を持ち出し、一生解決できないという前提で話をされているのでしょうか。もちろん、技術で全てが解決するわけではないですが、「歴史が証明してるから」と口にするのは、プラットフォーマーの責任とテクノロジーから目を背けてるとしか思えません。
例えば、呼吸に含まれるアルコール量を検知する仕組みやアプリ、あとは個人情報的には日本ではやや難しいですが、個々人のデジタル情報を業界内でシェアし、性犯罪者がドライバーとして働けないようにするなど、少なく見積もっても問題の半分ぐらいは解決できます。
中島社長 その論には、半分賛成で半分反対です。
現場では凄まじい安全に対する取り組みがされていますが、確かにデジタルを入れたら労働集約的ではなくもっと効率化できるとか、クラウドから管理して同じぐらいの安全レベルを担保できる、ということはあります。ただ、超アナログでしか安全が確保できない部分もあります。
日本の国民は完璧さを求めます。だから、ものすごいアナログな取り組みでしか確保できない安全管理の水準も、企業に求めてきます。それは今のところの日本国民の総意です。
もちろん、プラットフォーマー側で安全管理ができるように、デジタルの力で努力すべきという話はあるんですが、これをやり切ろうとすると、すごいコストがかかります。利益率がどんどん下がっていきます。投資も膨らみます。
そんなIRR(※「内部収益率」のことで、投資の収益性を評価するための指標の一つ)の悪い投資を株主サイドが許すとは、到底思えません。
下山 つまり「すごいコストがかかる超アナログな安全管理はタクシー会社にやらせるべき」という話ですが、タクシー会社側もそれを望んでいるのでしょうか?自分がタクシー事業会社側ならむしろ、「そういった人力で高コストなオペレーションこそ、プラットフォーマーが共通化して生産性を上げてよ」と思うはずですが。
中島社長 今のところ、一見すると投資効率の悪いことでも、安全レベルを高く保つために一生懸命やってくださるタクシー会社というのが世の中にあるので、これは社会全体として、このままやってもらっていた方が絶対いいということです。
■「人の命を踏み越える経営方針はとれない」
【編集部】最後に中島社長に、ライドシェアの全面解禁や交通業界における規制緩和に対し、一経営者として純粋にどのような思いを持っているのかを聞いた。
中島社長 数字のことだけで言ったら、ライドシェアの規制が完全緩和になって、GOとして大きな時価総額を作りに行くっていう方がいいに決まっています。ただ、すごい嫌だなと思うのは、さっきの安全管理の話に絡みますが、その過程のどこかで人を死なすことになります。
それが分かっているのに、完全緩和のシナリオを後押しする気には1ミリもなれません。数字の話ではないです。交通プラットフォーマーとして、人の命を踏み越えてまで時価総額を大きくするという経営方針は取れません。
「ルールが変わらない方がいいのか」と聞かれれば、現時点では90%は賛成です。今の日本のタクシー業界も、変わらなきゃいけないことはまだまだあります。ただ、GO社としてビジネスだけ考えたら、ルールが変わらなければGOの勝ち戦のモメンタム(※「勢い」の意味)が変わらないことも事実です。
一方、タクシー会社が自らではDXできない部分を、しっかりとお手伝いしたい気持ちはあります。ITベンチャーであるDeNA出身というプライドもあります。タクシーがより安心・安全で、より便利に利用できるようになっていくことにも、力を注ぎたいとも思っています。
■【取材を終えて】3者の動きが日本の未来を変える
GOの中島社長への単独取材の内容を、2本の記事でお届けした。
中島社長が一企業を率いる身として、微妙な立場に置かれている側面があることは分かるが、ライドシェア、そしてその先につながる自動運転タクシーといった最先端のサービスが日本でスピード感を持って普及していくには、GOのように日本でのtoC向けのモビリティサービスアプリとして市場のトップシェアを誇る日の丸企業に、猪突猛進してもらうのが最も早道だ。
事実、川鍋氏率いる日本交通がかつてタクシー事業者を束ねて、GO社の前身であるJapanTaxiを立ち上げ、タクシー業界の改革のために強いリーダーシップを発揮したことは紛れもない事実であり偉大な功績だと言える。一方、改革が進む中で一定の影響力を持ち、守るべきことも増えると、改革者が既得権益を守る側に回るというのは、よくあるパターンだ。
ライドシェアに関しては、今は完全解禁前の踊り場の時期であり、次は「自動運転」というさらに大きな波も来るはずなので、JapanTaxiの立ち上げ期のような、タクシー業界の内なる改革者としての立ち振る舞いに再度期待したい。
GOの打ち手、そして日本交通と川鍋氏のスタンスと熱量は、良くも悪くも日本のモビリティサービスの未来を変える。3者の今後の動向に引き続き注目だ。
【参考】関連記事としては「ライドシェアとは?メリット・デメリットや問題点は?料金は?免許は必要?」も参照。