日本最大手のタクシー配車アプリ「GO」の広告に関し、掲載継続の条件として「ライドシェアの記事削除」が一部メディアに広告代理店を通じて通知された件が、波紋を広げた。
自動運転ラボとしては基本、日本のモビリティ界を背負う主力プレーヤーであるGO社にもタクシー業界にもエールを送る立場でありたいことが前提だが、今回は単独取材により、GO株式会社の中島宏社長に騒動が起きた経緯や背景について独白してもらった。
中島社長は、GOの川鍋一朗会長はライドシェア反対派であるものの、配車プラットフォームを運営するGO社の経営陣として中立を意識しており、その姿勢が従業員に浸透していなかった可能性があると、反省を口にした。そうした中で、GOの従業員と広告代理店の間で意思疎通のミスがあり、今回の通知が行われたと説明した。川鍋氏は、GOの大株主である日本交通の元会長であり、創業者一族の1人だ。
GOの従業員側が無意識的に、おおっぴらに反対の姿勢を示している川鍋会長の考え方につられ、ライドシェアに反対路線のコミュニケーションを広告代理店側としてしまったことが、今回の騒動が起きた原因として考えられそうだ。
■メディア側への通知は当初は知らなかった
この騒動は、GOのアフィリエイト(成果報酬型)広告を扱う代理店が11月18日、一部メディアに対し、広告掲載の継続の条件として、ライドシェアの記事の削除を求める通知を出したことがきっかけで起きた。
▼GOタクシー、広告継続の条件に「ライドシェア記事を削除」 突然の通知、猶予は1週間|自動運転ラボ
https://jidounten-lab.com/u_50972
この件について報じられたあと、GOは公式サイトを通じて、直接・間接的に記事の掲載中止や削除をメディアに要請している事実はないと説明。一方、GOのアフィリエイト広告を扱う代理店からメディアに対し、実際に通知があった事実は認めた。
▼当社に関する一部報道について|GO
https://goinc.jp/news/info/2024/11/20/334uvw0g8pnhbsjkhlaaiv
その3日後の11月21日、広告代理店は記事削除を求める通知の取り下げを行い、「(通知の)内容を確認した広告主より、意図と異なる内容であると指摘がありました」と説明した。
また中島社長は、自動運転ラボの取材に対し、経営陣はメディア側に通知が行われたことを当初は知らず、事後的に担当従業員から報告を受けたことにも触れた。
【参考】関連記事としては「GOタクシーの「ライドシェア記事NG」騒動、著名人も反応 解禁の議論、再び活発化」も参照。
■本質的原因は、川鍋会長との間の「利害の不一致」?
国の規制緩和によって2024年4月にスタートした「日本版ライドシェア」は、タクシー会社しかサービスを提供できない制度になっており、現時点ではライドシェアの限定的な解禁にとどまっている。
GOにはタクシー国内最大手の日本交通ホールディングスが出資しており、同社の元会長ある川鍋氏がGOの会長を務めている。その川鍋氏は全国ハイヤー・タクシー連合会の現会長であり、ライドシェアに対して全面解禁反対の姿勢を示してきたことで知られている。
一方で、GOの配車アプリではすでにライドシェアを呼べるようになっている状況であり、独立した一企業として、ライドシェアに反対の姿勢を示しているわけではない。
中島社長は、「会長と他の経営陣の間で意思の統一がされておらず、利害の不一致が生じているのでは?」という自動運転ラボからの質問に対し、ライドシェアに賛成か反対かについて「中間」という言葉を使い、具体的な言及を避けた。その玉虫色の回答に、中島社長の苦悩を見た気がする。
■狭間にいる中島氏の苦悩とは・・・
IT大手DeNAの元執行役員である中島氏。現在は、日本最大手の配車アプリプラットフォームであるGOの社長という立場だ。今回、自動運転ラボの単独取材では、中島社長が2時間にもわたって熱弁をふるってくれた。
そこで語られたのは、GO社としては現時点では、ライドシェアはタクシー会社が運行管理責任者として展開する現行モデルに賛成であることや、全面解禁や完全自由化は安全面などさまざまな理由から反対の立場であること、などだ。
さらに、IPO(新規株式公開=上場)を含めてパブリックな企業になっていくためには、日本交通グループの利害相反問題は対処すべき課題の一つと認識していることも、口にした。
次回の記事では、今まで表では語られてこなかったGO社の知られざる今後の展望について、中島氏が激白してくれた内容を紹介する。また、GOがすでにライドシェアの配車プラットフォームとしての役割も担い始めている中、中島氏の実質的な上長である川鍋氏と、川鍋氏が率いるタクシー会社集団の狭間にいる中島氏の苦悩にも迫る。
■【取材あとがき】最大手が先進的な取り組みの旗振り役に
今回、中島社長への取材の機会を得て、ライドシェアに対するGOの立ち振る舞いについて、さまざまな話を聞かせて頂いた。
詳しい内容は次回の記事に譲るが、例えば「安全を守る」という点だけでみれば、安全管理の重要さを強調する中島氏の主張には自動運転ラボとしては全てアグリーだが、一方でやはり「タクシー会社のビジネスを守る」という、日本交通を中心としたタクシー界の意向が、「神の手」的にGOの意思決定に影響を与えているようにも感じた。
GOは日本におけるモビリティサービスアプリとしては、寡占者であることは間違いなく、将来的にはライドシェアアプリ的な立ち位置を確立することもほぼ確実だ。そんな日本のモビリティサービス産業に強い力をもったプレーヤーが、革新的なことへの取り組みを推進するうえで、タクシー会社の利潤を守るという前提がちらつくと、今後の日本で「自動運転タクシー」の実用化・普及を進めるフェーズにおいても、全く同じことが起こりそうな気がする。
大前提として、世の中を大きく変える可能性のある「自動運転」や「ライドシェア」などのテクノロジーやサービス、UX(ユーザー体験)を広く普及させるためには、日本においては「最大手」が先進的な取り組みの旗振り役となるのが最も効率が良い。
日本で大きな変革のリーダーシップを取るためには、資本力や政財界への影響力、社会的信用などすべてが揃っている方が、圧倒的に普及のスピードが上がりやすいためだ。逆にいうと日本で過去、先進技術やサービスの浸透が海外に比べて出遅れることが多かった理由が、上記のピースが揃った「日本の大企業」が先頭に立って推進してこなかったからと言える。
そういう意味では、ライドシェア問題はその先に必ず自動運転タクシーも絡む話となるため、自動運転ラボとしては、日本交通グループを含めたタクシー業界こそ、重要な存在でありリーダーになってほしいと願っている。そのためのテクノロジー面を支えるパートナーでありプラットフォーマーがGO社である、という構図そのものは、見方によっては理想的とさえ言える。
ただし、世間から見ると「既得権益者」に見えやすいこともあり、誤解されやすい立場であることは間違いない。そのため、GO社やタクシー業界には、もっと建設的かつ長期的なヴィジョンを語ってもらい、改革のリーダーになっていってほしいと感じる。
【参考】関連記事としては「ライドシェアとは?メリット・デメリットや問題点は?料金は?免許は必要?」も参照。