市場調査を手掛ける富士経済はこのほど、デリバリーロボットの世界市場に関する調査結果を発表した。屋外におけるデリバリーロボット市場は右肩上がりで成長することが見込まれ、2030年に4,000億円規模に達すると予測している。
大きな伸びが期待されるデリバリーロボット市場だが、今後どのような需要を取り込んでいくのか。ロボットを取り巻く社会的背景と各社の取り組みに迫る。
【参考】自動運転ラボを運営するストロボは「自動運転宅配導入支援・PoC・実証実験コンサルティングサービス」を提供している。ロボットの選定やパートナーのマッチング、実証実施に向けた政府や自治体との調整をサポートしている。詳しくは「ストロボ、小売・飲食業の「無人宅配」導入を支援!」を参照。
記事の目次
■富士経済による調査の概要
7年間で40倍規模に
富士経済によると、屋外デリバリーロボット市場は2023年実績で100億円だったが、7年後の2030年には4,000億円規模に膨れ上がるとしている。
EC取扱量の増加や物流業の人手不足を背景に屋外用ロボットの需要が高まっており、2023年は主要メーカーとフードデリバリーサービス事業者や物流会社との提携が進み、先行する米国・中国などではロボットデリバリーサービスが本格化し、需要が高まったという。
今後もEC需要の増加や物流業における人手不足、ロボットデリバリーサービスエリアの広がりを背景に、市場拡大が予想されるとしている。
一方、日本では試験的なサービスが進められているものの公道走行の条件を満たす製品や収益を確保できるロボットデリバリーサービスを展開する事業者が限定的であるため、当面は緩やかな市場成長が見込まれるという。
ECやクイックコマース、フードデリバリーなどの需要は増加傾向に
富士経済が指摘する通り、海外、特に米国・中国を中心に実用化が大きく進展する一方、日本国内は緩やかに取り組みが進んでいる印象だ。
世界ではEC需要は堅調に推移しており、宅配の小口多頻度化が進行している。ドライバー不足も世界共通の問題だ。
国土交通省によると、2022年度の宅配便などの取扱個数は前年度比5,300万個増の50億600万個となり、過去最高を更新した。メール便は減少傾向にあるものの、それでも40億3,200個と膨大だ。
加えて、近年は出前形式のフードデリバリーサービスも確立された。以前は個別の店舗が各々出前を行う形式が主流だったが、コロナ禍を契機に出前館やUber Eatsといったプラットフォーマーが急伸した。
エヌピーディー・ジャパンが発表した「外食・中食 調査レポート」によると、デリバリー(出前)市場規模は2019年の4,183億円からコロナ禍の2020年に6,271億円と大きく伸び、2023年には8,603億円を見込むという。
さらに、スーパーやコンビニ事業者による宅配サービスも増加傾向にあるものと思われる。専用のECサイトで注文を受け、独自の配送網で日用品や食品などをクイックデリバリーするサービスだ。多くはクイックコマースと呼ばれる。こうしたラストマイル輸送は上記の数字に含まれていないものが多い。
日本ではさらに、「物流の2024年問題」を迎えた。働き方改革の一環で長時間労働や時間外労働に対する規制が強化され、ドライバー不足・労働者不足に拍車がかかっている。
課題解決に向けては、モーダルシフトの推進やトラック輸送の効率化、物流ネットワークの拠点高度化、物流の高度情報化・自動化などに向けた取り組みが進められており、ラストマイルにおいては再配達対策などとともに無人配送の実現がポイントとなっている。
配達員のようにさまざまな荷物を柔軟にドア先まで運ぶことは現状できないが、自動配送ロボットや自動運転車もラストマイル配送の一翼を担うことができる。
クイックコマースやフードデリバリーに強み
特に、自動配送ロボットはクイックデリバリー系に強い。宅配便の場合、時間指定できるものの翌日以降の配送が一般的で、ロボットの到着を待つタイミングが難しい。しかし、出前やクイックデリバリー系など、注文から時間を置かずに商品が配送される場合、ロボット待ち時間も計算しやすく、負担なく荷物を受け取りやすい。
ロボット配送サービスが確立されれば、より短時間での配送や低料金配送が実現する可能性も高い。好循環が生まれれば、ロボット社会は思いのほか早く定着するかもしれない。
【参考】物流分野における2024年問題については「迫りくる2024年問題、カギを握る「自動運転化」」も参照。
■米国・中国の動向
Starshipは大学構内サービスに注力、米Uberも本格導入
米国では、Starship Technologiesがいち早くサービスを拡大した。英ミルトンキーンズでのサービスインを皮切りに、世界60以上のエリアでロボットデリバリーサービスを展開している。
米国では50の大学でサービス提供する計画を発表するなど大学構内を主戦場としており、サービス実装しやすい環境で実績を積み重ねている点がポイントだ。配達回数は2024年2月に累計600万回を突破している。
2023年には、配車サービス大手のUber Technologiesが大きく動き出した。Serve Roboticsから最大2,000台のロボットを調達し、Uber Eatsのデリバリープラットフォームに配備する計画を発表した。カリフォルニア州ロサンゼルスで実装は始まっており、順次拡大していくものと思われる。
このほか、Cartkenとも2022年にパートナーシップを結んでおり、フロリダ州マイアミを皮切りにサービスエリアを拡大していく予定としている。
小売関連では、セブン&アイ・ホールディングス傘下の米国法人7-ElevenやウォルマートなどがNuroの車道走行タイプのロボットでサービス実証を行っている。
【参考】関連記事としては「Uber Eatsの配送ロボ、開発者はGoogle出身!Cartkenの知られざる実力」も参照。
中国では中型・中速モデルも普及
中国では、コロナ禍を契機にロボットサービスの実装が一気に加速した。歩道を走行する小型タイプもあるが、車道走行可能なタイプの活用が進んでいるようだ。
EC系のアリババグループや京東集団、デリバリープラットフォーマーの美団などが自社開発モデルや仏Valeo製などさまざまなモデルの導入を進めているようだ。
投資も盛んで、ロボット開発を進めるExcelland Technology(優地科技)にアリババ系企業、Zelos Technology(九識智能)に美団や百度系ベンチャーが出資を行うなど、技術獲得や協業などを見据えた取り組みも依然活発なようだ。
【参考】無人配送需要については「自動運転・無人配送とクイックコマース」も参照。
■日本の動向
開発勢が徐々に増加、継続的取り組みも
日本では、ロボットベンチャーのZMPがいち早く自動配送ロボットの開発に着手していた。国の自動運転実用化施策の中で無人走行可能なロボット実証にも焦点が当たり、「自動走行ロボットの社会実装に向けた官民協議会」が立ち上がった2019年ごろを契機に開発が本格化してきた。
2023年4月施行の改正道路交通法では、自動運転レベル4サービス「特定自動運行」とともに歩道走行タイプの自動配送ロボットが「遠隔操作型小型車」と位置付けられ、届け出制で走行することが可能になった。主に車道を走行する中型・中速タイプのモデルについても、定義の明確化を進めている。
開発勢は、ZMPのほかスタートアップのHakobotやティアフォー、LOMBY、大手のパナソニック、川崎重工業、ホンダなど徐々に厚みを増してきている。
ソフトバンクグループや三菱電機、京セラコミュニケーションシステムのように、海外勢とパートナーシップを結んだり、自社技術を付加して製品導入を図ったりする動きも出ている。以下、主だった取り組みを紹介していこう。
三菱電機:米Cartkenと提携、まずはUber Eatsへ
三菱電機は米Cartkenと提携し、2022年に愛知県内のイオンモール常滑で実証を開始した。日本向けに一部機能をカスタマイズし、屋内と一部屋外までのデリバリーサービス実証を実施した。
2024年2月には、Uber Eats Japanとロボットによるオンラインデリバリーサービス提供に向け業務提携を交わしたと発表した。3月には東京都内でサービスを開始している。
ロボット運営に向けては三菱電機グループのメルコモビリティーソリューションズが担当し、ロボットデリバリーサービスの提案や導入作業、遠隔監視業務などを担い、自動配送ロボットサービスの普及を図っていく方針としている。
今後は、Uber Eatsの営業網を活用したエリア拡大をはじめ、新たなパートナー企業の登場に期待したい。
パナソニック:X-Areaの展開に注目
パナソニックは、自動運転モビリティの遠隔管制をフルリモートで対応可能なモビリティサービスプラットフォーム「X-Area(クロスエリア)」をサービスインし、自社開発した自動配送ロボットの実用化などを推し進めている。
神奈川県藤沢市のFujisawaサスティナブル・スマートタウンでは、アインホールディングスとともに処方箋医薬品の配送サービス実証を行ったほか、茨城県つくば市では、楽天グループと西友とともに日用品の配送サービスを提供した。
東京都千代田区では、三菱地所や大丸有まちづくり協議会とともに、ロボットを活用した飲料販売などにも挑戦している。
2022年4月に国内初となる完全遠隔監視・操作型(フルリモート型)の公道走行許可に係る審査に合格し、改正法施行後も真っ先に遠隔操作型小型車の届出が受理されるなど、先進的な取り組みが目立つ。ブランド力も申し分なく、今後の躍進に期待が寄せられるところだ。
【参考】パナソニックの取り組みについては「「国内初」で注目!パナソニック的自動運転の現在地」も参照。
ティアフォー:自動運転関連の知見はピカイチ
自動運転開発スタートアップのティアフォーも期待の1社だ。2020年に自動搬送ロボット「Logiee S1(ロージー・エスワン)」を発表し、三菱商事らとともに岡山県玉野市で公道実証を行った。
東京都内の西新宿エリアでは、川崎重工業やKDDIなどをパートナーに複数台の配送ロボットによる配送サービス実証も行っている。
自動運転に精通したスペシャリストとしての知見はピカイチだ。人の移動を担う自動運転サービスとともに、事業本格化に向けた動向に要注目だ。
【参考】ティアフォーの取り組みについては「食事や医薬品、自動運転ロボで配送!川崎重工らが挑戦」も参照。
ホンダ:ロボティクス・モビリティ技術に注目
自動車メーカーの中では、ホンダがいち早く取り組みを本格化させている。2021年に楽天グループとともに筑波大学構内と一部公道で自動配送ロボットの走行実証に着手した。
プラットフォーム型ロボティクスデバイスを活用した自動配送ロボットで、交換式バッテリー「Honda Mobile Power Pack」を採用するなど長時間稼働を可能にしているモデルだ。
自動運転分野でも国内他メーカーの先を行くホンダ。持ち前のロボティクス技術とモビリティ技術をロボット分野でどのように生かしていくのか、こちらも要注目だ。
【参考】ホンダの取り組みについては「トヨタとホンダ、「無人配送」でもガチンコ勝負 自動運転技術を応用」も参照。
KCCS:中型・中速モデルの動向に注目
京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は、国内で唯一中型・中速タイプの自動配送ロボット実用化に向けた取り組みを進めている。
車両はおそらく中国Neolix製のものと思われるが、複数台の同時運用が可能な遠隔型自動運転システムの開発を進めており、北海道石狩市内の公道などで実証を重ねている。
車道走行が基本となるため制度上どのような位置づけとなるのか気になるところだが、10数キロを走行エリアに収め、かつ車体の大きさを生かした無人販売など、小型タイプとは異なる需要を満たすことができる。動向に引き続き注目したい。
【参考】KCCSの取り組みについては「京セラが車道実証!自律走行の「配送ロボ軍団」編成に挑戦」も参照。
■【まとめ】国内は横一線、各社の動向に注目
日本で事業を加速するためには、受け皿となる小売りなどのサービス事業者の参戦がカギを握る。こうした事業者の前向きな参加がないと、継続性ある取り組みは生まれにくい。
また、三菱電機やソフトバンクグループのように、海外勢との仲介役を担う取り組みや、Uberのようなプラットフォーマーの動向にも注目が集まるところだ。
今のところ国内では横一線の状況だが、どの企業・グループが抜け出すか。各社の取り組みに引き続き注目したい。
【参考】関連記事としては「自律走行ロボットの種類は?(2024年最新版)」も参照。