トヨタはこのほど、オウンドメディア「トヨタイムズ」で中国における最新の自動運転事情を紹介した。トヨタと提携する自動運転開発企業Pony.aiが登場し、その走行能力をお披露目している。
今まで提携内容をほぼ明らかにしてこなかったトヨタとPony.aiの関係が垣間見えるとともに、Pony.aiの自動運転技術の現在地が見て取れる。著しい進化を遂げているようだ。
▼中国のクルマ事情 トヨタらしい自動運転に迫る|トヨタイムズ
https://toyotatimes.jp/newscast/026.html
記事の目次
■トヨタイムズが配信した動画の概要
Pony.aiの自動運転車を富川氏らが体験
動画は「【中国クルマ事情〝コロナ禍で激変〟その理由は?】【未来を描く!世界の子どもたちが夢見るクルマ】」と題したもので、自動運転をはじめ中国における最新のクルマ事情を紹介している。
冒頭、トヨタ社員の富川悠太氏が上海モーターショーを訪れ、トヨタと中国EV(電気自動車)大手のBYD(比亜迪)が共同開発した「bZ3」や、Pony.aiの自動運転車などの展示車両に触れる。
その後、Pony.aiの自動運転技術を体感すべく公道に場所を移し、トヨタ中国本部の上田達郎本部長とともに自動運転車に乗り込む。
本選への合流車線を走行する自動運転車は、本線上を走行する車両の状況を判断してスムーズに合流した。その後、路肩を走行するバイクを検知し、飛び出しを想定して減速したり、ゆっくり走行する前走車を車線変更して追い越したり、対向車線に慎重にはみ出しながら路肩の工事区間をパスしたり――と、人間のドライバー同様の判断・操作を行う様子が収められている。
富川氏「人が運転しているのとほぼ同じ感覚」
乗車した富川氏は「人が運転しているのとほぼ同じ感覚」と素直な感想を述べている。上田本部長は「モリゾウさんが言うような、ハンドルで曲げるのではなく重心で曲げるような、クルマ屋の自動運転をPony.aiと一緒にやっている」と話す。
自動運転初期によく見られた機械的な判断や恐る恐る走行する制御から、人間のドライバー同様の柔軟な判断・制御が可能な領域まで技術が向上しているのだ。
この進化の要因の1つは、「中国の道」にあるという。クルマだけでなく、バイクや自転車、歩行者が行き交う複雑な交通状況だからこそ、自動運転のAI(人工知能)が驚異的なスピードで学習できたという。
Pony.aiは上海で約30台、広州と北京を合わせ計180台ほどの自動運転タクシーを走行させており、広州・北京では運転席にセーフティドライバーが乗らないフェーズに移行している。
上田本部長「この4、5年でぐっと変わってきた」
上田本部長は「Pony.aiとは2019年から共同プロジェクトを行っているが、当初の自動運転はセーフティドライバーが乗っていても怖かった。ただ、この4、5年でぐっと変わってきた」と話す。
当初は、危険になり得るものを検知した際はとりあえずブレーキ……といった挙動が当然だったが、ゆっくり走行し過ぎれば後続車両のストレスとなり、新たな危険要因になり得る。
ただ安全に走行するだけでなく、人間の感覚に近い運転を行うことを重視してきたからこそ、道路交通において自動運転車が特異な存在ではなくなり、社会に受け入れられるものへと変わっていったものと思われる。
コロナを契機に国民のデジタル対応力向上も
また、コロナ禍における変化もあったようだ。中国では人の移動規制が敷かれ、建物に入るにはワクチン接種済みなどの情報をスマートフォンで提示する必要があったという。子供も高齢者も例外なくスマートフォンを持っていないと外を歩けない状況となった。さらには、目が見えにくい高齢者が音声認識を多用するようになった。
コロナ禍において国民のデジタル対応力が向上したことにより、クルマの中における音声認識が受け入れられるなど環境が変化し始めているようだ。こうしたことは、自動運転に対する社会受容性にも影響する。コンピュータと化した自動運転車そのものを自然に受け入れ、タブレットや音声による操作も違和感なく行う環境が整ったと言えるのではないだろうか。
■Pony.aiの概要
広州と北京で無人走行ライセンス取得
Pony.aiは2016年、米カリフォルニア州で設立され、翌年には広州に中国本社を構え自国での開発を本格化させた。
本拠となる広州を皮切りに、北京や深センなどで自動運転タクシー実用化に向けた取り組みを進めており、北京では2022年12月、広州では2023年4月までに車内完全無人の走行ライセンスをそれぞれ取得している。
米国でも早くからカリフォルニア州で公道実証を進めており、2021年5月にカリフォルニア州車両管理局(DMV)から無人走行ライセンスを取得した。なお、無人走行ライセンスは事故を契機に停止されている。2022年には、アリゾナ州でも公道実証を開始すると発表している。
2023年4月時点で、自動運転による走行距離は2,100万キロメートル超に達し、ドライバーアウトテストも100万キロメートルを超えたという。自動運転タクシーの利用件数は約 20万件に上る。
【参考】Pony.aiについては「Pony.aiの自動運転戦略(2023年最新版)」も参照。
トヨタは4億ドル出資、レクサスやシエナを自動運転化
トヨタとの提携は、2019年8月に発表された。Pony.aiの自動運転システムをレクサスに統合していく内容で、2020年には資金調達Bラウンドにおいてトヨタから4億ドル(当時のレートで約440億円)の出資も受けている。
レクサス車のほか、トヨタのAutono-MaaSモデル「シエナ」をベースとした第6世代の自動運転システムを搭載した自動運転タクシーも開発されており、北京と広州でテストライセンスを取得済みという。
トヨタは自動運転開発にもしっかり関わっていた
今回の動画によりPony.aiの自動運転技術の現在地が明らかになったが、同時にトヨタが提携においてどのように関与しているかに触れられている点も非常に興味深い。
Pony.aiとトヨタに限らず、自動運転スタートップと自動車メーカーの提携は世界的に進んでいるものの、その具体的な協業内容は意外と不透明だ。多くの場合、特定の車両に自動運転システムを統合した――といった情報しか流れてこない。
Pony.aiのケースでは、レクサスRX450やシエナにシステムを統合した――といった具合だ。この情報だけでは、自動運転システムの開発そのものにトヨタがどのように関わっているのか分からず、車両を提供しただけ?とも感じられる。
しかし、今回の動画で開発面でもトヨタが関与していることが明確となった。その度合いは不明だが、Pony.aiの自動運転システムに影響を及ぼしていることは間違いない。
Pony.aiはトヨタのほか、韓国ヒョンデやSAIC(上海汽車)、FAW(第一汽車)、GAC(広州汽車)などともパートナーシップを結んでおり、ヒョンデとは米国で自動運転タクシー実証を行っていた。一方のトヨタは、Pony.aiのほか米Aurora InnovationやMay Mobilityなどとも協業を進めている。
業界におけるパートナーシップは複雑に絡み合っているが、各社の技術がどのようにPony.aiやトヨタに集積され、どのように自社技術化されていくのか――と言った観点にも注目したい。
■【まとめ】複雑な状況下における経験が技術を進歩させる
交通状況が複雑であればあるほど実証走行時の危険性は増すが、得られるものも非常に大きいのだろう。何より、日本国内と比べ米中国内における開発各社の公道実証経験はケタ違いに多い。Pony.aiの2,100万キロは地球525周分に相当する。
過酷……というと言い過ぎかもしれないが、複雑な状況下でより多くの経験を重ねてこそ、自動運転技術は飛躍的進歩を遂げるのだろう。
【参考】関連記事としては「トヨタ、自動運転スタートアップの中国Pony.aiに4億ドル出資 その狙いは?」も参照。