自動運転技術が将来、物流・流通分野で「無在庫」を実現するかもしれない。同分野では現在、国を挙げて「スマート物流」や「スマートサプライチェーン」といった取り組みが進められているが、各種取り組みの効果が最大限発揮されれば、物流倉庫の在庫は無在庫化することが可能になる。
この記事では、自動運転技術など先端技術を取り入れたスマート物流の未来の姿を解説していく。
記事の目次
■小口多頻度化が進行する物流業界の現状
貨物輸送量は国内、国際ともに減少が続く一方、EC需要の高まりなどを受けて小口多頻度化が進行し、営業用トラックの積載効率の低下や労働力(ドライバー)不足などが顕在化している。
経済産業省の調査によると、国内EC市場規模は右肩上がりが続いており、2019年のBtoC市場は前年比7.65%増の19.4兆円、BtoB市場は同2.5%増の353兆円、個人間のCtoC市場も同9.5%増の1兆7,000億円に拡大している。EC化率もBtoCが同0.54ポイント増の6.76%、BtoBが同1.5ポイント増の31.7%となっており、商取引全体における電子化が着実に進行しているようだ。
一方、ラストマイルを左右する宅配便の取扱個数は、国土交通省の調査によると2019年度は前年度比0.4%増の43億2,300万個となっており、こちらも右肩上がりの傾向はまだまだ続きそうだ。
こうしたラストマイル需要や災害リスクの分散、サプライチェーンの機能維持などを目的に、物流施設の分散化や倉庫における保管機能の重要性が高まりを見せ、集配送や流通加工も含めた施設の多機能化も進んでいる。国土交通省によると、倉庫や物流施設の建設工事受注額も近年増加傾向が続いているという。
注文主に迅速に商品を配送するため物流倉庫の分散配置などが進んでいるのだ。ただし、適正な在庫管理や需要予測を取り入れなければ、余剰在庫や滞留在庫を生む可能性なども指摘されている。
■スマート物流に向けた取り組み
ドライバー不足とラストマイル需要の増加が同時進行する物流業界では、部分最適化を図る取り組みや全体最適化を目指す取り組みの双方が求められている。
国も、業者間の連携により流通業務の効率化を図る物流総合効率化法などをはじめ、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の項目にスマート物流サービスの構築を設けるなど、国家プロジェクトとして物流業界が抱える課題の解決を図るとともに、イノベーションによる新産業や付加価値創出に取り組んでいる。
全体最適化を図る面では、サプライチェーンの上流から下流までをつないだ高度なデータ連携基盤の構築を目指す取り組みが進められている。サプライチェーン全体を一元的に見通すことが可能になれば、各エリアに対するリアルタイムの配送需要に基づき、各業者が連携することで積載率向上を図るなど効率的な配送を行うことができる。物流版MaaSのイメージだ。
こうしたデータ基盤をもとに、荷主と配送業者を結ぶマッチングシステムやルート最適化システムなどのプラットフォームを活用することで、従来の商習慣から脱却した新しい物流システムを構築することができそうだ。
トラックの隊列走行、ドローンや自動走行ロボの取り組みも前進
モビリティ関連では、トラックの隊列走行や貨客混載などの取り組みが進められているが、近々ではドローンや自動走行ロボットを活用した新たな配送システム・サービスの構築も加わり、取り組みが大きく前進し始めている。
このほか、受注から生産、出荷といった工場や倉庫における一連の作業を無人化・システム化するファクトリーオートメーションの導入なども進んでいる。将来、無人の倉庫から無人の自動運転車に商品・荷物が積み込まれ、ミドルマイル・ラストマイルを経て配送先に荷物が運ばれるシステムが確立するかもしれない。
【参考】自動運転×宅配の取り組みについては「「自動運転×宅配」の国内最新動向まとめ!2021年はどうなる?」も参照。
「自動運転×宅配」の国内最新動向まとめ!2021年はどうなる? https://t.co/drbfAbQiKs @jidountenlab #自動運転 #宅配 #日本
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) January 12, 2021
■無在庫を実現するエアロネクストとセイノーHDの取り組み
ドローンの研究開発を手掛けるエアロネクストと運送業大手のセイノーホールディングスは2021年1月、無在庫・無人化を実現する新スマート物流の事業化に向け業務提携を交わしたことを発表した。
セイノーの物流ネットワークにエアロネクストのドローン配送サービスを組み合わせ、既存物流とドローン物流の接続を標準化し、オープン・パブリック・プラットフォーム(O.P.P)型の新スマート物流におけるサービスモデルを共同で構築していく。
その一環として、ドローン配送を活用したスマートサプライチェーン「SkyHub」の共同開発を進める。SkyHubは新スマート物流を実現するための新しいサプライチェーンの仕組みで、無在庫化と無人化を特徴とする。最適な輸送モードや輸送ルート、配送プレイヤーの選択、多彩な受取方法のバリエーションをシームレスに繋げることで、異なる物流会社によって輸送される荷物をドローンなどで共同配送するためのシステムやサービスモデルとなる。
具体的なイメージとしては、EC事業者らへ注文があった際、荷物に「SkyHub ID」を付与し、配達完了まで同IDで管理する。荷物は各配送事業者・配送センターから一時保管所=ドローンデポに送られ、そこからドローンが各地に設置されたドローンスタンドなどに置き配する仕組みだ。
対象エリアにおける注文商品に共通のIDを付与することで配送各社の荷物を一元管理し、そのうえでエアロネクストがラストマイルを一手に担う仕組みのようだ。
両社はSkyHubの開発に向け、エアロネクストがドローン配送サービス導入による新スマート物流の社会実装に向け2020年11月に連携協定を結んだ山梨県小菅村で、サービスモデルの実証と実装に向けたプロジェクトに着手しており、今後全国展開を目指すこととしている。
■自動運転車などの最大限の活用が、無在庫を実現する
極論となるが、AI(人工知能)による適正な需要予測や効率的な配車・ルーティングシステム、荷主と配送業者間のマッチングシステムに加え、自動運転による宅配ロボットやドローンを最大限活用することで、中継地となる物流倉庫は無在庫を達成することが可能になる。
無駄な在庫を抱えずに済む需要予測に基づいて用意された商品が、効率的な配送システムによって配達先地域までスピーディーに運ばれる。ラストマイルは、人件費のかからない宅配ロボットやドローンが柔軟に対応する。
全国の物流網が一定規格のもと一元管理され、大きな課題となっているラストマイルを自動運転技術が解決することで、柔軟かつ効率的な配送システムを構築することができるのだ。
こうしたシステムが実現すれば、販売事業者が直接注文者に荷物や商品を送るケース、つまり直送するケースにおいても、従来よりスピーディーに配達完了することが可能になるため、事業者自らが手元の在庫を適正に一元管理することができる――言わば「無在庫」を達成することができるという仕組みだ。
■【まとめ】物流におけるイノベーションは社会全体のイノベーションに直結する
実際には、各種技術・システムが実装された以後も、より迅速な配送を目指し各地の物流倉庫は引き続き活用されることになるものと思われる。むしろ、ラストマイルを担うロボット・ドローン向けの小型倉庫が増加する可能性が高そうだ。
ただ、各倉庫における在庫の適正化が進み、回転も速くなることがスマート物流における目指す姿の1つとなることは間違いない。各配送事業者が協力し、モノの移動を円滑に行う物流版MaaSの観点を導入するだけで業界の構造を大きく変えていくことができる。
物流におけるイノベーションは、小売業界など多くの産業に変化をもたらす社会全体のイノベーションにつながっていく。引き続き国や各企業の取り組みに期待したい。
【参考】関連記事としては「物流MaaS、EV商用車活用に向けた検証スタートへ!ミツバなど3社の取り組みは?」も参照。