2021年以降のMaaS開発、将来の収益化に向けて持つべき視点は?下山哲平氏にインタビュー

さまざまなUXを先行して試す重要性



撮影:自動運転ラボ

近年盛り上がりを見せる「MaaS」(Mobility as a Service)。導入実証が盛んになり、実サービスとしての展開も一部地域でスタートしている。そんな中、MaaS分野への参入を検討している企業も多いはずだ。

しかし、MaaSに参入したとしても最終的にマネタイズを成功させなければ、失敗に終わる。では新たにMaaSに参入する企業、もしくはすでにMaaSに参入している企業は、MaaSビジネスにおけるサービス開発や収益化にどのような方向性で取り組めばいいのだろうか。


業界動向に詳しい自動運転ラボ主宰の下山哲平氏(株式会社ストロボ代表)に聞いた。

■MaaSのメインテーマは「シェアリング」
Q 国内ではMaaSの実証実験がさまざまなスキームで実施されているが、MaaSの最終形はどのような姿になると考えている?

MaaS領域はCASEにおけるS、つまり「シェアリング&サービス」の部分のことで、そのなかでも特に「シェアリング」に密接な関係性があるサービスです。

いま全国各地で取り組まれているMaaSの多くが、電車やバス、タクシー、シェアバイクなどを組み合わせ、最適な移動ルート・移動手法を提案するというものです。しかし、こうした取り組みは既存の移動手段をつないでいるだけに留まってしまうと、あまりイノベーティブではないと思います。

MaaSにおいてはやはり「シェアリング」がメインテーマで、将来的にはカーシェアの車両が自動運転化され、多くの人でシェアする形になると思います。そうなれば複数の移動手段を使わなくても、行きたい場所が複数あっても自由に周遊できます。1台の車両を多くの人で共有する形になるため、利用料金もかなり低くなっていくことが予想されます。


ちなみに最近登場し始めたオンデマンドバスも「乗り合い」という性質から「シェアリング」と捉えることができます。カーシェアやオンデマンドバスなどシェアリングに使用される車両が自動運転化されることでより「シェア性」が高まり、結果として多くの人がシェアのメリットをより享受できるようになるはずです。

■自動運転車のシェアリングを想定したUXを試すべき
Q MaaSの最終形では自動運転車のシェアリングが深く絡むとして将来のマネタイズに向けて事業者がいま取り組むべきことは何か?

さまざまな既存の移動手段を統合する「交通MaaS」ですと、MaaSサービスを作っている企業は、各交通機関から利用が増えた分に対する手数料くらいしか受け取れません。これではあまり儲からないので、既存の移動手段だけを統合する交通MaaSはビジネスとして成り立ちにくいと言われています。

そのため、移動データを活用した広告ビジネスや周辺の商業施設や飲食店などへの誘客でのマネタイズなど、多面的な収益ポイントを模索していく必要があるでしょう。

しかし、やはりMaaSの本命は自動運転車のカーシェアであり、そこで交通MaaSの概念からいったん離れ、自動運転車のシェアリングが実現するまでの「つなぎビジネス」として、将来提供されるUX(ユーザー体験)を先行して試してみると良いでしょう。

自動運転車のカーシェアリングについて現時点で想像できる最大のメリットは「運転しなくてよい」「呼べば迎えに来てくれる」といった点です。従来のカーシェアですと、カープールまで自ら車両を取りに行って返さないといけませんが、自動運転車の場合はいわゆる「お抱え運転手」がいるという状態です。こうしたメリットを感じさせるUXを疑似的に提供するというわけです。

自動運転車のカーシェアがいくらぐらいで実現すればそのサービスへの需要が高まるのか、これまで従来型のカーシェアを使わなかった層もどれくらい利用してくれるのか、といったことの答えはまだ誰も知りません。

こうしたことを知るために、実証実験で疑似的にサービスを実現し、どういったUXであれば需要が拡大して収益性が出るのかを検証することが求められます。そしてこうした実証実験は今でも実施できるはずです。

実証実験で試す中でさまざまな課題を洗い出し、多くの人に受け入れられるUXを追求していけば、自動運転車のシェアリングサービスを将来提供する際に、業界で1人勝ちできるほど知見がたまっているかもしれません。

とにかく、さまざまなUXを試してみないとユーザーのニーズはなかなか掴めません。自動運転車を使ったカーシェアはとても便利なサービスですが、呼んでから来るまでに待たなければいけない時間をユーザーは嫌に感じるかもしれません。

ユーザーがどの体験に価値を感じ、どの体験を嫌に感じるかは、将来のUXを先行して試してみるまでは、誰にも分からないのです。

Q ユーザーのニーズが事業者側の予測と外れていた具体例は?

モビリティサービスとは異なりますが、分かりやすい例に「Uber Eats(ウーバーイーツ)」があります。当初は、宅配をしてくれなさそうな良い感じのお店の料理が自宅で楽しめる、ということに価値があるとして、サービスの提供が始まりました。

しかし蓋を開けてみると、いつもより良い料理を家族みんなで家で食べるというニーズよりも、丼ものやファストフードを頼む1人暮らしの人のニーズの方が圧倒的に多かった。このことを事前には予想できなかったわけです。

ユーザー体験とは総じてそんなものです。潜在ニーズはサービスを提供してみて初めて分かるのです。

また、弊社ではMaaS領域での事業開発支援を行っており、「新しいMaaSサービスを開発したいから支援して欲しい」という相談が多数寄せられています。ただその中で多いのが、「自分たちの資産(※車など)をうまくMaaSで活用したい」という相談です。

しかし、「今ある資産をシェアリングさせる」だけに留まるサービスに縛られていては、大体はうまくいかないだろうと思っています。成功させるためには、ユーザーが本来求めていることを起点にビジネスモデルを構築しなければならないからです。

■疑似的なUXの「PDCA」を繰り返すことが重要
Q UXを試す際、そして試した後に事業者側に求められる視点は?

UXを試す上でPDCA(Plan、Do、Check、Action)をしっかりと実行することです。

例えば、カーシェアが利用できるのに自家用車を買っている人は、自家用車にどんな価値を見い出して買っているのか、逆にカーシェアで良いと思った人は、自家用車のどんな便利さを放棄していいと思っているのでしょうか。

仮にカーシェア否定派の理由を「車まで歩くのが嫌だから」とし、オプション料金を払えば車を家まで届けてくれる、というサービスを試験的に導入してみます。結果としてこのサービスでカーシェアの利用が増えれば、自宅前まで無人で来てくれる自動運転車のカーシェアには潜在的なニーズがあることが証明されます。

一方で、そうしたサービスを提供してもカーシェアの否定派に喜ばれなかったとすればどうでしょう。喜ばれなかったとすれば、おそらく自家用車ニーズには「今すぐ乗れる」という部分への価値が強く反映されていた、と捉えることができるでしょう。そうなると、自動運転車のシェアリングサービスのブレークポイントは「配車時間の最小化」ということだと見えてきます。

こうした逆引きの発想でさまざまなUXを繰り返し試し、PCDAをしっかりと実行すれば、自動運転車のカーシェアサービスの内容を検討する上で役立つノウハウが得られます。

■【取材を終えて】ニーズを探し当てる重要性

MaaSは従来の移動サービスを統合・連携するだけではマネタイズが難しい領域だが、将来的にユーザー側にニーズがあるUXを探し当てるために、さまざま視点での実証実験に今から取り組んでおくことが重要だと感じた。マネタイズが難しいからといって匙を投げた企業は、どんな有望分野においても決してフロンティアにはなれない。

下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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