自動運転や先進運転支援システム(ADAS)などでは、高精度カメラのほか、光の先進技術を活用した「LiDAR」(ライダー)やミリ波レーダーなどのセンサーを活用し、システム側が車両周辺の環境を認識する。
AI(人工知能)が自動運転車の「脳」なら、自動運転車の「目」はこれらのセンサーのことを指す。この記事では、自動運転車で使われるセンサーや各センサーの仕組みのほか、最新情報をもとに、こうしたセンサーを開発する上場企業についても紹介する。
・2024年9月23日:参考画像を追加
・2024年4月8日:LiDARについての解説を追記
・2023年10月9日:超音波センサーについての解説も追記
・2018年6月1日:記事初稿を公開
記事の目次
■自動運転車で使用される主なセンサー
自動運転車で活用されるセンサーとしては、主に以下がある。このうち超音波センサーは測定距離が短いため、カメラとLiDAR、ミリ波レーダーが特に自動運転車に搭載されやすい。
- カメラ
- LiDAR
- ミリ波レーダー
- 超音波センサー
■センサー①:カメラの仕組み・構造・用途
一般的に自動運転やADAS向けのカメラは車内にあるルームミラーの裏側などに配置されており、車両の進行方向を向いている。その場合、前方カメラはウインドガラスを挟んで前方の画像を撮影し、人工知能(AI)や画像処理用プロセッサーが撮影した画像・映像の解析をリアルタイムで行う。この過程を経て、車両の前方に車両や障害物や人がいるかを検知することができる。
標識もカメラが認識することができるので、車両速度をコントロールすることにも利用できる。道路上ある白線の認識にも活用でき、車両のレーン逸脱を防ぐことにもつなげることが可能だ。
単眼カメラでは一般的に対象物までの距離の計測はできないが、複眼カメラで複数視点から同時に撮影を行うことによって、距離を計測することも可能になると言われている。またカメラを使って前方だけではなく、路面の解析も行う企業も出てきた。
悪天候や夜間・逆光には不向き
一方、カメラで画像・映像を撮影するということは、基本的には人の目で見るという仕組みと類似の原理であることから、夜間や逆光に加え、濃霧、豪雨、豪雪などの悪天候の場合は検出能力が低下することが課題の1つとされている。
競争が激化するステレオカメラ開発
カメラは主に「単眼カメラ」と「ステレオカメラ」の2種類であるが、最近では対象物を複数の方向からとらえる「ステレオカメラ」の開発が進み、すでにADASや高度運転支援システムなどの搭載車において衝突防止機能のためのセンサーなどとして活用されている。もちろん、自動運転車での搭載も進むとみられる。
国内では、トヨタのレクサスに搭載された製品を開発するリコーインダストリアルソリューションズ、SUBARUの「アイサイト」やスズキの先進運転支援システムなどにも搭載されている日立オートモティブシステムズが有力企業として挙げられる。その他、自動運転ベンチャーのZMPや東京工業大学発のベンチャー企業であるITD Labも開発を行なっており、高性能化と低コストの両立に向け、開発競争が激化している。
テスラは高精度カメラのみでの完全自動運転を目指している
自動運転では高精度カメラのほか、このあと紹介するLiDARやミリ波レーダーも複合的に使用するのが一般的なアプローチだが、米EV(電気自動車)大手テスラの完全自動運転に向けた構想では、よりに人間の目に近い高精度カメラのみをセンサーとして使用するアプローチをとっている。
もう少し詳しく説明すると、高精度カメラとAIを主体としてシステムを組み、高精度3次元地図も使わない方針を示している。詳しくは以下の記事を参考にしてほしい。
【参考】関連記事としては「地図はいらない!テスラ流の「人間的」自動運転とは?」も参照。
■センサー②:ミリ波レーダの仕組み・構造・用途
自動運転技術に使われるセンサーの1つであるミリ波レーダー。「ミリ波」はとても波長の短い電波のことを指し、ミリ波レーダーは対象物に照射されて戻ってきた電波を検出し、対象物までの距離や方向を検出できる。スタンダートなミリ波レーダーは、76GHz(前方検出用)、24GHz(後方や側方検出用)の電波を用いることが多い。
ミリ波レーダーを構成するパーツとしては、ミリ波が透過する筐体カバーに内蔵されている「レドーム」と呼ばれるミリ波の送受信用アンテナやミリ波の信号を処理するRF回路、受信信号のデジタル化と演算処理を行う処理回路などとなっている。
反射率の弱い段ボールや発泡スチロールには不向き
ミリ波レーダーは電波を使って検出するので、光源や天候に影響を受けずに検出特性を維持できたり、正確に対象物までの距離を計測できたりするメリットがある。しかし、物体の識別が困難だったり、電波の反射率の低い段ボール箱や発泡スチロールなどの検出が難しかったりするデメリットもある。
レベル2+搭載車の拡大にともない需要も増加
矢野経済研究所の調査によると、ミリ波レーダーは「自動運転レベル2+」の搭載車の拡大に伴って市場が活発化すると予測されている。レベル2+の高速道路限定ハンズオフ機能を実現するためには、フロントに長距離レーダーとカメラを配置するだけでなく、前後左右に短距離レーダーを搭載してフロント・リアの検知範囲を広げる必要があり、需要が増加するからだ。現在は高級車を中心に採用されているが、今後は中級車まで設置が拡大する見込みだという。
【参考】関連記事としては「【保存版】ミリ波レーダーとは? 自動運転車で果たす役割は? 開発企業は?」も参照。
■センサー③:LiDAR(ライダー)の仕組み・構造・用途
LiDARとは「Laser Imaging Detection and Ranging(レーザー画像検出と測距)」「Light Detection and Ranging(光検出と測距)」の略語で、「ライダー」と読む。レーザー光(赤外線)をパルス状に照射し、対象物に反射されて戻ってくる時間によって距離を計測するセンサーで、「レーザーレーダー」と呼ばれることもある。
「スキャンLiDAR」と呼ばれるセンサーもあり、こちらは対象物の方位も検出できる。検出する方法は、可動ミラーを用いて細く絞ったレーザー光の方向を変更してスキャンする。LiDARはミリ波レーダーと比較すると、波長の短い電磁波となる赤外光を用いるため、検出の際の空間分解能が高い。
LiDARについては米Luminarなど、株式市場に上場している企業も少なくない。
電波の反射率が低い段ボール箱などの検出も可
LiDARはレーザー光を使うため、電波の反射率が低い段ボール箱、木材、発泡スチロールなども検出が可能となっている。高い空間分解能で距離と方位を検出するまたスキャンLiDARは、対象物の検出以外にも、対象物間のフリースペースも検出できる。
高機能・低価格LiDARの開発競争が盛んに
LiDARの開発初期は、カメラやミリ波レーダーの欠点を補う製品として注目を浴びたが、量産化対応がされず非常に高額であった。最近は多くの企業がLiDAR開発に参入し、高機能化と低価格化が両立されている。例えば、2019年には米スタートアップのLuminar Technologies社がソーダ缶サイズの小型LiDARを500ドル(約5万4,000円)で発売することを発表している。
国内では、いち早くLiDARに着目し、 1996年に商用車向け1次元LiDARを商品化したデンソーや2019年に自動運転関連事業を担う新会社を設立したパイオニア、昼夜を問わず使用できる3D LiDARを開発している日本信号などをはじめとした企業が、LiDAR開発に力を注いでいる。
LiDARでよく聞く「Solid State式」と「MEMS式」
LiDARでよく聞くのが「Solid State(ソリッドステート)式」と「MEMS(メムス)式」だ。
Solid State式は、レーザーと検出器を回転させる駆動部をなくすメカレス化が進められたLiDARで、半導体技術や光学技術を使ってメカレス化を実現している。
回転機構がないため、センシングが可能な範囲はレーザーの照射角の範囲のみとなるが、小型化されることで設置場所の自由度が広がり、複数のセンサーを車両に設置することで水平方向の全方位360度をカバーするケースが多い。ちなみに最近のLiDARはSolid State式が主流となっている。
一方のMEMS式は、ソリッドステート式におけるスキャン方式の一つという位置付けだ。電磁式のMEMSミラーを使い、レーザー光を使って対象物を検知する。ほかに「ラスタースキャン式」や「ウォブリングスキャン式」といったスキャン方式もある。
【参考】関連記事としては「LiDARのMEMS式とSolid State式、特徴や違いを解説」も参照。
【参考】LiDARについては「LiDARとは? 自動運転車のコアセンサー 機能・役割・技術・価格や、開発企業・会社を総まとめ|自動運転ラボ」も参照。
■センサー④:超音波センサーの仕組み・構造・用途
超音波センサーは、人間の耳では感じることができない周波数の高い超音波を使用し、対象物を識別することが特徴だ。ただし、そもそも音波(超音波を含む)は電磁波よりも伝搬速度が遅いのが特徴であるため、遠距離の検知には不向きだ。そのため、10メートル程度までの近距離の検知に用いられる。
ただすでに駐車時の障害物検知などで実用化されているため、安価で手に入れられるという良さがある。いずれにしても、車両の自動運転には活用しにくく、自動運転による駐車、つまり自動駐車といったシーンでは活用価値がある。
■最重要センサーの市場規模予測:2025年には約2兆4800億円まで成長
矢野経済研究所が2020年10月に発表した「ADAS・自動運転用センサ世界市場に関する調査」によると、カメラ、ミリ波レーダー、LiDARなどの自動運転用センサーの世界市場規模は、2019年の1兆3602億円に比べ、2025年には約1.8倍の2兆4808億円にまで成長すると予測されている。
2020年は新型コロナウイルスの影響を受け、世界の新車販売台数の減少に伴って市場規模は縮小するが、2021年からは回復を見せ、出荷数量は堅調に推移するようだ。
【参考】関連記事としては「ADAS・自動運転用センサーの世界市場規模、2025年に2.4兆円に」も参照。
■【まとめ】各センサー、一層の技術発展へ
記事では自動運転を実現させるセンサーを4種類紹介してきた。それぞれに強みと弱みがあり、複合的に作動させることにより、自動運転車の実現に近づいていく。今後の各センサーの技術開発に注目していきたい。
■関連FAQ
LiDARやミリ波レーダー、カメラのほか、超音波センサーやGPSセンサー、加速度・ジャイロセンサーなどが挙げられる。
光技術を使い、対象物との距離や対象物がある方向を測定するために使用する。LIDARの開発企業は世界的に増えており、大手自動車部品メーカーを除けば、Velodyne LidarやLuminarなどのアメリカ企業の存在感が強い。
映像として車外のデータを取得するために使われ、取得したデータを画像解析にかけることで、自動運転システムが対向車や歩行者、白線、標識などを識別できるようになる。カメラを2つ以上使えば、対象物までの距離の測定なども可能になってくる。
車外の環境によって検知性能が落ちることだ。逆光の場合や悪天候の場合、本来映像データとして取得すべき車両前方・周辺のデータが、取得できないことがある。こうしたカメラの欠点は、カメラ以外のほかのセンサーによって補完される。
LiDARを使わずに自動運転を実現しようとしている企業もある。例えばテスラだ。カメラを人間の「目」に見立て、人間と同じように目だけをセンサーとして使い、自動運転を実現しようとしている。
(初稿公開日:2018年6月1日/最終更新日:2024年9月23日)
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)