自動運転の開発・実現に欠かせない最重要要素を調べると、必ずといって良いほどAI(人工知能)が登場する。人間の脳の役割を果たすことから至極当然の結果といえるが、AIとともに深層学習(ディープラーニング)という言葉もたびたび目にする。
AIを学習させる一手法だが、これがなぜ自動運転に重宝されているのか。従来のAIと何が違うのか。専門用語が飛び交う最先端分野のため尻込みしてしまいそうだが、今回は自動運転におけるAI・深層学習の重要性について解説してみたい。
■自動運転車とAIの関わり
自動運転車の仕組み
自動車の運転は、主に認知、判断、操作の過程で行われる。周囲の自動車や歩行者、信号、道路標識などをドライバーが認知し、それに対して加減速や右左折などの判断を行い、ステアリングやアクセル・ブレーキペダルなどを操作する。
この認知・判断・操作を、ドライバーに代わってシステムが行うのが自動運転車だ。初期段階では認知や判断、操作の一部のみをシステムが行い、ドライバーの運転を補佐する。これがADAS(先進運転支援システム)で、自動運転レベル1~2に相当する。技術の高度化に伴い、部分的な自動運転(レベル3)、限定条件下での自動運転(レベル4)、完全自動運転(レベル5)と発展していくのが一般的だ。
認知は、自動車に搭載されたカメラやミリ波レーダー、LiDAR(ライダー)などのセンサー類が行う。その結果を基に判断を行うのがAIで、カメラなどがリアルタイムで映し出す膨大な数の画像データなどを瞬時に分析し、ブレーキやステアリング操作など自動車の挙動に関して命令を下す司令塔・脳の役割を担う。
その命令を受けて、さまざまなコントロールユニットが実際にブレーキを操作したりドライバーに向けて警告を発したりする。
【参考】自動運転レベルについては「自動運転レベル0〜5まで、6段階の技術到達度をまとめて解説|自動運転ラボ」も参照。
自動運転車におけるAIの役割
自動運転車の走行中、センサー類は常に周辺の情報を画像などのデータとして取り入れ続ける。AIは、その画像に映し出されているものが歩行者なのか標識なのか、あるいは街路樹なのかといった区別を行う必要があり、悪天候や夜間においても正確に判別し、適切な判断を迅速に下さなければならない。
また、映し出されている物体がどのような動きを行うかを予測し、その予測に基づいた判断を下す必要もある。完全自動運転においては、道路上のセンサーや周囲のクルマなどから発せられる情報も取得し、それも含めて解析していくことになる。
これが自動運転の肝となる要素で、そのためにセンサー類の高性能化はもちろん、高度な解析能力と処理能力を持ったAIシステムが絶対不可欠となる。
このほか、ドライバーの表情や姿勢から必要となる運転支援を判断する機能や、必要なサービスを提供するなど、さまざまな活用方法が研究開発されている。
【参考】自動運転とAIについては「自動運転にAI(人工知能)は必要?倫理観問う「トロッコ問題」って何?|自動運転ラボ」も参照。
■深層学習とは何か
そもそもAIとは?
「Artificial Intelligence」の略で、人間の脳が行っている知的な作業をコンピュータで模倣したソフトウェアやシステムを指す。コンピュータを使って、学習・推論・判断といった人間の知能のはたらきを人工的に実現するのがAIだ。
機械学習(Machine Learning)とは?
AIにおける研究課題の一つで、人間が自然に行っている学習能力と同様の機能をコンピュータで実現しようとする技術や手法を指す。開発者が全ての動作を決めておく従来のプログラムと異なり、与えられた情報をもとにアルゴリズム(問題を解くための手順を定式化したもの)を使って学習し、自律的に法則やルールを見つけ出す。
深層学習(Deep Learning)とは?
大量のデータを見てデータに含まれる特徴を段階的により深く学習する機械学習を指す。人間や動物の脳神経回路をモデルとしたニューラルネットワーク(NN)を応用した学習方法で、NNを多層化したディープニューラルネットワーク(DNN)を用いることで学習の難易度を大幅に上げることが可能になるようだ。
わかりやすく言い換えると、AIの思考回路が多層化されることにより、より複雑な解析を行うことが可能になった。従来は、データの何に着目しどのような結果を出すかといった指示を受けてAIは機能していたが、深層学習では大量のデータをもとにAI自らが各データの特徴を分析し、応用範囲を広げていく。
例えば、人間がリンゴとミカンを区別する場合、色や形、大きさ、匂い、味など、過去の経験をもとに自然に区別しているが、これと同様、リンゴとミカンに関するさまざまなデータをAIに学ばせることで色や形などの要素を自発的に学び、それぞれの特徴を導き出した上で経験として蓄え、応用範囲を広げていくことでさまざまな種類のリンゴやミカンを識別することが可能になるのだ。
【参考】ニューラルネットワークは、脳機能に見られるいくつかの特性を計算機上のシミュレーションによって表現することを目指した数学モデルのこと。
■自動運転における深層学習の活用シーン
自動運転において最も深層学習が重宝されるのが、センサーが取得したデータの解析だ。前述したリンゴとミカンを識別することと同様、センサーが映し出す無数の映像の中から歩行者や自動車、走行レーン、白線、信号、標識などを識別し、どのように自動車を制御すべきかを即座に判断する。
時速数十キロで走行する自動運転車のセンサーが映し出す画像は一枚一枚異なり、わずかな時間でも膨大な数の画像データが生み出される。「自動車とはこういうもの」という基本データが存在していても、それと全く同じ色や形をしたデータは存在せず、類似したものを当てはめ特定していく作業が必要になるが、その際に深層学習の手法が役立つ。
見る角度が少し変わるだけで異なる形に映し出される自動車の輪郭や、光の当たり具合で見え方が変わる色など、そういった条件も含め経験として学んでいき、人間の脳と同じように瞬時に認識した物体を解析することができるのが深層学習だ。
この深層学習を可能にするためには、当然それを処理するコンピュータにも高い能力が求められるが、米半導体大手のNVIDIA社に代表されるようにリアルタイム画像処理に特化したGPU(Graphics Processing Unit)の高性能化により実用化が進んでいる。また、当初はカメラ画像のみに対応していたが、レーダーやLiDARにも対応できるソフトウェアも開発されているようだ。
このように、従来のAIでは対応しきれず、複数のコンピュータと時間を要して解析していたものが、ディープラーニングという手法によって大きく進化を遂げ、それに伴って自動運転に関わる技術も大幅な前進を遂げることとなった。
■AI開発は今後ますます重要なものに
ディープラーニングによるAIの進化が自動運転に大幅な前進をもたらすことは、NVIDIA社などの半導体事業者の業績を見れば一目瞭然で、その躍進ぶりは目覚ましいものがある。
本来AIを守備分野としていない自動車メーカーは、次々と有力なAI事業者との結びつきを強めているほか、トヨタ自動車のように自ら開発能力を高める動きも多い。
AI開発や教育に力を入れる新興企業なども続々誕生しており、自動運転分野をはじめさまざまな事業分野においてAI開発のニーズは今後ますます大きいものになっていくだろう。
【参考】自動運転に関する記事としては「【最新版】自動運転の最重要コアセンサーまとめ LiDAR、ミリ波レーダ、カメラ |自動運転ラボ」も参照。