自動運転普及で「WeWork型」一等地不動産ビジネスは崩壊する

市街地と郊外の価値が平準化、駐車場も無用に





不動産(オフィス)シェアビジネスを展開するWeWork(The We Company)が現在、ユニコーンビジネスシーンを大きく賑わしている。







2019年8月にIPO(新規株式公開)を申請し、企業価値470億ドル(約5兆円)もの巨大上場へ市場が沸いたのも束の間、公開された目論見書などが引き金となり、投資家から同社の評価額やガバナンス(企業統治)を疑問視する声が相次いだ。

その結果、9月に上場延期、そしてCEO(最高経営責任者)の電撃辞任とドタバタ劇が続いており、先行きを懸念する声が広がっている。大株主のソフトバンクの心境も間違いなく穏やかではないだろう。

さて、閑話休題。実はこのWeWorkのモデルとも言える都市圏を中心とした不動産シェアビジネスは、自動運転が実現した未来の社会では大きくその事業環境が変わる可能性がにわかに指摘されつつある。

一体どのように変わるのだろうか。WeWorkのビジネスモデルを振り返りつつ、自動運転が不動産業界に与えるインパクトについて考察していこう。

■WeWorkの概要とビジネスモデル
大都市の一等地でシェア型のワークスペースを提供

WeWork(ウィーワーク)は、Adam Neumann(アダム・ニューマン)氏らが中心となって米ニューヨークで2010年に創業。世界の大都市の一等地に立地するオフィスビルなどの空きテナントを借り、コミュニティ型ワークスペースを提供する不動産シェアビジネスで、比較的安価でロケーションが抜群な一等地に働く場所を確保できることや充実したファシリティなどが受け、急成長を遂げた。

他のシェアオフィスと異なる点として、コミュニティマネジメントが挙げられる。それぞれのオフィススペースにはコミュニティマネージャーが配置され、メンバーが快適にオフィスを利用するためのサポーターの役割を担うほか、メンバー間のコラボレーションなども促進し、利用者のビジネスを後押しする。

開かれたオフィス空間のコミュニティスペースやイベントを通じて、利用者同士が企業の垣根を越えて知り合い、相互に刺激し合えるコラボレーション環境が用意されているのだ。俗に「リアル版SNS」などと呼ばれることもある。

このほか、オフィスに必要なインターネット環境やプリンターなどのOA機器、会議室・電話ブースなどのスペース、常駐スタッフによるサービスや清掃サービス、有効活用できる共用エリアが完備されており、郵便物対応なども可能だ。

利用者にはスタートアップも多く、大手ITやユニコーンも

顧客・利用者は個人事業主やスタートアップなどの利用者が多いが中にはマイクロソフトやアメリカンエキスプレス、レッドブル、Airbnb、Uberなども名を連ねているようだ。国内では、大手非鉄金属メーカーのYKK APやアパレル事業を手掛けるオンワード樫山系列のオンワードパーソナルスタイル、静岡市なども利用している。

拠点は、2019年9月時点で世界126都市、836カ所でオフィススペースを展開している。日本国内では、東京、横浜、名古屋、大阪、福岡、神戸で計20カ所サービスを行っているほか、準備中の物件も7件あるようだ。

なお、WeWorkは2019年1月に「The We Company」に名称を変え、オフィスシェア事業のwework、シェアアパートを運営するwelive、独自カリキュラムによる小学校を運営するwegrowの3つの事業に再編している。

ソフトバンクグループは、2017年に同社へ3億ドル(約330億円)を出資したほか、合弁会社WeWork Japanの設立を発表し、日本国内でWeWork事業を手掛けている。以後も追加出資を続けており、外部筆頭株主となっている。

出典:ソフトバンクグループウェブサイトより
■一等地ビジネスの今後

ロケーションの良さを売りにしたWeWorkのビジネスモデルは、自動運転の実現によりどのような影響を受けるのか。

都市の多くは交通の要衝として栄えてきたが…

歴史的に、都市の多くは交通の要衝として栄えてきた。そして近代には、これらの都市を中心に鉄道網が敷設されるなどし、大都市として商圏を構成していった例が多い。

故に一等地は大都市の主要駅近辺に集中しているのだ。同一圏に複数の商圏を設け、競い合いうように別の一等地を形成している都市もあるが、ベースとなるのは基本的に駅近となる。

駅近のため、鉄道をはじめバスターミナルやタクシープールなどが整備されており、交通の利便性も高い。周辺には一流企業やデパートが立地し、その地に働く拠点を設けること自体がステータスとなり得る。

車社会の到来により地方を中心に郊外化も進んでいるが、一等地の優位性は変わらないのだ。

自動運転車が「水平型エスカレーター」のように

では、自動運転車がまちを往来し始めるとどうなるのか。柔軟で気軽な移動を提供する自動運転車は、移動にかかるコストやストレスを緩和するほか、車内設備によっては移動そのものに付加価値を与える。

例えとして、空港内などに設置されている歩く歩道「水平型エスカレーター」をイメージしてほしい。これも一種の自動化技術だ。水平型エスカレーターの設置により、広大な空港内においても苦労することなく移動することができる。この水平型エスカレーターの効能を自動運転車に置き換えれば、市街地の移動が楽になるイメージを持てるだろう。

自動運転車は、従来の移動や距離といったネックを解消し、一等地とその周辺地域の格差を緩和するのだ。

「一等地」という立地の優位性が薄れる未来

自動運転の実現により、従来のバスやタクシーよりも高効率で移動することが可能になった場合、一等地という立地の優位性が薄れ、少し離れた場所でも一等地に近い利便性を享受できるようになる。離れた分、地代なども安くなり、コストパフォーマンスにも優れている。

であるならば、シェアオフィスも一等地から少し離れた場所に構えてコストパフォーマンスを高めるとともに、駅などの拠点から自動運転シャトルを高頻度で出すなど利便性を高めれば、新たな顧客層の取り込みにもつながり、収益モデルとしては十分成り立つのではないだろうか。

自動運転シャトルバスを最大限活用することで、一等地から離れた一定区域に新たなオフィス街を形成することも可能になりそうだ。

■自動運転時代と不動産
不動産価格の平準化が進む可能性

WeWorkによると、同社のビジネスモデルにおける潜在市場規模は3兆ドル(約320兆円)に上り、世界280都市で2億5500万人のデスクワーク需要が想定されているという。このうち、現時点における同社のコワーキングオフィス利用者は0.2%にあたる52万7000人に過ぎないとしており、潜在需要の大きさをアピールしている。

この点に関し、過剰な見積もりに基づく予測とするアナリストもいるが、不動産シェア自体は今後も伸びるとする予測も多く、当面はまだまだ需要が喚起されてしかるべき業態といえる。

この需要が、自動運転車の登場により一等地から離れた場所へ、果ては郊外へと広がっていく可能性もあるだろう。これはシェアオフィスに限った話ではなく、住宅などにおいても同様のことが言える。

市街中心部からの距離というネックを克服した郊外の利便性が増し、土地や住宅の値段が上がる可能性がある。つまり、一等地と郊外で大きな差があった価格の平準化が進むのだ。過去、全国各地の郊外においてニュータウンが形成された。中には失敗例もあるが、こうした住宅団地を自動運転に適したインフラに作り替え、新たな付加価値と利便性をもって再生することなども考えられるだろう。

駐車場ビジネスも「走らせ得」で打撃?

このほか、自動運転車は駐車場にも影響を及ぼす。一等地をはじめとした都市部では、離れた場所に設置された駐車場まで自動運転車が無人で走行し、オーナーに呼ばれた際は指定した場所まで戻ってくる――といった仕組みが確立されれば、都市部から多くの駐車スペースが消失し、新たな複合ビルの建設など土地を有効活用することができる。

また、EV(電気自動車)化され、ソーラーパネルを取り付けた自動運転車であれば、限りなく走行し続けることが可能となり、極論だが駐車場そのものが必要なくなる。夜間は、夜道を照らす街灯などの明かりを探し出し、ささやかながら充電を繰り返しているかもしれない。将来的には自動運転車は駐車場に停めるよりも走らせておいた方がいいということで、「走らせ得」などという造語が生まれるかもしれない。

■【まとめ】アクセシビリティの高度化が不動産の価値を変える

自動運転車が都市におけるアクセシビリティに大きな影響を及ぼすことで、不動産の在り方が少しずつ変わっていくことがわかった――と言えば大げさが、少なからず影響を受ける都市は出てくるものと思われる。

自動運転ではなくライドシェアの影響だが、類似した調査結果も発表されている。投資家向けの情報などを扱うMetLife Investment Managementが作成した調査レポート「On the Road Again:How Advances in Transportation are Shaping the Future of Real Estate」を紹介しよう。

このレポートによると、米配車サービス大手のUberなどのシェアサービスが盛んなサンフランシスコでは、交通拠点からの距離別によるアパートの賃料差が20%前後から15%ほどに縮まったようだ。この観点から見れば、MaaS(Mobility as a Service/移動のサービス化)の浸透においても不動産の価値は変わるだろう。

また、IoTの技術導入なども含め、10年、20年先のワークスタイルやライフスタイルがどのように変わっていくのか。この根本的な変化と自動運転がマッチしたとき、大きなインパクトとなって社会の構造をも変えていくのだろう。

将来的には、自動運転車の車内を活用したさまざまなビジネスが創出されることが見込まれており、小売り店舗やオフィスとして使用することが当たり前の時代が訪れるかもしれない。こうした流れが強くなると、自動車は「クルマ」という概念から「ハコモノ」へと変わっていき、自動運転車そのものが不動産として取り扱われる日が到来することも否定できないだろう。

【参考】関連記事としては「自動運転社会の到来で激変する9つの業界」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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