中国で自動運転開発を手掛けるPony.ai(小馬智行)が2020年2月、トヨタから4億ドル(約440億円)の出資を受けたと発表した。両社は2019年8月にモビリティサービスの提供に向け提携を交わしており、急速に関係を強化しているようだ。
トヨタが入れ込むPony.aiはどのような企業なのか。また、トヨタの狙いはどこにあるのか。同社を通して、トヨタの自動運転戦略を深読みしてみよう。
記事の目次
■Pony.aiとは?
創業者、かつて百度やグーグルで技術開発
Pony.ai は2016年、カリフォルニア州フリーモントで産声を上げた。創業者はJAMES PENG氏(現CEO)とTIANCHENG LOU氏(現CTO)で、共に百度やグーグルで技術開発していた経歴の持ち主だ。自動運転タクシーの開発をメーンに、自動運転トラックの開発なども進めている。
2017年に同州で公道走行試験を開始するとともに、中国広州に本社を設けて中国国内での事業に着手。広州においても2018年に自動運転タクシーの実証を開始した。当初は同業スタートアップのWeRide.aiと共同で走行試験を行っていたようだ。
また、同年には資金調達Aラウンドで総額2億1400万ドル(約240億円)を調達し、自動運転車の開発や実証体制の強化に弾みをつけた。12月には「PonyPilot」という配車サービスプログラムにも本格着手し、同社従業員のほか一部招待者を交えた実用実証を開始している。
2019年8月にはトヨタと技術開発で協業
提携関係では中国の広州汽車(GAC)や韓国のヒュンダイなどとパートナーシップを結んでおり、2019年8月にはトヨタと自動運転技術の開発などで協業することを発表した。
同年11月にはカリフォルニア州アーバインでヒュンダイとともに自動運転タクシー「BotRide」の試験運用を開始。セーフティドライバー同乗のもと地域住民を対象に無料で3カ月間にわたりサービス実証を行っている。
2020年2月には、資金調達Bラウンドで約4億6200万ドル(約510億円)を調達したことが発表された。このうち4億ドル(約440億円)がトヨタによる出資となっている。
【参考】Pony.aiの資金調達については「中国の自動運転ベンチャーPony.ai、シリーズAで240億円調達 バイドゥ退職組が起業」も参照。
■Pony.aiの技術
電動化されたロボタクシーから長距離貨物トラックまで、AIアルゴリズムを複数の車両プラットフォームとアプリケーションで一般化し、自動運転技術を幅広く提供可能としている。
AI技術においては、マシンラーニングとディープラーニングを融合し、カリフォルニアの街路や高速道路、中国の大都市における8車線の交差点まで、複雑な道路シナリオをスムーズにナビゲートできる制御モジュールを開発しているほか、マルチセンサーフュージョンアプローチにより、高解像度マップを作成できる豊富なデータセットも提供している。
ハードウェアは、センサーフュージョンモジュールとコンピューティングシステムをカスタム設計し、最先端のソフトウェアとともに冗長性のある最高性能のコンポーネントを提供するとしている。
実証における公道走行距離は150万キロ超に達している。米カリフォルニア州車両管理局(DMV)がまとめた、同州における開発各社の公道実証テストの解除報告(Disengagement Report=手動介入と同義)に関するデータによると、2017年12月から2018年11月までの1年間において、同社は6台の車両で延べ1万6356マイル(約2万6300キロ)走行し、このうち手動介入回数は16回あったという。
1回の手動介入あたりの走行距離は約1640キロで、公式に走行テストを実施した28社中、Waymo(約1万7700キロ)、GM系Cruise(約8400キロ)、Zoox(約3100キロ)、Nuro(約1650キロ)に次ぐ5番目の数字となっている。
手動介入条件の設定は各社にばらつきがあり、走行条件なども異なるため単純比較はできないものの、ハイレベルな自動運転システムを構築しているのは間違いなさそうだ。
■トヨタの狙いは?
Pony.aiへ440億円もの巨額出資を行ったトヨタの狙いは、①自動運転技術の進化②自動運転サービスのノウハウ蓄積③自動運転サービス向け車両の供給④中国市場戦略――の4つに大別して推測できる。
①自動運転技術の進化
①の観点では、トヨタは自社グループ内で完結可能な形で自動運転技術の開発を進めており、TRIを筆頭に高度な開発レベルを誇っている。本来的には他所から学ぶ必要はないように思えるが、日進月歩で技術が進化する分野のため、最新技術を柔軟に取り込んでいく意味で協業を図っている可能性もある。また、逆にトヨタの技術をPony,aiへ提供する可能性もありそうだ。
②自動運転サービスのノウハウ蓄積
②の観点では、自動運転技術を活用した商用サービスにおけるノウハウの蓄積を目指している可能性がある。日本国内と比べ実用実証が進んでいる中国や米国の取り組みに関わることで、いち早く経験を積み重ねることができる。モビリティサービス企業への転換を図るトヨタとしては、この部分が一番欲しいところではないだろうか。
③自動運転サービス向け車両の供給
③の観点は、②の観点と相反するようだがやはり自動車メーカーとして自動車を市場に供給していくことは一つの使命であり、根幹をなす事業である。
欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が米Waymoとパートナーシップを組み、最大6万台超の車両を納入する契約を結んだように、自動運転サービスを展開するスタートアップやプラットフォーマーへ、商用化に適した構造で自動運転車に改良しやすい車両を提供していくことは、今後の自動運転社会における自動車メーカーにとって必然の事業となるかもしれない。
④中国市場戦略
④の観点は、純粋に中国市場を見据え現地企業と協業していくといったものだ。世界最大の自動車市場へと成長した同国は、戦略上絶対に無視することはできない存在となった。
中国で自動車を販売するには障壁が多く、現地法人との合弁立ち上げなど一定の企業努力が必要になる。トヨタは1990年代、グループ企業のダイハツ工業が技術提携していた天津汽車と提携し、2000年代には中国3強の第一汽車とも共同事業関係を深めていくことで合意したほか、広州汽車とも合弁を設立している。同国における自動車の生産・販売体制構築に必要不可欠な提携だ。
そして現在、自動運転による新たな市場を見越した動きを進めていると推測できる。トヨタは2018年1月、中国配車サービス大手のDidi Chuxing(滴滴出行)とe-Paletteにおける協業を発表。2018年5月からは、トヨタのモデル販売店においてDiDiのライドシェアドライバー向けに車両の貸し出しやコネクテッドサービスによる車両メンテナンスのサポートなど、さまざまな車両関連サービスの提供を開始している。2019年7月にはモビリティサービス領域の協業拡大に合意し、計6億ドル(約660億円)を出資することなども報じられた。
また、同時期に百度の「Project Apollo(阿波羅)=アポロ計画」にも参加しており、中国のプラットフォーマーやモビリティサービス事業者との距離を明らかに縮めているのだ。
距離を縮めているのは中国勢だけではない
もちろん、トヨタが距離を縮めているのは中国勢だけではない。米配車サービス大手のUber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)とも2016年にライドシェア領域における協業に向け覚書を交わし、2018年には自動運転技術を活用したライドシェアサービスの開発促進および市場への投入を目指し協業を深め、5億ドル(約5億5000万円)を出資している。
トヨタのミニバンを最初の自動運転モビリティサービス専用車両とし、2021年にウーバーのライドシェアネットワークに導入する予定となっている。
このウーバーとの取り組みが、トヨタの自動運転戦略の一つの正答ではないだろうか。自動運転を開発する各社がサービスを導入する際、冗長性や汎用性を備えた車両を供給していくとともに、オプションのような形でトヨタ独自の自動運転システムやプラットフォームを提供していくのだ。
こうした推測を背景に中国市場を見据えると、Pony.aiへの巨額出資も納得しやすいものとなるだろう。
■【まとめ】自動運転モビリティサービス巡る覇権争いへ トヨタも前進
トヨタサイドからの公式発表がないためあくまで推測の域を脱しないが、トヨタにおけるPony.aiとの提携、及び出資は、自動運転技術を生かしたモビリティサービス戦略の布石と言えるだろう。
自社開発を進める自動運転技術は自社ブランド車両をメーンに、イーパレットなどを通じて他社へも提供するほか、独自の自動運転技術を持った企業に対しては自動運転向けに開発した車両を提供していく。そのうえで、中国市場戦略として同社やDiDiなどとの仲を深めているイメージだ。
トヨタに限らず、既存の自動車メーカーとスタートアップなどとのこうした動きは今後加速していくものと思われる。自動運転モビリティサービスを巡る覇権争いはすでに始まっているのだ。
【参考】トヨタの戦略については「【保存版】トヨタ×自動運転の全てが分かる4万字解説」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)