強力布陣で挑む!自動搬送ロボ、いよいよ都内で「車道端」も走行

川崎重工やティアフォー、2021年11月にも実証実験



提供:川崎重工

川崎重工業、ティアフォー、損害保険ジャパンの3社が、自動搬送ロボット(配送向けの自動走行ロボット)の実用化に向け大きく動き出した。ラストワンマイル配送事業の事業性・技術性を検証するため、年内にも新たな実証実験に着手する方針だ。

自動運転分野で豊富な実績を誇るティアフォーと損保ジャパン、そしてモビリティ領域において高い開発力を持つ川崎重工の強力な布陣は、自動走行ロボット実用化に向けどのような取り組みを行うのか。


この記事では自動運転ラボによる川崎重工業への取材内容を含め、3社による取り組みの概要を解説していく。

■実証実験の詳細検討に関する覚書を3社で締結

3社は2021年8月、「自動搬送ロボット領域における協業に向けた実証実験の詳細検討に関する覚書」を締結し、自動搬送ロボットの共同開発やサービス構築における連携を視野に入れた実証実験の検討を開始することに合意した。

ラストワンマイルにおける物流課題が背景にある。社会課題として顕在化したドライバー不足などの解決にはラストワンマイル配送のさらなる効率化が必要であり、その手段の1つが自動運転技術だ。

川崎重工のこれまでの取り組み

川崎重工は、今後注力するフィールドの1つに「近未来モビリティ」を掲げ、ロボティクスやモーターサイクル、多用途四輪車のオフロード走行技術といった知見のもと、荒れた路面や段差のある道路でも安定して走行できる自動搬送ロボットの開発を進めている。


2021年1月に自動搬送ロボットの開発部門を発足し、初期試作に3カ月、改良に2カ月を費やしてプロトタイプを開発したという。

ティアフォーのこれまでの取り組み

一方、ティアフォーは「自動運転の民主化」を旗印にオープンソースの自動運転 OS「Autoware」の世界展開を進めており、2020年12月には公道対応の小型自動搬送ロボット「Logiee S1」の開発と実証を発表している。車両上部のモジュールを交換することでさまざまな用途に活用できる自動走行ロボットだ。

三菱商事などと2020年12月に岡山県玉野市で行った実証では、小売店から複数顧客に対しルート最適化技術を用いて医薬品や日用品を配送した。

【参考】岡山県玉野市での実証については「三菱商事と三菱地所が「自動運転×配送」に注力!?国内初の実証実験、岡山県玉野市で」も参照。


損保ジャパンのこれまでの取り組み

損保ジャパンも早くから自動運転技術に着目し、自動運転車の事故トラブル対応サービスの研究拠点「コネクテッドサポートセンター」の開設や自動運転実証向けのオーダーメイド型保険の開発などを行っている。2020年10月には、自動走行ロボットの実証実験向けの専用保険プランの提供も開始している。

歩行者などの過失100%補償や対物事故臨時費用といった運行リスク補償をはじめ、ロボット本体の破損・故障リスク補償やサイバーリスク補償、業務遂行リスク補償、自動走行実験リスクアセスメントの支援、走行不能時の搬送無制限サービスなどからニーズに合わせて設計することを可能にしている。

3社の方向性が一致、共同で取り組みを開始

3社の方向性は一致しており、今回の協業においては、川崎重工の自動搬送ロボットにティアフォーの自動運転技術を組み込み、ラストワンマイル配送事業の事業性・技術性を検証していく。

具体的には、川崎重工が自動搬送ロボットの開発・提供や公道走行許認可取得に必要なハードの設計・改造などを担い、ティアフォーはAutowareを活用した自動搬送ロボットや運行管理システム、遠隔監視システムなどの開発・提供、自律走行オペレーションの遂行、実証実験に係る高精度3次元地図の開発委託や提供を担う。損保ジャパンは、実証実験計画の策定や運行にかかるリスクアセスメント、自動搬送ロボット向け保険の提供を行う。

■自動搬送ロボットのスペックや実証実験の概要
11月以降に実証着手、一部車道走行も想定

実証向けに川崎重工が開発を進めるロボットは、大きさが600×700×1000ミリで、最大30キログラムを積載しながら時速3キロメートル(最高時速6キロメートル)で走行することができるという。実証を通じて改良していくため、仕様は今後変更される可能性がある。

提供:川崎重工

実証は、2021年11~12月にも東京都墨田区の錦糸町の公道で行う予定で、関係機関と協議の上、歩道や路側帯をベースに、歩道と車道の区別のない道路においては一部車道端を走行することも想定している。

小型の自動走行ロボットの多くは歩道を低速走行することを前提としているが、現実的には目的地までの行程において必ずしも歩道が続いているとは限らない。場所によっては車道の端を走行するか、大きく迂回するようなケースが必ず出てくるはずだ。今回の実証では、こうしたリアルな環境を想定した走行も予定しているようだ。

また、走行する歩道や車道がきっちりと整備されているとも限らない。普段は気にも留めないちょっとした穴や段差が、タイヤが小さめの自動走行ロボットにとっては大きな障害となり得るのだ。その意味で、川崎重工による走破性の高いロボット開発にも注目したいところだ。

実証の詳細についてはまだ公式発表は出ていないが、一部報道によると医療用途を見込んでいるという。医院や薬局であれば薬や処方箋の配送、ドラッグストアであればさらに衛生用品や食料品、日用品などの配送実証が行われる可能性が考えられる。

■加速する自動走行ロボットの実証

自動走行ロボットの公道実証基準・手続きが明確になった2020年秋以降、民間の開発は一気に加速した。新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」には12社が参画し、同年11月以降全国10カ所で実証を進めている。

パナソニックやホンダらがロボット開発に本格着手するなど民間の開発意欲は高く、今後も新規参入する企業が続く可能性は高い。

自動走行ロボットは、大別すると屋外歩道向け、屋外車道向け、屋内向けの3パターンに分類できる。屋内向けは法律などの規制を受けづらく安全を確保しやすいためホテルや飲食店、商業施設などでのサービス実装が先行していたが、改めて注目が高まった印象だ。

現在、開発の中心は屋外向けで、ラストワンマイルの担い手として大きな期待が寄せられている。自動走行ロボットの公道走行を正式に認める法改正に向けた動きが水面下で進められているほか、2021年度も自動走行ロボットの技術開発支援や配送サービス実証支援事業は継続されており、さらなる前進は必須だ。

■【まとめ】自動走行ロボット開発はさらに加速

川崎重工らの実証の詳細については、内容が決定次第公表されるものと思われるため、続報をお待ちいただきたい。

この1年で大きく加速した自動走行ロボットの開発とサービス実証は、まだまだ加速する余地がある。新たな取り組みや新規参入など、各社の動向に引き続き注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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