国産MaaS誕生、いよいよ間近!?この1年の主な実証実験や取り組みまとめ

日本各地で事業者と自治体が協力

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2019年、国土交通省は日本版MaaSを早期に実現するため、自治体が中心となって取り組む19事業を「先行モデル」として認定し、強力な支援を約束した。民間企業単独もしくは複数企業が連携したスキームでの実証実験も積極的に実施された年になり、国産MaaSサービスの誕生に向け勢いがついた印象だ。

この記事ではこの1年に行われた主なMaaS関連の実証実験や取り組みを改めて紹介していこう。

■JR東と東急、伊豆エリアで「Izuko」を使ってMaaSの実証実験

東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)と東京急行電鉄は、伊豆エリアにおける観光型MaaSの実証実験として、「フェーズ1」を2019年4月1日から6月30日まで実施し、「フェーズ2」を12月1日から開始した。

フェーズ1では観光MaaSアプリ「Izuko」が当初目標を上回る勢いでダウンロードされた。このIzukoは伊豆エリアで国内外の観光客が、鉄道やバス、乗合交通、レンタサイクルなどをシームレスに活用するためのスマートフォン向けアプリだ。

フェーズ2ではIzukoの基幹部分をアプリからウェブブラウザに切り替えた。アプリと違ってインストールが不要のため、利用者の利便性を高めようという狙いだ。フェーズ2の実証実験は2020年3月10日まで実施され、実用化に向けたさらなる一歩となりそうだ。

■近鉄グループ、志摩エリアで観光型MaaSの実証実験

近鉄グループホールディングスは三重県の有名観光地が多い志摩地域で2019年10月1日から11月30日まで、「観光型MaaS」の第1回となる実証実験を行った。志摩市と連携協定も締結し、交通事業者や観光事業者、有識者のほか、三重県も参画して地域一体で「志摩MaaS」の実現を目指す動きだ。

第2回目の実証実験は2020年1月9日から3月31日まで。MaaSアプリ「ぶらりすと」が提供され、バスやタクシー、マリンキャブなどのオンデマンド交通の検索・予約・決済までできるようにする。

このアプリでは、三重県や志摩市の魅力を体験できる着地型旅行商品や、伊勢志摩の地域を便利にお得に観光できる「伊勢・鳥羽・志摩デジタルフリーパス」なども販売されている。

■JR東日本が「にいがたMaaS Trial」の実証実験

東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は2019年10月1日から12月31日まで、新潟県新潟市で観光型MaaSの実証実験として「にいがたMaaS Trial」サービスを提供した。この実証実験は「新潟県・庄内エリアデスティネーションキャンペーン」と同時期に行われ、アプリではなくウェブサービス形態で提供された。

このウェブサービスでは、「検索」機能では①JR東日本アプリと連動した現在地から目的地までの経路検索②地図上に飲食店、タイムズカーシェア、駅レンタカー、ホテルを表示③地図上に新潟市観光循環バスの走行位置を表示——の主に3つが利用できるというもの。

「予約」機能としては駅のレンタカー予約、「決済」機能としては循環バスの乗車券や飲食チケットの購入を可能にした。実証実験の実施には新潟県や新潟交通、新潟観光コンベンション協会、タイムズ24、ぐるなびなどが協力した。

■乗換案内の駅探、富山県の3市と観光型MaaSの実証実験実施

乗換案内サービスなどを展開する駅探は、富山県射水市と高岡市、氷見市の3市と、2019年10月からの観光型MaaSに関するサービスの実証実験の実施を発表している。

検索した日程や旅行客の趣味嗜好に最適化した観光ルートなどの情報を提供するサービスで、実用化に向けて検証に取り組んだ。2020年の東京五輪を控え、多言語対応にも取り組んだ。

【参考】関連記事としては「乗換案内の駅探、富山県の3市と観光型MaaSの実証実験実施へ」も参照。

■小田急のMaaSアプリ「EMot」、新宿と新百合ケ丘で先行実施

小田急電鉄株式会社は2019年10月30日より、複合経路検索機能などを備えたMaaSアプリ「EMot(エモット)」をサービスインさせた。このEMotは、同社が開発するオープンな共通データ基盤「MaaS Japan」を活用したアプリだ。

実証実験は「観光型MaaS」「郊外型MaaS」「MaaS×サービス」の3種類で行われるが、「観光型MaaS」の箱根エリアは交通機関の状況により実験時期を延期。まず新百合ケ丘と新宿エリアで行われる「郊外型MaaS」と「MaaS×サービス」に取り組み始めた。

EMotでは、鉄道やバス、タクシー、シェアサイクルなどを複合的に組み合わせた経路を検索可能で、連携サイトや連携アプリにおける予約・決済もしやすくなっている。EMotはこのほか、電子チケットの発行機能も搭載している。

■瀬戸内エリアでは観光型MaaSアプリ「setowa」の実証

広島県東部と愛媛県今治市の瀬戸内エリアでは2019年11月25日より、観光型MaaS「setowa」アプリの配信が開始されている。実証実験の実施期間は2020年3月31日まで。

瀬戸内エリアの旅行を快適にするというこのsetowaは新幹線をはじめとする鉄道に加え、現地の船舶やバス、タクシー、レンタカー、レンタサイクル、カーシェアリングなどの2次交通の一部を検索・予約・決済できるサービスだ。

トヨタのMaaSサービス「my route」、全国展開へ

2018年11月に福岡市で実証がスタートしたトヨタと西日本鉄道によるMaaSアプリ「my route」に関しては、2019年11月から九州旅客鉄道(JR九州)も参画し、北九州市もサービス提供エリアに加わった。その後、全国展開を進めることも発表された。

my routeはマルチモーダルモビリティサービスで、鉄道やバスなどの公共交通やタクシー、シェアサイクルなどさまざまな移動手段を組み合わせたルート検索や、一部サービスの予約・決済のほか、店舗やイベント情報の検索も可能だ。

2019年7月には経路検索大手のナビタイムジャパンがmy routeのルート検索機能をトヨタと共同開発すると発表し、まだまだこのmy routeは進化しそうな予感だ。

【参考】関連記事としては「トヨタのMaaSサービス「my route」を徹底解説」も参照。

■高速バス大手WILLERが観光MaaSアプリリリース

高速バス大手のWILLERによるMaaSの取り組みにも注目だ。観光MaaSアプリ「WILLERSアプリ」を2019年10月にローンチしており、実サービスとして既に展開している。

このWILLERSアプリは、鉄道やバス、タクシー、レンタカーなどを含む移動手段のほか、体験アクティビティなどをワンストップで検索・予約・決済できるもの。まずは当時の発表時点では、「ひがし北海道エリア」と「京都丹後鉄道沿線エリア」でアプリが利用可能になることに触れている。目指すのが、地方観光における二次交通の不足問題の緩和だ。

■みちのりホールディングスは岩手県北バスにアプリ無料提供

みちのりホールディングスも観光MaaSアプリを既に展開中だ。このアプリは岩手県北バスが運行する「仙台空港~松島・平泉・花巻線」にて無料提供され、現在もiOS版やAndroid版もインストール可能となっている。

バス路線の検索・予約・支払・発券ができるアプリで、沿線にある観光施設の案内やクーポン発行機能も有しており、こうした機能をスマートフォン1台で完結させることができる次世代交通サービスとして注目を集めている。

■八重山では一定期間乗り放題の電子チケットも

交通手段が一定期間乗り放題となる電子チケットの発行でも注目を浴びているのが、「八重山諸島における離島船舶、バス、タクシーによる観光型MaaS実証実験」(八重山MaaS)。実証実験は2019年11月下旬から取り組んでおり、地域観光型MaaSの実現・定着を目指している。

主体となっているのが八重山MaaS事業連携体で、システム開発大手TIS、沖縄県の石垣市と竹富町、沖縄セルラーアグリ&マルシェ株式会社、株式会社JTB沖縄などが参画している。

一定期間乗り放題になる電子チケットの対象となるのは、八重山諸島の離島船舶やバス、タクシーなどの交通手段だ。

■空港と東京都心を空港バスや自動運転車でつなぐMaaS実証

成田空港・羽田空港と東京都心を空港バスや自動運転車両でつなぐ実証実験が、2019年1月にスタートした。自動運転車両は自動運転開発ベンチャーであるZMPの提供によるもので、複数の移動手段を一元的に提供するMaaSの取り組みとして注目されている。

実際に料金を徴収して乗客に利用してもらうというもので、今後は乗客からのフィードバックなどを通じてより提供するサービスのブラッシュアップにつなげたい考えだ。MaaSという側面のほか、自動運転タクシーの実用化に向けた取り組みとしても注目を集めている。

■【まとめ】2020年にはさらなる盛り上がり

このほか、経路検索サービスを提供するジョルダンなども自社アプリを拡充する形でMaaSに取り組んでいるほか、ソフトバンクとトヨタが設立したMONET TechnologiesもまずはMaaSの一要素となるオンデマンドバスの提供に積極的に取り組んでいることにも注目だ。

2019年後半から本格化してきたMaaSの実証実験やアプリ・サービスは、2020年中にさらに盛り上がりをみせると思われる。2020年はフィンランド発祥のMaaSサービス「Whim」が日本国内でサービス提供を開始するとみられている。日本勢もうかうかしていられない。

【参考】関連記事としては「MaaS(マース)の基礎知識と完成像を徹底解説&まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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