ホンダのコネクテッドカー戦略とは?「つながるクルマ」、どう開発?

ソフトバンクとコネクテッド技術開発促進

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2019年3月期(2018年4月~2019年3月)連結決算で過去最高となる売上収益15兆8886億円を計上した本田技研工業(本社:東京都港区/八郷隆弘社長/以下ホンダ)。四輪事業では過去最高の販売台数を記録し、二輪事業でも数字を伸ばした。

2019年度見込みでは、四輪は引き続き過去最高の販売台数を目指すこととしているが、2年後、3年後はどうか。2020年には自動運転レベル3(条件付き運転自動化)の市場導入が始まる見込みで、以後は自動運転技術やコネクテッド技術をはじめとした次世代技術の優劣が大きく数字を左右する可能性が高い。

同社は2020年に高速道路での自動運転技術の実現、2025年ごろにパーソナルカーユースに向けた自動運転レベル4(高度運転自動化)技術の確立を掲げているが、コネクテッド技術の開発動向はあまり表に出てこない。

そこで今回は、ホンダのコネクテッドカー戦略に焦点を当て、開発状況を調べてみた。

【参考】ホンダの自動運転戦略については「ホンダの自動運転・ADAS戦略とは? ホンダセンシング標準装備化」も参照。

■2018年に組織再編でコネクテッド事業強化

ホンダは戦略の重要課題に電動化の推進やモビリティデバイドの解消、モビリティ体験の質の向上、情報化・自動化技術の生活への活用などを掲げているが、コネクテッド技術に言及している場面は意外と思えるほど少ない。

しかし、セーフティマップや通行実績情報マップなど、防災面を中心に通信技術を活用して情報共有を図るサービスを早くから実用化しており、2014年に米ミシガン州で開催されたITS世界会議デトロイト2014では、歩行者らが持つスマートフォンとクルマをつなぐV2Pや、クルマと二輪車間通信(V2M)、車車間通信(V2V)技術による「バーチャルけん引」などについて展示を行っている。

近年その取り組みを加速しており、コネクテッドサービスのさらなる展開に向け、2018年4月に各部のコネクテッド関連機能を集約・再編し、企画機能を四輪事業本部コネクテッド事業企画部、開発・運用機能をIT本部コネクテッド開発部として新設している。

■世界初、路車間通信で信号情報活用運転支援システムに対応

信号情報活用運転支援システム(TSPS)は、道路に設置された高度化光ビーコンから得られる複数の信号予定情報と、自車の位置・速度の情報に基づき、「信号通過支援」「赤信号減速支援」「発進遅れ防止支援」をディスプレーに表示し、安全で円滑な走行をサポートするシステム。

ホンダは2014年から同システムの公道実証実験を開始し、2016年発売のアコードハイブリッドなどから順次搭載を始めている。2019年5月現在、ホンダのほか三菱電機、JVCケンウッド、トヨタ自動車、パナソニックがTSPSに対応している。対象となる交差点は、2017年3月末現在で7701カ所にのぼり、順次拡大中という。

信号情報活用運転支援システムの作動イメージ=出典:ホンダプレスリリース
■救急自動通報システム「D-Call Net」を運用

ホンダは、コネクテッド技術を活用した救急自動通報システム「D-Call Net」の試験運用を2015年11月に開始した。2018年6月には、全国約730カ所の全消防本部に車両の死亡重症確率データを伝達する体制を整備し、本格運用を開始したことを発表している。

D-Call Netは、HEM-Net、トヨタ、日本緊急通報サービスなどが共同で開発を進めているシステムで、交通事故発生時の車両データを活用し、新たに開発した死亡重傷確率推定アルゴリズムを用いて乗員の死亡重傷確率を推定し、ドクターヘリ基地病院に通報することでドクターヘリやドクターカーの早期出動判断を行い、交通事故での救命率向上を図る。

2019年3月には、SUBARU、日産、マツダの3社も参画している。

出典:ホンダプレスリリース
■「Safe Swarm」を発表、コネクテッド技術で交通全体の流れをスムーズに

米ラスベガスで開催されたCES2017で、コネクテッドカー技術によってスムーズな交通の流れを実現するコンセプト「Safe Swarm(セーフスウォーム)」を発表している。

魚の群れの動きのように自然界から着想を得たアイデアで、車車間・路車間通信でデータをやり取りすることにより、見通しの悪い交差点進入時の衝突を回避したり、合流時や車線変更時のスピードを分析し、適切なスピード・タイミングでの合流・車線変更をアシストすることで渋滞発生を防ぐなど、大群でも互いにぶつからずに泳ぐ魚の群れ(Swarm)のように、交通全体の流れを安全かつスムーズにすることを目指すコンセプトとなっている。

2018年初頭から、通信機を搭載した車両を使って米オハイオ州コロンバスからメアリズビルに向かう州道で実証実験を行っているほか、同州メアリズビルでは、信号にカメラ・センサー・通信機を備え付けて車両と通信する「Smart Intersection(スマート インターセクション)」の実証実験も行っている。

実証実験を加速するため研究開発パートナーを求めており、ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)やCAV(Connected and Automated Vehicle:コネクテッドカー・自動運転車)に関わる企業と、実証実験を共同で実施する自治体のプロジェクト参画を募っている。

■ソフトバンクと5G技術を共同研究

ホンダとソフトバンクは2017年11月、5G(第5世代移動通信システム)を活用したコネクテッドカー技術の共同研究を開始したと発表した。自動車を中心としたモビリティーとさまざまなモノがつながることで、新たな体験や価値を提供する技術を強化していく方針だ。

2018年度には、ソフトバンクが本田技術研究所の鷹栖プルービンググラウンド(北海道上川郡鷹栖町)に5Gの実験用基地局を設置し、5G環境下での共同研究を本格化させている。フィンランドに本社を構えるノキア製の通信機器を使用し、商用環境を想定したノンスタンドアローン標準仕様(LTEとの連携により5Gの性能や機能をいち早く実現できるようにする仕様)で構成された屋外5Gネットワーク環境を日本で初めて構築している。

ホンダはこの実験により、自動車が高速で移動中、通信する基地局を安定的に切り替える技術や車載アンテナの開発、弱電界におけるデータ送受信性能を確保する技術やデータ処理技術の開発、その他さまざまなユースケースを想定した技術開発を進めることとしている。

【参考】ホンダとソフトバンクの研究については「ソフトバンク、5G戦略の系譜 自動運転で「通信会社」から脱皮」も参照。

■「つながるバイク」を2020年までに量産化

ホンダはコネクテッド機能を備えたバイクの開発も進めているようだ。「日経xTECH」が2019年1月に報じたところによると、小型から大型まで幅広い車格に同機能を搭載し、2020年までに量産を開始するという。

詳細は明らかになっていないが、従来のスマートフォンを活用したものではなく、通信モジュールを車両本体に搭載する可能性もある。

実用化されれば、バイクのメンテナンス情報が自動でサーバーに送信され、点検に必要性な情報などが通知されるリモートメンテナンスサービスや盗難車両追跡システム、車車間・路車間通信を活用した運転支援システムなど、様々なサービスを一体的に受けられるようになるかもしれない。

■【まとめ】ソフトバンクとの協業深化、コネクテッド分野で一気に台頭も

ホンダのコネクテッド技術は、信号情報活用運転支援システムや通行実績情報マップなど先進的な取り組みが多いが、公共性の高さとともに応用範囲の広いサービスが際立っており、良くも悪くも「コネクテッド技術」として大きく目立つことなく社会に受け入れられている感がある。

今のところ「コネクテッド」に重点を置いた具体的な戦略への言及もないが、ソフトバンクが出資する米GMクルーズとの協業や、ソフトバンクとトヨタの共同出資会社「MONET Technologies」への資本参加など、5G開発で手を組むソフトバンクとの協業が深まっている印象も強い。

通信大手でもあるソフトバンクグループとともに次世代通信技術を確立・実用化し、コネクテッド分野で一気に台頭する可能性も十分考えられそうだ。

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