内閣に設置されている「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議」は2021年6月、高度道路交通システム(ITS)や自動運転に関する国の方針をまとめた「官民ITS構想・ロードマップ」について、今後目指すべき方向をまとめた資料「これまでの取組と今後のITS構想の基本的考え方」を発表した。
同案では、2030年の将来像や実現目標などを掲げ、未来に向けた新たなアプローチの方針を取りまとめている。この記事では、この資料で紹介されている2030年の将来像を中心に紹介していく。
▼官民ITS構想・ロードマップ〜これまでの取組と今後のITS構想の基本的考え方
https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/its_roadmap_20210615.pdf
記事の目次
■ITS構想見直しの背景
国は2013年の「世界最先端IT国家創造宣言」と「運転支援システム高度化計画」を経て、2014年に初めて官民ITS構想・ロードマップを策定して以降、毎年内容を更新してきた。
その間、AI(人工知能) などのコア技術が大きく進歩した一方、地球温暖化防止に向けた対応など自動車を取り巻く状況が大きく変化したほか、新型コロナウイルス感染症による社会情勢の変化などを背景に「移動」に対する考え方が変わり、従来の自動運転を軸とした課題解決のアプローチだけでは成り立たなくなってきた。
自動運転は黎明期を迎え、限定領域下での無人自動運転移動サービスの運行が開始されるなど、社会実装・普及を促進する段階に移りつつある。
また、MaaSをはじめとしたモビリティサービス事業の実証実験も世界各国で社会実装期を迎えている。国内でも試行的な取り組みが進展して事業化に向けた課題の整理などが進められ、さまざまなモビリティサービスも実証実験から社会実装の段階に移りつつある。
このような情勢の変化を踏まえ、2020年を1つの節目としていたこれまでの取り組みを整理するとともに一層進化させるため、新たな目標と戦略をもった構想を掲げ、移動に係る社会課題の解決や産業競争力の強化に向け取り組んでいくこととしている。
■2030年の将来像
将来像については、今後のITS構想の見直しに向け、地域を以下の3つに分類し、地域要因などを加味しながら2030年のモビリティ分野における将来像について整理している。
- 地方部(人口5万人以下)
- 自家用車による移動が中心の都市部(人口5万~100万人)
- 公共交通が普及している都市部(人口5万~100万人、100万人以上)
「地方部」における将来像
公共交通手段の維持が厳しさを増す地方は自家用車の交通分担率が高く、免許を持たない住民の移動が制約される恐れがある。このような状況を踏まえ、2030年の将来像として個々のライフスタイルに合わせた生活を送ることのできる社会を目指す。
モビリティ分野では、自動運転移動サービスや移動代替サービスの活用などが将来像の実現につながるとしている。
具体例としては、自動運転コミュニティバスや乗り合いタクシー、移動車両を活用した小売や医療サービス、ドローン配送サービス、自動車が周辺環境やドライバーの体調などをセンシングして安全な運転をサポートする機能などが挙げられている。
限定領域における自動運転移動サービスの実証・実用化は、都市部に比べ交通量が少ないこのカテゴリーで積極的に進められている。自動運転車専用道路の設定などが行いやすく、社会実装の観点から言えば実用化初期における中心的なエリアとなりそうだ。
「自家用車による移動が中心の都市部」における将来像
自家用車利用の多い都市部では交通渋滞が大きな課題となるため、2030年の将来像としては移動に拘束されることなく自由に時間を使える社会を目指していく。
モビリティ分野においては、さまざまな交通手段のシームレスな連携や自動運転トラックによる都市間物流などが将来像の実現につながるとしている。
MaaSの導入など、目的地ごとに束ねた効率的な移動や柔軟な価格設定、ルート案内などにより、交通量を最適化させる考えだ。
「公共交通が普及している都市部」における将来像
公共交通が発達した都市部では、人口集中による渋滞や混雑が深刻化していることが大きな課題となっており、2030年の将来像としては、個々のニーズに合った利便性が高い生活を送れる社会を目指していく。
モビリティ分野においては、多様な交通手段のシームレスな連携や自動運転などの新たなモビリティ、移動代替サービスの活用などが将来像の実現につながるとしている。
■今後のITS構想の基本的考え方
2030年に向けては自動運転の進化という軸に加え、日本を取り巻くモビリティの自動化・電動化の流れ、Society5.0の実現や移動に係る社会課題の深刻化などの社会環境の変化を多軸的に把握する必要がある。
その際、現状のトレンドを延長する手法を脱し、目指すべき未来の姿や課題から今なすべきことを捉える「フューチャープル」の発想で将来像を描く必要があり、未来の移動の在り方からモビリティの姿を継続的に検討していくことが重要としている。
このような認識を踏まえ、デジタル庁では国民からの期待が大きいモビリティ分野において新しい官民のITS構想を検討し、以下3つの重点取組を推進していく。
新たなモビリティ社会の実現に向けたデジタルプラットフォームの構築
官民連携によるモビリティ関連データ連携に係る技術開発によって新たな交通サービスやモビリティサービスが社会実装の段階を迎えつつある。これらのサービスの社会実装を進めるためには、官民の保有するモビリティ関連データを連携させ、データを相互に使えるシステム基盤が必要である。
そこで、デジタル庁の新たな取り組みとして官民のアプリケーション開発やデータ分析が行えるプラットフォームを構築していく。
自動運転などの一層の進展
欧米同様、日本においてもAI技術をはじめとする核心技術のさらなる進展を見据え、自動運転の技術革新とその社会実装を推進する。社会実装にあたっては、技術的な検討と併せて、倫理的課題や社会的影響などELSI(倫理的・法的・社会的な課題)の視点からの検討も行う。
実証実験を通じて技術と地域のニーズのマッチングを図ることで、調和のとれたモビリティサービスの活用事例を増やし、社会受容の醸成を図っていく。
多様なモビリティの普及・活用
実証段階にあるドローンや自動配送ロボットをはじめとする多様なモビリティに関して、引き続き社会実装を目指して技術開発と活用に向けた制度整備に取り組む。
推進にあたっては、「技術開発」「交通インフラ整備とコネクテッド実装」「制度整備」「デジタルモビリティプラットフォームの構築/データ連携」「社会実装・社会的受容性」の5つの観点による具体的な施策を官民で取り組んでいく。
■【まとめ】フューチャープルの視点で未来にアプローチ
ロードマップに関しては基本的に変更はなく、これまでの取り組みとの継続性が保たれている一方、将来に向けたアプローチにおいてフューチャープルの発想を取り入れた点に注目だ。未来のあるべき交通社会を明確にし、理想像をベースに段階的にアプローチを図っていくことになる。
また、資料の中には2021年9月に設置予定のデジタル庁の役割に言及している部分もある。自動運転やMaaSの効果的な社会実装においてはデジタル社会の構築・進展を要するが、膨大な交通関連データを取り扱う上で、公共性とビジネス性を両立させるためには民間のみならず官側のDX化も必要不可欠となる。デジタル化の取り組みにも別途注目していきたい。
【参考】関連記事としては「自動運転の7つのKPI、国が達成度を公表!「自家用車レベル3」などクリア」も参照。