自動運転に関わる実証実験が全国各地で行われている。テーマは多種多様で、同じテーマであっても実証場所が異なれば状況が一変するため、二つとして同じ実証は存在せず、一つひとつの実証が厳密に実施されなければならない。
この実証において、より確実に成果を出すため現場ではどのような検証や準備作業が行われているのか。実施する上で取り組みが欠かせない主な12項目を挙げてみた。
記事の目次
■安全対策
当たり前と言われればそれまでだが、安全対策は全ての実証実験において万全を期す必要があり、さまざまな観点から安全確保に向けた策が講じられている。
わかりやすい例を挙げると、公道における自動運転レベル4の走行実験の場合、本来ドライバーなしで成立すべきレベル4にもかかわらず、運転席などにオペレーター(保安要員)が搭乗している場合が多い。
【参考】自動運転レベル4については「自動運転レベル4の定義や導入状況を解説&まとめ 実現はいつから?|自動運転ラボ」も参照。
システムの誤作動や未検知の障害物の存在など、万が一の際に、手動による補助制動装置で対応するための措置だが、このような安全対策について実証前に嫌というほどシミュレートし、あらゆる策を講じているのである。
交通規制を伴わない公道実証の場合、一般車両をはじめ歩行者や自転車などと混在した中で走行することとなるが、事前告知を含め実証中であることを周囲に喚起する必要があるほか、制限速度内で走行する自動運転車に対し、あおり運転や無理な追い越しをかける後続車もいるため、想定される危険を事前に予測し、細かに対策を練っておく必要もあるだろう。歩行量の多い交差点などでは、別途警備員を配置することなども検討しなければならない。
また、タイヤなど自動運転システム以外の日常点検も当然欠かさず行わなくてはならないだろう。
■道路環境の確認
走行する予定の道路の状況を、事前にチェックしておく必要がある。幅員や道路標識といった基本的な情報をはじめ、勾配や歩車分離の状況、道路の陥没カ所や白線の状況、沿線施設、街路樹の状況、ひいては道路や歩道の通行量など、把握しておかなければならない。
自動運転システムによっては事前にマッピングが必要なケースもあり、こうした工程も含め実証が行われることになる。
道の駅における実証では、実際に沿道の植栽・雑草(道路区域にはみ出した植栽・雑草)をセンサーが検知し、走行停止したケースや手動運転で回避する場面などがあったようだ。
■ODDの設定
実証実験を行う際、実際に走行する地域・地区を示す「運行設計領域」(ODD)を厳密に設定する必要がある。特に自動運転レベル3以降の実証の場合、どこからどこまでを自動運転で走行するのか、また交通規制をかけた専用空間とするのか、一般車両との混在交通下で走行するのかなど、事細かに設定する必要がある。
さらに、ODDを逸脱した場合、どのような手法で緊急停止や手動運転への切り替えなどを行い、安全性を確保するのかも取り決めておかなければならない。
■移動サービスのニーズ把握
移動サービスを実証する際、周辺住民の世代分布や地域の課題を踏まえた移動ニーズなどを事前に調査・想定し、社会実装を見据えた形で要所を抑えた運行ルートや運行パターンの設定など運行計画を策定しなければならない。また、サービス導入による地域課題解決のプロセスを明確にしておく必要もある。
観光客などを対象とする移動サービスの実証の場合、ターゲットがどのような移動手段でサービス個所を訪れ、どういった場所を回るのか、また観光・商業面で連携すべき対象にはどういったものがあるかなど、実証テーマに合わせたモニターを人選し、その動態についてもリサーチする必要がありそうだ。
■目的にあった被験者を集める
自動運転や新たな移動サービスの実証を行う場合、「人」に関するデータを集めることも重要だ。
例えば、自動運転車に乗った人はどのような反応を示すのか、自動運転車の運転をほかのクルマのドライバーはどう受け止めるのか、自動運転バスサービスがスタートした場合に地元の人は便利に感じるのか、といった具合だ。状況によって人とシステムが交代で運転を担う「自動運転レベル3」の実証実験を行う場合でも、構築したシステムを人がきちんと使いこなせるのか、入念な実験が必要となる。
そして人に関するデータを集める場合、実際にそれぞれの実証実験の目的に合わせた被験者を集める必要がある。実証実験に合わせ、高齢者、若者、地元の人、ビジネスマン、男性、女性…というような形だ。実証実験によっては人が集まらなければ、成果を評価しにくくなる。
■通信環境に関する準備
次世代移動通信システム5Gの実証をはじめ、自動運転やトラックの隊列走行など多くのケースで通信環境が必要となる。特に、遠隔型自動運転においては要となる技術のため、検証項目の中でも特に重要性が高いものだ。
通信方式の選定をはじめ、建物や山など障害物による通信への影響や他の通信との干渉などもしっかりと検証し、途絶せず安定した通信速度・容量を満たすことができるか、通信遅延の程度はどのくらいかといった通信環境を確認するとともに、車両に搭載されたカメラの画像など収集・配信すべき情報(データ)がしっかり送受信できているかなども確認する必要がある。
【参考】関連記事としては「自動運転と5Gの関係性を全解説 コネクテッドカーでも大活躍」も参照。
■位置情報に関する準備
通信同様、位置情報も自動運転において重要な要素であり、GPSや準天頂衛星(QZSS)といったGNSS(全球測位衛星システム)の精度や補正状況、山やトンネルなどにおける通信状況などもしっかり検証する必要がある。
自己位置推定が不安定になる場所においては、位置精度の向上やそれを補完する別の技術が必要となるため、代替技術などの導入も見据えた実証が重要となる。
愛知県岡崎市で2017年度に行われた実証では、周辺の風景が変わらない直線の橋区間約300メートルで、自己位置推定が外れたため手動運転に切り替えたこともあるようだ。
■天候や昼夜の影響の想定
大雨や降雪の影響などもしっかり想定しなければならない。雨による路面の反射で道路標識や白線が見づらくなるケースや、積雪により道路標識などが一切見えなくなるケース、大雨や吹雪によりセンサーの感度が著しく落ちるケースなど、想定すべきパターンは山ほどある。除雪によって路肩に積まれた雪山なども検証する必要が出てくるだろう。
また、朝日や夕暮れ時の西日、街灯のない真っ暗な夜間などにおいても同様にセンサーの感度を確かめておく必要がある。
■正着制御の検証
自動運転バスに最も多く使われる技術で、バス停など特定の場所により正確に停車するための正着技術の検証も行われている。通常はセンサーやGNSSによる位置情報によって自車位置を特定しているが、周辺の目印や誘導線を目安に正着を図る仕組みや、磁気マーカーを活用した仕組みなど、誤差数センチ以内を目指し検証が重ねられている。
■ソフトウェアの検証
自動運転システムは、その仕様上ソフトウェアのかたまりとなっている。そのため、使用過程における安全確保の観点から、日常的な保守管理としてのソフトウェアの検証や、個別のソフトウェアの性能を試す目的での検証など、多角的かつ定期的に調査しなければならない。
■HMIの検証
システムの作動状況を運転者や乗員などに知らせるヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)もしっかり検証しなければならない。何らかの警告発生時や非常停止時など、わかりやすくかつ速やかに運行保安員や運行管理センターなどに状況を通知するシステムや、モニター乗員に異変があった際なども状況を素早く把握できるシステムが必要となる。
■データ記録装置の検証
事故発生時の車両の状態などを記録するEDR(Event Data Recorder、イベントデータレコーダー)や、EDRからデータを取り出すためのツールがCDR(Crash Data Retrieval、クラッシュデータリバイバル)についても、定期的に検証しておく必要がある。
自動運転車においては、データ記録装置の搭載が義務付けられるが、実証実験においても有効に機能しているかどうか、稼働状況などをしっかり見ておく必要があるだろう。
【参考】データ記録装置については「EDRとは?CDRとは? ゼロから分かる事故データ記録装置 AI自動運転車にも装着義務化へ」も参照。
■【まとめ】一つひとつの積み重ねの上で実証実験が成立
「天候や昼夜の影響」がセンサーシステムの開発において必須の技術であるなど、大半の項目は自動運転を構成する各システムの開発そのものに関わってくるものだが、こうした検証や確認作業があって、はじめて自動運転システム総体としての検証・実証を行うことができるのだ。
このように多面的な観点で実証実験をするためには、事前準備や機材や人のコーディネート、実験運行管理、データ集計など、非常に多くの調整事が生じる。そのため、今それらの実証実験をワンストップで請け負うサービスに対する需要が高まっている。
実証実験の運営・管理、コーディネートなどを幅広く全国でサポートしているエイジェックマーケティングリサーチ社は、こうした現在の状況について「現在は自動運転の早期実用化が期待されている分、研究員の人たちの負荷が高まっている状況。特に働き方改革関連法が施行されてからは、板挟みになっている様子も見受けられる」と語っている。
>>【全4回特集・目次】自動運転の進化、鍵は実証実験!〜その最前線に迫る〜
>>【インタビュー】自動運転の実証実験をトータルサポート!「縁の下の力持ち」のエイジェックマーケティングリサーチ社(特集:自動運転の進化、鍵は実証実験!第1回)
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