【資料解説】自動運転と損害賠償責任、国の研究会の報告書の内容は?

5つの重要な論点ごとに解説





全6回にわたって開催された「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」の報告書の内容が、国土交通省のウェブサイトで公表されている。







2020年4月に条件付きの自動運転である「レベル3」が国内で解禁され、損害賠償責任について考えなくてはいけない機会は今後増えるであろう。

国交省の報告書のポイントを解説し、報告書で述べられている論点について整理する。

▼自動運転における損害賠償責任に関する研究会 報告書
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk2_000065.html

■損害賠償責任についての議論の前提

自動運転は、交通事故削減や渋滞緩和、環境負荷の軽減などのメリットが期待されている一方で、自動運転システムの欠陥やデータの誤り、通信の問題、ハッキングなど今までの交通事故では想定できない原因での事故が起こる可能性がある。そのため事故時の責任をどうするかという問題を、今までの交通事故とは違う前提で考えなくてはならない。

民法の特別法である「自動車損害賠償保障法」においては①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと②被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと、③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと——の3つが証明できる場合は、賠償する必要はないものとされている。しかし、自動運転において「注意を怠る」のは誰のことなのだろうか。

こういった背景から国交省では「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」が設けられ、検討が重ねられてきた。なお、想定するのは2020~2025年頃の自動運転導入「過渡期」であり、特にレベル3、4の自動運転における事故を中心に、損害賠償責任をどうすべきかの協議が行われてきた。

■損害賠償責任の5つの論点

研究会における主な論点は以下の5つになる。

  • 論点①:自動運転システム利用中の事故における自賠法の「運行供用者責任」をどのように考えるか
  • 論点②:ハッキングにより引き起こされた事故の損害(自動車の保有者が運行供用者責任を負わない場合)について、どのように考えるか
  • 論点③:自動運転システム利用中の自損事故について、自賠法の保護の対象(「他人」)をどのように考えるか
  • 論点④:「自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと」について、どのように考えるか
  • 論点⑤:地図情報やインフラ情報等の外部データの誤謬、通信遮断等により事故が発生した場合、自動車の「構造上の欠陥又は機能の障害」があるといえるか
■論点①:自動運転システム利用中の「運行供用者責任」とは何か

レベル4までの自動運転過渡期においては、自動車の所有者、自動車運送事業者等が従来通り「運行供用者」として責任を持つことが妥当とされた。その上で、保険会社等が自動車メーカーと協力して原因解析や協議を行えるようにすることが適当とされている。

自動車メーカーに負担を求める仕組みも案としては検討されていたが、諸外国でもそのような制度改正はないことから、現状では除いている。

■論点②:ハッキングにより引き起こされた事故の損害の考え方

現在、ひき逃げ、無保険車ならびに盗難車による事故は政府保障事業で保険金の支払いを行っているため、ハッキングについてもこれと同じ考え方を用いるのが適当とされた。

ただし、自動車の保有者が必要なセキュリティ対策を講じていないなどの保守点検義務違反が認められる場合はこの限りではない。

■論点③:自動運転システム利用中の自損事故ではどこまで保護されるか

現在の自賠責保険では自損事故での損害で保険金の支払いを受けることができず、任意保険が必要となっている。そのため、自動運転システム利用中の自損事故についても同様に扱うことが適当とされた。

■論点④:自動運転中に「注意」はどこまでしなくてはならないのか

運転者がすべき「注意義務」として、現状では関係法令の遵守義務、自動車運転に関する注意義務や自動車の点検整備に関する注意義務などが挙げられる。

今後自動運転が進むと現在と同等の注意義務は必要なくなる可能性はあるものの、点検整備義務は引き続き必要となる。また、自動運転システムソフトウェア等のアップデートや、自動運転システムの要求に従って自動車の修理を行う義務が新たに生じる可能性がある。

■論点⑤:地図情報やインフラ情報などの誤謬・通信問題は自動車の問題といえるのか

外部データの誤謬や通信遮断などの事態が発生した際も安全に運行できる必要があり、このような事態で安全性を確保できないシステムには「構造上の欠陥」や「機能の障害」がある可能性があるとされた。

■【まとめ】継続した議論がさらに必要

自動運転時代においては責任の所在が複雑になり、保険制度などもそれに従って考慮すべき点が多くなる。

当面のレベル3~4の自動運転においては、本研究会での報告が判断の基準になるものの、レベル5の自動運転が普及した時、行き先だけを指定しても「運行供用者」という扱いになるのかといった問題は残り、継続した議論が必要になってくる。

▼自動運転における損害賠償責任に関する研究会 報告書
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk2_000065.html

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「ハッキングされた自動運転車が事故!誰の責任?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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