自動運転・MaaSは「医療」にも貢献する

院内外で自動運転が活躍?MaaS活用例も

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最新の自動運転技術と医療に求められる技術には共通点が多い。AI(人工知能)やロボット、画像認識技術など、自動運転のコアとなっている技術は医療分野でも役立てられているのだ。

ここからが本題となるが、近年では自動運転技術そのものやMaaS(Mobility as a Service)を医療分野に活用する動きが顕著となっている。どのような場面で活用するのだろうか。

今回は、各社の取り組み事例を交えながら自動運転やMaaSと医療の関係について論じていこう。

■フィリップス・ジャパン:医療MaaS構築へ伊那市と実証

MONETコンソーシアムに参加するフィリップス・ジャパンは2019年11月、医療×MaaSを実現するヘルスケアモビリティを完成し、MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)とともに長野県伊那市でモバイルクリニック実証事業を行うことを発表した。

フィリップスは、自治体や企業とのパートナーシップを通じた新しいヘルスケア・モビリティ・ソリューションの展開を目指し、MaaS分野への進出に向け同年4月にMONETコンソーシアムに参加していた。

一方、伊那市も同年5月にモネと連携協定を締結しており、トヨタ・モビリティティ基金の採択を受け、2カ年にわたってMaaSと遠隔医療を組み合わせた移動診療所「モバイルクリニック事業」を実施するとしていた。

開発したヘルスケアモビリティには、看護師が患者宅を訪問し、医師がオンラインで診療するための機能が搭載されている。具体的には…

…を備えている。

利用時は、スケジューリングされたオンライン診療の予約時間に合わせて看護師がモネのアプリからオンライン診療用車両「INAヘルスモビリティ」の配車を予約し、看護師を乗せた車両が患者の元へ移動する。患者は車内に乗り込み、遠隔地の医師からテレビ電話で診察を受け、看護師が医師の指示に従って診察の補助を行う仕組みだ。

実証は2021年3月までとなっており、事業の有効性を検証した後、オンライン診療の高度化やヘルケアデータの利活用による地域全体へのシステムの発展などを図っていく方針。伊那市は事業の発展系として、遠隔での服薬指導やドローンを活用した医薬品の配送なども視野に入れているようだ。

なお、フィリップスは2020年1月に山梨市などと「ヘルステックおよびモビリティを活用した一生涯安心なまちづくりプロジェクト」に向け連携協定を締結している。各地の自治体との結びつきを強め、幅広く実証を進めていく構えのようだ。

【参考】フィリップスの取り組みについては「地方のヘルスケア課題、「医療×MaaS」で解消!MONETとフィリップスが専用モビリティ」も参照。

■横浜国立大学:ヘルスケアMaaSの拠点開設

横浜国立大学は2019年11月、ヘルスケアとモビリティを結びつけた新たな産業「ヘルスケアMaaS」の創出を目指し、武田薬品工業が運営する湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)に研究拠点を設置することを発表した。

MaaSを医療や介護、健康などに適用していく試みで、MaaSによって「人と場所」「ニーズとシーズ」「課題と解決策」などを一体化することで、ヘルスケアの新たな価値を生み出すことを狙っている。

産学官が連携するオープンイノベーションを推進するほか、同大学のモビリティ研究と湘南アイパークのイノベーションシステムを結びつけることで、新たなビジネスやスタートアップ、プロジェクトなどに繋げていくこととしている。

【参考】横浜国立大の取り組みについては「地方を救う「ヘルスケア×MaaS」 横浜国立大、研究拠点を湘南アイパークに開設」も参照。

■医療とMaaSは密接な関係に

医療関係のMaaSではこのほか、茨城県つくば市で「顔認証やアプリを活用するキャンパスMaaS及び医療MaaS」の実証実験が行われている。

バス乗降時の顔認証による病院受付や診療費会計処理サービスを可能とするもので、直接医療と関係する内容ではないが、交通サービスが必要とされる一拠点として医療機関を挙げる地域は多い。また、島根県大田市の「定額タクシーを中心とした過疎地型Rural MaaS」実証実験のように、健康増進プログラムなどと連携し住民の生きがいづくりや外出機会増加を図る動きもみられる。

駅や商業施設などとともに医療機関への交通の足確保を求められる地域においては、住民をただ運ぶだけの交通サービスに留まらず、モビリティを活用した医療・福祉サービスを付加することでより住民の福祉を高めることができそうだ。

■日立:医療機器搬送カートを提案

日立は、経済産業省・国土交通省の2016年度「スマートモビリティシステム研究開発・実証事業(自動運転による新たな社会的価値及びその導入シナリオの研究)」において、一般社団法人日本社会イノベーションセンターなどの協力のもと自動運転技術を各方面に生かすビジョンを作成しており、この中で医療機器搬送カートへの導入を提案している。

医療機器などを自動運転技術で患者宅へ配送するといった内容で、背景には高齢者の増加に伴う病床不足などがある。大病院を中心に長い待ち時間や病床不足といった問題が顕在化しており、その解消に向け在宅医療を受けやすい環境づくりに着目したようだ。

病院では患者や医療スタッフ、医療機器が頻繁に院内を移動している。また、医師の診察に必要な時間と医療機器を利用する時間は必ずしも一致しないため、医療リソースの有効活用が求められている。在宅医療においても、診察スケジュールに合わせて必要なものを必要な家へ効率よく運ぶことができれば、医療スタッフや機器などの医療リソースを有効に生かした高水準の医療サービスを提供できるかもしれない。

こうした課題を解決するのが、複雑な運転計画に対し正確かつ柔軟に対応できる、医療機器配送自動運転カートだ。オーダーされた医療機器は、自動運転カートによって診療時間に合わせて患者宅まで運ばれる。診察が終わると医師は次の患者宅に向かい、医療機器も別の必要とされる場所にそれぞれ向かうことができる。

薬や食事なども配送することでより病院に近いサービスの提供が可能になるほか、汚れたシーツやオムツ、その他の医療廃棄物など、毎日処分したいものも回収することができるとしている。

■フォルクスワーゲン:多目的自動運転車の活用例でヘルスケア提案

海外では、独フォルクスワーゲンが2019年4月にドイツで開催された産業見本市で、さまざまなビジネスアイデアを生かすことが可能な自動運転コンセプトカー「Volkswagen POD」を披露し、活用例として充電ステーションや移動ショップ、コーヒー店、そしてヘルスケアを挙げている。

PODは車台部分に自動運転システムなど走行に必要となる機能をすべて納めることで車体部分の自由度を増した設計で、トヨタのe-Palette(イーパレット)のように多目的な活用を見込むコンセプトモデルだ。

遠隔診断や移動健康診断など、さまざまな用途に活用することができそうだ。

■SkyDrive:空飛ぶクルマをドクターヘリに

空飛ぶクルマの開発を進めるSkyDriveは2019年3月、ドクターヘリによるヘリコプター救急の第一人者として知られる日本医科大学救急医学教授の松本尚氏を顧問として迎えることを発表した。

空飛ぶクルマが救急医療の現場においても安全で迅速なモビリティとして活用されることを目指す方針で、松本氏は「次世代の救急医療システムをマネジメントしてみたい」としている。

ヘリコプターに比べより柔軟な飛行が可能になる空飛ぶクルマが、緊急性の高い救急医療において大きな役割を担っていく可能性は高そうだ。

【参考】SkyDriveの取り組みについては「空飛ぶクルマを救急医療に活用へ フライトドクター松本氏がSkyDrive顧問に」も参照。

■新型コロナウイルス対策でも自動運転技術が活躍

新型コロナウイルスの影響で生産に支障が出ている自動車業界だが、中国では自動運転機能を有効活用する動きが広がりを見せているようだ。自動運転物流ロボットの開発を手掛ける中国スタートアップのNeolix(新石器)は、無人配達が可能な同社ロボットの発注が殺到している。

外出規制や交通規制などが敷かれることで物流に支障が生じており、アリババやJD.com(京東商城)らEC大手が配送ロボットの導入を加速させているほか、道路の消毒にも自動運転技術を活用したロボットの導入が進んでいると報じるメディアもあるようだ。

また、アポロ計画を展開する百度(バイドゥ)は2020年2月、新型コロナウイルス対策に協力する企業に自動運転開発キットなどを無償提供すると発表した。自動運転技術をウイルス対策に有効活用する狙いのようだ。

自動車関連では、吉利汽車(ジーリー)を傘下に持つ浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)が2020年2月4日、新型コロナウイルス対策として「健康でインテリジェントな車両」の開発促進に3億7000万元(約55億円)の資金を割り当てると発表した。ウイルス保護機能を備えた一般消費者向けの車両開発を進めるとしている。

2月12日には、2020年モデルのすべての車両に高度な抗菌フィルターなどを搭載した最新のインテリジェント空気浄化システム「G-Clean Intelligent Air Purification System(IAPS)」を搭載することも発表している。

一般的に新型コロナウイルスをはじめとした感染症は動物や人を媒介して拡大するため、感染の拡大防止に向け人と人との接触を制限することが多い。

こうした場面においては、無人で走行可能な自動運転車がモノの輸送などで社会に貢献できる。外出規制によってEC利用が増えた際、人と人との接触を限りなく減らしながらラストワンマイルを担うことができるほか、小型モデルは病院内における物資の配送などを手掛けることもできる。

また、公共交通の利用禁止措置など入国制限に伴う行動制限においても、自動運転タクシーで対応可能なケースなども想定される。配送ロボット含め車両そのものの消毒など課題はありそうだが、無人のロボットだからこそ可能となるサービスや社会貢献の道がある。

直接医療と結びつくものではないが、有事の際に自動運転技術を活用することで間接的に市民生活や医療の現場を支えることができるのだ。

■【まとめ】モビリティとの結びつきが新たな医療サービスを生み出す 

医療分野においても、さまざまな場面で自動運転技術やモビリティサービスの活用が模索されていることがわかった。

在宅医療の柔軟性向上や院内外における物資の輸送、住民の福祉サービスの向上などをはじめ、感染症対策においても活用が進められている。コネクテッド機能やプラットフォームを活用することで、遠隔医療の向上や新たなビッグデータの有効活用なども図ることができそうだ。

人間の一生において欠くことのできない医療は、モビリティとの結びつきを強めることで新たな医療サービスを生み出そうとしているのだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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