移動ホテル、車の”可動産”化…自動運転社会で新たに登場しそうなビジネスは何?

全面スクリーンで映像コンテンツも満喫!?



すべての乗員に自由な時間と空間をもたらす自動運転。移動を主目的とした従来の自動車の概念が変わり、「移動中に何をするか」といった考え方が重視される時代へと移り変わっていく。







こうした自由な時間と空間の誕生は、次第に新たなビジネスを生み出していくことになる。自動運転の黎明期・創成期を迎えつつある今、どのようなビジネスやサービスが考えられているのか。また、将来どのようなビジネスが生まれるのか。

将来登場するであろう車内向けビジネスをはじめ、モビリティビジネス・サービスの未来を紹介・提案していく。

■自動運転で変わる車内の過ごし方

自動運転技術の導入によって、2つの大きな変化が車内にもたらされる。1つ目は、運転タスクからの解放だ。従来、自動車の走行に必須だった手動運転操作はすべてシステムに置き換えられ、AIや各種センサーなどで構成される自動運転システムが自動車を制御する。

ドライバーは運転操作から解放され、他の乗員と同様移動時間を自由に使うことが可能になるのだ。

2つ目は、車内空間のデザインの自由度だ。完全自動運転が実現すれば、車両に求められる保安基準なども変わってくる。ステアリングやアクセル・ブレーキペダルといった車両制御に必要な装置をはじめ、ドライバーの視界を確保するウィンドウなども必要なくなる。EV(電気自動車)化によってエンジンがモーターに置き換われば、車内空間の確保はさらに容易になるだろう。

マイカー利用の本来の目的は移動にあるが、この移動中の時間を、自由度を増した車内空間で有効活用することが可能になり、移動とサービスを掛け合わせたさまざまなビジネスの誕生が予想されるのだ。

■360度スクリーン動画配信ビジネス

設計・デザインの自由度を増した車内は、ウィンドウを含め360度全面をディスプレイ化することも可能になるものと思われる。音響設備も整えれば、車内空間は動画コンテンツなどを楽しむ専用空間へと変わる。

長時間の移動であれば映画、短時間であれば各種バラエティ番組など、移動時間に合わせた動画需要が見込めるため、これらの配信ビジネスが成長する。広過ぎない車内空間は没入感に溢れているため、映画好きな人であれば、移動目的に限らず利用したくなるかもしれない。

こうした専用設計車両を「動く映画館」として稼働・シェアするビジネスなども考えられるかもしれない。

同様に、迫力満載の空間でゲームを楽しむことなどもできそうだ。「ポケモンGO」などのように位置情報を活用したゲームを大きく進化させる契機になるかもしれない。

【参考】車載ディスプレイについては「2022年に7000億円市場の車載ディスプレイ、自動運転など見据え開発盛んに」も参照。

■現実空間と仮想空間を融合したサービス

VR(仮想現実)やAR(拡張現実)といった現実や仮想をミックスする技術も大幅に進化しているが、これらの技術をさまざまな面で自動運転に利活用する研究も進められている。

エンターテインメント関連では、ソニーがMixed Reality(MR/融合現実・複合現実)技術を搭載したソーシャブルカート「SC-1」のサービスを開始している。

車両の周囲360度を網羅したイメージセンサーの映像をディスプレイに映し出し、さまざまなCGを重ねることで、車窓がエンターテインメント空間に変貌し、移動をより楽しめるようにするサービスだ。透過スクリーン技術で車窓にもディスプレイにもなるガラスを採用することで、観光分野を中心にさまざまなサービスを展開することができそうだ。

出典:ソニープレスリリース

また、AR技術によって車内にアバターを出現させる開発も進んでいるようだ。日産が研究開発を進める「I2V(Invisible-to-Visible)」は見えないものを可視化する技術で、例えば、インターネット上に構築した仮想世界とつなげることで、さまざまなスキルや知識を持った人や遠隔地にいる知人などと車両をマッチングし、ARによって車室内に3Dアバターを登場させることなどを想定している。

アバターが各自の専門知識をもとに観光案内を手掛けたり、遠隔地の知人とアバターを通じて一緒にドライブしたりすることも可能になる。

自動運転に限らず手動運転でも利用可能で、すでに日産とNTTドコモが5G(第5世代移動通信)を活用し、車内のユーザーと遠隔地にいるユーザーが、互いにリアルな存在感や同乗感覚を得るために必要な情報提供方法やインタラクティブなコミュニケーションの有用性などを評価、確認する実証実験に着手している。

【参考】日産とNTTドコモの取り組みについては「遠方の知人とも「ドライブ」が可能な技術、日産とNTTドコモが実験 VRやARも駆使」も参照。

■自動運転の「移動ホテル」ビジネス

自動運転であれば、車内空間を寝泊まり可能な寝室仕様に作り上げることで、旅行や出張につきものの移動と宿泊の両方を備えることができる。移動ホテルの誕生だ。

車内のベッドルームで就寝中、あるいは仮眠をとっている間に自動運転車が目的地に向け自動で移動してくれるのだ。高速道路を利用すれば、東京―大阪間は約6時間、東京―青森間で約8時間必要となるが、夜行バスのように夜間の移動時間を就寝にあてることができれば、日中の時間を有効活用することが可能になる。言わば、プライベートな夜行バスだ。

移動ホテルビジネスのほか、旅行や車中泊の人気の高まりを考慮すれば、プライベートな自動運転車でも需要が見込めるかもしれない。

すでに自動車メーカーでも車内就寝を意識したコンセプトカーが登場している。スウェーデンのボルボ・カーズが2018年に発表した「360c」は、車内をベッドルームやオフィス空間として利用できるコンセプトでパーソナルな移動空間を演出している。

■車を”可動産”化して空間シェアリングビジネス

さまざまな空間として応用可能な自動運転車は、ある意味ビルの一室のようなものだ。オフィスや小売店舗などさまざまな用途で利用することができる。

こうした一室を自動運転と組み合わせることで、不動産ではなく「可動産」として取り扱うビジネスの誕生も予期される。リース形態やシェアリングなどテナントとしての利用方法も柔軟に対応可能で、個人所有・企業所有を問わず、未利用時の自動運転車の有効活用を図ることができる。

こうした概念はすでにビジネス化されており、つながりを育む「場づくり」事業を手掛けるファイアープレイスが2019年9月、未使用時のマイキャンピングカーをレンタルキャンピングカーとして動産活用する「トラベリングホテル」事業を発表している。

MaaS時代を見据えたコンセプトで、不動産を動産化する発想で資産の効果的な運用を図るアイデアだ。こうした発想は、自動運転の実用化によってさらに脚光を浴びることになりそうだ。

【参考】ファイアープレイスの取り組みについては「「動産」こそMaaS時代の多目的空間 「トラベリングホテル」をファイアープレイスが展開」も参照。

■ウィズコロナ時代の自動運転活用策

ウィズコロナ時代が到来し、ライフスタイルやワークスタイルに変化が求められているが、こうした側面においても自動運転技術が役に立つ。

例えば、新たなワークスタイルとして注目を集める「ワーケーション」だ。ワークとバケーションを組み合わせた造語で、観光地など過ごしやすい環境で休暇を兼ねながらリモートワークを行うものだ。

コロナ禍においてテレワーク・リモートワークが求められる場面が増加しているが、オフィス環境を整えた自動運転車があれば、自宅にこもることなくテレワークが可能になる。観光地など好きな土地を移動しながら仕事に勤しむ自動運転ワーケーションが誕生するのだ。

もう一点例を挙げると、自動運転車によって飲食スペースを移動する「逆デリバリー」のような取り組みも可能になるかもしれない。

近年都市部を中心にUber Eatsに代表される飲食デリバリー事業が需要を伸ばしており、コロナ禍においては全国的に注目を集め、タクシーによるデリバリーを可能とする特例措置も継続されている。

こうしたデリバリーに対し、逆デリバリーは飲食スペース仕様の自動運転車が乗客とともに各店舗に向かい、注文した料理を受け取って車内で飲食を楽しむ仕組みだ。出来立ての料理をすぐに堪能することができるほか、複数店を巡ってさまざまな料理を楽しむこともできる。飲酒も可能だ。

外食を外食の雰囲気のままパーソナルな空間で楽しむサービスとして、一定の需要があるのではないだろうか。

■モジュール化・ユニット化ビジネス

このほかにも、自動運転車は小売りをはじめさまざまな用途への活用が見込まれている。課題は、各仕様に改装するコストや手間だ。小売りや寝室、オフィススペースのいずれにしろ、より本格的な機能を備えようと思えば、当然より多くの手間やお金が必要になる。気軽に用途変更できないのがネックとなるのだ。

こうした課題を解決するのが、自動運転車のモジュール化・ユニット化だ。足回りを中心としたシャーシ部分に自動運転機能や動力となるバッテリーなど必要な装備をすべて搭載し、その上に乗車空間となるボディを載せる、または連結する仕組みで、寝室仕様やオフィス仕様などに設えたボディ部分をユニットとして乗せ換えることで、容易に用途変更することが可能になる。

この仕組みを導入することで、車体を含めた自動運転プラットフォームの規格化が進み生産効率が増すとともに、さまざまなサービスを提供するユニットの販売やレンタル需要も増すものと思われる。特定のサービスに特化した自動運転車そのものの販売やレンタルに比べ、低コストで柔軟な運用が可能になるのだ。

上下分離可能な自動運転車は独ダイムラーなどがすでにコンセプト化している。自動運転時代に次々と生まれる新サービスの社会実装を推進するビジネス手法として注目だ。

出典:ダイムラー社
■【まとめ】自動運転がモビリティビジネスの可能性を広げる

自動運転車を有効活用するアイデアは未知数で、車内空間をはじめ車体の構造も将来どのように変化していくのか、現在の予測をはるかに超えた進化を遂げる可能性もある。

不変となるのは「移動」に関わるコンセプトを要する点だ。人の移動、モノの移動、空間の移動を伴う何らかの利点があって初めて自動運転サービスが成り立つのだ。

モビリティビジネスの可能性を大きく広げていく自動運転技術の早期社会実装に期待したい。

【参考】自動運転車のモジュール化については「自動運転車の”上半身”が、多様なビジネスの舞台に 上下分離方式の未来モデル続々」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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