米Amazon(アマゾン)子会社の自動運転開発企業Zoox(ズークス)は2020年12月18日までに、自社開発したロボタクシー(自動運転タクシー)を発表した。
前後方の区別なく走行可能な車両システムが特徴だが、走行性能などのスペックも本格的な仕様となっており、自動運転車としてどれほどの走行が可能か期待は高まる一方だ。
Zooxの企業概要とともに同社のロボタクシーの仕様を解説していこう。
■Zooxのロボタクシー概要
最高時速120キロ、デュアルモーターで前後方に走行
Zooxの公式発表によると、ロボタクシーの自動運転システムは「L5 Capable」となっており、「自動運転レベル5を可能にする」としている。ただし、後述するが事前にマッピングされた領域を走行するシステムとなっていることから現状はレベル4に相当するものと思われる。
ボディサイスは全長3,630ミリ×高さ1,936ミリのコンパクトなボックスタイプで、前後の区別がない仕様のようだ。室内は、対面方式で4人が乗車可能なスタイルを採用している。ハンドルやブレーキなどの制御装置は見られない。車内に設置されたスクリーンで到着予定時刻やルートの確認、音楽や空調設定などを行うことができる。
最高速度は、前後方とも時速75マイル、キロに換算すると時速120キロに及び、高速道路などにも対応した本格的な走行を行うことが可能なようだ。また、133kWhのバッテリーを搭載しており、一度の充電で16時間走行することができる。一日の大部分を移動サービスなどの用途にあてることができそうだ。
動力となるモーターは前後方それぞれに搭載するデュアルモーターシステムを採用した。ステアリング機構は四輪操舵を実現しており、小回りが利くため込み入った市街地などでも走行しやすい。こうした構造からも前方、後方の区別なく走行可能なシステムであることがよく分かる。また、Zooxはこの双方向ステアリングシステムの採用により、一方に問題が生じた場合にバックアップとなることもアピールしている。
安全面では、自動車のレイアウトに左右されがちなエアバッグを一から再考し、全乗員の頭、首、胸を同等に保護する。
周囲の車両や歩行者とのやり取りは、音や光で通信し、ロボタクシーがどのような行動をするかを他の道路利用者に伝達する。ピックアップ用に自らを識別する音声信号を送信することもできる。
センサー類が冗長性あるセンシングを実現
Zooxの自動運転システムは、専用のセマンティックマップを使用し、事前にマッピングされたエリアを走行する。AIが歩行者や車両、その他道路利用者をリアルタイムで分類するほか、高度な機械学習によって人や車両がどのように動くかを予測する。
センサー類は、カメラ14基、LiDAR(ライダー)8基、レーダー10基を搭載しているようで、独自のセンサー・アーキテクチャによって、各センサーが重複する視野を保ちながら全方位360度をセンシングする。150メートル離れた場所や角を曲がった先も見ることができるようだ。
ちなみに類似の車両デザインの車両と言えばトヨタの自動運転EV「e-Palette」があるが、e-Palatteの東京2020仕様車のLiDAR搭載数は5基で、単純にLiDARの数で比べるとZooxのロボタクシーの方が多い。どこのメーカーのLiDAR製品を搭載しているのかも気になるところだ。
ハードウェア、ソフトウェアともに社内設計で、自社生産ラインも確立しており、今後の展開に大きな注目が集まる。
■Zooxの企業概要は?
Zooxは2014年、エンジニアのジェシー・レビンソン氏(共同創業者兼CTO)とデザイナー兼起業家のティム・ケントリー・クレイ氏らが中心となって創業した。
2015年に最初の実証プロトタイプ車両(VH1)を構築し、カリフォルニア州で自動運転実証に着手した。同年中にVH2の開発を開始するなど、スピード感あふれる開発が特徴だ。
資金調達も順調で、2018年には企業価値が32億ドル(約3,300億円)に達していると報じられた。その一方、CEOを務めていた創業者のティム氏が電撃解任され話題となった一面もある。2019年1月には、米インテルなどで活躍した経歴を持つエバンス氏が新CEOに着任している。
2020年に組立・生産ラインが稼働を開始したほか、6月にはアマゾンによる買収が大きく報じられた。英紙フィナンシャル・タイムズによると、買収額は12億ドル(約1,200億円)以上に上るという。
同社は現在、ラスベガス、サンフランシスコ、フォスターシティで公道実証を行っており、今後、ロボタクシー事業をどのように展開していくか注目だ。
【参考】CEO解任については「AI自動運転タクシー開発のZoox、CEOが電撃解任 アメリカ・シリコンバレー屈指のスタートアップ エンジニア採用を加速中の矢先」も参照。
■【まとめ】アマゾンの動向にも注目
EC世界最大手の一角であるアマゾンは、自社開発した宅配ロボット「Amazon Scout(アマゾン・スカウト)」の宅配実証実験をカルフォルニア州で2019年1月に着手し、以来ジョージア州やテネシー州などにエリアを拡大している。
本業であるECの宅配需要を見越し、スカウトともにZooxの技術をラストワンマイルを担う無人宅配に転用していく可能性も考えられるが、Zooxの発表を見る限り現時点では移動サービス用途にしか言及していない。
アマゾンは今後、EC大手ではなくIT大手として、グーグル系Waymo(ウェイモ)や中国百度(バイドゥ)のように自動運転移動サービス分野に本格参入し、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)などクラウド領域の技術を核に自動運転分野における事業を拡大していくのか。その動向に大きな注目が集まる。
【参考】アマゾンの動向については「Amazonに「自動運転タクシー事業」参入の可能性浮上 Zoox買収の狙いは「宅配」だけ?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)