
米インテル(Intel)傘下の自動運転技術大手Mobileye(モービルアイ)で、創業者のアムノン・シャシュア(Amnon Shashua)CEOが退任することになった。同社は6月に独自のロボタクシー事業への参入を宣言したばかりだ。運転支援技術の「供給者」から自動運転タクシーの「事業者」へ舵を切る矢先の、トップ交代である。
同社の画像処理チップEyeQは世界で2億5,000万台を超える車に搭載され、日産やトヨタも採用してきた。日本メーカーへの技術供給は今後どうなるのだろうか。
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■日産・トヨタに技術を売るMobileye、創業者CEOが辞任へ
Mobileyeは2026年7月23日、創業者のシャシュア氏が社長兼CEOを退くと発表した。シャシュア氏は7月18日に取締役会へその意向を伝えていた。退任は後任の決定をもって行われ、それまではCEOとして経営を率いる。取締役会は人材紹介会社を起用して後任を選ぶ方針で、9月下旬時点で後任の名前は明らかになっていない。
シャシュア氏は退任後も取締役として残る。取締役会は同氏に会長職を打診しており、長期的な技術動向や新たな事業機会、とりわけ人型ロボット事業に力を注ぐ見通しだ。
シャシュア氏は声明で「約30年にわたり、Mobileyeは私のライフワークだった」と振り返った。そのうえで「次の章に最もふさわしい経営体制をつくるのに、今が適切な時期だと考えている」と説明している。
同社は、ヘブライ大学の教授でもあるシャシュア氏が、ジヴ・アヴィラム(Ziv Aviram)氏とともに1999年に創業した。カメラ映像から周囲を認識する技術を強みに、自動車メーカーの運転支援システム向けにEyeQを供給してきた。EyeQを搭載した車は世界で2億5,000万台を超え、採用車種は1,400以上にのぼる。日本では日産やトヨタもその採用企業である。
運転支援チップで事実上の世界標準を築いた創業者が、ロボタクシー参入を宣言した直後に経営の一線を退く。技術の供給者から事業者への転換を果たせるかは、まだ名前の出ていない新CEOの手腕にかかっていると言える。
【参考】関連記事としては「トヨタ・日産・ホンダの「自動運転車・ロボタクシー」2026年動向まとめ」も参照。
■「技術の供給者」から「ロボタクシー事業者」へ
退任表明の約1カ月前となる2026年6月16日、Mobileyeは独自のロボタクシー事業への参入を発表した。2027年に米国の大都市圏で約100台からサービスを始め、5年後には約1万7,000台規模へ広げる計画だ。展開する都市名は明らかにしていない。
中核となるのは、同社の自動運転システムMobileye Driveだ。これに傘下の移動アプリMoovit(ムービット)の配車基盤を組み合わせ、車両管理や遠隔支援の仕組み、利用者向けのアプリまで自社で手がける。開発から運行までを一手に担う垂直統合型の事業モデルである。シャシュア氏は発表時、「ロボタクシー革命は始まったばかりだ」と語っていた。
同社はこれまで、自動車メーカーやモビリティ企業に技術を提供する立場にあった。独フォルクスワーゲン(Volkswagen)傘下のモビリティ企業MOIA(モイア)は2026年7月、Mobileyeの自動運転システムを積んだ電動ミニバン「ID. Buzz」を使い、ドイツ・ハンブルクの住民向けに乗り合いサービスの試験運行を始めた。現段階では安全要員が同乗している。
ロボタクシー市場において両側面を持つ稀有な存在
今回の参入によってMobileyeが自動運転ビジネスの「両側」に立つことになる。フォルクスワーゲンや米配車サービス大手リフト(Lyft)に技術を供給しながら、自らもロボタクシー事業者として同じ市場で競うことになるためだ。
これに対しシャシュア氏は「この取り組みは既存の提携の置き換えではなく、その延長だ」と説明している。同社は年内に投資家向け説明会を開き、ロボタクシー事業の詳細を示す予定だ。
【参考】関連記事としては「インテル傘下のモービルアイ ロボタクシー参入 Googleに対抗へ」も参照。
■Mobileyeは人型ロボットにも軸足
Mobileyeは人型ロボットにも軸足を置く。インテルとの関係も気になるところだろう。
会長として人型ロボット事業へ
Mobileyeがロボタクシーと並ぶ新たな柱に据えるのが、人型ロボットだ。同社は2026年1月、人型ロボットを開発するイスラエルのMentee Robotics(メンティー・ロボティクス)を総額9億ドルで買収すると発表した。約6億1,200万ドルの現金と自社株を組み合わせた取引である。Menteeは2026年に顧客先での実証を始め、2028年の量産と商用化を目指している。
Menteeは、シャシュア氏自身が共同創業し会長を務めていた企業でもある。このため同氏は買収の審議から外れ、独立取締役による委員会と、支配株主であるインテルの承認を経て買収が決まった。会長就任後に人型ロボット事業へ注力するという今回の役割は、こうした流れの延長線上にあると言える。
業績と株価、インテルとの関係
退任の発表は、第2四半期決算と同じ日に行われた。売上高は5億800万ドルで市場予想を上回った。2026年通期の売上高見通しも19億7,000万〜20億2,000万ドルに絞り込み、中央値を2,000万ドル引き上げている。
それでも当日の株価は約15%下落した。第3四半期の見通しが弱いと受け止められたうえ、同日はナスダック総合指数も2.6%下げており、市場全体の地合いの悪さも重なった。時価総額は約75億ドルで、2023年のピーク時の約390億ドルから大きく目減りしている。
同社の歩みは、資本の動きとも重なる。2014年にニューヨーク証券取引所へ上場し、当時のイスラエル企業として過去最大の新規株式公開となった。2017年にはインテルが153億ドルで買収し、2022年にナスダックへ再上場した。インテルは現在も支配株主であり、同社のデビッド・ジンズナー(David Zinsner)最高財務責任者は「Mobileyeとその成長軌道に引き続き強気だ」とコメントしている。
■日本への技術供給はどうなる トヨタ・日産との関係
日本の自動車メーカーも、Mobileyeの技術を採用してきた。日産は2019年、運転支援システム「プロパイロット2.0」の3眼カメラに画像処理チップEyeQ4を採用した。日本メーカーとして初めての採用で、夜間の歩行者に対応する自動ブレーキなどにつながった。
トヨタも2021年、独自動車部品大手ZF(ゼットエフ)とMobileyeを、複数の車両プラットフォーム向け運転支援システムの開発先に選んだ。EyeQ4を使ったカメラ技術と、ZFのレーダーを組み合わせる内容だった。
今回の退任表明に対する日本メーカーの反応は、現時点で確認できない。運転支援システムの供給契約は車種の開発サイクルに合わせた長期のものが多く、CEOの交代で足元の供給がすぐに変わる可能性は低いとみられる。技術供給事業そのものも堅調で、第2四半期には欧米自動車大手ステランティス(Stellantis)から新たな大型受注を得ている。
中長期の焦点は「競合」と「開発資源の配分」
注目すべきは中長期の動きだ。1つ目は、Mobileyeがロボタクシー事業者として、自動車メーカーと同じ自動運転タクシー市場で競う構図である。日産は自動運転タクシーの事業化を計画しており、トヨタも中国の自動運転開発企業Pony.ai(ポニー・エーアイ)への出資などを通じてロボタクシー市場に関わっている。技術の供給元が競争相手にもなる状況を日本メーカーがどう受け止めるかは、今後の論点となる。
2つ目は、新CEOのもとで研究開発の資源がどこへ向かうかだ。ロボタクシーや人型ロボットに経営資源を振り向けるほど、既存の運転支援事業の位置づけは相対的に変わりうる。後任人事と年内の投資家向け説明会で示される方針が、日本メーカーにとっての判断材料になるだろう。
【参考】関連記事としては「トヨタが「自動運転投資」に成功!出資先が2000億円上場」も参照。
■創業者が去るMobileye、日産・トヨタへの技術供給と自動運転の行方
約27年にわたりMobileyeを率いてきたシャシュア氏の退任は、単なるトップ交代ではない。運転支援チップの供給で世界の自動車メーカーを支えてきた企業が、ロボタクシー事業者、そして人型ロボットの開発企業へと姿を変えようとする節目で起きた出来事だ。
日産やトヨタへの技術供給が、すぐに揺らぐわけではない。ただ、ロボタクシー市場で技術の供給者と事業者の境目があいまいになるなか、日本メーカーにとってMobileyeは頼れる供給元であると同時に、将来の競争相手にもなりうる存在だ。
後任のCEOが誰になり、2027年の米国でのロボタクシー開始に向けてどのような舵取りをするのか。その答えは、日本の自動運転戦略にも少なからず影響を与えるだろう。












