岸田政権肝いりの「ライドシェア」、検索ボリューム急減でオワコン化か

ピーク時の「20分の1」に



出典:首相官邸

「自家用車活用事業」という独自の制度設計で幕を開けた日本のライドシェア。「日本版ライドシェア」という通称のもと2024年4月にサービスが開始されたが、約2年が経過した現在、メディアなどで話題となることも少なくなった。

「Google トレンド」で「ライドシェア」の検索ボリュームを調べたところ、サービス開始時と比べ、現在は20分の1程度で推移していることがわかった。


岸田政権の肝いりで始まり、高市政権でも基本的には推進姿勢が続くライドシェア。話題性とともに存在感も薄れ、事業はしりすぼみになっていくのだろうか。日本版ライドシェアの動向に迫る。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



■「ライドシェア」の検索ボリュームの推移

コロナ明けの2023年に大きな波

日本におけるライドシェアの検索ボリュームの推移を調べたところ、2007年に最初の小さな波が訪れている。その後、2016年と2018年にふたたび小さな波が発生するものの、しばらく停滞が続く。

日本はライドシェアと無縁のまま終わるのか……と思われたが、コロナ後の2023年に大きな波が押し寄せ、トレンド化した。その後は右肩下がりが続いている状況だ。

波が発生したそれぞれの時代、どのような動きがあったのか。ライドシェアの歴史を振り返ってみよう。


出典:Googleトレンド

最初の波はnotteco?

最初の波が訪れた2007年は、地域公共交通活性化再生法が制定された年だ。同法は、自治体が主体となって持続可能な地域公共交通体系を構築することを目的とした法律で、後々の公共ライドシェア制度などに関わっていくことになる。

また、前年の2006年10月に施行された改正道路運送法により、自家用有償旅客運送が制度化されたばかりの時期でもある。これにより、白ナンバーの自家用自動車による移動サービスの道が大きく開けた。

ただ、この時点で「ライドシェア」という文言は特に使われておらず、これらのトピックが最初の波と関係しているかは不明だ。

有力なのは、「notteco(ノッテコ)」だ。コストシェア型のライドシェアサービスで、同一方面に向かうドライバー(乗せたい人)と利用者(乗りたい人)をマッチングするサービスとして2007年に商用化された。


本来の意味での純粋なライドシェアサービスと言える。スマートフォンが普及する前にローンチしている点も特筆に値する。

コストシェア型の日本のライドシェアアプリ「notteco」ってどんなサービス?

2番目の波は国家戦略特区法関連?

続く波は2016年に訪れた。5月に国家戦略特区法改正が成立し、9月に施行された。この改正により、自家用有償運送において、サービスの対象に訪日外国人をはじめとする観光客も含むことが認められることとなった。ここでライドシェアということが政治の場でも正式に登場する。

同法改正案に対する付帯決議として、衆議院、参議院とも「いわゆるライドシェアの導入は認めない」ことを明示している。あくまで公共交通を補完することを目的に、白タク行為と明確に差別化を図るためと思われる。

この時期、海外ではUberやDiDiといった配車サービス事業者がグローバル展開を推し進めるなど事業を急加速中で、事故・事件も目立ち始めたタイミングだ。

前年の2015年には、Uber Technologiesがライドシェアの検証プログラム「みんなのUber」を福岡県福岡市で実施したものの、国土交通省から「白ナンバーの自家用車による移動サービスは道路運送法に抵触する」と指導が入り、中止を余儀なくされた事案も発生していた。

日本でもライドシェアが広く認知され始めると同時に、白タク行為や危険性が大きく取りざたされ、「日本はライドシェア禁止」という風潮が広がったタイミングと言える。

新経済連盟が「ライドシェア新法」を提案

次の波は、2018年に訪れた。この年には、新経済連盟が「ライドシェア新法」案をまとめ、国土交通大臣をはじめとする関係大臣宛てに提案し話題となった。

同連盟は2016年にもライドシェア推進のための提言を行ったが、国土交通省は運行管理や車両整備管理などの責任の主体や事故発生時の責任、世界の状況、タクシー運転手の雇用問題・タクシーが供給過剰であることなどを理由に提案は却下された。

しかし同連盟は引き下がらず、国交省の見解に対する連盟の考え方などを追加する形で新法を改めて提案した。

その後も、2024年に「地域の足の確保とライドシェア推進に関する提言」を公表するなど、ライドシェア解禁に向けた取り組みは進められているようだ。

「ライドシェア新法」提言の全貌、全72頁の未来のカタチ 新経済連盟

コロナ後のタクシー需要急増でライドシェア議論が急過熱

その後、公に議論されることもなくライドシェアの話題は下火が続いていたが、コロナ明けに転機が訪れた。2023年に入り、コロナ禍を過ぎてインバウンドが急回復すると、大都市部や観光地でタクシー不足が慢性化し始めた。

コロナ禍でタクシードライバーが減少したところに需要が急増し、明らかな供給不足に陥ったのだ。こうした中、菅義偉元首相が地方講演に赴いた際、ライドシェア解禁に向けた議論の必要性に言及した。都市圏を中心にタクシー供給不足が顕著となったことを受け、公共交通空白地以外での導入についても自家用車活用の議論の余地があるのでは――といった主旨の発言だ。

河野太郎議員も間を置かず、テレビの報道番組に出演した際に地域ごとにライドシェアや自動運転サービスが自動解禁されていく独自案を提示した。

与党内で影響力を持つ有力議員の発言によりライドシェア解禁論が急浮上し、政府としても本格議論を避けられない状況となった。

【参考】関連記事「ライドシェア推進派の政治家一覧」も参照。

ライドシェア推進派の政治家一覧(2024年最新版)

自家用車活用事業スタートで検索ボリュームはピークに

内閣府の規制改革推進会議における重要課題にライドシェア(タクシー・バスの運転手確保、移動の円滑化)が盛り込まれ、作業部会となる地域産業活性化ワーキング・グループで本格的な議論が始まった。

ライドシェアの検索ボリュームスコアはそれまで0~2程度で推移していたが、菅氏の発言が取りざたされた8月には15まで伸ばし、議論がスタートした10月にはスコア50を記録した。

議論は短期間で行われ、ライドシェア推進派と反対派の折衷案のような自家用車活用事業、通称日本版ライドシェア案が取りまとめられた。

矢継ぎ早に事業化が進められ、2024年3月に自家用車活用事業が創設され、翌4月にサービスがスタートした。この4月のタイミングで、検索ボリュームは最大の100を示している。

その後、日本版ライドシェアは徐々にサービス対象エリアを拡大していくことになるが、タクシー需要が高い大都市では一定の成果を得る一方、地方ではほとんど稼働せず、開店休業状態のようなエリアも出ている。

検索ボリュームは徐々に減少し、2024年10月ごろには10程度までスコアを下げた。その後も盛り上がることはなく、2026年に入ってからは5程度で推移している状況だ。

ライドシェアとは?定義や意味は?課題や免許についても解説

■日本版ライドシェアの概要

日本版ライドシェアとは?

日本版ライドシェアは、海外の本格版ライドシェアと同様、一般ドライバーが自家用車を用いて旅客運送サービスを提供することを可能にする制度だ。2種免許も必要ない。しかし、大きく異なる点がある。

ライドシェアサービスの実施主体はタクシー事業者であり、同サービスを行いたい一般ドライバーは、日本版ライドシェアに参画するタクシー事業者の傘の下に入らないとサービスを提供できないのだ。

言い換えると、一般ドライバーはタクシー事業者と雇用契約を結ぶなどし、指定されたエリアや時間帯などに限って運行を行う形式となる。運行可能な時間帯などは原則国が定めており、好きな時に好きなだけ働く――といった自由度はない。

言わば、「お試しタクシードライバー制度」といったイメージだ。

都市部と地方で大きな格差

日本版ライドシェアの実施事業者数は、2025年9月中旬時点で大都市部(12地域)で計521者、その他地域(132地域)で計496者に上る。該当エリアにおける総タクシー事業者の約3分の1が参加している状況だ。

稼働状況は、登録ドライバー数は9,709人、稼働台数は延べ19万907台、運行回数は103万9,573回に上る。このうち、ドライバー数、運行回数ともに大都市部が9割を占めている。

例えば、東京(特別区・武三)では登録ドライバー数4231人で稼働台数10万9,559台、運行回数は64万1,439回を数える。稼働台数は時間枠ごとに稼働していた台数の累計(稼働ドライバー数)を表す。この稼働台数をベースに考えると、1稼働当たり平均5.8回運行した計算となる。

一方、地方の拠点都市においては・・・以下のように多少のばらつきがあるものの稼働している状況がうかがえる。

  • 福井(福井):登録ドライバー18人で稼働台数157台、運行回数188回で1稼働当たり1.2回
  • 熊本(熊本):登録ドライバー28人で稼働台数847台、運行回数5,579回で、1稼働当たり6.6回
  • 栃木(宇都宮):登録ドライバー20人で稼働台数321台、運行回数2,609回で、1稼働当たり8.1回
  • 秋田(秋田):登録ドライバー25人で稼働台数160台、運行回数546回で、1稼働当たり3.4回
  • 和歌山(和歌山):登録ドライバー12人で稼働台数311台、運行回数1,309回で1稼働当たり4.2回
  • 長崎(長崎):登録ドライバー17人で稼働台数170台、運行回数514回で1稼働当たり3.0回

しかし、以下のように苦戦しているエリアも少なくない。

  • 香川(三木町):登録ドライバー1人で稼働台数25台、運行回数24回で1稼働当たり1.0回
  • 静岡(浜松):登録ドライバー4人で稼働台数4台、運行回数2回で1稼働当たり0.5回
  • 北海道(伊達):登録ドライバー3人で稼働台数20台、運行回数0回で1稼働当たり0回
  • 鹿児島(鹿屋交通圏):登録ドライバー1人で稼働台数35台、運行回数31回で1稼働当たり0.9回

日本版ライドシェアに伸びしろはない?

このように、日本版ライドシェアは都市部などで一定の成果を上げる一方、地方都市ではドライバーも特に集まらず、タクシー需要も飽和状態にないため制度が成り立たない。需要過多であることが大前提となる。また、地方では原則必須となる配車アプリが普及していないのもネックとなっている。

バス・鉄道事業者による日本版ライドシェアへの参画など、制度の充実・拡大を図っているものの、おそらく事業としては頭打ちで、都市部・観光地以外では伸びしろがないのではないだろうか。

規制改革推進会議における最新議論では、2026年2月26日に公表された「規制改革推進に関する中間答申」において、「移動の足不足については、改善している値がみられつつ、依然として存在していることが示されていることなどを踏まえ、全国の移動の足不足の解消に向けて、引き続きスピード感をもって取組を進めていくことが重要である」とし、基本的考え方に基づき、以下の措置を講ずるべきとしている。

  • 自家用車活用事業における自家用車の中間点検の実施主体及び点検方法の明確化
  • 自家用有償旅客運送制度に関するローカルルールの見直し

日本版ライドシェア事業拡大に向けた動きには期待できないようだ。

▼規制改革推進会議
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/meeting.html

ひと思いに「タクシードライバーお試し制度」に変更してみては……

おそらく、このままいけば話題性はさらに失われ、一部の関係者を除き忘れられた存在になっていく可能性もある。

素直に「タクシードライバーお試し制度」に改変し、ドライバー不足を補いつつ正規ドライバーを発掘する事業に変えたほうがすっきりするのではないだろうか。

名ばかりのライドシェアにこだわらず、タクシードライバーお試し制度とした方が、各タクシー事業者は稼働状況など気にすることなく制度を利用できるものと思われる。

■【まとめ】タクシードライバーお試し制度×自動運転タクシーに注力すべき?

タラレバだが、河野氏や小泉氏が総理大臣の椅子を勝ち取っていれば、本格版ライドシェアが解禁された可能性が高い。高市総理はライドシェア慎重派と思われるため、おそらく現内閣においてライドシェア事業が推進されることはない。

ゆえに、日本版ライドシェアも尻すぼみの傾向が明確に現れる前に、実態に即した形式(タクシードライバーお試し制度)に変更し、並行して自動運転タクシー実用化に向けた取り組みに注力した方が良いのではないだろうか。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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