楽天、配送ロボで「時速8キロの法則」を導き出す

わずか2キロが大きな差に



配送能力の高い自動配送ロボット実現に向けた実証が加速しているようだ。これまで時速6キロまでの低速走行が前提となっていたが、中速化に向け楽天やパナソニックらが実証を進めている。


ロボットの高速化でどのような効果が見込まれるのか。また、どのような課題が浮き彫りとなっているのか。自動配送ロボットの最前線に迫る。

▼歩道走行型ロボットの公道実証実験に係る道路使用許可基準
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/roadtesting/202304robot_kijun.pdf
▼令和4年改正道路交通法(遠隔操作型小型車の交通方法等)の概要
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/jidosoko_robot/pdf/008_05_00.pdf

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■小型中速ロボット実用化に向けた取り組み

楽天は時速8キロに挑戦

楽天グループは、東京都中央区晴海エリアで展開中の自動配送ロボットによる商品配送サービスに米Avride製のロボットを導入し、最高時速8キロの配送に取り組んだ。

従来の低速・小型の自動配送ロボットは遠隔操作型小型車に分類されるが、同ロボットは道路交通法上の普通自動車、道路運送車両法上の軽自動車に区分されるという。


後述するが、最高時速8キロで走行させるためには、歩道走行型ロボットの公道実証実験に係る道路使用許可基準における歩道幅員と交通量を満たす必要があるため、交通量調査などを実施して晴海エリア中央の大通りは基準を満たすことを確認したうえで実証を行った。

期間は2日間で、片道約1.0キロのルートで実証し、飲食店3人、小売店3人の6人に対して配送・満足度評価インタビューを実施したところ、配送の速さを実感したといった声が上がったようだ。

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

平均配送時間を約15%短縮

安全面では、保安要員付きでの運行だったものの介入やヒヤリハットもなかった。速度の引き上げ効果としては、平均配送時間を約15%短縮できたほか、配送時間の上限を25分と設定している店舗において、お届け先の数が約10%増加したという。

楽天は、中速・小型の自動配送ロボットによる速度向上が収益性を改善する道筋が示唆された一方、軽自動車区分として公道走行する初めての試みで、コストがかかるとともに制限があることがわかったとしている。


出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

車道・歩道走行切替型の自動配送ロボット導入も視野に

引き続き実証などを通じて中速・小型の自動配送ロボットに適した制度の整備または運用について議論を深めていく構えで、将来的には、中速・小型の自動配送ロボットが時速8キロ以上の速度で車道を走行し、配送先の近くでは歩道を低速で走行する――といった車道・歩道走行切替型の自動配送ロボットにより、より広範囲に商品を届けられる、地方の買い物困難者等の対策にもつながるといった未来を目指したいとしている。

パナソニックは時速9キロ、配送時間50%減を達成

パナソニックは、自社開発した既存の自動配送ロボットを遠隔操作型小型車で要求される全機能を備えた上で、最大速度を拡大するために駆動部、制動部、車両制御を強化し、最高時速9キロの実証を藤沢SST周辺で行った。道路使用許可については、当初は「特定小型原付」で相談したが、車格から「普通自動車:ミニカー」で確定したという。

走行距離は約500メートルで、配達時間は小型低速比50%減の8分34秒だった。机上計算では、従来の低速小型タイプは12時間稼働で配送件数11件、フードデリバリー商圏は半径1キロだが、時速9キロの中速ロボットの場合は配送件数20件、商圏半径2キロとなり、時速20キロの場合は配送件数38件、商圏半径3~4キロまで拡大できるという。

トヨタ・コニック・プロは事業性を検討

トヨタ・コニック・プロは、低速小型、中速中型の2種類のロボットを活用し、岡山県勝央町・吉野地区・どんどん市場で事業成立性について検討を進めた。

生活道路を通行止めにして往復約1600mの距離を走行し、買い物事業として採算性が成立するか、過疎地域の公道で技術的・環境的に成立するかなどを調査したところ、想定固定費50万円に対し想定粗利25万円となるなど、宅配需要単体では赤字構造となることがわかった。

低速・小型ロボットにおいては、地点ごとに通信品質がばらつく区間が存在し、角度変化や段差により荷室内の荷物が移動こと、時間帯によって交通量が大きく変動することなどが課題として浮き彫りになったという。中速・中型ロボットでは、セーフティスキャナ・センサーの誤検知や狭路・勾配急変部での停止・減速が頻発したという。

中速に関する輸送上の特記事項はないようだ。

■自動配送ロボット高速化の未来

時速6キロ→8キロでも大きな違いが生まれる

配送速度を上げることで、配送時間の短縮や配送エリアの拡大を図ることが可能になり、時間当たりの配送件数も増加させることができる。中速小型ロボットの実用化は、ビジネス上望ましいアップデートと言えそうだ。

従来のように歩道走行を前提とする場合、楽天が設定した時速8キロあたりが最適解なのかもしれない。人間の歩行速度は概ね時速3~4キロ程度で、時速5~6キロは早歩きとなる。現在の規制では、この早歩きレベルに相当する時速6キロが上限とされているが、つまりは人間が早歩きでモノを運ぶ水準なのだ。

もう少し早く運べないか……といった声が、配送元、配送先双方から聞こえてきそうだ。これが時速8キロに緩和されてもたった2キロの差…と感じられるかもしれないが、割合で見れば3割強の差となる。速度アップは馬鹿にできない。

速度アップによる安全性が懸念されるところだが、運用ルールを見直せば比較的容易に導入できるものと考える。時速8キロなどはあくまで最高速度であり、交差点付近や歩行者がいる場合など、危険が予測される場所では速度を抑えて走行するルールとすれば良いだけだ。

現在も、人ごみの中をマックス時速6キロで走行することはそうそうないだろう。一方、見通しがよく周囲に歩行者がまったく存在しない場所でも、時速6キロを遵守しなければならないのはもったいない。歩行者らを最優先に据えた上で、速度規制を見直しても良いのではないだろうか。安全性、事業効率性の両方を踏まえても、最高時速8キロへの拡大は妥当と言える。

現行ルールでは、歩行者がまったく見当たらない場所でも時速6キロを遵守しなければならないが、こうしたシーンにおいて時速8キロで走行できるようになると、効率性は大きく向上する。地方で導入する際などは、特に速度アップが求められそうだ。

中速中型の自動配送ロボ、経済効果「年間6,600億円」と試算 経産省資料

現行法では車道の左側端を走行するしかない?

もう一点は、走行する道路の選択だ。楽天の実証では、歩行者と自転車が区分されている歩道では、より相対速度が小さくなる歩行者区分側を選択していた。歩行者区分は通行量が多いものの、歩行者との相対速度が小さい。一方、自転車区分は通行量が少ないものの、相対速度の差が大きく、自転車の挙動のリアルタイム予測とアルゴリズムに基づく最適な安全行動の精度が劣る――と判断したようだ。

現行の道路交通法に則った場合、自動配送ロボットは「遠隔操作型小型車」に位置付けられる。長さ120センチ、幅70センチ、高さ120センチ以内で、電動機を用い、時速6キロを超える速度を出せないことなどを条件に届出制で歩道を走行することができる。

この規制に従えば、小型の自動配送ロボットでも時速8キロの走行を歩道で行うことができない。公道実証は可能だが、「歩道走行型ロボットの公道実証実験に係る道路使用許可基準」において、幅員や歩行者等通行量などの制限が課されている。

時速10キロ超の場合は、簡易柵で区画されているなど、実施場所への一般の道路利用者の侵入が物理的に防止されている場所であることが求められる。制限が厳しく、現行ルールにおいては時速8キロ以上で歩道走行するサービスは実用化できない。

このため、楽天やパナソニックは中速小型のロボットを軽自動車区分、ミニカー区分などとして整理し、制動装置などを基準に適合するよう改造して実証に臨んでいる。

自転車然り、電動キックボード然りで、速度を出すためにはやはり歩道ではなく車道を走行するべき――というのが日本の道路交通ルールの根幹にある。中速小型の自動配送ロボットも、車道の左側端を走行すべきなのか。

既に問題視されている通り、自動車目線で見ると、現行の道路構造では車道の左側端を走行するのも危険視されることが多い。理想は、中速モビリティ専用の道路区分を設置することとなりそうだが、限りある道路インフラにおいてどのようにスペースを生み出すか……といった議論は避けられない。

しかし、今後モビリティの多様化がさらに進むのであれば、中速モビリティの生きる道を明確に示す必要が出てくる。こうした柵面からも議論や実証が活発化することに期待したいところだ。

【資料解説】「2040年の道路」はこうなる!国交省最終ビジョン 自動運転実用化も

 

■【まとめ】新たなモビリティ社会に向け、道路の在り方を見直す契機に

小型中速の自動配送ロボットはどのように実用化されることになるのか。施行規則の改訂により、歩道を時速8キロなどで走行可能とするのか、あるいは車道の左側端を走行することになるのか。

いずれにしろ、新たな枠組み・ルール作りが必要となる。歩行者等の安全を最優先に、どのような環境下の歩道であれば速度アップを図ることができるか、その上限をどう設定するか、時速何キロ以上は車道とすべきか……といったアプローチとともに、道路の在り方を一から見直す動きが活発化し、新たなモビリティ社会が推進されていくことを期待したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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