自動運転向けマップ、日本企業が「国際標準化」に挑戦

DMP、さらなる世界展開視野

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自動運転向けの高精度3次元地図の開発を手掛けるダイナミックマッププラットフォーム株式会社(以下DMP)が、ダイナミックマップ国際標準化に向けた取り組みを加速する。

E2E開発企業が台頭し始めるなど自動運転向けマップを必要としない動きも出ているが、現実問題として、安全かつ早期に自動運転サービスを実装するのに自動運転向けマップは情報インフラとして大きな役割を担う。

そもそも、高精度3次元地図・ダイナミックマップとは何なのか。DMPはどのような活動を行っているのか。自動運転向けマップについて解説していく。

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■ダイナミックマップ国際標準化に向けた取り組み

高精度3次元地図データの国際標準化からダイナミックマップ標準化へ

DMPは、経済産業省の令和5年度「標準活用加速化支援事業(高精度3次元地図データに関する国際標準化)」を受託し、高精度3次元地図データ(HDマップ)の国際標準化に向け、以下などを進めてきた。

令和6年度は、同省の補助事業「令和6年度 国際ルール形成・市場創造型標準化推進事業費補助金」において「公道から公共エリアまでシームレスに繋ぐ自動運転社会の実現に向けた高精度3次元地図データの国際標準化事業」を提案し、採択を受けた。

続く令和7年度は、「公道から公共エリアまでシームレスに繋ぐ自動運転社会の実現に向けたダイナミックマップの国際標準化事業」にステップアップし、継続採択となった。

同社が政府関係機関と共同で進めてきたBRIDGE、SIP、国際標準化加速支援プロジェクトなどの活動を踏まえ、高精度3次元地図データをベースにしたダイナミックマップの国際標準化を目指すとしている。

出典:ダイナミックマッププラットフォーム社プレスリリース

情報インフラとして規格の統一化・標準化は重要

詳細は後段に回すが、現在実用化されているのは高精度3次元地図で、これに動的情報を付加したものがダイナミックマップだ。Waymoをはじめとする自動運転サービス先行勢の大半が高精度3次元地図を採用しているが、ダイナミックマップを本格実用した例はほぼ耳にしない。

ダイナミックマップを構成する動的情報には、周辺車両の情報や歩行者情報、信号情報などが含まれるため、他社や公共組織との連携が必須となり、自己完結するのは困難だ。そのため、Waymoと言えど本格導入することは難しいのだろう。

こうした領域では、規格を統一・標準化することが望ましい。高精度3次元地図を含むダイナミックマップを共通する情報インフラとして捉え、統一された規格でマップの作製や情報生成・提供可能な体制を作ることで、自動運転業界全体の開発が効率化される。

日本では、DMPが高速道路や幹線をはじめとした国内道路の高精度3次元地図作成を一体的に担っており、自動車メーカーによる高度なレベル2(レベル2+)やレベル3などに採用されている。

レベル4実証やサービスに関しては、DMPが作成済みのエリア外が多いため各社が独自マッピングする取り組みが多いが、DMPに作成を依頼するケースもある。

こうした場面で、高精度3次元地図やダイナミックマップの規格が統一化されていれば、無償・有償問わずベースとなる部分を各社が共有することが可能になる。その上で自社に必要な要素を加えるなどカスタマイズする方式だ。

高精度3次元地図の作成は多大なコストや労力を要する。この部分の手間を幾分でも省力することができれば、社会全体として自動運転開発・実装が促進されるのだ。

国際標準化でイニシアチブ発揮へ

高精度3次元地図データの国際標準化は、公的標準となるデジュール標準ではISO/TC204(ITS)において「ISO 17572-1(位置参照手法)」「ISO 17572-4(高精度相対位置参照手法)」「ISO 20524-1,2(地理データ交換用カタログ)」「ISO/TS 22726-1,2(自動運転システムのアプリケーションのための準動的情報及び地図データベース仕様)」の4つの ISO 規格が発行されている。

一方、企業や専門家などによるフォーラム標準では、自動運転関連の国際標準化を図る組織OAD(OpenAutoDriveForum)FにSIP-adusが2016年に参加し、2019年からはステアリング会議のメンバーとなって継続的に活動しているという。

高精度3次元地図の市場は世界的には黎明期であり、速やかに多くのユースケース開発や国際連携を進め、国際標準化を加速化してイニシアチブを発揮することを日本は目標としている。

そこで始まったのが、前述した令和5年度の「標準活用加速化支援事業(高精度3次元地図データに関する国際標準化)」だ。

国際市場のマクロ動向調査・ユースケース分析・海外競合分析や知財・標準化動向の調査・分析を行い、知財権利化または標準化を進めるべきビジネス領域を特定したうえで、関連ビジネスの海外市場拡大に向けた国際競争戦略や知財・標準化戦略(オープン・クローズ戦略)の取りまとめなどに着手した。

そして、この戦略の発展形として、DMPがダイナミックマップの国際標準化活動に着手した――という流れだ。

■ダイナミックマップとは?

コンピュータ向けの高精度3次元地図がベース

ダイナミックマップは、高精度3次元地図をベースに、リアルタイムで変化する動的情報などを紐づけた地図プラットフォームだ。

高精度3次元地図は、主に空間認識が得意なセンサーLiDARを活用して道路周辺をマッピングしたデジタルマップだ。カーナビで使用されている地図もデジタルマップだが、こちらは2Dで、一部なんちゃって3D表示も可能としているがその精度は低い。あくまで大まかなナビゲーション向けに作りこまれているためだ。

一方、高精度3次元地図は、クルマに搭載したLiDARによって実際に車道を何度も走行し、車線や縁石、信号機、街路樹に至るまで、道路周辺の環境をほぼ誤差のない状態で3Dマッピングしたものだ。

車道の中心に仮想線を引くなど独自のカスタマイズも行われており、人間が見るものではなく、コンピュータが参照するものとして作りこまれている点がポイントだ。

自動運転車は、GPSなどの測位システムによる位置情報や、自車センサーが映し出す映像と高精度3次元地図を照合しながら走行することで、自車位置推定における誤差を最小化することが可能になる。安全な車両制御に貢献しているのだ。

出典:第30回 SIP自動走行システム推進委員会・資料

高精度3次元地図に各種動的情報を付加

この高精度3次元地図は定期的に更新する必要があるが、収録されているデータは基本的に静的情報で、急いで更新する必要のないものとなっている。ここに、準静的情報や準動的情報、動的情報を重ねたものがダイナミックマップだ。

過去、SIP-adusで定義されたものによると、準静的情報は、工事規制や季節・イベント規制予定、渋滞予測、広域気象予報など、対象事象位置や範囲、時間帯などが時間とともに変化するものの、事前に計画・予測可能な情報で、事象の生起に伴う対象物の情報が対象となる。

準動的情報は、観測時点における実際の渋滞状況や一時的な走行規制、落下物や故障車といった一時的な走行障害状況、狭域気象など、対象事象位置や範囲、出現時間が発生・消滅・移動・拡大・縮小し、あるいは定位置・一定時間帯であっても保有する属性が時間とともに変化する事象などを指す。

動的情報は、移動体間で発信・交換される情報や信号現示情報、踏切遮断機情報、交差点内歩行者・自転車情報など、対象物の位置が定位置ではなく移動するものや、定位置であっても保有する属性の更新サイクルが短く、位置の変化や属性の更新が対象物独自に変化しうるものに関する情報を指す。

こうした各種情報を高精度3次元地図にレイヤーしたものがダイナミックマップで、リアルタイムの交通情報を参照することでより安全かつ効率的な走行を実現することができる。

■ダイナミックマッププラットフォーム(DMP)の概要

高精度3次元地図開発に向け業界が一丸となって設立

出典:ダイナミックマッププラットフォーム社公式サイト

DMPは、国のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)から派生する形で誕生した企業だ。SIPにおいて、ダイナミックマップの仕様などを検討してきた「ダイナミックマップ構築検討コンソーシアム」の6社と自動車メーカーらが共同出資し、高精度3次元地図の開発・実装を目的に2016年に設立した。

設立当初の名称はダイナミックマップ基盤企画で、2017年にダイナミックマップ基盤に名称を変更し、事業会社化した。現社名は2023年2月からだ。

出資企業には、三菱電機、ゼンリン、パスコ、アイサンテクノロジー、インクリメント・ピー、トヨタマップマスターといった測位・位置情報事業を手掛ける企業をはじめ、いすゞ自動車、スズキ、SUBARU、ダイハツ工業、トヨタ自動車、日産自動車、日野自動車、本田技研工業、マツダ、三菱自動車工業など、各自動車メーカーが名を連ねる。オールジャパン体制の企業だ。

このほか、産業革新機構(INCJ)やジャパン・インフラストラクチャー・イニシアティブ、三井物産、三菱UFJキャピタルも出資している。

2025年3月には、東京証券取引所グロース市場への上場を果たしている。

世界26カ国以上で高精度3次元地図を整備

2019年3月に国内高速道路と自動車専用道路の上下線計2万9,205キロの整備を完了したと発表している。

世界展開も進めており、現在は26カ国以上を対象に、国内3万3,000キロ、北米120万0キロ、欧州25万5,000キロ、韓国2万キロの道路で整備済みという。中東でも整備を進めており、国内外においてデータの拡充・更新を実施している。

欧州では、オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国の16カ国を網羅したようだ。

センチメートル級の高精度を実現しており、2025年1月時点で国内外35車種の採用実績を誇る。国内では、日産スカイラインのProPILOT 2.0(2019年9月導入)をはじめ、トヨタMIRAIとレクサスLSのToyota Teammate / Lexus Teammate Advanced Drive(同2020年11月)、ホンダレジェンドのHonda SENSING Elite(同2021年3月)、日産アリアのProPILOT2.0(同2022年1月)、ホンダアコードのHonda SENSING 360+(同2025年5月)で採用されている。

レベル3はもちろん、ハンズオフ運転を可能にするレベル2+搭載モデルでの採用が広がっている印象だ。中部国際空港セントレアにおける自動運転実証など、制限区域内における実証でも活用されている。

海外展開や事業多角化にも本腰

海外関連では、2018年にDynamic Map Platform North Americaを設立し、2019年に同業の米Ushrを買収した。Ushrのデジタルマップは、米GMのSuper Cruiseに採用されている。

2022年にDMP Europe、除雪作業向けの支援システムを開発するダイナミックマッププラットフォームAxyz、Ushr Korea、2023年にDynamic Map Platform Arabia、DYNAMIC MAP PLATFORM DATAをそれぞれ設立し、海外展開や事業多角化を図っている。

自動運転向けの高精度3次元地図以外にも、マップ生成技術を応用しセンチメートル級の高精度ガイダンスを提供する「Guidance」や、正確な3次元データをどこからでもWebブラウザで閲覧可能な「Viewer」、空間IDの概念を用いた3次元の位置情報をキーに、動的・静的情報を統合してさまざまなアプリケーションへ情報提供を行う「位置情報サービス」、除雪支援システム「SRSS」も手掛けている。

SRSSは、自動運転車に利用されている高精度3次元地図を除雪作業向けにカスタマイズしたもので、GNSS受信機から得られる高精度位置情報によって自車位置を把握し、雪の下に隠れている路肩縁やグレーチングなどの地物をマップ上で可視化することで、安全かつ円滑な除雪作業をサポートする。

【参考】DMPの海外展開については「トヨタら共同出資のDMP、韓国の「高精度マップ市場」に参戦」も参照。

トヨタら共同出資のDMP、韓国の「高精度マップ市場」に参戦

■【まとめ】市場需要は膨大ながら、E2E開発の影響も

世界市場における高精度3次元地図の需要は大きく、海外展開を加速するDMPにとって国際標準化に向けた取り組みは非常に大きなものとなっているようだ。

一方、業界として気になるのがE2Eタイプの自動運転開発だ。AI技術を軸に高精度3次元地図に頼らない自律走行を目指す動きが活発化し始めているのだ。

数年前まではこうした開発は2040年以降の未知数な将来技術に位置付けられていたが、生成AIブームなどを背景に飛躍的に技術革新が進んでいる。

もちろん、E2Eの自動運転技術が確立しても、そこにダイナミックマップを掛け合わせることでさらに安全性を高めることもできる。こうした業界の動向とともに、ダイナミックマップが今後どのように普及していくのか注目したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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