自動車に搭載された標識認識機能の誤認識問題は、国境を越えても発揮されるようだ。日本国内のテスラオーナーによると、テスラ車がガストの看板を「一時停止」に誤認したという。ホンダなどの日本車とは異なる、米国車特有の新手の誤認識パターンだ。
標識認識機能の誤認識問題は万国共通のようだ。テスラの事例をもとに、標識認識機能の現状に迫る。
記事の目次
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■テスラによる誤認識の概要
ガストの看板を「STOP」サインと誤認識
SNS「X」に2024年11月、「テスラそれSTOPやないガストや」――といった投稿がポストされた。画像には、テスラのセンターディスプレイとともにフロントガラス越しにガストの看板が映し出されている。
ディスプレイには、車載センサーがリアルタイムで検知した自車両周辺の識別情報が表示されており、ガストの看板と思われる位置には「一時停止」の標識が表示されている。米国版の一時停止標識だ。
調べて見ると、同様の投稿は過去にもポスト(ツイート)されていた。テスラ車は、結構な確率でガストを「一時停止」と認識しているようだ。
こうした投稿に、ネットでは以下のような反応が見られる。
- 「うーん、このアメリカ育ちめ」
- 「テスラたんには日本語はむずかしいのかな?」
- 「ウチのホンダセンシングだってちゃんとSTOP誤認してくれるぞ」
- 「これを上手にHackすると自動運転で客引きができるな」
- 「天一の次はガストかw」
テスラそれSTOPやないガストや#TESLA#model3 pic.twitter.com/01MOOQROFs
— 天照【アマテスラ】Yosuke / Model3 (@ama_terath) November 19, 2024
STOP🤔#Tesla pic.twitter.com/id8oNBp7Fg
— みや@エコ🚗⚡⚡☀ (@eco_driver_ze2) December 31, 2023
こんな所に一時停止の標識⁈
それは多分、ガストの看板ですよ… pic.twitter.com/BqBdOo3ChB— vivates (@vivateslamodel3) December 6, 2021
ハイテク・テスラでもガストを見抜けず……
テスラのディスプレイには、車載カメラが検知した歩行者や周囲の車両がリアルタイムで表示される。カメラ映像をそのまま映し出すのではなく、人やクルマ、バイクなどを識別したうえでデータ化し、リアルタイムで表示しているのだ。
海外の自動運転タクシーのモニター映像に近いもので、ADASとしては非常に優れていることがよくわかる。さすがは、カメラとAI技術で自動運転を成し遂げようとするテクノロジー企業だ。
そんな優れもののテスラだが、ガストの看板は誤認識してしまうようだ。ガストの看板は、丸い赤枠の中に白抜きで「ガスト」と表記されている。その上にはやや小さな文字で黄色く「Caféレストラン」と書かれている。
日本車は「車両進入禁止」、アメ車は「一時停止」?
ホンダセンシングなどの日本車は、このガストの看板を「車両進入禁止」の道路標識に間違えることがあるが、アメ車のテスラは「一時停止」に間違ってしまうのだ。この違いは何か。
日本の一時停止標識は、赤地の逆三角形に白抜きで「止まれ」または「止まれ/STOP」と表記されている。一方、米国では主に八角形で、赤地に白抜きで「STOP」と表記されている。アメリカ生まれのテスラにとって、ガストの看板はこの一時停止に近い。
なお、米国は州ごとに道路標識は異なるが、基本的に交通制御機器類統一の手引き(MUTCD)に準拠しており、少し手を加えたものもあるが基本形は同一だ。
米国における車両進入禁止の標識は、赤丸の中に白抜きで白線とともに「DO NOT ENTER」と書かれていることが多いようだ。場合によっては、ガストなどの看板を日本車同様「車両進入禁止」に間違えるパターンもありそうだ。
また、日本の一時停止標識に類似するマークもある。「徐行」や「ゆずれ」を意味する道路標識で、中が白抜きされた赤枠の逆三角形の中に「YIELD」と書かれているものが多い。もしかしたら、日本の一時停止標識をこの「YIELD」サインに間違える――といった事例もあるかもしれない。
【参考】ガストの看板の誤認識については「ガストのロゴ、ホンダ車が「進入禁止」と勘違い」も参照。
米国ではバーガーキングの看板を誤認識した事例も
米国でも同様の案件が報告されている。ハンバーガーチェーンのバーガーキングの看板を、テスラ車が一時停止に誤認識する例が過去あったようだ。バーガーキングの看板は、丸型、もしくは丸みを帯びた四角形で、黄色いバンズの間に「BURGER KING」の文字が赤字で記載されている。
米国の「ストップサイン」とはそれほど似ているわけでもないが、誤認識してしまったようだ。
また、空に浮かぶ満月を「黄色信号」と誤認識した例も2021年にXに投稿されている。月のサイズ、色、位置関係を踏まえると仕方がないようにも思われるが、対策が必要だろう。
標識ではないが、「ファントムブレーキ」が話題となったこともあった。原因不明の急ブレーキが突如作動するもので、幻か幽霊を検知しているのでは?――と騒がれた。FSD(Full Self-Driving)ソフトウェアのアップデートに起因するエラーのようで、その後テスラはリコールを実施している。
Hey @elonmusk you might want to have your team look into the moon tricking the autopilot system. The car thinks the moon is a yellow traffic light and wanted to keep slowing down. 🤦🏼 @Teslarati @teslaownersSV @TeslaJoy pic.twitter.com/6iPEsLAudD
— Jordan (@JordanTeslaTech) July 23, 2021
テスラは標識認識機能と車両制御を連動
日本では今のところ標識認識機能の誤認識は笑い話で済むかもしれないが、テスラにとっては死活問題になり得る。
テスラの標識認識機能は2019年までにAutopilotにアップデートされているが、2020年のアップデート「Traffic Light and Stop Sign Control」において、Autopilotモードで信号機とストップサイン=一時停止標識を認識すると、減速して停止する仕様が追加された。
信号や標識の検知やブレーキタイミングなど各種データをフィードバックし、自動運転開発に役立てていくとしている。こうした標識などの検知と制御機能の追加により、高速道路以外の一般道におけるレベル2も進化が可能になる。
誤認識が事故につながる恐れも
しかし、ここに課題が残るのだ。信号や標識認識機能と自動車の制御を連動させるということは、誤認識した結果も自動車の制御に反映されるということになる。例えば、ガストの看板を一時停止と間違った場合、本当にガストで停車することになるのだ。
現状はADASのため、システムの制御結果を踏まえた上でドライバーが正しく自動車を操作することが求められ、事故などは未然に防ぐことができる。しかし、想定外のシステム制御にドライバーが対応しきれない場面は必ず出てくる。
交差点付近の場合はドライバーも注意を払っているが、何もないところで看板を誤認識して急にブレーキがかかると対応しづらい。後方車両からみても想定外の減速などで衝突の危険性が高まる。ADASとは言え、標識認識機能とクルマの制御が連動すると、高精度の識別技術が求められるのだ。
自動運転では死活問題に
これが自動運転になると、標識認識機能の誤認識は死活問題となり得る。ドライバーはシステム任せで周囲の状況を監視する必要はない。自動運転サービスであればそもそもドライバーは乗車していないことが多い。誤認識による制御をリアルタイムで正すものはいないのだ。
こうした誤認識が重大事故に直結する可能性もあるため、自動運転開発事業者にとっては標識認識機能の改善は必須と言える。高精度3次元地図を用いて事前に標識機能をマークしておく手法もスタンダードではあるものの、車載センサーによるリアルタイム検知と併用して精度を高めるのが望ましいだろう。
企業ロゴなどにも注意を払う必要あり
テスラは、現状ADASのFSDを改良し続け、自動運転を実現する戦略を採用している。標識認識機能やそれと連動した制御システムも自動運転に資する重要技術となっていくのだ。
そう考えると、テスラはこうした誤認識を逐一改善していかなくてはならない。満月やバーガーキングは対応済みかもしれないが、恐らくガストには未対応だろう。北米にガストはないから……と油断していると痛い目に合う。
ガストは今のところ米国進出していないが、日本が誇る誤認識の王者・天下一品はハワイに出店している。今後カリフォルニア州などに進出する可能性もゼロではないだろう。
世界各国の道路標識に対応する前に、まずは世界進出の可能性がある事業者の企業ロゴなどに注意を払う必要があるのかもしれない。
■標識認識機能の誤認識事例
天下一品は絶対王者
日本では、ラーメンチェーン大手の天下一品の看板が誤認識における絶対王者として君臨している。赤い丸枠の中に、筆で描いたような「一」の字が白抜きで刻まれており、これが「車両進入禁止」の道路標識に酷似しているのだ。
さまざまなロゴなどが誤認識されているが、天下一品のロゴはもはや別格と言っても過言ではない。この天下一品への誤認識を機に、標識認識機能の誤認識ネタが広がった。報告の多くはホンダセンシングだが、日産など他のメーカーも手こずっているようだ。
「天一を制するものが自動運転を制する」――と言っても納得できるほどの存在だ。
同様の誤認識事例としては、ENEOSや表題のガストも多い。エネオスのロゴは四角だが、赤~オレンジ系の渦状のデザインが丸を想起させ、その中央に白抜きで「ENEOS」と刻まれている。ガソリンスタンド最大手ということもあって遭遇率が高い点もポイントだ。
このほか、太陽生命のロゴも誤認識する可能性が考えられる。「丸」「赤字」「白抜き文字・柄」のパターンは要注意が必要なようだ。
100均ロゴも最高速度制限に……
別パターンとしては、セリアやキャンドゥなどの「100円均一」をイメージしたロゴが最高速度制限に誤認識されるケースが多く報告されている。
こうしたロゴは、100円玉をイメージしてか丸型が多く、白抜きされた内側に数字で「100」と刻まれているものが多い。これを最高速度標識と間違ってしまうようだ。
色味など細かい部分は明らかに異なっているため、結構大雑把に誤認識しているように感じられる。仮に、テスラのように車両制御システムと連動させた上でこの誤認識が発生した場合、駐車場で時速100キロに加速――など、大変なことになる可能性が高い。最高速度標識関連でも、精度の向上は必須と言える。
【参考】標識認識機能の誤認識については「車が「誤認識しやすいロゴ」、ランキング1位は?事例など踏まえ独自分析」も参照。
■標識認識システム関連のトピック
マカフィーやトヨタの北米研究所などが研究
サイバーセキュリティ企業大手のマカフィーは2020年、ADAS搭載車に対するモデルハッキングの検証結果を発表した。道路標識に簡易な加工をすることで、テスラの標識認識システムを誤認させることに成功したという。
なお、この際使用したモデルは2016年製で、モービルアイのSoC「EyeQ」シリーズが画像認識・処理を行っていたものと思われる。厳密にはモービルアイの技術を誤認させたことになるが、速度制限標識に微細な変更を加えただけで、テスラ車は制限速度を80キロ上回る速度まで加速したという。
また、2024年には、米カリフォルニア大学やトヨタの北米研究機関Toyota InfoTech Labsなどが標識認識機能を欺く研究成果を発表したようだ。
道路標識に人に見えない不可視赤外線レーザーを照射することで、自動運転車の認識システムを誤認させることに成功したという。
標識にシールを貼るなど物理的変化によってシステムを誤認識させる研究は多いが、不可視レーザーによるものは人間の眼で発見できず対応が困難となる。
自動運転においては、悪意ある攻撃者に対するセキュリティ対策も必須となるのだ。
Turingはマルチモーダル生成AIで問題を解決
自動運転開発スタートアップのTuringは、マルチモーダル生成AI「Heron」で標識認識機能の問題をクリアしたようだ。
画像認識モデルと大規模言語モデルの複合モデルにより、カメラに映し出された看板の背景などから「これは道路標識ではない」「これは店の看板だ」など人間のように判断を下すことができるようだ。
こうした技術により、他の企業ロゴなどにも応用が利く汎用性の高い識別システムを世に送り出すことが可能になる。理想的な解決手法と言えるだろう。
【参考】Turingの取り組みについては「天下一品のロゴ、「進入禁止」の標識と区別可能に!AI新興企業Turing」も参照。
■【まとめ】標識認識AIコンテストを開催してみては──?
自動運転を見据える企業は、すべからくカメラ映像などによる物体検知・識別技術を確立しなければならない。標識認識もその一つで、わかりやすい事例と言える。
一思いに、ホンダをはじめとしたメーカー主催、あるいはスポンサーで、標識認識AIコンテストを開催してみてはいかがだろうか。従来のパーセプション技術を突き詰めた技術や、生成AIを駆使した技術などさまざまな発想が集まり、自動運転開発を加速させる起爆剤となるかもしれない。
「標識認識機能はおまけ的なサービス」のため誤認識も許容されている節があるが、「自動運転開発を進めるメーカーとしてどうなの?」──と言われれば立つ瀬がない。改善に向け、そろそろ本腰を入れてほしいところだ。
【参考】関連記事としては「自動運転とは?分かりやすく言うと?業界をリードする企業は?(2024年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)