テスラ株に「50%下落」余地?難易度S級の「カメラだけ自動運転」に頓挫リスク

テスラのアプローチは短期的に無謀?

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出典:Dunk / flickr (CC BY-SA 2.0 DEED)

EV大手テスラのロボタクシー発表会が2024年10月、カリフォルニア州バーバンクのワーナー・ブラザーズ・スタジオを会場に開催された。多方面から大きな注目を集めた一大イベントで、イーロン・マスクCEO率いるテスラがどのような自動運転戦略を披露するか、投資家や同業界が大きな関心を寄せていた。

ただ、結果だけを見れば投資家らの目にはやや消化不足に映ったようだ。パフォーマンス、プロモーションとしては見所があったかもしれないが、肝心の自動運転システムに関する技術的な説明はなく、失望感が一部で広がった。

自動運転に対するテスラのアプローチは独特で、それ故期待と不安が混在するが、開発がとん挫するリスクがひとたび浮き彫りとなれば、同社がこれまで積み上げてきた流れが大きく傾くことになりかねない。株価が50%下落するのでは──と懸念を示す個人投資家もいる。

今回の発表概要とともに、テスラの自動運転開発のリスクに触れていく。

【自動運転ラボの視点】
テスラの株価は、イーロン・マスク氏が「フル自動運転機能を年内に限定公開できる」と2019年10月に発表したとき、今の10分の1程度(1株15〜20ドル程度)だった。その後、EVや自動運転機能に対する期待感から株価が上昇し、2024年10月16日現在の株価は1株219ドルだが、自動運転に対する期待がそがれた場合、2019年10月当時の株価(※つまり10分の1以下)とまでとはいかなくても、株価が半値程度になるリスクは十分にあるかもしれない。参考:名言?迷言?自動運転、テスラのイーロン・マスクCEO発言5選|自動運転ラボ

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■ロボタクシー発表会の概要

発表会は「ロボタクシーお披露目パフォーマンス」

発表会はショー・パーティ形式で開催された。冒頭、マスク氏が建物から出てくると、停車していたCybercab(サイバーキャブ)のバタフライドアが開き、さっそうと乗り込む。車両にはハンドルやペダルなどの制御装置はなく、当然運転手も存在しない。ダッシュボードはシンプルで、真ん中に30インチほどのディスプレイが設置されただけのように見える。

マスク氏を乗せたサイバーキャブは会場内を走行し、来場者が待つステージへ。マスク氏は開口一番「ようこそ、We Robot Partyへ。今夜、ここに完全自動運転車が50台ある。すべて無人運転」と会場を盛り上げ、プレゼンを開始する。

以下、マスク氏の発言を端折ったものを羅列する。

テスラのロボット・ビジョンを大枠で示した印象

技術説明会とは異なるため、新たなAI技術やSoCなど技術的な面での説明は特になく、サイバーキャブを中心に未来に向けたテスラのロボット・ビジョンを示すかのようなパフォーマンス要素の強い内容だった。

要約すると、サイバーキャブは二人乗りでハンドルなどの手動制御装置を備えない完全自動運転専用設計となっており、2027年より前に生産を開始する意向だ。価格は3万ドル(約450万円)以下に抑えたいようだ。

FSDは2025年にカリフォルニア州とテキサス州で自動運転機能の実装を開始する計画だ。自動運転技術を導入することで、週10時間しか稼働していなかったマイカーが10倍の価値を持つようになるとしている。

このサイバーキャブが本格稼働すれば、1マイル当たりの移動コストを20セントまで低下させることができるという。大勢が移動する場合には20人乗りのロボバンもあり、モノを輸送することもできる。

こうした自動運転技術は、人型ロボット「オプティマス」にも適用できる。

だいたいこのような感じだろうか。発表会の後半は、パーティの様子が長々と収められている。

発表会を受け株価は急落

テスラが切り開く未来がどのようなものかを想像させるには十分だが、一部投資家の目には根拠が不十分に映ったのだろうか、消化不足だったのだろうか、テスラの株価は日本時間10月10日の終値238.77ドルから翌11日終値217.80ドルへと10%近く下落した。

出典:Trading View

パフォーマンスとしては見所があったかもしれないが、内容的にはこれまでに判明していた情報と大きく変わらず、目新しさに欠けていたのは事実だろう。マスク氏がこれまで構想していたロボタクシー事業を、目に見える形に設えた――といった印象だ。

車両そのものの評価は分かれそうだが、小柄な2人乗りモデルは自動運転車としては珍しい。コストパフォーマンスと環境性能、パーソナルな移動を意識した、テスラならではのフィロソフィーなのかもしれない。

サイバーキャブは商用車?自家用車?

ただ、このサイバーキャブは一般のコンシューマー向けのモデルなのか、あくまで商用車なのか、この点に関し言明する場面はなかったように思える。

普通に考えれば商用車仕様だが、だとすれば、マイカーの平均稼働時間(週10時間)などのデータを持ち出す必要はなくなる。また、商用車仕様であれば顧客・ターゲットはサービス事業者となるが、これまでの構想を踏まえるとテスラは自らのプラットフォームでサービス展開することを想定しているはずだ。

このプラットフォームは、コンシューマー向けの車両を有効活用する発想から生まれたものだ。そこにサービス事業者が入ってくる場合、当初想定していた運賃は実現できない可能性が出てくる。サービス事業者自身が利潤最大化を図るためだ。

であれば、テスラがサイバーキャブで自動運転タクシーサービスを直営するのか?――となるが、その場合想定価格(3万ドル以下)を設定する必要がなくなる。そもそも、自社展開による自動運転タクシーサービスであれば、先行するWaymoなどとの差別化もなく、ただの後追いでしかない。

とすると、やはりサイバーキャブは個人向けなのか?――となる。個人利用兼商用利用の新たな提案で、ライドシェア利用を前提とした自動運転車のような位置づけだ。しかし、現状の自動運転システムの能力を考慮すると、商用利用はともかく個人利用には明らかに不向きだ。

この点について言及しているメディアはほぼ見当たらないが、一部メディアが「個人も購入することが可能」と報じている。やはり商用車前提の仕様のようだ。

テスラとしては、このサイバーキャブによる自動運転サービスとともに、FSDアップデートによって既存のオーナーカーも自動運転化していく目算なのだろう。

ともかく、サイバーキャブに関しては続報を待ちたいところだ。

【参考】テスラのロボタクシー構想については「構想発表から8年3カ月!テスラ、ついに自動運転タクシーを発表へ」も参照。

■テスラの自動運転開発

AIとカメラでレベル5目指す

テスラの自動運転開発は、高精度3次元地図を使わず、道路の種別やエリアに左右されることなくどこでもいつでも自律走行可能な自動運転レベル5を目指している。

出典:国土交通省

高速道路限定や特定エリア限定、上限速度などの諸条件を設けず、原則人間のドライバーが走行可能な環境であれば問題なく自律走行できる、理想の自動運転技術だ。

テスラはこれをAIとカメラによるコンピュータビジョンで成し遂げようとしている。AIが脳、カメラが目の役割を担う人間同様の仕組みで、人間と同等の認識・判断能力を実現可能――とする考え方だ。機能として人間が備えていないLiDARなども基本的に使用しない。

こうした考え方が根底にあるからこそ、自動運転開発で培った技術を人型ロボットに転用するのもスムーズに行えるのかもしれない。ある種、テスラは理想を追求しているのだ。

それ故、これまでテスラはエリアを絞ることなく自動運転開発を推し進めてきた。同社の有料ADAS「FSD(Full Self-Driving)」を搭載したオーナーカーから逐一走行データを収集し、開発を促進する手法だ。

各オーナーは思い思いの地を走行しているため、特定エリアに限ったデータを集めることはできない。「北米」など超広域エリアは設定されているだろうが、「どこそこの交差点」といった特定の場所にこだわった開発は行わず、各々のシチュエーションに分類して開発を進めているものと思われる。

こうした手法であれば、初めて走行する道路でも類似したシチュエーションから安全な制御を導き出すことが可能になる。レベル5に向けた開発手法だ。

WaymoなどはマップもLiDARもフル活用

Google系Waymoが展開している自動運転タクシー=出典:Waymo公式ブログ

一方、高精度3次元地図を使う一般的な自動運転システムの場合、そのODD(運行設計領域)は当然マップ整備済みのエリアに限られる。

テスラの手法に比べ柔軟性は失われるかもしれないが、ジオフェンス(目に見えないエリア設定)で区切られた範囲内を反復継続して走行実証することで、エリア内に限り非常に精度の高い自動運転技術を実現しやすくなる。

グーグル系WaymoやGM傘下のCruiseなど、大半の自動運転開発企業はマップを使用し、特定のエリアに絞ったうえでサービス展開を図っている。

加えて、大半の開発企業がLiDARを重用している点もポイントだ。無数のレーザー光を照射することで車両の周囲数百メートルの環境を3Dマップ化することができ、各オブジェクト(歩行者や標識などの対象物)までの正確な距離も導き出すことができる。これを走行中リアルタイムで行うことで、常に最新の周囲の状況を把握可能になるのだ。

カメラは人間の目と同様さまざまなオブジェクトを検出しやすい利点があるが、瞬時に正確な距離を測定するのがやや苦手だ。また、悪天候や逆光なども苦手とする。

カメラの長所や短所を勘案したうえで、LiDARを併用することでセンサーシステムに冗長性をもたらすことができる。より確実・正確な自動車制御が求められる自動運転にとって、こうしたセンサフュージョンは必須と言えるだろう。

テスラのアプローチは短期的には無謀?

Waymoなどはこのように、自動運転の確実性を高めるため特定エリアに絞ったうえでLiDARなども活用しながら自動運転の実現を図っている。

しかし、同じ場所であっても時間や季節、周囲の車両や歩行者の状況、天候など、同じ場面は二度とないため、実証に実証を重ね99.99%安全を確認しても、事故は起こる。それだけ難しい技術なのだ。「プロドライバーは公道で絶対事故を起こさない」――と言い切れないのと同様、自動運転に100%は存在しない。

これほど確立が難しい技術に対し、テスラはLiDARを使わずカメラにこだわったセンサー構成で臨んでいる。しかも、エリアを制限することなく――だ。

マスク氏自身がどれほどの勝算を持っているかは不明だが、客観的に見れば懐疑的にならざるを得ない。数十年規模の長期的視点ならばともかく、短中長期で実現できるアプローチとはなかなか思えないためだ。

また、Waymoなどと比較し、テスラの技術が図抜けて高いと言えない状況が重くのしかかる。米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)の集計データによると、レベル2ADAS搭載車による衝突事故は2021年7月から2024年9月までの間に1,770件報告されているが、このうち1,492件をテスラが占めているのだ。2番目に多いホンダが110件、スバル27件、GM27件と並ぶ。

走行台数の差などを考慮しても、テスラが突出し過ぎだ。テスラ以外の各社の報告がいい加減なのか、テスラオーナーの運転がいい加減なのかは不明だ。ただ、事実としてテスラのレベル2は多くの事故を起こしている。

ドライバーに全責任があるにせよ、仮にも自動運転へのステップアップを見越したシステムを提供しているならば、もう少し事故の発生を抑制できるのではないだろうか。抑制した結果この始末では、さすがに技術を疑わざるを得ない。

話を戻すが、よほど特別な技術を有していない限り、テスラ方式での自動運転実現は非常にハードルが高く、それ故計画がどんどん遅れていく可能性が考えられる。さらに、マスク氏は独善的傾向が強いため、規制当局と衝突する可能性も高く、無人走行実証の許認可が受けづらくなることも考えられそうだ。

手動制御装置の非搭載化も足かせに?

また、今後の話題の中心となりそうなサイバーキャブは、ハンドルなどを備えない完全自動運転仕様となっており、無人実証のハードルがいっそう高まることが予想される。どういった工程を踏んで無人実証許可を取得するのか、この点にも注目が集まりそうだ。

少なからず、ハンドルなしのクルマは今しばらくオーナーカーとしては実用化できない。オーナーカーとして利用するには最低でも州単位ですべての道路を網羅する必要がありそうだが、それには恐らく相当の期間を要することになるためだ。

■【まとめ】最悪株価50%下落も?

以上の点を踏まえると、サイバーキャブはおそらく商用車前提のモデルであり、一般コンシューマーが取り扱えるものではなくなるはずだ。すると、テスラの今回の発表は、Waymoら先行勢の後を追いかける自社モデルを発表したに過ぎず、革新性がないことになる。コンシューマーが活用するためにはやはり運転席・手動制御装置が必要となるため、設計そのものを変更しなければならない。

こうした見方が支配的になれば市場のがっかり感はいっそう強まり、テスラの株価がまだまだ下落していくことも考えられる。新車販売台数への期待感も弱いため、最悪50%下落する余地があるかもしれない。

苦境に立たされるかもしれないテスラを救うのは、ほかならぬFSDの自動運転化だろう。FSDが満を持して自動運転へと進化を遂げ、仮に特定エリアにおけるレベル3に留まったとしてもオーナーカーの自動運転化が実現することになる。この一歩を踏み出すことができれば、将来への期待感から再びテスラの逆襲が始まる可能性が高い。

マスク氏の楽観的な見立てによると、FSDは2025年中に自動運転化を果たすという。果たして……。

※編注:この記事は特定の株式銘柄への投資を推奨するものではありません。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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