ライドシェア解禁、Uber Eatsとの「二刀流」で高収入は可能?

旅客運送と貨物運送、両立はできるのか



2024年4月スタート予定の自家用車活用事業(仮)に向け、タクシー事業者による一般ドライバーの求人が増加傾向にある。


タクシー事業者管理のもとサービスを提供する形式であり、一般ドライバー視点ではさまざまな制限が設けられるためドライバー供給は限定的になりそうだが、将来的には新たなビジネススタイルが確立されるかもしれない。

それは、「宅配・デリバリー系との二刀流」だ。現状は貨物自動車運送事業法の規制を受けることになるが、人の移動とモノの輸送の両サービスを効率的に遂行することができれば、個人事業としての道が大きく開けてくる。

果たしてこうしたサービスの両立は可能なのか。現時点における規制の中身に触れていく。

■自家用車活用事業(ライドシェア)の概要
自家用車活用事業では一般ドライバーは実質的にパート扱い

自家用車活用事業は、一般ドライバーが自家用車を用い、タクシーサービスを提供することを可能にする新制度だ。ただし、一般的なライドシェアと異なり、一般ドライバーがサービスを提供する際は何らかの形でタクシー事業者の管理下に入らなければならない。


また、サービス提供可能なエリアや曜日・時間帯なども限定される。配車アプリのビッグデータをもとにタクシーが不足する地域や時期、時間帯を客観指標化し、このデータに基づいてサービス提供が可能な条件を導き出す手法だ。

この形態における働き方は、ほぼタクシー事業者に勤めるパートタイマーだ。事実、タクシー事業による求人もそのような内容となっている。

例えば、日本交通の求人「予約応対のみ!ライドシェアドライバー」では、給与は時給1400円+一律手当+歩合、勤務期間は最低勤務期間半年以上、最低勤務日数週1日、最低勤務時間1日4.0時間としている。

▼予約応対のみ!ライドシェアドライバー|日本交通
https://jp.indeed.com/viewjob?jk=1174bf7dc8322fe5


日本自動車交通の求人「ライドシェアドライバー」では、時給1,500円で勤務日数が週に1~5日、勤務時間は1日4時間で、週に20時間を上限としている。

それぞれ未経験可で週1からと自由度が高いが、対象エリアや時期・時間帯が限られるため、ギグワーカーとして自身の空き時間を有効活用するような働き方は難しいかもしれない。

副業は可能、デリバリー系との両立も?

一方、両社とも副業可としており、日本交通は「デリバリー系のお仕事との副業をお考えの方も歓迎」、日本自動車交通も「飲食店・警備・工場・配送・配達ドライバーなどさまざまな本業と両立可能」としている。

ポイントは、タクシーサービス同様車両を使用するデリバリーや配達ドライバーとの両立だ。自家用車でそれぞれの仕事をさばくことができれば、効率的にお金を稼ぐことができるかもしれない。

自家用車活用事業では、タクシーサービスに従事する時間帯を事前に把握できるため、勤務日以外や勤務時間の前後で別の仕事を行うことができる。この別の仕事も自家用車を活用したものであれば、スムーズに各仕事を行うことができるだろう。

もちろん、各仕事がダブルブッキングしないよう注意する必要がある。自家用車活用事業においては、合理的な理由なく配車依頼を承諾しない場合、業務怠慢とみなしタクシー事業者から指導が入る可能性がある。

タクシー不足を補うことが本来の目的であり、かつ時給などの形で業務に就く限り、自身の都合で配車依頼を断るような行為は許されないようだ。

ライドシェア新法でさらに働き方の自由度は高まる

自家用車活用事業に加え、国は現在タクシー事業者を介さないライドシェア解禁に向けた議論を進めている。タクシー事業者の管理下から離れれば、より自由度の高い働き方が可能になる。

国は自家用車活用事業の実施効果を検証しながら、2024年6月までに一定の方針をまとめる予定だ。現時点の方向性としては、ライドシェア事業者に対する徹底した安全確保に向けた規制の導入や、新たな働き方の尊重、副業・兼業の推進、自由度の高い料金規制、地域・時間帯・台数の不制限――などが示されている。

ドライバーの相当数は諸外国と同様副業・兼業として就労することが予想されるため、個人が「好きな時に好きなだけ」働ける制度設計とし、運営可能な地域・時間帯などの制限を設けず、事業に利用する自家用車の台数制限もかけない方向としている。
料金については、必要に応じて現行ハイヤーの料金規制緩和を行い、ライドシェアとハイヤーとのイコールフッティングを確保するという。

なお、業界団体の反発は必至の情勢で、実現までに方針が二転三転する可能性が高い。法改正も必要となるため、成立させるためには相当の妥協案が必要になるかもしれない。

実現時期など見通しが立たない状況だが、まずは2024年6月までにどのような議論が行われ、どのような見解をまとめるか、しっかりと注目したい。

■貨物事業における規制
白タク同様貨物事業も白ナンバーは厳禁

ライドシェアは自家用車を移動サービス用途に活用するもので、一般的に「白ナンバー」車両によるサービス提供を解禁するものとなる。現状、白ナンバーで有償移動サービスを提供すれば道路運送法違反となり、厳しく罰せられる。いわゆる「白タク」行為だ。

こうした自家用車を利用した有償サービスは、当然ながら物流分野でも規制されている。貨物自動車運送事業法の存在だ。

同法では、他人の需要に応じ有償で自動車(三輪以上の軽自動車及び二輪の自動車を除く)を使用して貨物を運送する事業を「一般貨物自動車運送事業」、特定の者の需要に応じ有償で自動車を使用して貨物を運送する事業を「特定貨物自動車運送事業」、他人の需要に応じ有償で三輪以上の軽自動車及び二輪の自動車で貨物を運送する事業を「貨物軽自動車運送事業」と位置付けている。

一般貨物自動車運送事業と特定貨物自動車運送事業は国土交通大臣の許可が必要で、運送事業者は車両数や資金などさまざまな要件を満たす必要がある。個人事業主では厳しい内容だ。

一方、軽自動車などを使用する貨物軽自動車運送事業は国土交通大臣への届出で住み、事業者としての要件は緩く個人事業主向けと言える。

ただし、三つとも事業用の緑・黒ナンバーを取得する必要がある。一部例外はあるものの、白ナンバーの車両で有償運送事業を行うことは白タク同様厳格に規制されているのだ。

ウーバーイーツでも軽自動車の利用が可能に

例えばウーバーイーツで配達を行う際、徒歩や自転車、50cc以下の原動機付自転車でサービスを提供する場合は特段許可を要しない。一方、50ccを超える二輪車や軽自動車でサービスを提供する場合は、事業用車両として届け出を行い、黒色ナンバーを取得しなければならない。

なお、軽自動車についても、2022年10月まではほぼ自家用の軽自動車は使用できなかった。貨物軽自動車運送事業では、これまで最大積載量の記載のある「軽貨物車」に限り認められていたが、規制改革により軽自動車の利用も認められるようになった。

積載量の制限などはあるものの、こうした規制緩和を受けウーバーイーツも2023年5月に全国で軽乗用車の車両登録を開始している。

排気量の高い乗用車については、ウーバーイーツは受け付けていない。普通乗用車に関してはなどが適用されるため、運送業に使用するには現状ハードルが高いのだ。

タクシー事業ではBEV以外の軽自動車は原則不可

では、運送事業で規制緩和された軽自動車を用いれば、タクシーサービスと両方に使用できるか……と言えば、これもなかなか難しいようだ。

タクシー事業においては、車両を長時間・高頻度で運行の用に供することになる。運転者の労働条件や労働環境に悪影響を与えることを防止するため、軽自動車の利用は原則認められていないのだ。

ただし、介護タクシーや自家用有償旅客運送制度は例外として認められているほか、なぜかBEVは認められている。2022年発売の軽BEV日産サクラの登場により、少しずつ軽自動車タクシーの普及が始まっている。

タクシー車両もかつては規制が厳しく、その利用はクラウンなど一部の車種に限られていたが、車両の安全性向上や運行面の安全対策が進んでいることを背景に2015年にタクシー車両の基準緩和が行われ、座席の寸法や乗降口の大きさなどの基準が廃止された。これにより、プリウスなどもタクシーとして利用することが可能になった。

自活用車活用事業や新ライドシェアで利用活用な車種などにどのような規制が設けられるかは不明だが、タクシー車両の規制がそのまま、あるいは一定程度反映されるものと思われる。

両立にはさらなる規制改革が必要か

現状、タクシー事業には軽自動車はほぼ使えず、自活用車活用事業や新ライドシェアも同様の規制が敷かれる可能性がある。一方、貨物事業では軽自動車を活用しやすいものの、排気量の高い乗用車の利用は格段にハードルが上がり、個人事業では行えない。タクシー、あるいは貨物車両のどちらかを事業者から借りる必要がある。

つまり、現行制度においてはライドシェアと宅配・デリバリーサービスの両立は困難と言える。さらなる規制緩和が必要となるのだ。

貨物関連では、年末年始や夏期などの宅配貨物繁忙期において自家用車の活用が例外的に認められているが、2021年にこの規制がさらに緩和され、許可期間を拡大するとともに申請手続の合理化も図られている。

少しずつではあるものの、規制緩和は着実に進んでいるのだ。将来、高排気量の自家用乗用車による貨物事業の届出制度などが創設されれば、ライドシェアと宅配・デリバリーサービス両立に向けたハードルは一気に低くなる。

もちろん、両サービスを行うことで個人事業者自らが過重労働を行ったり、車両のメンテナンスがおろそかになったりする危険性もある。各サービスのプラットフォームを越えて適用可能な労働時間制限を明確化するなどさまざまな安全対策も必要になりそうだ。

■【まとめ】旅客運送と貨物運送の協調した規制改革を

タクシー事業関連の規制改革は大きく前進しているが、それ以上にひっ迫している宅配貨物事業におけるさらなる規制改革も大きな課題であり、新制度の創設含め継続的な議論が必要な分野と言える。

こうした議論において、タクシーと宅配・デリバリー系サービスを両立させやすい観点を取り入れれば、一般ドライバーや自家用車の有効活用が大きく進展するかもしれない。

安全性やサービスの質を確保することが何より重要だが、危険性をはらんでいるからといってふたをし続ければ事態は何も変わらない。

まずは目先に迫ったライドシェア新法の動向に注目しつつ、貨物事業に関するさらなる規制緩和議論の行方についてもしっかりと追いかけたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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