芝刈り機はついにここまで進化した。セミ完全自動運転の水準に相当する「自動運転レベル4」の機能を搭載した無人芝刈り機が、ゴルフ場向けに開発された。IHIのグループ会社である株式会社IHIアグリテックがこのほど発表した。
この無人芝刈り機は、電子機器事業などを手掛けるマミヤ・オーピーと共同開発したものだ。完全無人での芝草管理と高い刈り込み精度を両立させた3連ロータリーモアで、夜中でも無人で芝草管理ができる。
自動運転レベル4は「限定領域における完全自動運転」が可能な水準を指す。芝刈り機は自動車ではないものの、「ゴルフ場」という限定領域において完全無人で稼働するため、自動運転レベル4に相当するというわけだ。
【参考】関連記事としては「自動運転レベルとは?(2023年最新版)」も参照。
■完全無人の芝刈り機「SC250iG」
ゴルフ場の芝草管理は、傾斜面での作業や地形に合わせた刈込作業といった熟練の技術が必要とされる一方で、担い手不足や高齢化などから、作業者の確保が難しくなっているという課題がある。それを解決するため、今回の無人芝刈り機・自立走行式3連ロータリーモア「SC250iG」が開発されることになった。
IHIアグリテックは、芝刈り機にフェアウェイ芝刈り機の自動化で実績があるマミヤ独自の自律走行制御システム「I-GINS(アイジンス)」を搭載し、ラフ(ゴルフホール上のフェアウェイ以外の部分)向けに無人での芝草管理を実現した。
車体に障害物検知センサーとバンパーセンサーを搭載しており、進行方向に障害物を検出した場合には自動で減速・停止、登録のスマートフォンに通知することができる。また、ロータリーデッキの昇降・回転・旋回の加減速を自由に調整できる機能を加えることで、芝草を傷つけない良質な芝刈りができるという。刈り取り中に機体が停止した場合は、刈り残しがないよう少し後退してから作業を継続できるという機能もある。
これにより、芝草管理においての省人化と均一な芝刈りを両立させることが可能になった。
■夜間の作業が可能になり集客率にも貢献
SC250iGには、3つのポイントがある。1つ目は、スマホで作業指示と遠隔操作が簡単にでき、素人でも作業可能なことだ。作業者はスマホのアプリ上からあらかじめ用意された経路の運転角度や速さなどを選択し、簡単に操作し作業指示を行うことができる。
2つ目は、夜間刈りが可能となり、集客率向上に貢献することだ。これまでは、コース管理作業を行う夕方には利用者を入れられずに集客機会を逃していた。無人芝刈り機の導入により夜間で作業を行うことができるようになり、利用者は日暮れギリギリまでプレーできる。
最後はマッピング方式で走行経路の変更も自由自在なことだ。GPS(全地球測位システム)の測位データを取り込み、コースマップを作成、芝を刈る範囲を特定する。その後、芝草の状況に合わせて角度や速度、ターンの方法などの走行経路を専用の経路作成ソフトで作成し、これをもとに自動走行するという仕組みになっている。
【参考】ちなみに「自動運転レベル4」は本来、走行経路を事前に設定しない自動運転を前提としていることがほとんどだが、茨城県永平寺町で展開された経路確定型の自動運転移動サービスも、日本においては「自動運転レベル4」と表現されており、日本的には走行経路を事前設定する今回の無人芝刈り機をレベル4と呼んでも齟齬がないと言えるだろう。関連記事としては「自動運転、日本でのレベル4初認可は「誘導型」 米中勢に遅れ」も参照。
■西武グループのゴルフ場でも
今回のケースのように、自動運転技術は実はゴルフ場でも活躍している。
たとえば西武グループの造園・緑地事業専門会社である西武造園は、無人・自律走行型の芝刈りロボットを2023年度から2カ所のゴルフ場で導入している。これにもマミヤのI-GINSが搭載されている。
なおI-GINSは「I-GINS(Integrated-GPS Inertial Navigation System)」の略で、RTK-GNSSと慣性航法により自車位置を検出し、あらかじめ作成された経路を独自のアルゴリズムで機体誘導する走行制御システムになっている。
今回共同開発されたSC250iGは、2024年度に市場投入され、2025年度には量産が開始される予定だ。なお試作機は2023年11月21~22日に開催される「2023ジャパンターフショー」で初公開される。
少子高齢化や働き方改革などにより人材不足が深刻になっている現在、自動化の波はゴルフ場などさまざまな分野に及んでいる。
【参考】関連記事としては「自動運転技術、ゴルフ場管理をDX化!白線なしでも無人芝刈り」も参照。