テスラのFSD訴訟、「自動運転」未実現で購入費を払い戻し

購入した英国人が訴え、最終的に和解に至る



テスラのイーロン・マスクCEO=出典:Flickr / Public Domain

米EV(電気自動車)大手テスラに関し、同社のADAS(先進運転支援システム)「FSD(Full Self-Driving)」について機能を満たしていないと訴えられ、その後、和解するという事例があったようだ。

同社の「モデル3」を2019年に購入した英国人が、当初説明されていた自動運転機能がFSDで実現していないとして、テスラを訴えた形だ。最終的にテスラが8,000ポンド(約1万ドル/約148万円)を支払うことで和解に至った。


テスラのオーナーズクラブ「Tesla Motors Club」にこの英国人が投稿した内容を紐解いていく。

▼My experience taking Tesla to court about FSD
https://teslamotorsclub.com/tmc/threads/my-experience-taking-tesla-to-court-about-fsd.315086/

■「2019年中に実現」を信じて…

その英国人、Ed Butler氏の証言について、順を追って説明する。同氏は2019年7月に納車されるモデル3を購入し、FSDの追加料金として5,800ポンド(現在のレートで約108万円)を支払った。

その際、テスラ側は2019年末までに市街地での自動運転機能が実現すると説明していたようだ。当時のテスラの公式サイトでは、「信号や一時停止の標識を認識し対応する機能」と「市街地での自動運転」が2019年後半に登場するとの案内があったという。


テスラのこの説明文は、Butler氏が契約する際の決定要素の一部となった。結局この説明が不履行だったということにより、同氏はテスラを訴えるに至ったようだ。

■テスラと和解に至るまでの経緯

2023年2月にButler氏はテスラに、請求の法的根拠を示した訴訟前の書面を送った。しかし翌月テスラからは、同氏の主張を否定するという内容の返信があった。

その後、Butler氏が裁判手続きを進め、裁判所は同年6月にこの案件を少額訴訟として取り扱うことを提案した。裁判所は10月12日に、審問期日を11月17日にすることを決定した。その4日後の10月16日に、テスラから和解案が送られてきたという。

そしてButler氏は和解案に署名し、11月に入ってすぐに和解金として8,000ポンドが支払われた。同氏のモデル3からはFSD機能が削除され、標準のADASであるオートパイロットのみの搭載になったという。


なお「8,000ポンド」の根拠であるが、最初テスラはFSD機能のために追加で支払った5,800ポンドのみを和解額として提示した。しかしButler氏が裁判で勝った場合、この金額に対する利息分と裁判費用が加算されると主張し、後日追加されることになったようだ。

またテスラは和解合意書に「助言禁止」と「守秘義務」を入れていたが、同氏はこれを拒んだ。最終的にテスラはこれらの項目を削除し、和解金を振り込み、FSDを削除し、この件は終着することになったようだ。

■本当に実用化されるのはいつ?

今回の件は、テスラが明確に公式サイトで自動運転の実現時期を明かしていたことが決定打となり、和解金が支払われたようだ。

そもそもテスラのFSDや「Autopilot(オートパイロット)」というネーミングは、備わっている機能の誤解を招くと米カリフォルニア州の道路管理局(DMV)が告発するなど、かねてから波紋を広げている。

またテスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は、この数年「自動運転は近く実現する」といったような趣旨の発言を繰り返しており、また今回のような払い戻しを求める声が出る可能性は十分にある。

このような事態に発展しないためにも、テスラの自動運転が本当に実用化されるのは、果たしていつになるだろうか。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事