日本初レベル4の自動運転事故、「追加学習」で来年3月再開へ

無人の自転車を認識できずに接触



自動運転車両の接触箇所:バンパー左側(接触跡は外観では判別不能)=出典:永平寺町

「日本初のレベル4」としてスタートした福井県永平寺町の自動運転移動サービスが、2023年10月に事故を起こした。自動運転車両が人が乗っていない駐輪中の自転車と接触し、その後、運行が停止された。

同町はこの事故について、原因調査の結果と今後の対策を2023年11月10日に発表した。無人の自転車の画像を追加学習させることで、前方カメラの認識性能を向上させるといった対策が取られるようだ。


運行については、元々2023年12月〜2024年2月末までが冬季運休期間となるため、運休明けとなる3月からの再開を目指すとしている。

▼永平寺町ZENドライブ(自動運転)の運行における自転車との接触事故の原因調査結果と対策について
https://www.town.eiheiji.lg.jp/200/300/304/p011402.html
▼詳細説明資料
https://www.town.eiheiji.lg.jp/200/300/304/p011402_d/fil/detailed_information.pdf

■事故の概要

事故の概要は次の通りだ。

2023年10月29日に自動運転車両が乗客4人を乗せて出発後、町道永平寺参ろーどの町営第三駐車場横の「すれ違い待避所」付近で駐輪中の自転車と接触した。「特定自動運行主任者」は、遠隔監視室のモニターで走路に無人の自転車があることを確認しており、自動運転車両が自動で止まらない可能性があると判断して停止操作を行った。


【参考】「特定自動運行主任者」は、レベル4の自動運行移動サービスの運行を担当する責任者のことを指す。遠隔監視装置の作動状態を確認することのほか、交通事故発生時には、消防機関に通報する措置や、現場措置業務実施者を交通事故の現場に向かわせる措置、警察官への交通事故発生日時などの報告をする義務を負っている。詳しくは警察庁の「特定自動運行に係る許可制度の創設について」も参照。

永平寺町での特定自動運行の走路と事故発生箇所=出典:永平寺町

しかし、車両は減速したもの停止に至らず、自転車に接触してしまった。接触箇所は、自動運転車両の左前バンパーと自転車の右ペダルであった。ただし、この事故は自動運行装置の作動中に発生したものであり、特定自動運行主任者による対応は接触事故の原因とは無関係だという。

接触時、車両は時速4キロで走行していた。接触によりバンパーにある衝突を検知するスイッチが作動し、自動運転車両は緊急停止した。この事故による負傷者は発生していない。また自転車、自動運転車両ともに目視で確認できる損傷は無いという。

自転車の右ペダルと自動運転車両のバンパーとの接触状況の再現写真(自転車は接触したものと同一ではない)=出典:永平寺町
■無人の自転車を画像認識できなかった

今回の事故の主な要因について、接触前後におけるドライブレコーダーの映像や事故状態記録装置の時系列データ、障害物を検知するセンサーの記録データの分析により、下記2点が判明している。


障害物を検知するためのミリ波レーダーおよび超音波センサーは、正常に機能し自転車を検知していた。しかし、すれ違いの待避所付近は、対向する自動運転車両などの誤検知を抑制するために、前方カメラによる画像認識とあわせて自動ブレーキの制御判断を行う仕様となっており、物体検知はしていたが車両の停止には至らなかった。

当該自動運転車両には、前方カメラの映像から画像認識により自転車を認識して自動ブレーキをかける機能があった。しかし今回の接触では無人の自転車を認識することができなかった。その要因としては「無人の自転車を認識するための事前の学習データが十分ではなかったこと」「前方カメラでは自転車の真後ろしか見えておらず、形状的に自転車として認識するための面積が小さかったこと」が挙げられる。

■対策として、検知の難しい画像の追加学習など

自動運転車両の運用に対する安全性については、元々2つの対策が取られていたことで、最小限の被害で収まったとしている。

その2つの対策としては、すれ違い待機所付近において自動運転車両が減速し、低速で走行する仕様であったことと、今回の事故の際にバンパースイッチが作動し、自動運転車両が仕様通り正常に停止し、被害低減の措置が行われたことだ。

その上で、今後の対策としては、3つが挙げられている。

1つ目は「すれ違い待避所における自動ブレーキの制御判断の強化を図る」ということだ。すれ違い時の安全性を確保しつつ、接触する可能性がある物体として検知された障害物に対しては、画像認識との整合がなくとも自動ブレーキをかけるように制御判断の強化を行う。

2つ目は「無人の自転車の画像を追加学習させることで、前方カメラの認識性能を向上させる」で、検知の難しい向きを含めた無人の自転車の画像を追加学習させるという。

3つ目は「運用面での安全に配慮した措置をとる」ことだ。具体的には、自動運転車両が通行することに対する注意喚起看板の設置個所を増設したり、参ろーどの利用に関する案内看板を設置したりといったことが挙げられている。

■再発防止の取り組みを積み重ねる重要性

自動運転技術の向上の過程では、事故やトラブルは完全にはゼロにできない。今回は無人の自転車の検知ができなかったことが事故の要因となったが、他にも検知が難しい事象が発生する可能性もある。

重要なことは、事故が発生した都度、事故原因を精査し、再発防止に向けた取り組みを積み重ねていくことだ。この点は改めて強調しておきたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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