京セラコミュニケーションシステム株式会社(本社:京都府京都市/代表取締役社長:黒瀬善仁)=KCCS=はこのほど、オペレーターが1人で複数台の自動配送ロボットを遠隔監視・操作し配送サービスを行う実証に着手した。車道を同時走行する複数台の中速・中型自動配送ロボットを、1人のオペレーターが遠隔監視・操作する実証は国内初という。
この実証実験は、将来的なフリート化、すなわち自動運転の配送ロボットを軍団で展開するための取り組みと言える。ラストマイルを担う配送ロボットは歩道走行タイプの開発が主流となっているが、車道走行タイプに果敢に挑むKCCSの取り組みはどこまで進んでいるのか。
海外情勢に触れつつ、同社の取り組みに迫る。
記事の目次
■最新の実証概要
フリート運用見据えた取り組みに向け前進
今回の実証は、国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)の「革新的ロボット研究開発基盤構築事業/自動配送ロボットによる配送サービスの実現」のもと、2023年10月29日まで北海道石狩市の車道で実施された。
1人のオペレーターが、複数の車道走行ロボットを遠隔監視・操作する初の事例で、将来的なフリート化を見越した取り組みと言える。人の移動用途の自動運転車と同様、ロボットも1人が複数台を管理できるようになればコスト低減や運用効率の改善を図っていくことが可能になる。
実証では、地域の配送事業者や小売事業者と共同で自動配送ロボットを走行し、複数台の運用が可能な遠隔型自動運転システムの開発や自律走行比率の向上、安全な運行管理体制の構築について実用性を確認する。
KCCSは、ロボットの自律走行開始・停止を行う専用のコントローラーや、全体を監視できる表示システムを開発済みで、遠隔監視室からロボットに搭載しているカメラ映像や位置情報、センサー情報などを一目で把握できるという。オペレーターは、表示システムを利用して走行中の全ロボットの状況を確認する。
自律走行比率の向上関連では、オペレーターによる遠隔操作なしで継続的な自律走行を行うため、交差点の横断や駐車車両の回避を自動で行う技術を開発した。
安全な運行管理体制の構築関連では、走行するルートやスケジュールを状況に応じて変更できる運行管理システムを開発した。これにより、地図上で複数台の自動配送ロボットの位置を表示しながらリアルタイムに監視・運用できる。また、運送事業者の有資格者が運行管理・指示を行う運用体制も構築したという。
■これまでの取り組み
2021年に国内初の無人配送ロボットの車道走行を実現
KCCSは2020年、NEDOが公募した「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」に採択され、無人自動配送ロボットによる地域内シェアリング型配送サービスの開発・実証に着手した。
2021年7月には、多数のロッカーを搭載したロボットを導入し、石狩市の石狩湾新港地域の一部エリアをテストベッドに車道における自動運転検証を開始した。無人の自動配送ロボットが車道を自律走行するのは国内初という。
ロボットの製造元は公表していないが、中国Neolix(新石器)製と思われる。第3世代のモデル「X3」を導入し、荷物積載部に複数のロッカーを設置し、最高時速15キロで走行実証を進めたようだ。ボディサイズはミニカー規格(長さ2.5×幅1.3×高さ2.0メートル以下)に準じた大きさだ。
実証後、多様な配送ニーズに応えられるサービス仕様の検討や社会実装に向けた課題の分析などを目的に、石狩市やヤマト運輸などとともに「石狩湾新港地域ロボットシェアリング型配送サービス実証研究会」を発足し、取り組みを継続している。
【参考】石狩市における2021年度の取り組みについては「日本初!自動配送ロボットが車道走行 京セラ子会社、北海道で実証実験」も参照。
2022年度以降も事業継続
2022年度は、NEDOの「革新的ロボット研究開発基盤構築事業/自動配送ロボットによる配送サービスの実現」事業のもとロボットを複数台利用し多様な地域内サービス提供を行う実証や、雪上走行技術の研究開発に着手した。
同年11月の実証では、総延長5キロの車道ルート上に8カ所の停車スポットを設け、モニター利用者に実際にヤマト運輸の荷物を配送するサービス実証を実施した。走行中は遠隔から監視者がロボットをモニタリングし、状況に応じてロボットを遠隔操縦する仕組みだ。
2023年度は、ヤマト運輸やコンビニ事業を手掛けるセコマの協力のもと、7月から11月にかけて停車スポットでの荷物の集荷・配送実証や、専用サイトから注文された商品をロボットで停車スポットまで運ぶ実証などを進めている。
この取り組みの中で、冒頭の複数台遠隔監視・操作の取り組みにも着手したようだ。ロボットは、最新の第4世代モデル「X3 PLUS」が導入されている。
【参考】石狩市における2022年度の取り組みについては「LINEが活躍!自動配送ロボのお届け通知で使用 北海道で実証」も参照。
千葉市では移動販売も
KCCSはこのほか、千葉県千葉市が2021年度に公募した「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実証業務委託」事業にも採択され、新しいサービス展開に向けたサービス・技術実証も行っている。
2022年3月には、イオンスタイル幕張ベイパークの協力のもと、近隣の2棟のマンションの住人が同店舗で購入した商品を定時巡回するロボットに積み込み、マンションでまで配送する実証に着手した。
同年7月には、温冷蔵機能を備えたロボットによる移動販売サービスの実証にも着手している。ロボットの荷物積載部を商品販売モジュールに変え、冷たいドリンクやゼリーなどを公園やマンション、高齢者向け住宅などで販売した。
購入希望者は、車体に搭載されたタッチパネルを使って欲しい商品や個数を選択し、スマートフォンの電子マネー機能で決済する仕組みだ。無人ロボットを活用した移動販売の実証も国内初の取り組みという。
【参考】千葉市での取り組みについては「京セラ子会社が「ミニ無人コンビニ」!自動運転技術を活用」も参照。
最新モデル「X3 PLUS」導入?
KCCSが導入していると予想されるNeolixのロボット「X3 PLUS」は、スペック上は最高時速50キロを誇り、航続距離も200キロまで延長されている。バッテリー交換も30秒で可能という。モジュール式を採用しており、荷物配送用のコンテナ・ロッカーや商品販売、無人警備など、シナリオに応じてカスタマイズすることができる。
KCCSは、この多用途展開が可能なロボットを導入し、自社の通信技術などを掛け合わせてさまざまな取り組みを進めているイメージだ。国内初の無人自動配送ロボットによる車道走行、移動販売、フリート管理など、着実に技術やサービスの幅を広げているようだ。
■ミニカー規格の配送ロボットの情勢
ミニカーロボットはNuroやNeolixが先行
自動配送ロボットの開発において、現在主力となっているのは歩道を走行する小型タイプだ。時速6キロほどで歩行者などと協調してゆっくり走行する。
一方、KCCSが活用しているようなミニカー規格の車道走行モデルの開発を進める企業は意外と少ない。乗用車などと比べると小型ながら、歩道走行タイプの何倍もの積載量を誇り、法的には制限速度を満たしながら中距離を移動することができる。小回りが利き、車幅もスリムなため路肩に停車しても一般自動車の邪魔になりにくい。
玄関前までなどのピンポイントの配送は歩道走行タイプのほうが有利だが、複数利用者への配達や中長距離の移動、移動販売など多用途展開の面で有利だ。
こうした車道走行タイプのロボットは、Neolixと米Nuroが業界のトップランナーとして有名だ。Neolixは2022年開催の北京冬季オリンピックなどを契機に小型の「移動コンビニ」として多くの実績を積み重ねている。ただし、車道走行の実績については不明で、多くは公園内などを移動しているものと思われる。
ドバイなどでの展開も進んでおり、同社によると12カ国40以上の都市でロボットが稼働しており、すでに1,000台超を納入済みという。量産化に向けた工場も稼働済みだ。
【参考】Neolixの取り組みについては「ドバイで自動運転デリバリー開始へ 中国ベンチャー「Neolix」の車両採用」も参照。
一方のNuroは、小売り大手のWalmartやKroger、7-Eleven、宅配ピザ大手のDomino’s Pizza、レストランチェーンを展開するChipotle、薬局チェーン大手のCVS Pharmacy、物流大手のFedExとそれぞれパートナーシップを結び、カリフォルニア州やテキサス州などでサービス実証などを進めている。
2022年9月にはUber Technologiesと10年間の長期提携を結び、Uber Eatsのプラットフォームにロボットを導入していく計画を発表している。
第3世代に当たる最新ロボット「Nuro」は、最高時速72キロまで速度を上げることが可能で、前面に歩行者向けの外向けエアバッグを備えるなど独自の進化を遂げている。混在交通下を円滑に走行するためのスペックを充実させている印象だ。
【参考】Nuroの取り組みについては「Nuroの自動運転戦略(2023年最新版)」も参照。
このほか、中国のWhale Dynamicもミニカー規格の自動運転配送ロボットの開発を進めている。SLAM技術開発を手掛ける日本のKudanとパートナーシップを結んでおり、今後の動向に注目の1社だ。
【参考】Whale Dynamicの取り組みについては「打倒Nuro!中国のWhale Dynamic、自動配送ロボで米市場に照準」も参照。
エストニアのClevonもミニカー規格のロボットを開発し、ケンタッキーフライドチキンとのパートナーシップのもとフードデリバリーサービスの実証などを進めているようだ。
同社のロボット「CLEVON 1」は高さ1,550×幅1,150×長さ2,500ミリで、最高時速52キロのスペックを誇る。
【参考】Clevonの取り組みについては「自動運転で無人配送、ケンタッキー(KFC)が北欧エストニアで実現」も参照。
■【まとめ】KCCSの取り組みは先進的、国内開発勢の動向にも注目
先行するNuroと比較すると、KCCSによる日本国内での取り組みは大きく後れを取っていると言えるが、こうしたミニカー規格のロボット・自動運転車は完全オリジナル車両となるため、自動車ベースの自動運転車のように簡単に保安基準を満たすわけにもいかず、車道走行に向けたハードルは高い。ゆえに、Nuroを除くと世界的に車道を走行するサービス実証はそこまで進んでいない。
こうした背景を踏まえると、車道を自律走行するKCCSの取り組みは、国内はもとより世界的にも先行勢に入るのではないだろうか。
今後、実証を加速するには、ヤマト運輸やセコマのような宅配事業者や小売事業者とのパートナーシップが重要になってくるものと思われる。
また、こうしたミニカー規格の配送ロボット開発に着手する国内開発勢が今後登場するかも興味深い。自動運転タクシーに比べれば実用化しやすく、自動運転バスに比べロットを稼ぐことができる。こうした動向にも注目したい。
【参考】関連記事としては「自律走行ロボットの種類は?(2023年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)