佐川急便、「関東〜関西間」から自動運転トラック導入 有人・無人を切り替え運用へ

高速道路直結のスマート物流拠点がカギ?



国の新たな指針となるデジタルライフライン全国総合整備計画の策定が進められている。自動運転やAI(人工知能)をはじめとしたイノベーションを線・面で社会実装し、デジタルとリアルの融合を図っていく取り組みだ。


自動運転関連では、レベル4導入に向けた議論が本格化し、早期着手するアーリーハーベストプロジェクトの中に高速道路に自動運転車用レーンを設定する事業も盛り込まれた。物流トラックなどを中心に、A-B地点間の無人走行実現を目指す。

こうした動きを背景に、物流事業者も自動運転技術導入に向けたビジョンを徐々に明かし始めた。宅配業大手の佐川急便は、高速道路におけるレベル4自動運転トラックの初期実現時、有人・無人の自動運転を切り替え、拠点間をつなぐオペレーションを想定しているようだ。

佐川急便はどのような実現イメージを描いているのか。デジタルライフライン全国総合整備計画の概要とともに自動運転の将来ビジョンに迫っていく。

■佐川急便が描く実現イメージ
高速道路直結のスマート物流拠点がカギ

佐川急便は、2023年9月に開催された第2回デジタルライフライン全国総合整備実現会議の中で、レベル4トラックに対する物流事業者としての検討状況を発表した。


プレゼン資料によると、実現イメージとして関東〜関西の物流拠点間の幹線輸送を自動運転物流の初期対象に据え、段階的に全国へ拡大させていくとしている。

▼2023年9月15日 <ご説明資料> 佐川急便株式会社|第2回デジタルライフライン全国総合整備実現会議
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/digital_architecture/lifeline_kaigi/dai2_0915/pre18_siryou_sagawa.pdf

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

高速道路に直結した物流拠点は限定的であるため、初期においては高速SA・PAやIC最寄りに「切替エリア・基地局」が建設され、この拠点で有人と無人の運転を切り替えて拠点間をつなぐオペレーションを想定しているという。

例えば、倉庫などの荷役場から高速道路に直結した物流施設までドライバーが手動運転で輸送し、物流施設からは無人のトラックが高速道路を走行する。配送先に近い高速道路直結の物流施設に到着したら、再度ドライバーが手動運転で一般道を走行する――といった感じだ。


ドライバーはエリアごとに切り替えても良いし、高速道路移動中に乗車したまま休憩することもできる。ドライバーの負担を軽くすることができそうだ。

実現に向けた課題としては、「最終ゴールを想定したインフラ整備(道路・切替、中継施設・遠隔支援など)」「足並みを揃えた環境整備、法制度」「車両開発、物流事業者が手の届く車両価格帯」を挙げている。

中継施設となる高速道路に直結した物流拠点は、インフラ整備とともに遠隔監視などに適した通信設備なども整え、スマート物流拠点となることが望ましい。関係事業者のみならず、国やNEXCOなどもしっかりと交え、協調領域として計画的に各地に基幹施設を設置できるような体制が求められるところだ。

【参考】スマート物流拠点については「T2と三菱地所、レベル4自動運転トラックの物流網構築へ」も参照。

ドローン物流やラストマイル配送も研究

このほか、佐川急便はドローン物流に関しても検討を進めている。平時は物流で使用し、災害発生時には現場の情報収集から緊急物資輸送に至る地域密着型の利活用を想定しているようだ。共同配送や他の輸送モードとの連携が有効で、過疎地域などにおける配送は共同配送の形で1社に集約することなども想定しているようだ。

一般道における自動運転に関しては、佐川急便は2020年、EV開発を手掛けるASFと小型EV(電気自動車)の共同開発及び実証を開始すると発表している。車両は軽自動車規格のキャブバンタイプを予定しており、将来的な自動運転も視野に入れた開発を目指すとしている。

また、同年にはソフトバンクとともに国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」に応募し、採択されている。

東急不動産やアスクル、MagicalMoveなどの協力企業と連携し、東京都内の竹芝エリアで自動走行ロボットによる配送サービス実現に向けた実証を行っている。

高速道路を活用したミドルマイル輸送やこうしたラストマイル輸送、ドローン輸送などを将来どのように連動させていくのか、今後注目が高まっていくことになりそうだ。

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
■デジタルライフライン全国総合整備実現会議
先行地域に新東名高速や日立市を選定

デジタルライフライン全国総合整備実現会議では、早期実現を目指すアーリーハーベストプロジェクトとして取り組む「ドローン航路」「自動運転支援道」「インフラ管理DX」についてそれぞれワーキンググループを設置し、議論を加速させている。

自動運転支援道は、自動運転による自律走行の安全性を高める運行環境の提供や、運行リードタイムを低減する仕組みに加え、走行データの共有やヒヤリハット情報の蓄積などを行い、開発を加速するためのテスト走行が可能な道路と位置付けられている。

早期着手する先行地域としては、高速道路は新東名高速道の駿河湾沼津SAから浜松SA間までの6車線区間、一般道は茨城県日立市の大甕駅周辺を選定し、2024年度から車両検知センサーやカメラ、安全かつ円滑に走行するために必要な情報提供システム、自己位置特定精度向上のための環境整備安定した通信環境整備などを進めていく計画となっている。

ひたちBRTの自動運転実用化が加速?

日立市では、廃線跡をバス専用道として再整備したBRT(バス・ラピッド・トランジット)路線が開通しており、国の事業のもと、この道路を活用して先進モビリティやみちのりホールディングス、茨城交通らがレベル4自動運転サービスの実証を進めている。

予定では、専用道内におけるレベル4の運行許認可を2023年度内に取得し、2024年度に乗務員付きのレベル4車両による定常運行を開始するとしている。

今後、新たな実証を交えながらどのように自動運転走行の精度・安全性を向上させていくのか、また横展開可能な技術を確立していくのか、要注目だ。

【参考】ひたちBRTの取り組みについては「ひたちBRTで自動運転バスの実証実験!2022年以降に商用運行目指す」も参照。

高速道路は6車線区間から

高速道路においては、新東名高速道路のほか、2025年度以降には東北自動車道の6車線区間の一部への導入も見据えている。まずは一般車両の走行を妨げにくい6車線区間から実用化を図っていく構えだ。

中日本高速道路(NEXCO中日本)によると、新東名高速道路の駿河湾沼津SA~浜松SA区間では、深夜時間帯に自動運転車用レーンを設定する。同区間は交通容量が大きく、東名高速道路と比較してICや休憩施設などの分岐・合流も少ないという。

自動運転車用レーンは、緊急時の路肩停車などを考えた場合、左端の第1走行レーンが有力と考えており、今後関係機関と協議したうえで決定する。自動運転車用レーンが備えるべき機能については、自動運転車両の開発・普及状況を踏まえながら検討していく必要があるとしている。

まずは6車線区間から――という方針だが、全国的に見れば6車線区間はごく一部にとどまる。既存の2車線、4車線区間を6車線化する余力は土地的にも財政的にも現実的ではないため、6車線区間での実証によって安全性や効率性などをしっかりと確立し、かつ社会受容性を向上させながら4車線区間などへの拡大を図っていく必要がありそうだ。

隊列走行や自動運転オーナーカーへの対応も必要に

また、実用化が始まっているオーナーカー向けのレベル3や、開発が進められているトラックの隊列走行、レベル4オーナーカーへの対応も求められることになる。レベル3同様、レベル4オーナーカーもまずは高速道路をODD(運行設計領域)とするケースが多いものと思われるが、こうしたオーナーカーの自動運転にも対応可能な交通インフラシステムの構築が必要となりそうだ。

■【まとめ】開発各社が協調可能なインフラシステム構築を

自動運転の社会実装をインフラ面から後押しするプロジェクトにより、全国津々浦々で通用する支援システムを確立し、自動運転サービスなどの普及を大きく加速させていく狙いだ。

自動運転開発各社のシステムとしっかり連携できるよう、なるべく早期に要件を見定め、各社が協調した開発を進められる環境を整えてもらいたいところだ。

2023年度末までにデジタルライフライン全国総合整備計画が策定されるとともに、自動運転をはじめとした次世代交通の指針となる新たな「モビリティロードマップ」も策定される予定だ。これらの発表時にはより具体化された事業計画が明かされるものと思われる。こちらの動向にまずは注視したい。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「自動運転支援道、茨城県日立市の一般道で「先行導入」へ」も参照。


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