どうせ無くなるライドシェア、菅氏の「解禁論」は遅すぎた?

米中ではライドシェアの自動運転化が加速



出典:首相官邸

オーナーカーを活用したライドシェア解禁に向けた動きが再燃しそうだ。菅義偉前首相が地方講演の中でライドシェア解禁に向けた議論の必要性に言及した。

過去、国会を含めさまざまな場面で議論が繰り広げられながらも、業界団体の反発や安全性への危惧を背景に国は「禁止」の姿勢を崩さなかった。


依然として影響力のある菅前首相が発言したことで情勢は変わるのか。ライドシェアをめぐる動向に迫る。

【参考】関連記事としては「ライドシェアとは?(2023年最新版)」も参照。

■ライドシェアとは?
本来のライドシェアは「相乗り」

ライドシェアを直訳すると「ライド=乗る」「シェア=共有」となる。乗車を共有すること、つまり「相乗り」の観念が本質にあるのだ。この相乗りは、乗客同士はもちろん、運転手と利用者間における乗車の共有も含む。

古くは、目的地が同じ方向の人が同じ車両に乗りあうような純粋な相乗り(カープール)が主体だったが、スマートフォンの登場により、乗せたい人と乗りたい人をマッチングするサービス(TNCサービス型)が人気を集め始めた。UberやDiDiが代表例だ。


出典:ウーバー社メディア向け資料
ライドシェアの概念が「自家用タクシーサービス」に

TNCサービスにおいても、本質は同一方向に向かう人が相乗りすることに変わりはないが、自身の目的地と関係なく利用者の目的地へクルマを走らせ、小遣いを稼ぐギグワーカーが殺到することとなった。実質上、タクシーと同等のサービスを提供する形で主流となったのだ。

現在では、このタクシー同等のサービスがライドシェアの代名詞存在となり、自家用車を活用した「白タク行為」として日本では厳格に禁止扱いとなり、取り締まりの対象となっている。

■日本におけるライドシェアの動向
Uberの実証は「白タク行為」に認定

日本では、Uberが2015年、福岡県福岡市でライドシェア実証を行ったところ、白タク行為にあたるとして国土交通省から指導が入った。国により明確に否定された格好だ。

では、日本ではライドシェアは完全に否定されているのか?――と言えば、そうではない。条件付きで自家用車による有償旅客運送を認める「自家用有償旅客運送制度」がある。


自家用有償旅客運送で条件付きライドシェアは可能に

2006年の道路運送法改正によって制度化されたもので、公共交通が不足している地域において住民の移動手段を確保する目的や福祉目的であれば、市町村やNPO法人など一定の組織が主体となって自家用車による有償運送を行うことができるとする内容だ。2016年には、地域住民以外に観光客も対象に加わっている。交通空白地における観光客の移動もサポート可能になった。

地域における関係者間の協議や道路運送法に基づく登録が必要で、誰もが自由に行えるものではなく、かつ利用者から収受する対価についても、運送に要する燃料費や人件費などの実費の範囲内である必要がある。

利益を出してはいけないわけではないが、営利目的は認められていない。営利目的であれば、事業者として許認可を受け、真っ向から事業化すればよいためだ。

Uberの場合、プラットフォーマーとしてのUberも運転手となるギグワーカーも基本的に営利目的であるため、白タク行為とみなされたのだ。

日本版ライドシェア導入に向けた提言も

公益社団法人経済同友会は2020年1月、「『日本版ライドシェア』の速やかな実現を求める―タクシー事業者による一般ドライバーの限定活用―」と題した政策提言を発表した。需要が供給を上回る時間帯に限って一般ドライバーによる有償旅客運送を認める「日本版ライドシェア」導入を呼びかける内容だ。

需給バランスを崩さない範囲で道路交通法第86条と道路運送法第78条の適用を除外し、タクシー事業者による第一種運転免許保有者と自家用車の活用を解禁することで、柔軟にドライバー不足の解消を図っていくとしている。

コロナ禍の業界縮小、その後の需要急拡大で需給バランスが崩れる

一部でライドシェア待望論が過熱する一方、タクシー業界の反発や安全性への懸念などが払しょくされず、結果としてライドシェア導入に向けた動きは前進しなかった。

ではなぜ、ここにきてライドシェア解禁論が再燃しようとしているのか。その背景には、新型コロナによる影響がありそうだ。

行動自粛を余儀なくされたコロナ禍においては、タクシーの稼働効率が著しく減退した。国土交通省によると、1台1日当たりの運送収入は、2019年度の3万1,448円から2020年度2万4,414円、2021年度2万6,416円と大きく減少した。これに伴い、タクシードライバー数も2割ほど減少したようだ。

しかし、コロナが5類感染症に移行された2023年度、国民の移動の活発化とともにインバウンドも大きく回復し始め、都市圏を中心にタクシー供給不足が顕著になり始めた。あちこちのタクシー乗り場で長蛇の列が見られるようになった。

菅前首相は、こうした現状を考慮しライドシェア導入に向けた議論の必要性について言及したようだ。自民党内などで実際にどのような形で議論が行われるかなど不明だが、議論が前進する可能性は高そうだ。

■ライドシェア解禁の是非
独自ルール模索で導入はあり?

仮にライドシェアを解禁するにしても、海外と同様のルールを適用する必要はない。経済同友会の提言然り、あるいはドライバーに2種免許取得を義務付けたり、特定の保険加入を義務付けたり、登録制を厳格化したり、1カ月当たりの稼働時間を制限するなどし、しっかりと管理下に収めたうえで安全性を担保できる方式を導入することなどが考えられる。

本業的に従事したい人は、タクシー業界と同様の許認可を受ければよい。あくまで需給調整の範囲内で、営利性をやや抑える形で導入するなどさまざまな手法が考えられる。

合わせて、タクシー業界に課せられた規制も再考していけばよい。緩和することによるメリットとデメリットが、業界や利用者にどのような影響を及ぼすかをしっかりとシミュレーションし、将来に向けた継続性を担保していく必要がある。

自動運転タクシー導入で全てが覆る?

ライドシェア導入に向けた議論をあおってきて手の平を返すようで申し訳のない次第だが、そもそも論として、将来こうした議論は無駄になるかもしれない。なぜならば、自動運転タクシーが本格普及する時代が遅かれ早かれ到来するからだ。

自動運転タクシーはドライバーを必要としないため、増大する移動需要を満たすには台数を増やすだけで対応できる。大きなコストとなる人件費を圧縮し、かつドライバー不足に悩まされることなくサービスを提供できるメリットは非常に大きい。

代わりに運行管理体制が重視されることになるが、自動運転技術が大きく前進すれば、不使用時の自家用自動運転車にタクシー運行を行わせることも可能となってくる。その意味では、ライドシェアは「自動運転タクシーが普及するまでのつなぎのサービス」と言えそうだ。

もちろん、自動運転タクシーが従来の手動運転タクシーと同等レベルのサービスを提供するには、相当の期間を要するものと思われる。日本の狭く入り組んだ道路まで全てに対応するには時間を要するのだ。

それゆえ、しばらくの間は手動運転タクシーと自動運転タクシーが共存することになる。自動運転タクシーは特定のエリア内、特定のルートなどに限定する形でサービスを提供し、よりきめ細かなサービスを望む人には従来通り手動運転タクシーが対応する――といった感じだ。

ライドシェアの是非を問う議論は、目先の未来ではなく、自動運転技術が普及するだろう未来を踏まえた上で進めたほうが良い――という話だ。

UberやDiDiらが自動運転タクシー導入を加速

海外では、ライドシェアサービスの代名詞的存在である配車サービス大手Uberが自動運転技術の導入に積極的だ。

もともとは自社開発を進めていたが、紆余曲折を経て開発部門は他社(Aurora Innovation)に売却し、現在はAurora InnovationをはじめWaymoやMotionalなど開発各社とパートナーシップを交わし、サービス実証などを加速させている。

【参考】Uberの動向については「Uber、いよいよ「自動運転化」を本格化!ライドシェア&配達で」も参照。

中国配車サービスの雄・Didi Chuxing(滴滴出行)は、2020年に上海で自動運転タクシーの公道実証に着手した。2023年3月には広州市花都区で有償サービスも開始しており、現在のフリートは200台規模まで拡大している。

2025年までに量産型自動運転タクシーを自社プラットフォームに導入する計画を発表しており、取り組みをいっそう加速していく構えだ。

■【まとめ】「タクシー」の在り方そのものの再考が求められる時代に

現実問題としては、自動運転タクシーの本格導入にはまだまだ時間を要するため、純粋にライドシェア導入に向けた議論が進められることとなりそうだ。

タクシー業界も鋭意改革を進めているが、世論に左右される面も大きく、今後は反発するだけではライドシェア解禁を阻止できない可能性がある。遠い将来の自動運転時代を見据え、「タクシー」というモビリティの在り方そのものを再考していかなければならないのかもしれない。

【参考】関連記事としては「「日本はライドシェア禁止」は嘘だった!」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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