自動運転宅配の前哨戦!イオンの新ECスーパー、真の「勝負どころ」は?

英企業の技術で倉庫業務を効率化



出典:イオンプレスリリース

イオンネクストは2023年7月、最先端AI(人工知能)やロボティクスをはじめとしたデジタル技術を活用したオンラインマーケット事業「Green Beans(グリーンビーンズ)」を本格稼働させた。イオングループが次世代ネットスーパー事業に本格着手した格好だ。

今後右肩上がりの成長が想定されるECスーパー。付随して、ミドルマイルを担う自動運転トラックラストマイルを担う自動配送ロボットなどの導入・活躍も見込まれるが、倉庫業務などを含めロジスティクスやサプライチェーン全体を通した自動化・効率化が強く求められる。


この記事では、イオンの取り組みを例に自動運転時代に向けた「勝負どころ」について解説する。

■イオンの取り組み
英Ocadoグループと提携、倉庫業務のオートメーション技術などを導入

イオンは2019年、ネットスーパー事業を手掛ける英Ocadoグループ子会社と日本国内における独占パートナーシップ契約を締結した。

OcadoはAIとロボットを駆使した最先端の顧客フルフィルメント・センター(中央集約型倉庫)と精緻な宅配システムを独自に確立し、そのノウハウを「Ocado Smart Platform」として小売業者に提供するビジネスも展開している。

イオンはこの提携を契機に、デジタルやAI、ロボティクス機能の強化を目的とした新会社を設立し、2023年に顧客フルフィルメント・センターの第1号を稼働させるとしている。この計画のもと設立されたのがイオンネクストだ。


50点の商品を約6分間でピックアップ
出典:イオンプレスリリース

イオンによると、顧客フルフィルメント・センターはセンター内に約5万点の商品を揃えることが可能で、ロボットとAI技術によって24時間稼働や効率的なピックアップを実現する。

また、Ocadoのソリューションを活用することで、センター内のロボットは50点の商品を約6分間で処理することができるほか、最先端のAIアルゴリズムによって常に最適な配送ルートを導き出し、効率良く利用者に商品を届けることができるという。

千葉県千葉市に完成した第1号の顧客フルフィルメント・センターでは、最大1,000台のロボットが秒速4メートルで移動し、最大約5万品目の商品の中から6分間で50個の商品をピッキングする。ピッキング時においても、重いものや固いものを先にピックアップするプログラムや、常温、冷蔵、冷凍の順にピックアップするプログラムが実行され、商品の破損や劣化などを防ぐ。

配送ルートは注文が入った段階でルート計算を行う。同地域の利用者がどれくらいの商品を購入し、どのように配車するのが最も効率的かをAIが判断する。


交通量や時間帯といった道路状況やドライバーの休憩時間、1件ごとの利用者の注文サイズや温度帯など含め、AIが1秒間に1,400万通りを計算することで配送効率を上げ、受注を最大化する。

配送は、イオンと物流大手SBSグループのジョイントベンチャーでイオンネクスト子会社のイオンネクストデリバリーが直営する。

出典:イオンプレスリリース
生鮮品の配送も可能に

新たなEC「グリーンビーンズ」は、豊富な品揃えはもちろん、フレッシュな状態をキープできる生鮮品の取り扱いを武器にしている。

徹底したコールドチェーンによる高い鮮度管理により、配達から1週間の鮮度保証を行うという。配達時間も午前7時から午後11時まで1時間単位で指定できる。配送料は時間帯によって330円から550円の間で変動する。

配送エリアは現在東京都と千葉県の一部地域などに限られているが、今後1年をめどに東京23区全域へ拡大していく予定という。

■自動運転時代のEC
輸送のみならず倉庫のスマート化も必須

今回のイオンの取り組みは、自動運転時代の前哨戦と言える。自動運転配送の導入そのものに踏み込んではいないものの、ネットで注文を受けた段階でさまざまな条件を踏まえながら即座に配送ルートを選定し、直営でスムーズかつ柔軟な配送を実現する点や、倉庫におけるピッキングを自動化・最適化している点など、自動運転配送に至る前段階までの工程を自動化・スマート化しているのだ。

自動運転技術が本格導入される時代が到来すれば、物流におけるモノの輸送の無人化も本格化する。納品業者から物流センター、物流センターから中継地点となる各地の配送拠点、配送拠点から各戸――の各輸送において、それぞれ適した自動運転車・ロボットを導入し、無人化を図るのだ。

ただし、その前段階となるECのスマート化や、商品の納入・保管・出庫といった倉庫業務のスマート化を図らなければ、配送無人化の効果は半減する。

倉庫内で商品を自動で所定の場所に収納したり、注文を受けた商品を自動でピッキングしたりする自動搬送システムをはじめ、在庫状況などをリアルタイムで把握・分析する管理システムの導入など、倉庫業務の無人化・効率化を図ることで、ECに代表されるB2Cビジネス全体を無人化・省コスト化・最適化していくのだ。

ピッキングから梱包、そして自動運転トラックや自動配送ロボットへの積み込みまでを無人化できれば大きな進歩となる。初期投資は大きくなるものの、人件費を圧縮することで事業に継続性が生まれる。

【参考】倉庫業務の自動化については「自動×自動!ピッキングロボと自律走行ロボが連携、倉庫省人化に貢献」も参照。

クイックデリバリーやクイックコマースが各地に誕生?

今後、新たなムーブメントとなり得るのがローカルECだ。各地のスーパーやコンビニなどを拠点に、全国ではなく比較的狭いエリアを対象に注文を受け、配送するサービスだ。

例えば、毎日のように足を運んでいる食品スーパーがインターネット注文、つまりECを導入したとする。近隣に住む利用者は、パソコンやスマートフォンから通常のECを利用するのと同様に注文すると、配送拠点のスーパーから即日、あるいは指定日などにすぐに商品が届けられる仕組みだ。

クイックデリバリーやクイックコマースを可能にしている点がポイントとなる。配送拠点から注文先となる各戸までラストマイルのみの輸送で対応可能なため、足がはやい生鮮品なども取り扱うことができる。今回のイオンも、サービス提供エリアを東京圏にしぼることでローカルEC化し、さまざまな商品を柔軟に配送可能にしているのだ。

イオンの今回の顧客フルフィルメント・センターはEC専用だが、同社は現在八王子で顧客フルフィルメント・センターを有する次世代型複合商業施設の出店を進めている。実店舗とオンライン店舗を融合したような形だ。

こうした実店舗+オンライン店舗形態は、リアルタイムの在庫管理もカギとなる。実店舗とオンラインで在庫を共有していた場合、実店舗で売れた商品が即座にEC連動型の在庫システムに反映されなければ、売り切れ状態の商品の注文を受けてしまいかねないためだ。

【参考】在庫即反映システムについては「自動運転デリバリーの前哨戦!店舗DXで「在庫即反映」を実現せよ」も参照。

ルート最適化システムも重要

ラストマイルの配送需要が増大すれば、ルート最適化システムの重要性も大きく増してくる。当面は人間のドライバーが配達するケースが多数を占めることとなるが、複数の配達先を効果的かつ効率的に回ることは重要だ。

自動運転技術の導入後も同様だ。当初は歩道を走行する自動配送ロボットが主流になると思われるが、ロボットは走行距離や積載量に限りがあり、徐々に需要を受けきれなくなる。

サービス提供エリアの拡大を踏まえ、徐々に車道を走行する自動運転車両の導入も進んでいく可能性が高い。こうした車両は、従来同様複数の配達先をめぐることになる。ロボットと自動運転車を効果的に使い分けながら配達業務を最適化するシステムが求められることになりそうだ。

【参考】ルート最適化システムについては「ルート最適化システム、市場拡大の予兆 日本郵便でも試行導入拡大」も参照。

■【まとめ】イオンの取り組みが将来のECスーパーの模範に

将来のEC領域では、コストや労力の観点からどこまで無人化・効率化を図ることができるかが勝敗のカギを握る。自動運転技術の導入をはじめ、あらゆるフェーズで自動化を模索していかなければならないのだ。

その意味で、今回のイオンの取り組みは自動運転時代に向けた模範となり得る。現時点で自動運転配送には言及していないものの、遠からず技術導入に向けた実証にも着手する可能性が高い。引き続き今後の動向に注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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