佐藤恒治社長による新体制に移行したトヨタ自動車。新年度早々に社外向けの新体制方針説明会を開くなど、新生トヨタに向けた広報活動にも力が入っている様子だ。
一方、その裏では、社内の従業員向けにも方針説明が行われたようだ。同社のオウンドメディア「トヨタイムズ」によると、説明の後QAセッションを行い、従業員からの「直球質問」一つひとつに応じたようだ。「究極のモビリティはどこでもドア」……といった主旨の質問なども飛び出している。
どのような受け答えが行われたのか。興味深い質疑応答をピックアップし、紹介していこう。
なお、QAセッションには佐藤社長をはじめ、中嶋裕樹副社長、宮崎洋一副社長、サイモン・ハンフリーズCBO(チーフブランディングオフィサー)、長田准CCO(チーフコミュニケーションオフィサー)、新郷和晃CPO(チーフプロダクションオフィサー)が参加したほか、北米本部の小川哲男本部長、中国本部の上田達郎本部長も中継で参加している。
▼従業員から経営陣へ直球質問 NGなし、忖度なしの一問一答|トヨタイムズ
https://toyotatimes.jp/toyota_news/new_management_policy/003.html
記事の目次
- ■Q:皆さんにとって理想のモビリティというのは何か。究極のモビリティとして、「どこでもドア」のような動かないこと、オンラインでのトークもモビリティの一種ではないかと思うが、そういう中で実体のあるクルマをつくっている。「究極のモビリティ」とはどういったものか?
- ■Q:海外(戦略)について今後の方向性を伺いたい。継承と進化の観点で、進化の部分に関して、今までとの違いや今後力を入れていくところがあれば教えていただきたい。
- ■Q:去年はクラウン、プリウスととてもワクワクしたクルマが出てきたが、今年も来年もワクワクできるクルマは出てくるか?
- ■Q:いくらでもお金を使ってよいなら、どんなクルマをつくりたいか?
- ■社外向けの新体制方針説明会
- ■【まとめ】全方位からモビリティの可能性を追求
■Q:皆さんにとって理想のモビリティというのは何か。究極のモビリティとして、「どこでもドア」のような動かないこと、オンラインでのトークもモビリティの一種ではないかと思うが、そういう中で実体のあるクルマをつくっている。「究極のモビリティ」とはどういったものか?
中嶋副社長:人や物や情報がボーダレスで動いていくということ。このMoveがモビリティだと認識している。
佐藤社長:すごく根源的な質問でブスっと刺さった。動いているのは自分じゃない時代が来るかもしれない。環境のMoveというものをモビリティの概念の中で考えたらどうか――という投げかけだと思うので、ぜひ一緒に考えたい。
――これは興味深い考え方だ。多くの場合、第一人称視点で人やモノなどをいかに移動するか?といった思考に支配されがちだが、モビリティの可能性はそれにとどまらない。
例えば、近所に美味しいラーメン屋があったとする。食べたい場合、徒歩や自転車などで店まで移動することが基本となるが、ラーメン屋がデリバリーサービスを始めた場合、選択肢が増える。自らが動くことなく、ラーメンを移動させることが可能になるからだ。
こうした考え方を発展させていくと、物理的なモノなどの移動を伴わないサービスもモビリティに含まれてくるのかもしれない。例えば、観光地の雰囲気をVR(仮想現実)やAR(拡張現実)技術で疑似体験するサービスだ。仮想データによる「体験」を移動させている――と捉えることができる。
移動そのものを代替するようなこうしたサービスもモビリティ領域として捉えることで、モビリティの可能性が大きく広がっていくことは間違いなさそうだ。
■Q:海外(戦略)について今後の方向性を伺いたい。継承と進化の観点で、進化の部分に関して、今までとの違いや今後力を入れていくところがあれば教えていただきたい。
宮崎副社長:「Mobility for All」と言っておきながら、カバーできていない方々がまだいろんなところに残っているのが実態。まだまだやり残しているエリアがいっぱいあるため、今後モビリティ・カンパニーへの変革に向けチャレンジしていきたい。
小川本部長:「Mobility for All」の「All」の部分がまだまだ。北米で取り組んでいるところとしては、ロボットタクシーやJobyも西海岸にあり、トライする領域はまだまだある。
――全ての人に移動の自由を提供する「Mobility for All」は、永遠のテーマであり、永遠の課題のように思われる。これをスローガンに掲げるトヨタだが、ただの飾り言葉にすることなく、真正面から取り組んでいこうとする姿勢がうかがえる。
この課題解決に近付く手段の1つが、小川本部長が言及した自動運転をはじめとする次世代モビリティだ。
ロボタクシーに関して、トヨタ自らがどこまで取り組みを進めているかは明かされていないものの、トヨタは北米でロボタクシー用途のモビリティ「シエナAutono-MaaS」の開発を進めており、May MobilityやAurora Innovationといったパートナーが活用を進めている。
【参考】Aurora Innovationの取り組みについては「Aurora Innovation、自動運転の年表!トヨタやボルボとの協業も具体化」も参照。
【参考】May Mobilityの取り組みについては「トヨタの自動運転用シエナ、初の商業利用か!米May Mobilityが発表」も参照。
シエナAutono-MaaSは当初、配車サービス大手Uber Technologiesの自動運転開発部門が最初に導入する見通しだったが、これを買収したAurora Innovationが引き継いだ格好だ。Aurora Innovationはすでに自社開発した自動運転システム「Aurora Driver」とシエナを統合しており、実証を進めているものと思われる。
May Mobilityもすでに統合済みで、2022年9月に米ミネソタ州でオンデマンド配車サービスの商用実証を開始している。
一方、空飛ぶクルマ関連では、スタートアップのJoby AviationにToyota Venturesや未来創生ファンドから出資しているほか、eVTOL(電動垂直離着陸機)の開発・製造に向け協業を進めている。
【参考】Joby Aviationの取り組みについては「Joby Aviationとは?「空飛ぶクルマ」で世界をリード」も参照。
今のところ車体を中心としたハード面の開発が目立っているが、北米ではTRI(Toyota Research Institute)、国内ではウーブン・バイ・トヨタを筆頭に先端技術の開発を進めている。
病院内でモノを運ぶ生活支援ロボットや自動運転移動カフェのコンセプトモデルなど、トヨタが研究を進めているモビリティは非常に多岐にわたる。その一つひとつが「Mobility for All」へとつながっていくのだろう。
■Q:去年はクラウン、プリウスととてもワクワクしたクルマが出てきたが、今年も来年もワクワクできるクルマは出てくるか?
サイモンCBO:〇〇(車名)が今年出る。〇〇(車名)も出る。これもカッコいい。あとは…。
――言ってよいだろう範囲を超え、次々と車名が飛び交ったようだ。すでにレクサス「LM」やクラウン「スポーツ」「セダン」の年内発売、bZシリーズの新モデルを2024年に中国展開……といった計画が公表されているが、さらなる計画が水面下で進んでいるものと思われる。
レベル2+搭載車種をはじめ、サプライズとなりそうなレベル3搭載車種は出てくるのかなど、気になるところだ。
■Q:いくらでもお金を使ってよいなら、どんなクルマをつくりたいか?
佐藤社長:本当に自分が愛してやまない、操る感覚にすごく従順に応えてくれるクルマを作ってみたい。
長田CCO:佐藤さんと中嶋さんにお願いしたい。オープンカーを作ってほしい。
――最後はクルマ好き同士の雑談のようなノリとなった印象だが、前社長の豊田章男氏同様、本当のクルマ好きだからこそワクワク感があふれるクルマを作れるのだろう。
■社外向けの新体制方針説明会
カーボンニュートラルと移動価値の拡張を柱に
社外向けの新体制方針説明会では、「カーボンニュートラル」と「移動価値の拡張」を柱に据えた「トヨタモビリティコンセプト」について発表した。
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、プラクティカルに電動車の普及を進めるとともにハイブリッドの販売強化やプラグインハイブリッドの選択肢を増やしていく。また、水素社会の実現に向け、水素エンジンの開発をはじめとしたプロジェクトを加速し、全方位に取り組んでいく。
「移動価値の拡張」は、クルマの未来を変えていくもうひとつのテーマという。電動化、知能化、多様化が進んでいくこれからのクルマは社会とつながった存在になる。
ヒトの心が動く、感動するという「MOVE」や、ヒトやモノの移動に加えエネルギー、情報の「MOVE」を取り込み、データでひとつにつながっていく。
その結果、他のモビリティと連動したシームレスな移動体験や、社会インフラとしてのクルマの新しい価値を提供できるようになっていくとしている。
【参考】関連記事としては「新生トヨタのスピーチ、「自動運転」は1回、「知能化」12回登場」も参照。
■【まとめ】全方位からモビリティの可能性を追求
車外向け、車内向けともに自動運転に具体的に言及する場面はなかったが、それは自動運転があくまで「手段」に過ぎないからだ。トヨタはもっと先の世界を広く見つめ、全方位からモビリティの可能性を追求しているのだ。
とは言え、どこかの段階で自動運転に深く言及する時は必ずやってくる。自家用車におけるレベル3、e-Paletteなど独自のレベル4サービス、あるいはパートナー企業によるレベル4サービスの本格展開……どの取り組みが真っ先に花を咲かせることになるのか、引き続き注目したい。
【参考】関連記事としては「トヨタと自動運転(2023年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)