自動運転、公道実証実験の道路使用許可基準(2023年最新版)

公道実証加速に向け基準を改定



警察庁は2023年4月、「自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準」の改訂版を発表した。


改正道路交通法の施行に伴い、遠隔型自動運転システムや特別装置自動車の公道実証が増加することが見込まれる中、手続き面を明示することで取り組みを加速させていく狙いと思われる。

どのような改訂が行われたのか。その中身を解説していく。

▼自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準(令和5年4月)
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/roadtesting/230403jidountendourosiyoukyokakijyun.pdf
▼概要
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/roadtesting/230403dourosiyoukyokakijyungaiyou.pdf

■自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準の経緯

「自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準」は、2017年発表の「遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準」をベースに適時改訂を加えたものだ。


自動運転実証における申請などに関する手続きを明確化することで開発事業者の実証を円滑にすると同時に、ばらつきが生じがちな各都道府県警察における対応の基準・指針としても効果を発揮する。

今回の改訂では、安全確保措置や許可期間などが変更されているほか、新たに高速自動車道における実証審査の基準なども設けられている。

出典:警察庁資料(※クリックorタップすると拡大できます)
■自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準の概要
遠隔型自動運転システムと特別装置自動車が対象

この基準の対象となるのは、遠隔型自動運転システムと特別装置自動車だ。

遠隔型自動運転システムは、緊急時などに備え遠隔に存在する監視・操作者が電気通信技術によって自動車の運転操作を行うことができるものを指す。一方の特別装置自動車は、通常のハンドル・ブレーキと異なる特別な装置で手動操作する自動車を指す。


これらは技術的な安全性が確立されておらず、「一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為」に該当するため、一般車道を走行するには道路使用許可を受ける必要がある。

出典:警察庁資料
許可に係る審査の基準

自動運転の実用化に向けた実証であり、管理者及び監視・操作者が実施主体の監督の下にあり、安全を確保するために必要な実施体制に係る資料を警察に提出していることが求められる。

実施場所や日時に関しては、実験車両の機能や交通状況を踏まえ、一般の道路利用者の通行に著しい支障を及ぼさないことが必要となる。遠隔型自動運転システムについては、使用する電気通信技術が原則途絶しない場所であることも必須となる。

最高速度の目安を20キロから緩和

走行時の最高速度は、交通状況や道路環境などを鑑みて十分な猶予をもって安全に停止できる速度とし、最高速度が実施計画に盛り込まれていることも求められる。以前は「時速20キロメートルを超えない速度」を想定していたが、この部分が「道路の規制速度で走行している通常の自動車の停止距離と同等の距離で停止することができる速度以下」に改訂されている。

なお、遠隔型自動運転システムにおいては、通信の応答に要する時間も考慮する必要がある。

安全確保に関する措置

安全確保面では、急病や停電など監視・操作が困難な状態となることを踏まえた安全対策を実施計画に盛り込まなければならない。例えば、他の監視・操作者が速やかに監視・操作を交代できる体制や、補助者が実験車両の緊急停止ボタンを押下することができるような措置を講ずることなどだ。

また、交通事故などに備え、警察官が必要に応じて実験車両の原動機の停止などをできるよう、原動機の停止方法その他実験車両が交通の障害とならないようにするための措置の方法に係る資料を事前に警察に提出しなければならない。

遠隔型自動運転システムにおいては、不具合などで遠隔操作が困難な状況時、実験車両が安全に停止した後に車両を安全に移動させる方法も実施計画に盛り込む必要がある。

保安要員が実験車両の運転者席に乗車する場合は、遠隔監視・操作者と当該保安要員の役割を明確にし、実施計画にその役割を明示するとともにそれぞれの役割をしっかり認識させなければならない。また、保安要員が手動運転する場合は、遠隔監視・操作者が車両を操作できない仕様にすることも求められている。

このほか、実験車両の前方・後方の見やすい位置に、自動運転の公道実証実験中である旨を表示することも必須とされている。

実験車両の構造

道路運送車両の保安基準を満たしていることをはじめ、乗客を乗せて走行することを予定している場合は、発生し得る状況を事前に予測し、急ブレーキがかかることがないようにするなど、乗客の安全に配慮した走行が可能であることが実施主体により確認されていることが求められる。

遠隔型自動運転システムは、遠隔監視・操作者が、映像や音によって通常の自動車の運転者と同程度に実験車両の周囲や走行する方向の状況を把握できるものであることや、通信の応答に要する時間が想定時間を超えた場合、自動的に実験車両が安全に停止するものであること、遠隔監視・操作者が映像によって車両内の状況を常に把握でき、必要に応じて車内外にいる者との間で音声通話をするための機器を有することなどが必要となる。

1人が複数台を監視・操作する遠隔型自動運転システムの審査の基準

実施場所において、遠隔型自動運転システムによる1対1の実証が実施済みで、安全走行が確認されていることが必須となる。

同時監視・操作する車両を増やす際は原則として1台ずつ増やすこととし、都度新たな実証として道路使用許可申請を行う。

システム面では、遠隔監視・操作者が映像や音によってすべての実験車両の周囲及び進行方向の状況を同時に把握できるものであり、特定の車両を遠隔操作時、他の車両の監視・操作が困難となることを踏まえた安全対策を実施計画に盛り込む必要がある。

高速道路で遠隔型自動運転システムの公道実証実験を行う場合の審査基準

実施場所において、警察庁が示す「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」に従った実証を実施済みで、安全走行が確認されていることが求められる。

実証中は、保安要員を実験車両または実験車両の前後を走行する誘導車両に常に乗車させなければならない。また、実施主体は道路管理者と事前協議し、実証時の走行方法や交通事故発生時の対処要領を含む実施計画の内容について必要な助言を受け、同意を得る必要がある。

また、実施計画には、故障などにより本線車道において運行できなくなった際、保安要員が停止表示器材を表示して速やかに車両を本線車道外の場所に移動するために必要な措置や、通信遅延などの影響が最小限となる対策を盛り込まなければならない。

【参考】関連記事としては「自動運転と法律・ガイドライン」も参照。

許可期間

許可期間は原則として最大6カ月の範囲内とする。ただし、道路使用許可を行う警察署長などが、実証内容や道路交通状況などを勘案し、都道府県警察本部や警察庁と調整した上で6カ月を超える期間を定めることは差し支えない。

許可期間内で実証内容に変更を加える場合や、期間満了後に同様の実証を行うため道路使用許可を受ける場合の申請書の添付書類については、道路交通法施行規則第10条第1項各号の事項のうち変更のない事項は再度の添付は不要で、変更事項を補足するために必要な書類を添付することで足りる。

特別装置自動車の公道実証に関する事項

警察官などが実証車両に乗車し、実験施設などで法令に則って手動走行させることができることを確認する審査に合格していること、そのうえで原則として公道実証を実施する区間の全部において、交通事故を生じさせることなく法令にのっとって車両を手動走行させることができることを確認する審査に合格していることが求められ、これを満たす申請に係る車内監視・操作者が実証車両に乗車しなければならない。

ただし、車内監視・操作者のこれまでの経験や、公道実証を実施する区間における交通環境、実施計画の内容などを総合的に勘案し、都道府県警察本部や警察庁と調整の上、路上審査を行うまでもなく安全かつ法令にのっとって手動走行させることができると判断された場合は、路上審査が省略されることもある。

走行時の注意点

監視・操作者は、車両が走行している間常に車両の周囲や進行方向の状況、車両の状態を監視し、緊急時などに直ちに必要な操作を行うことができる状態を保持することが求められる。実証時は常時監視が必要なようだ。

乗客がある場合は、乗降状況を監視・操作者や補助者が確認するなど、乗客の安全確保に必要な措置を講じなければならない。

遠隔型自動運転システムは、自律走行が困難になり遠隔監視・操作者が介入する場合、その介入は路肩に寄せるなど必要最小限の操作に限る。

交通事故の場合の措置

実験車両にドライブレコーダーやイベントデータレコーダーなどを搭載し、車両の前後方や車両内の状況、車両状態情報の記録を行うほか、監視・操作者の操作状況などの映像や音声、実験車両に係るセンサーによって収集した車両状態情報を含む各種データ、センサーの作動状況などを記録し、適切に保存することで、交通事故などが発生した場合に事故原因を検証可能とする措置を講じる。遠隔型自動運転システムにおいては、通信ログを含む。

また、消防職員が適切に消防活動などを行うことができるよう、あらかじめ実験車両の構造や停止方法、その他消防活動に必要な事項、実験日時などを記載した資料を関係消防機関に提出・説明を行うこととしている。

自動運転システムの不具合などで交通事故が発生し、その後実証を再開するときは、事故原因を明らかにし、警察と協議の上で再発防止策を講じて改めて公道審査を経る必要がある。

サイバーセキュリティに関する事項

遠隔型自動運転システムにおいては、サイバーセキュリティ基本法などを踏まえ、適切なサイバーセキュリティの確保に努めるほか、遠隔監視・操作者が遠隔操作装置を離れる際は、他人が実験車両を走行させることができないよう措置を講ずることが求められる。

■【まとめ】特定自動運行に向け実証加速

自動運転システムの進化に伴い、道路使用許可を受けるための車両要件や申請書類などは少しずつ変更されている。開発事業者の声を受け、二度手間を極力省くなどの改善も行っている。

こうした実証を経て安全性が確認された自動運転システム・車両は、所定の許可のもとレベル4による運行「特定自動運行」としてサービスインする流れとなる。

今後、どういった自動運転システムがどの地域で導入を図っていくのか、要注目だ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「自動運転と警察」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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