自動運転と警察(2022年最新版)

レベル4に対応した道交法改正も



道路交通法を所管し、円滑で安全な道路交通を推進する警察庁。こうした役割は、自動車の操作主体が自動運転技術によって人からコンピュータに移行しても変わらず、新たなモビリティの登場を想定した各種施策の立案に向け調査検討を重ねている。


この記事では、自動運転時代を見据えた警察庁の取り組みについて解説していく。

■警察庁のこれまでの取り組み
各省庁連携のもと自動運転実用化に向けた取り組みに着手

日本では、世界最先端のIT国家を目指す取り組みのもと2014年6月に「官民ITS構想・ロードマップ」が策定され、自動運転に関わる国家戦略が明確に示された。府省連携・産学官連携のもと分野横断的に基礎研究から実用化・事業化までを見据えた取り組みを推進する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」第1期も2014年度にスタートし、自動運転技術実用化に向けた取り組みが大きく進展し始めた。

警察庁も各省庁との連携のもと、自律型安全運転支援装置や協調型安全運転支援装置の普及、歩行者等を認知可能な安全運転支援装置の研究開発・普及、自動運転システムに係る国際基準・標準化に向けた取り組み、自立型+協調型の開発普及戦略、交通データの活用検討などに着手したほか、交通規制情報の収集・提供の高度化に関する検討や実証なども開始している。

警察庁は公道実証指針や制度面の課題などを調査

研究・調査の進行とともに公道実証の機運が大きな高まりを見せ、走行に必要となる枠組み・ルール作りが喫緊の課題となった。そこで警察庁は2016年3月、自動運転システムに関する公道実証実験に向けたガイドライン案の作成と自動運転に関する法律上・運用上の課題の整理した「自動走行の制度的課題等に関する調査研究報告書」と、高速道路における準自動パイロットの実用化に向けた運用上の課題に関する検討などについて取りまとめた「自動運転の段階的実現に向けた調査研究報告書」をそれぞれ発表した。


▼自動走行の制度的課題等に関する調査研究報告書
https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku/jidosoko/kentoiinkai/report/honbun.pdf
▼自動運転の段階的実現に向けた調査研究報告書
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/jidounten/28houkokusyo.pdf

「自動走行の制度的課題等に関する調査研究報告書」では、刑事上の責任、行政法規上の義務(車両の点検・整備義務、自動走行システムのセキュリティの確保に係る義務、運転免許制度等の在り方、交通事故時の救護・報告義務、運転者以外の者に係る義務)、民事上の責任、その他(電子連結、遠隔操縦、セカンドタスク、交通規制等の運用、インフラ、社会的受容性、国民に向けた情報発信)に分けて課題を整理している。

一方、「自動運転の段階的実現に向けた調査研究報告書」では、遠隔型の無人自動走行移動サービスの公道実証実施に向けた現行制度の特例措置の必要性や安全確保措置に関する検討も行われている。道路交通法では、運転者が車内に存在することを前提としており、車外の遠隔から操作・監視を行う無人の自動運転システムについては、法令上の取り扱いを検討する必要が生じていた。

同年5月には、公道実証の実施にあたり参照すべきガイドライン「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」を策定・公表している。


▼自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン
https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku/gaideline.pdf

法律上、車両が道路運送車両の保安基準を満たし、運転者となる者が実験車両の運転者席に乗車して常に周囲や車両の状態を監視しつつ安全確保に向け必要な操作を行うことが可能なシステムであれば公道走行は可能だが、有用な情報を提供することで取り組みを支援し、円滑で安全な実証を促進する目的だ。

実施主体の基本的な責務や公道実証実験の内容等に即した安全確保措置、テストドライバーの要件、テストドライバーに関連する自動走行システムの要件、公道実証実験中の実験車両に係る各種データ等の記録・保存、交通事故の場合の措置、賠償能力の確保、関係機関に対する事前連絡の各項について指針を示している。

遠隔型自動運転システムの実証指針を策定

警察庁は2017年6月、「遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準」を策定・発表した。レベル4実現に向け避けては通れない遠隔監視・操作者による自動運転システム実証における要件や指針を取りまとめたものだ。

▼遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000159859

道路使用許可に係る審査の基準として、遠隔型自動運転システムの構造や遠隔監視・操作者が負うべき責務、緊急時の措置、交通事故などの場合の措置、走行方法、走行審査などについてそれぞれ基準を設けている。

レベル3に対応した道路交通法の改正

自動運運行装置の存在を盛り込んだ改正道路交通法案が2019年5月、衆院本会議で可決・成立し、同年6月に公布された(2020年4月施行)。

同時期に改正された道路運送車両法において保安基準対象装置に「自動運行装置=自動運転システム」の存在が規定され、道路交通法においもこの自動運行装置を利用する際の運転者の義務が新たに盛り込まれた。この改正により、自動運行装置を使用して自動車を用いることも「運転」に含まれることと定義された。

自動運行装置は、当該車両が整備不良車両に該当しないことや自動運行装置に係る使用条件を満たしていること、またこれらに該当しなくなった際にそのことを直ちに認知するとともに、自動運行装置以外の装置を確実に操作することができる状態において使用できることとされている。

また、作動状態記録装置の記録の保存義務や、自動運行装置の使用時は、携帯電話などの使用を禁じた第七十一条第五号の五の規定を適用しないことなども明文化されている。

【参考】改正道路交通法については「ついに幕開け!自動運転、解禁日は「4月1日」」も参照。

改訂版「自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準」発表

2020年9月には、現時点で最終改訂版となる「自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準」を発表した。

▼自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/202009jidouuntenkyokakijyun.pdf

遠隔型自動運転システムをはじめ、従来のハンドルやブレーキと異なる特別な装置で操作する自動車を網羅したうえで、公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取り扱いの基準を定めている。

特別な装置で操作する自動車を特別装置自動車と定義し、実証にあたっては警察官など同乗のもと、施設内審査や公道実証実験区間を走行する路上審査に合格する必要があるとした。

このほか、遠隔型・特別装置自動車とも、公道実証においては通信の応答に要する時間も考慮し、十分な余裕をもって安全に停止できる速度で走行することや、サイバーセキュリティ基本法を踏まえ適切なサイバーセキュリティの確保に努めることなども盛り込まれている。

■自動走行ロボットに関する取り組み
自動走行ロボットの公道実証を促進
出典:パナソニック・プレスリリース

2020年に入り、コロナ禍における非接触配送需要などを背景に自動配送ロボット実用化に向けた取り組みが一気に加速した。警察庁は同年6月、近接監視・操作型と遠隔監視・操作型を想定した自動配送ロボットの公道実証実験手順を公開した。

自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準をベースに実験計画案を作成することとしたほか、歩道などを通行する場合は、実験車両の構造や走行方法、実験の実施時間などについて「搭乗型移動支援ロボットの公道実証実験に係る道路使用許可の取扱いに関する基準」も踏まえることとしている。

2021年6月には、一定の要件を満たした自動配送ロボットの手続きを簡便化する新たな道路使用許可基準を盛り込んだ「特定自動配送ロボット等の公道実証実験に係る道路使用許可基準」を発表した。

▼特定自動配送ロボット等の公道実証実験に係る道路使用許可基準
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/robotkijun2.pdf

240時間以上の走行実績を保有するなど一定の要件を満たすロボットを「特定自動配送ロボット」とし、審査手続きから実地審査を外して書類審査のみとするほか、監視・操作者ごとに求めている運転免許証や訓練状況の事前確認も不要としている。

また、許可期間を「原則最大6カ月の範囲内」から「1年以内」に長期化したほか、実証方法や形態、道路交通状況などを勘案した上で、関係機関との調整を経て1年を超える許可期間を定めることも認めるものとしている。

■無人のレベル4実用化に向けた取り組み
レベル4の実用化を見据えた議論を加速

警察庁は2018年度から運転者の存在を前提としないレベル4実現に向けた環境整備を目的に、新たな交通ルールの在り方などに関する各種調査研究を進めている。2020年度はレベル4に関するルールの在り方や自動運転システムがカバーできない事態が発生した際の安全性の担保方策などについて一定の方向性を得たという。

2021年度は、限定地域における遠隔監視のみの無人自動運転移動サービスを念頭に、ドライバーレスの自動運転実現に向けより具体的な制度や交通ルールの在り方について、事業者ヒアリングを交えながら調査研究を進めた。

結論としては、限定地域における遠隔監視のみの無人自動運転移動サービスは自動運転システムの性能や走行環境がそれぞれ異なるため、個別のケースによって異なる点を個別に審査する枠組みを設けることが適当としている。

また、レベル4に向けては、運転者が遵守すべき交通ルールのうち定型的・一般的なものを自動運転システムが代替するとともに、自動運行装置に係る使用条件を満たさなくなった際に安全に停止する機能を有し、これらが道路運送車両の保安基準を満たすことが必要としている。

従来の運転者に関する義務のうち自動運転システムだけでは対応困難なものについては、審査を受けた者が代替措置を講ずることを義務付けるべきとし、その審査は都道府県公安委員会が担うことが考えられるとしている。

【参考】関連記事としては「自動運転レベルとは?定義・呼称・基準は?」も参照。

レベル4を盛り込んだ道路交通法が成立

こうした議論を踏まえ、2022年の第208回国会に道路交通法の一部を改正する法律案が提出され、同年4月に成立した。

改正法では、条件を満たすレベル4による運行を「特定自動運行」と定義した。自動運行装置の正常な使用条件のもと、直ちに自動的に安全な方法で当該自動車を停止させることができ、当該自動車の装置を操作する者がいない場合の運行を特定自動運行とし、従来の「運転」の定義から除くこととしている。

特定自動運行を行う者は、特定自動運行計画を記載した申請書を走行エリアを管轄する都道府県公安委員会に提出し、許可を得なければならない。特定自動運行を実施する者は「特定自動運行主任者」を指定し、特定自動運行を管理する場所に配置することなども規定されている。

また、改正法には新たに「遠隔操作型小型車」も定義された。人または物の運送を行う原動機を用いた小型車で、遠隔操作によって通行させることができるもののうち、車体の大きさや構造が一定基準を満たし、かつ非常停止装置を備えているものを「遠隔操作型小型車」としている。これは、自動配送ロボットなどの実用化をイメージしたものだ。

遠隔操作型小型車は歩道または十分な幅員のある路側帯を走行することとしたほか、使用者は遠隔操作型小型車を遠隔操作で走行させるエリアを管轄する公安委員会に届出を行い、遠隔操作型小型車の見やすい箇所に届出番号などを表示することとしている。

特定自動運行、遠隔操作型小型車ともに公布の日から起算して一年を超えない範囲内で施行される。

【参考】改正道路交通法については「【資料解説】自動運転レベル4を解禁する「道路交通法改正案」」も参照。

■【まとめ】レベル4法改正で一区切り 実環境の構築に向け前進

ドライバーレスのレベル4や自動走行ロボット実用化に向けた道路交通法改正というマイルストーンを達成し、一区切りを迎えた格好だ。

自動運転車をはじめとするさまざまなモビリティが次々と社会実装される中、今後は各モビリティが公道や私有地などを安全かつ自由に走行できるような実環境の構築が課題となる。

レベル4モビリティが公道上を安全かつ自由に走行できるようになるには、技術面や制度面、社会受容性などさまざまな点において課題が山積している。他省庁や民間をはじめ、警察庁のさらなる取り組みに引き続き期待したい。

【参考】関連記事としては「自動運転、日本政府の実現目標(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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