改正道路交通法の施行により、2023年度に自動走行ロボットの公道走行が解禁される。要件を満たす一部の自動走行ロボットは「遠隔操作型小型車」として位置付けられ、届出制のもと歩道走行などが可能になる。
実用化に向けた取り組みが大きく前進することが予想されるが、経済産業省はこうした動きを前に自動配送ロボットに活用可能な関連予算案をまとめた資料を作成した。民間や自治体などが活用可能な複数の補助事業が羅列されている。
この記事では、同資料をもとに自動走行ロボット実用化を支援する国の事業を紹介していく。自動運転配送ロボットの事業で助成金や補助金を探している際、ぜひ参考にしてほしい。
▼自動配送ロボットに活用可能な関連予算案等について|経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/deliveryrobot/230124_yosan.pdf
■開発等関連予算案
革新的ロボット研究開発等基盤構築事業
企業を対象に、公道における自動配送ロボットの活用に向けた技術開発や実証を支援する事業だ。事業期間は2022年度からの3カ年で、機械装置や労務費など1件あたり年間5,000万円を上限に補助される。
今年度の追加公募は無しとしており、2022年度に採択済みの4者を継続支援する予定としている。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、採択されたのは京セラコミュニケーションシステム、ZMP、パナソニック ホールディングス、Yper(LOMBY)の4者。
▼詳細(採択情報)は以下(NEDOウェブサイト)
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101551.html
京セラコミュニケーションシステムは、「中型中速配送ロボットを複数台利用する、多様な地域内サービス提供の実証および、雪上走行技術の研究開発」をテーマに据え、2021年度から北海道石狩市などで実証を進めている。
ミニカー(全長2.5×全幅1.3×全高2.0メートル以下)に準じたサイズで、最高速度時速15キロほどで走行するロボットが特徴だ。歩道走行タイプに比べ大型・高速で、複数サイズのロッカー20個を搭載して車道を走行する。車体は中国Neolix製のものを使用している。
2022年11月には、ヤマト運輸などとともに無人自動配送ロボットを活用した個人向け配送サービスの実証に着手している。今後、新規で雪上走行ロボットの開発も進める計画だ。
【参考】京セラコミュニケーションシステムについては「LINEが活躍!自動配送ロボのお届け通知で使用 北海道で実証」も参照。
ZMPは、「自動宅配ロボットの複数台同時配送を実現する遠隔管理システムの確立と安全性の実証」をテーマに据え、ENEOSホールディングスやエニキャリなどと実証を進めている。
2022年12月には、自動宅配ロボット「デリロ(DeliRo)」を活用した第3弾実証として、複数の小売事業者の商品を宅配する取り組みを東京都内で開始した。
【参考】ZMPについては「ガソリンスタンドが自動運転宅配ロボの拠点!複数店舗の商品配達で実証実験」も参照。
パナソニックホールディングスは、「人共存下における配送ロボット・運行管理システムの開発と住宅街などでの配送サービスの実現」をテーマに神奈川県藤沢市や茨城県つくば市などで実証を進めている。
2022年4月までに完全遠隔監視・操作による自動配送ロボットの道路使用許可を取得し、同年12月には国内初となるロボット単独での公道走行による販売実証に着手した。
【参考】パナソニックホールディングスについては「国内初!自動配送ロボで遠隔監視型の公道走行許可 パナソニックが取得」も参照。
置き配バッグOKIPPAを展開するYperは、「ラストワンマイル配送の現場を無人化する自動積み下ろし機能を有した自動配送ロボットの開発」をテーマに取り組みを進めている。
同社は自動配送ロボットLOMBYを開発し、2022年4月に自動配送ロボット事業を分社化してLOMBY株式会社を立ち上げた。2024年度までに専用のIoT宅配ロッカーと配送ロボットを連携させ、積み下ろしも自動化する仕組みの構築などを進めているようだ。
【参考】Yperについては「MADE IN JAPANの自動配送ロボ、LOMBYが開発中!」も参照。
中小企業生産性革命推進事業(うち、ものづくり補助金)
中小企業を対象に、革新的製品・サービスの開発や生産プロセスなどの改善に必要な設備投資などを支援する。補助率・上限額は、通常枠が2分の1または3分の2(上限額:750〜1,250万円)、デジタル枠が3分の2(上限額:750〜1,250万円)で、公募は2024年度まで継続して実施する予定だ。
対象経費は機械装置・システム構築費や技術導入費などで、自動配送ロボットの開発に必要な設備・システムの導入や、AI(人工知能)を導入した高精度な自律移動式無人搬送ロボットの試作開発などに活用できるようだ。
2020年度から現在までの採択者数は数万社を数え、交付決定数も約2万6,000に上る。利用しやすい補助金だ。
▼詳細は以下(ものづくり補助金総合サイト)
https://portal.monodukuri-hojo.jp/index.html
成長型中小企業等研究開発支援事業
中小企業などが産学官連携で行う高度なものづくり基盤技術やサービスモデルの研究開発などを支援する事業で、補助率・上限額は原則3分の2以内、補助事業期間2~3年以内で、通常枠は計9,750万円以下、出資獲得枠は計3億円以下となっている。
対象経費は機械装置・システム構築費や技術導入費などで、自動配送ロボットの関連部品の開発・製造に必要な基盤技術の研究開発などに活用できる。
▼詳細は以下(中小企業庁ウェブサイト)
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/index.html
■導入・実証等関連予算案
デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ)
従来の地方創生推進交付金、地方創生拠点整備交付金、デジタル田園都市国家構想推進交付金を「デジタル田園都市国家構想交付金」として位置付け、デジタル実装により地域の課題解決や魅力向上を実現する地方公共団体の取り組みを支援する交付金事業だ。
すでに確立されている優良モデル・サービスを活用して迅速な横展開を図る取り組みを「TYPE1」、オープンなデータ連携基盤を活用し、複数サービスの実装を伴うモデルケースとなり得る取り組みを「TYPE2」、TIPE2の要件を満たしつつ、新規性の高いマイナンバーカードの用途開拓に資する取り組みを「TYPE3」とし、事業立ち上げに必要な経費を単年度に限り支援する。
共通要件として、デジタルを活用して地域の課題解決や魅力向上に取り組むことと、コンソーシアムを形成するなど地域内外の関係者と連携して事業を実効的・継続的に推進するための体制を確立することが挙げられている。
モビリティ関連の事例としては、AIオンデマンド交通を導入した長野県茅野市や、マイカー乗合サービスを導入した富山県朝日町、自動運転バスの定常運行に取り組む茨城県境町や北海道上士幌町、MaaS導入に取り組む群馬県前橋市などがある。
自動運転バス「NAVYA ARMA」をいち早く導入した境町は、自動運転バスをベースにドローン配送や医療Maas、本人認証が必要な行政手続を多目的車両の車内で実施する行政MaaSなど、新たなモビリティサービスを一体的に提供できるよう取り組んでおり、モビリティを軸に徐々にサービスメニューを拡大していく方針という。
▼詳細は以下(内閣官房・内閣府総合サイト)
https://www.chisou.go.jp/sousei/about/mirai/policy/policy1.html
【参考】境町の取り組みについては「陸&空の連携!茨城県境町、配送革命へ実証 自動運転バスやドローンを活用」も参照。
地域未来DX投資促進事業
デジタル技術を活用した業務・ビジネスモデルの変革(デジタルトランスフォーメーション/DX)を促進する事業で、以下などが提供されている。
- ①地域DX促進環境整備事業
- ②地域デジタル人材育成・確保推進事業
①では、地域の特性や強みとデジタル技術を掛け合わせ、地域企業などが行う新事業創出の実証事業を補助している。
対象は、実証企業やITベンダーなどのデジタル企業、地域金融機関や大学などの協力団体が参加するコンソーシアムで、人件費やプロトタイピング費、マーケティング費などを対象に中小企業は3分の2以内、非中小は2分の1以内の範囲で補助を行う。上限額は未定としている。
実証企業群として、2~4社の複数企業で連携することを必須条件としている。
▼詳細は以下(経済産業省ウェブサイト)
https://www.meti.go.jp/information/publicoffer/kobo.html
地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業
地域で持続的に課題解決を行う連携体制の構築などを目的に、中小企業などが地方公共団体など地域内の関係主体と連携しながら地域・社会課題解決と収益性の両立を目指す取り組みや、地域の企業群に対し人材の獲得・育成・定着を行う取り組みなどを支援する。2020年度から2024年度までの5カ年事業だ。
5地域以上で抽出して束ねられた課題解決・付加価値向上に資する取り組みを支援することとしており、通常型は中小企業等補助対象経費の3分の2以内(上限額3,000万円)、広域型は中小企業等補助対象経費の3分の2以内(上限額:4,000万円)、または中小企業以外の地域未来けん引企業等補助対象経費の2分の1以内(上限額:4,000万円)、さらなる広域型は中小企業等補助対象経費の2分の1以内(上限額:4,000万円)を補助する。
自動配送ロボットを活用した買物弱者対策などの事業が相当する。
▼詳細は以下(経済産業省ウェブサイト)
https://www.meti.go.jp/information/publicoffer/kobo.html
■自動走行ロボットの動向
車道走行タイプの制度化が今後の焦点に
コロナ禍による非接触・宅配需要の増加などを背景に、国は2020年ごろから自動走行ロボット実用化に向けた取り組みを大きく加速させている。公道実証要領を作成して民間の開発を促し、2021年春には改正道路交通法を成立させ、実用化の道を切り開いた。
歩道走行タイプは、ZMPやパナソニック、LOMBY、ティアフォー、川崎重工業、Hakobotなどが開発・実用化に向けた取り組みを加速しており、西友をはじめとした小売業界の協力も徐々に広がっている。
一方、京セラコミュニケーションシステムのように車道を走行するやや大型のタイプはまだ取り組み例が少なく、運用制度も未整備の状況だ。今後、歩道走行タイプについては実用化と並行して運用ルールのブラッシュアップが図られていくものと思うが、車道を走行する中速タイプの規格化などに向けた取り組みも同時に進められていくことになりそうだ。
【参考】改正道路交通法については「解禁!自動運転レベル4、道交法改正に伴う「法令改正案」概要」も参照。
■【まとめ】実証増加によるブラッシュアップ
物流クライシスにおけるラストワンマイルの課題解決に向け、自動走行ロボットに寄せられる期待は大きい。その一方、海外では消費者サイドにおける効用を満たせず、事業性に疑問を持たれる事態も発生している。
自動走行ロボットが現時点で万能ではないのは事実だが、使い方次第でその利便性は大きく広がっていく。スマートロッカーとの連携などもその好例となるはずだ。
技術やサービスに磨きをかけるには、多くのサービス実証サービスが欠かせない。道交法改正や補助事業などきっかけに導入を試みる事例が増えることに期待したい。
※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。
【参考】自動走行ロボットにおける海外の動向については「実は役立たず?米Amazon、自動配送ロボの公開テスト中止」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)