中型自動運転バスでサービス実証!経産省の2023年度予算

安全性評価手法の開発なども促進



無人走行を可能にする自動運転レベル4元年となる2023年。社会実装に向けた官民総出の取り組みに期待が寄せられるところだ。


官側の代表格である経済産業省は、2023年度にどのような事業を展開していくのか。新年度予算をベースに同省の取り組みに迫る。

■無人自動運転等のCASE対応に向けた実証・支援事業(65億円)
中型自動運転バスのサービス実証を実施
出典:経済産業省(※クリックorタップすると拡大できます)

同事業は、自動運転実証などに向けた本丸となる予算で、2021年度からの5カ年事業として3年目を迎える。CASE技術の早期社会実装を促進することで、運輸部門におけるCO2削減に貢献する大義名分もある。

2025年度までに40カ所以上でレベル4の無人自動運転サービスを実装するとともに、グリーン成長戦略などに掲げるグリーン化と移動の活性化の同時実現を目指すこととしている。無人自動運転サービス実装推進事業では、中型バスを想定した先進的な自動運転サービス実証などを行う。

シミュレーションによる安全性評価手法開発事業では、体系化された交通流シナリオ・シミュレーションなどを活用して自動運転車両の安全性評価手法を開発し、自動運転の技術標準などに関する国際議論を主導する方針としている。


MaaSの社会実装加速に向けた実証事業では、高度なMaaS実証などを地域単位で実施するとともに、人手不足をはじめとした課題が深刻化する物流分野において、標準的なデータ利活用に向けた環境整備を進めていく。

その他、健全な製品エコシステム構築・ルール形成促進事業では、蓄電池などの持続可能な製品エコシステムの構築や、サプライチェーン管理・認証などのシステム構築、運用に係る制度形成のための実証などを行っていく。

自動運転サービス実証は、2022年度は1人の監視者が3台以上の車両運行管理を行う検証などを進めてきた。中型自動運転バスの実証は、産業技術総合研究所の委託事業として2019年度に5地域のバス運行事業者が選定され、2020年度から各地で実証を進めている。

レベル4元年となる2023年度は、まず小型車両を活用した自動運転サービスの実装が始まる見込みだが、これに続くサービスとして期待が寄せられる中型車両による自動運転技術がどこまで進展するか、要注目だ。


【参考】中型自動運転バスの実証については「2020年度の中型自動運転バス実証、事業者5者と各テーマは?」も参照。

■革新的ロボット研究開発等基盤構築事業(10億円)
多種多様なロボット実現へ
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サービスロボットの社会実装に向け、ユーザーやメーカー、システムインテグレーターなど連携のもと、屋内環境や屋外環境の双方においてロボットフレンドリーな環境の実現に向けた研究開発などを行う。

研究開発は2024年度まで継続見込みで、屋内においては少なくとも3業種でロボットフレンドリーな環境を備えた社会実装事例を創出する。屋外においても自動配送ロボットによる配送サービスの実現を目指す方針だ。

また、多品種少量生産にも対応可能な産業用ロボットの実現に向け、鍵となるハンドリング関連技術や遠隔制御技術、ロボット新素材技術、汎用動作計画技術といった要素技術に係る基礎・応用研究について、産業界と大学等研究機関が協調して推進する研究開発を支援していく。

同事業も2024年度まで継続し、8つの新たな要素技術の確立を目指す。この事業成果を活用し、2030年度を目途にロボットの動作作業効率を現状の1.5倍まで省エネルギー化することを目標に掲げている。

レベル4同様、自動配送ロボットの公道走行も2023年度までに解禁され、サービス化に向けた取り組みが大きく前進することが予想される。

同事業では、自動配送ロボットをはじめ、ビルの清掃ロボットや総菜の盛り付けを行うロボットなど、幅広い産業分野へのロボット導入を推進していく構えだ。今後、どのような広がりを見せていくのか要注目だ。

【参考】自動配送ロボットについては「新規参入相次ぐ!自動配送ロボット、国内プレーヤーの最新動向まとめ」も参照。

■産業DXのためのデジタルインフラ整備事業(24.0億円)
DADCの自律移動ロボットプログラムのもと各種アーキテクチャを設計
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Society5.0におけるシステム全体のアーキテクチャを設計・提案するための組織「デジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)」において、自律移動ロボットなどの分野でユースケースの具体化やシステムのプロトタイプ試作を行いながら、アーキテクチャやインターフェースなどをアジャイルに設計する。

その結果を踏まえて推奨される標準・技術の評価を行い、全体として円滑に機能するためのリファレンスやルールの策定・公表を行っていく。

また、国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」において、DADCが設計するアーキテクチャの実装に際し、新規作成あるいは改良が必要な標準について研究開発を行うほか、全体効率や利便性を大きく左右する技術で未開発あるいは改善が求められるものや、客観的な評価を要するものに関しても、技術開発や検証を行っていく。

DADCは、2020年5月に独立行政法人「情報処理推進機構(IPA)」に設置された組織で、現在「自律移動ロボットプログラム」を進めている。

同プロジェクトには、ドローンを活用した空モビリティプロジェクトをはじめ、配送や清掃などのタスクを担うサービスロボットプロジェクト、完全自動運転車による新たなサービス創出が可能となるアーキテクチャ設計を担う自動車プロジェクト、自律移動ロボットを効果的に連携させるシステム・データ基盤の整備に向けた施策を検討する運行管理プロジェクトなどが含まれている。

■次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト(31億円)
性能評価手法の開発などを推進
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空飛ぶクルマ関連では、ドローンや空飛ぶクルマの第三者上空飛行に向け、機体の安全性を評価・証明する性能評価手法の開発や、ドローンの一対多運航を実現するための技術開発、性能評価手法の開発を実施する。

合わせて、ドローンや空飛ぶクルマ、既存航空機の空域共有の方法に関する全体アーキテクチャの設計や技術開発、実証も進めていく。

また、これらの研究開発の成果について、引き続き海外発信を進めて国際標準化への提案を行い、日本主導のルール形成を展開していく。海外の制度整備や技術開発の動向調査・検討も進めていく。

事業期間は2022年度から2026年度までの5年間で、ドローンのさらなる利活用拡大や、2025年開催予定の大阪・関西万博での空飛ぶクルマの活用と事業化を目指す。

最終的には、2035年度にドローンが1日あたり4,000件の飛行計画通報、空飛ぶクルマの1日あたりの旅客輸送便数2,500便の実現を目指す方針だ。

【参考】空飛ぶクルマに関する取り組みについては「空飛ぶクルマの実用化時期は?(2022年最新版)」も参照。

■その他関連事業
次世代蓄電池開発や充電インフラの整備も

このほか、モビリティに関連する事業として、次世代電動航空機に関する技術開発事業(24億円)や電気自動車用革新型蓄電池技術開発(24億円)、次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術の開発事業(18億円)、クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金(100億円)なども予算計上されている。

現行の液系LIB(リチウムイオンバッテリー)はエネルギー密度向上の限界や資源制約が課題となっているため、高エネルギー密度化と安全性の両立を実現可能なハロゲン化物電池と亜鉛負極電池、次世代全固体LIBの開発を促進するなど、コスト・性能の両面でLIBを凌駕する革新型蓄電池の実用化を目指している。

充電インフラ関連では、新規事業として電気自動車やプラグインハイブリッド自動車の充電設備の購入費や工事費、V2H充放電設備の購入費・工事費、外部給電器の購入費、水素ステーションの整備費や運営費を補助する。2030年までに充電インフラ15万基、水素充てんインフラ1,000基程度の整備を目指す。

輸送効率化に向けた「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金(62億円)」では、車両動態管理システムや予約受付システムといったAI・IoTツールを活用したトラック事業者と荷主などの連携による省エネ効果の実証を支援するほか、内航船の革新的運航効率化実証事業やビッグデータを活用した使用過程車の省エネ性能維持推進事業を推し進めていく。

■【まとめ】小型の実用化とともに中型の実証も本格化

レベル4サービスの社会実装は、比較的小型で低速走行する自動運転車がメインとなるが、技術を高度化し徐々に車両サイズやODD(運行設計領域)を拡大していかなければならない。その1つの目標が中型自動運転バスだ。

需要の多い路線などに自動運転車を配置する場合、遅かれ早かれ車両の大型化が求められていくことになる。2023年度にどのような進展があるのか、先を見据えた実証の成果にも要注目だ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「自動運転、日本政府の実現目標(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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