国土交通省所管の「自動運転車を用いた自動車運送事業における輸送の安全確保等に関する検討会」はこのほど、自動運転による自動車運送事業における輸送の安全確保に向け各事業者に実施したヒアリング結果を公表した。
改正道路交通法の施行により、2023年4月にもレベル4自動運転サービスが解禁される予定となっているが、安全確保に向けサービス事業者が担うべき責任や役割など、運用ルールとなる特定自動運行の許可制度の策定も大詰めを迎えているようだ。
この記事では、ヒアリング内容をもとにどのような論点整理が行われたのか、現状における方向性について解説していく。
▼自動運転車を用いた自動車運送事業における輸送の安全確保等に関する検討会
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr2_000044.html
▼ヒアリングを踏まえた論点整理について
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001518419.pdf
記事の目次
- ■ヒアリング概要
- ■ヒアリングの設問と回答
- 旅客/貨物の輸送の安全を確保する観点でどのような成果や課題が見えたか
- 自動運転車を用いた自動車運送事業の実現に向けた技術開発状況及び課題について
- 当該地域における公共交通の現状と将来的な課題について
- 自動運転車を用いた自動車運送事業の実現に対する期待と課題について(住民の声)
- 将来的に自動車運送事業を行う見込みがあるか
- 無人自動運転による自動車運送事業において、これまで運転者が担っていた運転操作以外の業務を誰がどのように担うべきと考えているか
- 運転操作以外の業務について、将来的に車両側でどのような対応が可能になると考えているか
- 自動車運送事業を行う場合、どのような運行形態(運行監視業務や非常時対応業務などを外部に実施させるなど)を想定しているか
- その他、免許制度について
- その他、監視体制について
- ■安全確保に向けた論点
- ■【まとめ】2022年冬を目途に取りまとめ
■ヒアリング概要
ヒアリングは、運送用途で自動運転実証に取り組む事業者30者を対象に、2022年7月から10月にかけて実施された。内訳は、バス事業者4者、タクシー事業者2者、トラック事業者2者、自動運転サービス提供者4者、地方公共団体6者、自動車メーカー3者、大学3者、鉄道事業者2者、その他4者となっている。
共通事項として「輸送の安全を確保するための措置」や「実証を経て見えた成果や課題」を全事業者にヒアリングしたほか、業種ごとに個別の設問を設けている。
多くの場合、実質自動運転レベル2で実証を行っていたため、遠隔監視しながら運転者も乗車し、輸送の安全を確保していたようだ。
以下、各設問に対する主な回答を紹介していく。
■ヒアリングの設問と回答
旅客/貨物の輸送の安全を確保する観点でどのような成果や課題が見えたか
- 「乗客の法令違反の行動について、従来の運転者による抑止効果が監視カメラを通じたものになるため、防御レベルに差が出る」(自動車メーカー)
- 「長距離トラックが無人で公道走行する場合、積荷が荷崩れしないかカメラやセンサーで積荷を監視することが必要になる」(トラック事業者)
自動運転車を用いた自動車運送事業の実現に向けた技術開発状況及び課題について
- 「事故時の駆け付け対応の体制を厚くすると、何のために無人化するのか分からない状況になる。一律に規定されるとサービス展開に大きな支障が出かねる」(自動車メーカー)
- 「乗務員が同乗しない場合、乗客の自動運転車に関する認識を向上するため乗客へ呼びかける内容や方策の検討が必要」(自動運転サービス提供者)
当該地域における公共交通の現状と将来的な課題について
- 「自動運転車を横展開していく際、自動運転サービス提供者が既存事業者の仕事を奪うのではなく、自動運転のノウハウを伝え、地元運送事業者が自動運転の運行を担う形を目指したい」(自動運転サービス提供者)
自動運転車を用いた自動車運送事業の実現に対する期待と課題について(住民の声)
- 「住民にとって自動運転車は通常の車と異なり、思ったよりも速いと感じる方が多かった。役場としては時速20~30キロで走行させる想定でいる」(地方公共団体)
- 「新しい技術に関心が高い住民の方が多く、実証を行いやすい環境であった」(地方公共団体)
将来的に自動車運送事業を行う見込みがあるか
- 「貨物の自動運転車が開発されてからでなければ運用も含め、検討は難しい」(トラック事業者)
- 「AI技術を使い将来的には1人で複数の車を監視できるようにする必要がある。それまでには時間がかかるため、優先レーンが無ければ無人自動運転車の導入は厳しいと思っている」(タクシー事業者)
- 「ラストマイル配送は荷積み・荷卸しを行う必要があるのでハードルが高い。貨客混載であれば、距離は長くても保安要員が乗れば可能性としてはある」(地方公共団体)
無人自動運転による自動車運送事業において、これまで運転者が担っていた運転操作以外の業務を誰がどのように担うべきと考えているか
- 「乗客からの軽微な質問は自動で対応し、自動で回答できない質問は有人対応とする体制づくりが必要」(バス事業者)
- 「トラブル発生時、近くの警備会社が駆け付ける方が乗客にとってより安心」(バス事業者)
- 「自動運転車に事故が発生した場合、近くの有人タクシーのドライバーが駆け付けて対応することもできる。遠隔監視で有人車両の動態をつかむことで最も近い車両がどこにあるか分かる。どの車両も遠ければ警備会社が急行することが必要になる」(タクシー事業者)
- 「車両に異常があった際、運転席のメーターに表示されるものは遠隔地でも確認することが可能。ただし、異臭がしないかなど最終的な人間の判断については遠隔では難しい」(自動車メーカー)
運転操作以外の業務について、将来的に車両側でどのような対応が可能になると考えているか
- 「車内確認用のカメラ、双方向会話が可能なマイク、非常連絡ボタンなど、ユーザーと遠隔監視室の間で必要な情報の授受が可能な機能を備える予定。また、車内からの連絡や衝撃検知などに対し、タイムリーな状況の把握、記録、対応ができる体制、システムを備える想定」(自動車メーカー)
- 「警察、消防、駆け付けサービスなどの協業者と密に連絡を取れる機能の保有も必要」(自動車メーカー)
- 「非常停止した際に運行管理センターに自動通報する装置が必要と考えている」(自動車メーカー)
自動車運送事業を行う場合、どのような運行形態(運行監視業務や非常時対応業務などを外部に実施させるなど)を想定しているか
- 「対応を全て委託先に任せてしまうと責任を持てない。事故や緊急時など状況が変わりうるケースは速やかに運送事業者側が指揮を行い、委託先の社員を動かす対応が取れる必要がある。必ず安全責任を負う側が主となるべき」(バス事業者)
- 「事故発生時など、乗客との連絡が委託先の事業者ではなく交通事業者となるとタイムラグが拡大するおそれがある」(自動運転サービス提供者)
- 「遠隔監視の事業スキームとして、運送事業者自社で運行管理センターを運営、運送事業者が営業所ごとに独立して遠隔監視を実施、第三者の運行管理センターへ委託(委託先の指揮管理下で運用)」を想定している」(自動運転サービス提供者)
その他、免許制度について
- 「安全・安心に向け保安要員が乗ったほうが良いが、その場合も資格を追及すると自動運転の意味がなくなる」(地方自治体)
その他、監視体制について
- 「1人が何台の自動運転車を監視できるかは、段階を追って検討していく必要がある」(タクシー事業者)
- 「各地域に遠隔監視の拠点が必要になると考えている」(自動運転サービス提供者)
- 「タクシー事業者以外の遠隔監視室が一元的に遠隔監視業務について対応し、必要に応じてタクシー事業者などの営業所や無線室と連携する仕組みを想定」(自動車メーカー)
■安全確保に向けた論点
上記ヒアリングから、主な論点として①運転者が存在する場合と同等の輸送の安全等の確保②事業の形態によらない運送事業者の責任――が浮き彫りになったようだ。
従来の運転者に代わる自動運行従事者の要件
基本的な考え方として、運転者が行っていた運転操作以外の業務を行う者を「自動運行従事者(仮)」と法令に位置付ける案が出されている。自動運行従事者が従来の運転者に代わる存在となり、運転操作は自動運転装置が担う一方、その他の業務を自動運行従事者が担う。
運転操作を行わない自動運行従事者に対しては、酒気帯びの確認や自動車運転免許の保持などは不必要と解される一方、営業後などに運転操作を行うケースなどは運転者となるため、従来の運転者の要件を求めることが必要とする意見もある。
事故などの非常時においては、車室内や車外の状況を把握できるカメラやセンサー、音声通信設備、非常停止時の自動通報装置、旅客からの通報装置、非常停止ボタンなどを自動運転車両に設置することが必要であり、自動運行従事者が救急へ通報することで従来同様の救護措置は行われるとしている。
一方、車内無人の場合は、「事故発生時のすみやかな応急手当」や「旅客の法律に反する行為に対する制止」などについて従来と異なる対応を取る必要があるため、引き続き検討が必要としている。
このほか、自動運行従事者には運行開始前の日常点検や従事者交代時の点検、回送板の掲出などが必要とする案も出されている。
旅客の安全確保に向けた論点
旅客の乗降時や乗車中の安全確保策としては、カメラやセンサーで車内外の状況を確認しながらシートベルトの着用や走行中の移動禁止などのアナウンスを自動運行従事者や自動音声装置で行う案をはじめ、乗降扉の開閉に関し、自動運行従事者が遠隔地から行う案や自動運転車両の装置で行う案、旅客自らが安全に扉の開閉を行う案などが示されている。
貨物の積載方法の確認
貨物に関しては、現行同様トラックに積載する荷物について、偏荷重が生じないように積載することや、荷崩れなどによる落下防止としてロープやシートを掛けることなど必要な措置を講ずることを自動運行従事者に求める必要があるとしている。
また、自動運転車両内の設備として求めるべき事項として、運行中に荷崩れが発生した場合に対応できるよう、カメラやセンサーなどによって遠隔から積荷の状況を確認できるようにする必要があるとしている。
事業の形態によらない運送事業者の責任
運送事業者が各種業務を外部の者に実施させる場合においても、運送事業者の責任のもと、関係者の責務や役割分担を明確にした上で従来同様の輸送の安全を確保することが必要としている。
外部委託する場合の運送事業者の要件に関しては、運送事業者が遠隔監視や駆け付け業務を外部委託する形態であっても、運送事業者の指揮系統のもと事業を行うことが基本となるため、①運送事業者が「遠隔地での業務に必要な設備」を設け、事業用自動車の運行状況を適切に把握し、旅客の対応などを適切に行うこと②被委託者が行う業務において判断が必要な事象が生じた際は、必ず運送事業者に指示を仰がせること――といった案が出されている。
■【まとめ】2022年冬を目途に取りまとめ
道路運送事業には、道路運送法や貨物自動車運送事業法なども関わってくる。各法律に定められた運行管理計画に策定や管理・指導、日常点検、点呼・報告、非常時対応、記録、運転者に関する事項などに対し、自動運転サービスはどのように対応すべきか――といった新たなルール・制度を設ける必要がある。
検討会は今後、2022年冬ごろを目途に論点整理を進め、取りまとめを行う予定だ。最終案がどのような形になるのか、引き続き注目したい。
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【参考】関連記事としては「自動運転の事故責任、誰が負う?」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)