IR(統合型リゾート)誘致やスマートシティ・スーパーシティ構想、そして2025年開催予定の大阪・関西万博を原動力にイノベーションに取り組む大阪府・大阪市。賛否両論あれども、未来に向けまちのアップデートを図っていく姿勢はこれからの自治体にとって必要不可欠なものと言える。
各構想には、自動運転や空飛ぶクルマといった次世代モビリティ導入に向けた事業も盛り込まれており、着々と検討や実証が進められている。
この記事では2022年12月時点の情報をもとに、大阪府・大阪市における自動運転関連の取り組みについて解説していく。
記事の目次
■スマートシティ戦略における自動運転
自動運転をはじめとしたスマートモビリティ導入へ
スマートシティ化を目指す大阪は、2020年3月に「スマートシティ戦略ver.1.0」、2022年3月に「大阪スマートシティ戦略ver.2.0」をそれぞれ策定・発表している。
▼スマートシティ戦略ver.1.0
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/38003/00359500/06_sankou3.pdf
▼大阪スマートシティ戦略ver.2.0
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/37041/00000000/strategy_ver2.pdf
ver.1.0では、生活の質(QoL)の向上、民間との協業、技術実験にとどまらない社会実装を基本姿勢に据え、先端テクノロジーを駆使しながら行政DXやスマートモビリティ、データヘルス、防災、データ活用プラットフォームなどさまざまなテーマに取り組んでいくこととしている。
スマートモビリティ関連では、万博を見据えた取り組みや地域におけるAI(人工知能)オンデマンド交通をベースにした取り組みをもとに、技術開発や法整備の状況を踏まえながら2025年に向け全国に先駆けてレベル4自動運転の社会実装に取り組むこととしている。
また、人の移動を担う自動運転車をはじめ、無人配送車や宅配ロボット、産業用小型無人車両、ドローンなどの開発企業は実証実験を行うフィールドを持たない場合が多いため、充実した実証を行うことができるよう大阪府市などが持つ公有地を有効活用する形で非公道の実証実験フィールドを提供していく考えも示している。
ver2.0では、大阪市の取り組みとして、都心部を中心に「うめきた(大阪駅北地区)プロジェクト」に代表される再開発等事業が進んでいることから、さらなる都心活性化を目指しICTを活用した最先端のまちづくりに取り組むほか、AIオンデマンド交通などの新たな交通手段に関する社会実験を行うなど、民間企業と連携した新たなモビリティサービスの導入検討を進めることとしている。
スーパーシティ構想も浮上
今後の取り組み方針としては、新たにスーパーシティ構想が持ち上がっている。
▼大阪府のスーパーシティに関する取組み
https://www.pref.osaka.lg.jp/tokku/tokku-all/su-pa-siteli.html
ヘルスケアとモビリティの分野を中心とした先端的サービスや規制改革を掲げており、モビリティ関連では「陸」の次世代モビリティとしてライドシェアリングによる夢洲工事の交通量削減や自動運転車による万博アクセスと会場移動、「空」の次世代モビリティとして空飛ぶクルマによる万博会場のアクセスから観光利用、日常モビリティとしての発展・進化を目指す方針だ。
万博前の2024年までをフェーズ1とし、陸路ではレベル2による貨客混載やライドシェア、ドローンによる輸送や監視、管理について夢洲を舞台に実証を進めていく。作業員用シャトルバスで貨客混載に取り組むことで工事資材や弁当などの運送を効率化するほか、レベル2シャトルバスを大型第一種免許で可能にし、輸送効率の向上を図る。
ドローンは、資材などの運搬や作業現場域内の高所への資材配送、測量や工事管理、建設現場の見守りなど、夢洲開発における工事の円滑な進捗と安全管理に最大限活用していく。
大阪・関西万博が開かれる2025年はフェーズ2に位置付け、万博会場でのレベル4サービスや空飛ぶクルマによる移動サービスなどの実現を目指す。
主要駅から万博会場へのアクセスや会場内移動を車内観光案内やレベル4の完全自動運転化によって楽しく手軽に移動できるようにする。空飛ぶクルマは、関西主要空港から万博会場を結ぶ空のアクセスとして社会実装を目指すほか、主要観光地と万博会場を結ぶ観光アクセスへの活用も進めていく。
2026年以後のフェーズ3では、大阪版都市型MaaSとともに日常における空飛ぶクルマの普及を目指す計画だ。交通手段による移動を1つのサービスとしてシームレスにつなぎ、移動を支えるトータルサービスを実現する。空飛ぶクルマは、主要駅やビルの屋上、コンビニ駐車場、ウォーターフロントなどあらゆる場所にポートを設置し、日常的なモビリティとしての普及を目指す方針だ。
■大阪府内における自動運転実証
大阪メトロが自動運転実証に注力
大阪エリアでは、大阪市高速電気軌道(Osaka Metro/大阪メトロ)が自動運転実証に力を入れている印象だ。同社は2019年、子会社の大阪シティバスとSBドライブ(現BOLDLY)とともにグランフロント大阪周辺で自動運転バスの実用化に向けた公道実証を実施した。車両は仏NAVYAのARMAを用いた。
3社は、同年12月にも万博開催予定地の夢洲を含むベイエリアで実証を行っている。日野ポンチョをベースとした自動運転バスで、走行性能など技術面の確認や課題抽出、信号機データとの協調確認などを実施したようだ。
2022年3月からは、舞洲スポーツアイランド内の特設会場やコスモスクエア駅から特設会場間の公道で次世代都市交通システムの実証を行っている。
公益社団法人2025年日本国際博覧会協会及び大阪商工会議所が万博に向けた機運醸成とイノベーション創出に向け公募した事業の一環で、大阪メトロのほか、あいおいニッセイ同和損害保険、NTTドコモ、大林組、関西電力、ダイヘン、凸版印刷、日本信号、パナソニック、BOLDLYが参加し、レベル4自動運転車両を核とした次世代の交通管制システムの提供を目指す実証を行った。
特設会場には、万博会場を想定した1周約400メートルのテストコースを整備し、レベル4相当の車両を走行させた。コスモスクエア駅からの公道はレベル2で往復したようだ。
実証では、ARMAとティアフォーの自動運転システムを搭載した自動運転タクシー、パナソニック製のパーソナルモビリティと自動搬送ロボットの4種をBOLDLYの運行管理プラットフォーム「Dispatcher」にAPI連携させる取り組みなども行っている。
なお、公募事業におけるモビリティ関連はこのほか、空飛ぶクルマの開発を手掛ける米LIFT Aircraftと丸紅エアロスペースによる「空飛ぶクルマによる飛行体験 “Experience the Sky”」や、竹中工務店を代表とする海床ロボットコンソーシアムによる「都市型自動運転船”海床ロボット”による都市の水辺のイノベーション実証実験」が採択されている。
【参考】大阪メトロなどの取り組みについては「4種同時実証!大阪、自動運転車や配送ロボをミックス 万博に向け」も参照。
河内長野市や四條畷市も実証実験
河内長野市では、低速モビリティによる移動支援サービスとして南花台モビリティ「クルクル」の実証に2019年度から取り組んでいる。現在は手動運転によるAIオンデマンド方式の有償実装を目指し運行しているようだが、並行して自動運転化に向けた実証も進めているようだ。
四條畷市は2021年度に自動運転基本構想・実施計画を策定し、同年10月に名古屋大学が開発した「ゆっくりカート」を活用した公道実証を実施した。2022年度も公募型プロポーザルのもと事業を継続し、高精度三次元地図データの作成などを進めていく計画だ。
【参考】四條畷市の取り組みについては「自動運転の「ゆっくりカート」が、住民の理解を「しっかり」醸成」も参照。
万博記念公園でも次世代型モビリティサービス実証
三井物産、パナソニック、凸版印刷、博報堂、西日本旅客鉄道、万博記念公園マネジメント・パートナーズの6社は2020年10月から11月にかけ、万博記念公園で自動運転車両を活用した次世代型モビリティサービスの実証を実施した。
BOLDLYが有するNAVYA ARMAにパナソニックが開発中の透明ディスプレイを搭載し、透過して見える風景と対話型アバターや多言語対応型アバターによるガイダンス映像を折り重ねた新たな移動体験型サービスを提供したようだ。
【参考】万博記念公園における取り組みについては「自動運転シャトルで「エデュテイメント」提供!万博記念公園で共同実証」も参照。
■大阪・関西万博に向けた取り組み
空飛ぶクルマ実用化が目玉の1つに
大阪・関西万博の大きな目だとして急浮上しているのが空飛ぶクルマの実用化だ。
空飛ぶクルマ実現に向け必要となる技術開発や制度整備について検討を進める「空の移動革命に向けた官民協議会」が策定した「空の移動革命に向けたロードマップ(改訂案)」においても、万博における商用運航を目指すことを目標に改訂が行われている。
大阪府は2020年に「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」を設置し、産官学連携のもと課題の抽出や事業提案などを進めている。
2022年3月には、「空の移動革命社会実装に向けた大阪版ロードマップ/アクションプラン」を策定・発表している。
ロードマップでは2025年ごろを立ち上げ期とし、万博を当面の共通目標に据えてパイロット搭乗による定期路線の商業運航を実現し、多くの人が空飛ぶクルマを身近に体験するとともに世界に発信していくことを目指す。
2030年ごろの拡大期においては、自動・自律による無人飛行やオンデマンド運航へ移行し、日常利用の拡大とともにサービスを支える関連ビジネスやイノベーションの進展を目指す。
2035年ごろの成熟期においては、機体の大型化・多様化・量産化、サービスの広域化を図り、日常利用が浸透し、府民生活の QOL(生活の質)の向上をはじめ、大阪の産業経済の発展につなげていくことを目指す。
現在は地固めの段階で、実証の支援体制や環境整備を進めるとともに、離着陸場開設に関わる調査検討や効率的な事業運営を支える環境整備などを進めている。
2023年度以降、離着陸場の構築や安定運航を支える後方支援体制・拠点の検討・整備、インフラ・データ基盤の検討・整備など順次着手していく方針だ。
【参考】空の移動革命に向けたロードマップ(改訂案)については「【資料解説】空の移動革命に向けたロードマップ(改訂案)」も参照。
■【まとめ】万博を旗印に事業推進
当面は、万博に向けた取り組みと歩調を合わせ、埋立地である夢洲を中心にさまざまな実証が進められていくことになりそうだ。
「2025年開催の万博」という明確な目標設定は、産学民の歩調を揃える意味でも効果は絶大で、事業はスムーズに推進されていくものと思われる。開発余力が大きい埋立地が舞台というのもプラスに働きそうだ。
2025年までの3年間で、自動運転や空飛ぶクルマといった新たなモビリティがどのように実装されていくか、要注目だ。
【参考】関連記事としては「自動運転と東京(2022年最新版)」も参照。
■関連FAQ
全国に先駆けて自動運転レベル4の移動サービスを導入することを目指している。自動運転車のほか、宅配ロボットなどの実用化に向け、公有地を実証実験のフィールドとして提供する構想もある。
2020年3月にVer.1.0、2022年3月にVer.2.0が発表され、スマートモビリティなどを導入して生活の質の向上などを目指すことなどが打ち出されている。
万博会場での自動運転レベル4の移動サービスの展開を目指している。実際に展開されるとなれば、どの企業が開発して自動運転車が使用されるのか、大きな注目を集めることになる。
大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)が自動運転の実証実験に力を入れており、ソフトバンク子会社のBOLDLYなどとともに公道実証を実施した実績などがある。
空飛ぶクルマの実用化に力を入れており、レベル4自動運転と同様、万博での展開を1つの目標として掲げている。
(初稿公開日:2022年6月15日/最終更新日:2022年12月6日)
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)