スマートモビリティ、「施策立案」「実証実験」のポイントは?

国の支援スキーム活用などがカギに



新たなモビリティサービスの社会実装を目指す経済産業省と国土交通省の「スマートモビリティチャレンジ」が4年目を迎えた。これまでの3年間で国内各地域においてさまざまな実証が行われ、検証結果の蓄積・分析が進められている。

その成果を取りまとめた資料の1つに「新しいモビリティサービスの社会実装に向けた知見集(令和3年度版 取組の進め方編)」がある。施策立案から実証実験、社会実装の各ステップにおける検討のポイントや参考となりうる事例を整理した資料だ。







各地のスマートモビリティに関する取り組みの全体像は把握しづらく、これから事業に着手しようと考えている自治体や交通事業者をはじめ、取り組み中の事業者にとっても情報収集が1つの課題となっている。このため、要点を整理した知見集を公表することで、各地の取り組みを加速させる狙いだ。

この記事では、同知見集の内容を解説していく。

▼新しいモビリティサービスの社会実装に向けた知見集(令和3年度版 取組の進め方編)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/smart_mobility_challenge/pdf/20220405_02_01.pdf

■施策立案期
サービス提供側と受ける側の乖離をしっかり把握

新しいモビリティサービスの導入に向けた施策立案段階では、成功のポイントとして以下の2点を挙げている。

  • ①住民の具体的な不満や意見を起点にソリューションを選ぶこと
  • ②交通分野の財政支出を定量的に把握することで、関係者間において課題の理解が進み、目標設定が容易になる

公共交通において、サービス水準や収益の向上、コスト削減といった持続可能性を向上させるためには、対象エリアの人口規模や密度、担っている役割などの特徴と、想定している解決の方向性を踏まえ、適切な施策を選択することが重要となる。

例えば、郊外などで既存モビリティサービスの事業継続性を高める場合、他の移動との重ね掛けによる効率化を見込み、貨客混載や福祉輸送との連携を図る――といった具合だ。

また、サービスの利用者像をあらかじめ詳細に設定・イメージしておくことが非常に重要だ。想定と実証実験の実施時、社会実装時で実際の利用者との間に少なからずズレが生じるため、これを踏まえたサービス水準などを柔軟に変更していくことも求められる。

サービスの利用者像は、サービス提供者へのインタビューと住民へのインタビューなどから掘り起こされるが、この両者の間で想定と実態にズレが生じているケースも多い。

サービスの需要と供給間における乖離を縮めるためには、サービス提供者や自治体、住民インタビューをもとにしたペルソナ分析を進め、実証前の想定利用者とサービス構想との整合性を確認するとともに実証後の振り返りが重要となる。

移動手段の拡充や変更、サービス内容などを随時見直し、柔軟にズレの解消を図っていくことが必要不可欠だ。

出典:スマートモビリティチャレンジ2021/経済産業省(※クリックorタップすると拡大できます)
■実証実験期
国の支援スキームを効果的に活用

実証実験の実施にあたっては、国の支援スキームなどを上手く活用し、地域が抱える課題と照らし合わせながら実績のある他の取り組みを参照することで、実証実験を早期に企画し実行することができる。

デジタル技術なども踏まえた地域交通の新しい姿を模索するケースでは、各分野の有識者を巻き込むことも有効で、投資を抑えながら当初の狙いが正しいかを判断できる規模の実験を見据えることで社会実装が近付くとしている。

スマートシティ関連では、例えば内閣府の未来技術社会実装事業や総務省の地域課題解決のためのスマートシティ推進事業、経済産業省の地域新MaaS創出推進事業、国土交通省の日本版MaaS推進・支援事業や国土交通省スマートシティ実装化支援事業など、さまざまな支援スキームが用意されている。こうした支援を有効活用することで、予算の確保をはじめサービスの早期実現を図ることが可能になる。

各分野の有識者を交え効果的な分析を

また、実証実験を進める上では、交通行政を担う自治体や交通事業を担う交通事業者をはじめ、両者を分析・実行面でサポートする主体が連携して実証実験を進める体制を構築することが望ましいとしている。

例えば北海道室蘭市では、市や交通事業者のほか、全体調整や実証運営などを担う室蘭テクノセンター、実証分析や考察などを行う室蘭工業大学、システムを提供するパナソニックITSやWILLER、サービス連携や店舗協力などを行う事業者らが実証に参加し、それぞれの役割を担いながら連携を図っているようだ。

このほか、実証実験を進める上での利用促進や想定利用者への周知において、将来的な移動課題をおのおのに想像してもらうことや、楽しいなどの感情面と移動体験を紐づけるような仕組みを取り入れることが有効としている。

こうした取り組みを通じて、地域住民が新しいモビリティサービスにアイデンティティーを持てるようになることで、利用のきっかけが増加したり、さらなるモビリティサービスの改善に向けた好循環が生まれたりする。

新しいモビリティサービスを使ってもらうには、そのサービスで利用者の移動可能性が高まることと、利用者の行動変容が重要になる。行動変容に関しては、6カ月以内に行動を変えようと思っていない無関心期、6カ月以内に行動を変えようと思っている関心期、1カ月以内に行動を変えようと思っている準備期、行動変容後6カ月以内の実行期、6カ月以後の維持期にステージを分け、それぞれに適したアプローチを考えていくことが重要としている。

出典:スマートモビリティチャレンジ2021/経済産業省(※クリックorタップすると拡大できます)
■社会実装期
実証結果を踏まえシステム見直しを

社会実装期においては、実証実験の内容や体制などに縛られることなく、導入技術やサービスの水準や自動化・システム化投資の合理性を改めて評価し、持続可能な事業モデルを再検討・構築することが事業性に大きく影響を及ぼすとしている。

公的補助を必要とするモビリティサービスの導入においては、自治体担当者が地域に必要なサービスを見極め、サービスの企画や実施体制の構築、周知、利用促進を主導し、社会実装までの道筋を描くことが望ましいという。

サービス導入に必要となるシステム面では、以下の3パターンが考えられるが、実証結果の検証を踏まえて②・③も含め持続可能な事業モデルを構築することが重要としている。

  • ①既存パッケージの導入
  • ②独自で作り込む
  • ③システムを使わず運行

①はベンダーにノウハウの蓄積があり導入が容易だが、システム費用がかさんでコストがかかりやすい。②は地域のニーズに即したUI・UXを設計可能で、簡易なものであれば安価に導入できるが、DX人材が必要不可欠となる。③はシステム費用やシステム研修が不要となるが、従来と変わらず人の手で業務を回す必要がある。

それぞれに一長一短があるが、短絡的に先進システムに傾倒・盲信することなく、事業の効果や効率化、継続性の観点を踏まえ、見直すべきところをしっかりと見直していかなければならない。

出典:スマートモビリティチャレンジ2021/経済産業省(※クリックorタップすると拡大できます)
異分野の施策と結び付けて事業継続性を確保

また、モビリティサービスによる効果は、外出率の向上やそれによる精神的・身体的健康の増進など、医療・福祉面でも効果を発揮することが明らかになっており、公共交通施策に留まらず福祉施策として捉えることで、予算面での制約を緩和して持続可能性を向上できる可能性があると指摘している。

先進事例にも福祉施策と結び付けた取り組みは多い。例えば埼玉県入間市では、デマンド交通サービスとリハビリサービスを組み合わせて要支援・要介護者に提供し、その効果を検証する実証実験が行われており、次年度以降福祉予算の活用が検討されているという。

他事業実施者と連携した事業モデル構築

モビリティサービスの実装にあたっては運賃を低く抑える地域も多く、旅客数の増加が事業性に大きく影響しない場合もあるという。このため、交通分野に閉じることなく、商業や物流など地域の他事業実施者にも協業を働きかけることで、データ活用による新しい付加価値の創出や他分野の負担圧縮につながる機会を増やせる。

例えば、アプリ利用者の移動データや交通関連データ、商業施設データを活用することで交通と商業を結び付け、商業施設の収益向上や公共交通の利用促進などを図ることができる。その結果、地域活性化とともに公共交通維持の負担軽減を見込むことが可能になる。

カーメーカーやディーラーの保有するモビリティデータや、モビリティサービスの利用者データも有用だ。利用実態やニーズに応じて地域公共交通やカーシェアリングなどのサービスを改善することが可能となり、公共交通の収益改善や外出機会の増加につなげていくことができる。

物流関連では、物流業者に交通関連データを提供し、非効率地域の配送を地場の交通事業者にアウトソース(貨客混載)する仕組みを構築することで、公共交通の稼働率の向上や自治体負担の低減を図ることができる。

モビリティサービス・移動と結び付けることでプラスを生み出していくアイデアは今後も広がり続けていくものと思われる。

出典:スマートモビリティチャレンジ2021/経済産業省(※クリックorタップすると拡大できます)
■【まとめ】先進事例・先行事例を参照し各地で議論を

まだまだ新しいモビリティサービスの導入に二の足を踏んでいる地域は多い。その背景には、予算面や大きな変革・事業化に対する抵抗などが内在しているものと思われるが、必ずしもイノベーション・変革を要するとは限らず、予算面を可決する手法もいろいろとある。

地域課題解決に向け、さまざまな先進事例・先行事例をもとに各地で議論が進むことに期待したい。

なお、スマートモビリティチャレンジの公式サイト(https://www.mobilitychallenge.go.jp/)で各種情報が提供されている。興味のある方は同サイトを訪れ、新たなモビリティサービスにアプローチしてほしい。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)









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