2021年度のスマートモビリティチャレンジ、得られた知見は?

移動販売や医療MaaS、貨客混載・・・・・・



経済産業省は、2021年度に実施された「スマートモビリティチャレンジ」事業の成果や課題を取りまとめた知見集を作成し、2022年4月5日に公表した。

同年度は先進パイロット地域に14地域が選定され、自動運転をはじめとした新モビリティやMaaS実装に向け、さまざまな取り組みが進められた。


この記事では、各地域の取り組みの中からいくつかピックアップし、その取り組み概要とともに成果を紹介する。

■他の移動との重ね掛けによる効率化
レベル2住民送迎サービスに商品配達機能を付加し事業採算性向上へ
出典:産業技術総合研究所/スマートモビリティチャレンジ2021(※クリックorタップすると拡大できます)

愛知県春日井市は、ニュータウンにおける高齢者の移動手段の確保に向け、レベル2によるオンデマンド型自動運転サービスに貨客混載による配達機能を組み合わせ、サービス向上と事業採算性向上を目指す取り組みを行った。

住民送迎とは異なる商品配達の配車アルゴリズムを開発し、商品注文から自動運転車の予約までを一元化したシステムを構築し、オンデマンド型自動運転サービスの実証に合わせ商品配達サービスを実施した。

その結果、商品配達機能の追加によって車両稼働率が向上することを確認したが、店舗経由条件の多様化や再配達に関する配車アルゴリズム改善など、さらなる貨客混載の効率化を実現するオンデマンド型自動運転サービスのシステム構築が必要で、商品配達を含めた運営計画の見直しや商品配達にも対応可能な住民ボランティアの確保なども課題として上がってきたようだ。


将来的には、店舗の在庫管理・決済システムとの連動や、遠隔監視システムによる見守り機能の追加など、地区内の日常生活圏維持に資するサービス連携・改善を図っていくとしている。

利便性が高い新モビリティサービスを模索
出典:産業技術総合研究所/スマートモビリティチャレンジ2021(※クリックorタップすると拡大できます)

佐賀県基山町は、高頻度シャトルバスやオンデマンド交通といったさまざまな移動特性を踏まえたモビリティ形態と利用を促す仕掛けづくりにより、町民の行動変容を促進することができるかを検証した。

実証では、オンデマンド交通、高頻度シャトルバス、通勤・通学シャトルバスの3種類を運行して町内移動の効率化を図るとともに、オンデマンド交通による農作物の町内輸送や既存高速バスの貨客混載サービスを活用した都市部への特産品輸送・販売、ノーマイカーデーの宣言・実行などの取り組みを実施した。その結果、7割強の住民が意識や行動に何らかの変化が生じると回答したようだ。

事業採算面では、期待される収益額が年間約6,800万円と試算される一方、事業実施に関わるランニングコストは約9,100万円で、2,300万円の収支差は現コミュニティバスの補填額2,000万円を上回っているが、乗降場所の見直しなど早期対応可能な改善を図ることで利用増を見込むことができ、黒字化も期待できるとしている。


■モビリティでのサービス提供
路線バスを活用した移動販売
出典:産業技術総合研究所/スマートモビリティチャレンジ2021(※クリックorタップすると拡大できます)

北海道帯広市では、路線バスの一部に販売スペースを設けた「マルシェバス」の実証が行われた。乗車率が低めの路線バスの車両後方の座席スペースを改造してマルシェ機能を付与し、出発前や長時間の停車時、終点などで商品を販売する取り組みだ。

路線周辺住民の生活の質の向上を図るとともに、交通事業者の収益向上や多角化の可能性、移動販売店舗機能を持たせた場合の運用性と機能要件などを検証した。

地元百貨店の協力のもと計25回の販売で約151.8万円を売り上げ、小売りの粗利率をもとに算出した売上目標金額(1日あたり5.4万円)を達成したようだ。地方では、1日の運行本数が少なく長時間遊休状態にあるバスも珍しくない。こうした時間と車内スペースを有効活用するアイデアとして応用の幅も広く、ブラッシュアップすればさまざまな発展系が見出せそうだ。

マルチタスク車両を活用したオンデマンド医療MaaS
出典:産業技術総合研究所/スマートモビリティチャレンジ2021(※クリックorタップすると拡大できます)

三重県内の6町(多気町、大台町、明和町、度会町、大紀町、紀北町)は、医療費抑制を目的に6町共同で移動診療を行うマルチタスク車両を利用し、高齢者宅の近傍などでオンライン診療やオンライン受診勧奨を行い、医療アクセス不良の解消可能性を検証した。事業には、MONET Technologiesなども参加している。

同地域では診療所への移動が困難・不便であり、保健指導などが必要な高齢者が多い地域にもかかわらず受診率が低いという。こうした課題に対し、マルチタスク車両で訪問してオンライン診断や受診勧奨を行うことで、医療アクセス不良が改善するかを検証した。
移動車両にはサービスに応じてドライバーのみや看護師、保健師、ケアマネージャーなどが同乗して対応し、各地で出張診療に代わるオンライン診療を行う。診療を行わない朝夕は公共交通としてマルチに活用する仕組みだ。

2022年度も引き続き医療MaaS車両を活用したオンライン診療サービスを実施する計画で、レンタル利用など非稼働日のユースケースを探り、段階的な広域連携を進める方針だ。また、次年度以降の事業として計画している広域データ連携基盤整備事業とのサービス連携により、生活全般に関わる地域ポータルサイトのメニューの一つとしてヘルスデータの活用を模索していく構えだ。

■需要側の変容を促す仕掛け
月定額乗合タクシーを実証
出典:産業技術総合研究所/スマートモビリティチャレンジ2021(※クリックorタップすると拡大できます)

島根県美郷町は、町内を移動する定額乗合タクシーやまちなかを移動するシニアカーシェアリングの導入実証と、拠点都市へ移動するダウンサイジングした路線バスの導入検討に着手した。移動利便性の向上や高齢者らの移動を活発化し、持続可能な地域交通実現を目指す狙いだ。

定額乗合タクシーは月定額制を導入し、需要や車両稼働率の変化や事業性・定額運賃として妥当な価格水準などを検証した。

収支シミュレーションでは月額6,500円が黒字ラインだったが、実証の結果は3~4,000円ゾーンで多くの会員が見られた。このため、支払い意志額を4,000円に設定し、6,500円との差額を行政が補助する事業を検討したところ、事業者の収益確保とともに、従来のデマンド型乗合タクシーと比較し行政コストを削減可能であるとする結果にたどり着いたようだ。

シニアカーシェアリングでは、サンプル数がやや少ないものの1時間あたりの平均支払希望額は255円という結果で、本格導入された際、5割強の利用者が「利用したい」「条件によっては利用したい」と回答している。

AIオンデマンド交通や相乗りタクシー実証を継続
出典:産業技術総合研究所/スマートモビリティチャレンジ2021(※クリックorタップすると拡大できます)

北海道室蘭市は、過年度に実施した相乗りタクシー実証の結果を踏まえ、エリアゾーン型AIオンデマンド交通や買い物連携型相乗りタクシー、都市間バスと相乗りタクシーの連携に関する実証を進め、高齢者を中心とした地域住民の行動変容を促すとともに、サービス水準や収支の検討を行った。

利用者や事業者との対話のもと、乗降スポット箇所や予約可能時間などを変更して利用率向上を図るとともに、高齢ドライバーも利用しやすいUIに変更するなど改善を図ったところ、満足度88%の高評価を得たようだ。

一方、参加者のスマホ保有率が5割程度のところ、オンデマンド交通実証では9割以上が電話予約するなど利用者のスマホ使用に課題が残った。

シャトルバスや自動運転車導入で交通手段の変容を検証
出典:産業技術総合研究所/スマートモビリティチャレンジ2021(※クリックorタップすると拡大できます)

沖縄県北谷町では、那覇空港周辺の混雑度情報や、町内で提供している自動走行カートや手荷物牽引カート、グリスロ電動シェアカートといった自由な移動手段、手荷物牽引カート、エンタテインメント車両SC-1などの状況を提供することで、観光客がレンタカー利用からその他交通手段の利用へ変容するかを検証した。

沖縄県本島の観光客の約60%がレンタカーを利用し、北谷町と那覇空港を結ぶ国道は県内有数の渋滞区間となっている。このため、駐車場不足や町内の滞在時間の減少が課題となっていた。

実証の結果、サービスが観光客に受け入れられ、事業として成立し得ることを確認した。今後、シャトルバスとレンタカーのセット商品の販売検討やレベル4車両の導入活用による運営のさらなる効率化などを図っていく方針で、将来的にはAI画像解析による交通調査システムの導入や、ルート検索から予約精算までを一体化した北谷観光MaaSの専用アプリを開発し、サービス実証を行うとしている。

同町ではすでにドライバー不在のレベル3移動サービスを提供しており、自動運転サービスの進化にも注目だ。

■異業種との連携による収益・付加価値
成功報酬型の広告収入モデルを検証
出典:産業技術総合研究所/スマートモビリティチャレンジ2021(※クリックorタップすると拡大できます)

福島県会津若松市は、レシートによる地元商店における購買情報を用いた詳細な売上算出に基づく成功報酬型の広告収入モデルの実装・導入効果を検証した。MaaS基盤を介して連携する交通事業者と小売事業者の新たなビジネスモデルを創出する取り組みだ。

MaaS基盤の機能を拡張し、店舗などで購買行動をした利用者に発行されたレシートなどを読み込んでもらうことで、報告された金額に応じて店舗に広告料を請求するビジネスモデルについて検証した。

実証の結果、800万円規模に及ぶ広告料のポテンシャルが確認されたが、利用者の情報提供率の低さで220万規模に留まる可能性があるとした。

一方、利用者からはレシート情報提供の見返りとしてキャッシュバックやクーポンなどのインセンティブを期待する割合が全体の約7割に上った。小売事業者側は、過半数の店舗が肯定的な見解を示したようだ。

次年度以降は、店舗情報の収集・更新オペレーションの確立・効率化を進めるとともに、交通チケットと店舗クーポンのセット券の造成、店舗への広告料請求オペレーションの確立に取り組む。また、家計簿サービスや決済サービスとの連携を進め、利用者の情報提供プロセスの大幅な簡素化にも取り組む方針だ。

■モビリティ関連データの取得、交通・都市政策との連携
自動運転社会を見据え既存サービスの脆弱性を洗い出し
出典:産業技術総合研究所/スマートモビリティチャレンジ2021(※クリックorタップすると拡大できます)

福井県永平寺町は、自動運転サービスの社会実装にあたり、自家用有償旅客運送によるデマンドタクシー運行の脆弱性を洗い出すことで、その脆弱性をシステムや技術が補完し省人化できる仕組みを構築し、段階的に安全性能を向上させ自動運転サービスの実現につなげていく取り組みを進めている。

実証では、自家用有償旅客運送によるデマンドタクシー「近助タクシー」の車両に通信型ドライブレコーダーを設置して運転のスコア化を行ったほか、2種類のドライブシミュレータによる研修を行い、1回目と2回目の研修による差異を測定して取り組み効果を検証した。

現状、近助タクシーは便利だが重大な事故により存続が危ぶまれる可能性があり、リスクマネジメントが肝要となるが、自動運転技術をはじめとした車両技術・運行システムで安全性確保を行うことができる。

一方、自動運転は安全だが利便性が向上しなければ移動サービスとしてのニーズがなくなる。このため、自動運転移動サービスの進化を図りながら、既存の移動サービスに自動運転機能を付加して高度化・高機能化させていくことで、管理コストの低減や省人化につなげていく構えのようだ。

■【まとめ】事業継続性を重視したフェーズへ

自動運転実証が盛んな愛知県内をはじめ、永平寺町、北谷町のように自動運転サービス実証で先行する地域が取り組みを深めているほか、事業採算性に着目した取り組みも目立つ。将来を見越し、事業継続性を重視したフェーズに移行し始めている証左と言えそうだ。

2022年度も、引き続き新モビリティサービス推進事業や無人自動運転などのCASE対応に向けた実証・支援事業(地域新MaaS創出推進事業)などの募集が行われている。

新年度もさらなる事業の推進や横展開に期待したい。

▼新しいモビリティサービスの社会実装に向けた知見集(令和3年度版 取組テーマ編)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/smart_mobility_challenge/pdf/20220405_02_02.pdf

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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