米半導体大手のNVIDIAが自動運転開発事業者向けに提供する開発プラットフォーム「NVIDIA DRIVE Platform」への参加が相次いでいる。最近では、BarajaやHesai、Innoviz、Magna、OusterといったLiDARセンサーの開発事業者がNVIDIAのエコシステムに参加したようだ。
なぜ同社のプラットフォームにはセンサー開発企業が続々と参加するのか。NVIDIA DRIVEの概要とともに、こうした開発プラットフォームに求められる要件について解説していく。
記事の目次
■「センサー×プラットフォーム」で求められる要件
センサー向けのプラットフォームには、ハードウェアとして求められる要件とソフトウェアとして求められる要件がそれぞれある。
ハードウェアとして求められる要件
ハードウェアの観点では、耐久性や堅牢性といった基本スペックをはじめ、当然ながらハイパフォーマンスを発揮する性能を備えていることが絶対条件となる。
自動運転で使用されるLiDARやカメラなどの各種センサーは、走行中に膨大なデータを生み出し続ける。これらのデータをリアルタイムで高速に処理するプロセッサーや大容量ストレージなどが必須となるのだ。
ソフトウェアとして求められる要件
ソフトウェアの観点では、汎用性の高いオープンな開発環境が用意されているかどうかが近年特に重視されているようだ。一般的に、自動運転においてはLiDARやカメラ、ミリ波レーダーなどさまざまなセンサーデータを統合して認識能力を高めるが、各センサーの構成は自動運転開発企業ごとに異なり、また各センサーの開発企業も非常に多岐に渡る。
センサー開発企業にとっては、自社センサーの汎用性を高めるため他社製品などと柔軟に組み合わせて使用できるシステムの構築が求められる。他社製品と連動して機能することを前提にデバイスやソフトウェアを開発しなければならないのだ。
ただ、無数に存在する他社製品に逐一対応するのはコスト的にも労力的にも難しい。こうした場面で活躍するのが開発プラットフォームだ。各社が特定のプラットフォーム向けに開発を進めることで、さまざまなセンサー間に互換性が生まれ、連動して機能させることが容易になる。
多くの開発企業が参加・導入しやすい基盤づくりが進む
こうした観点から、プラットフォームサービスを手掛ける企業はオープンな開発環境を提供し、より多くの開発企業が参加・導入しやすい基盤づくりを心掛けている。参加企業が増えれば増えるほど利便性が増し、プラットフォームとしての価値も増していくことになるからだ。
なお、自動運転業界としても、各システムのベースとなる共通のアーキテクチャーなど業界標準となる一定のシステム要件があれば、業界全体の開発が促進される。
こうした狙いから、ArmやBosch、NVIDIA、トヨタらが共同事業体「Autonomous Vehicle Computing Consortium(AVCC)」を2019年に設立し、システムアーキテクチャやコンピューティングプラットフォームの推奨事項の開発・策定などを進める動きも出ている。
【参考】AVCCについては「自動運転領域は「インテルよりアーム」なのか…高まる存在感 国際組織設立、トヨタも参画」も参照。
自動運転領域は「インテルよりアーム」なのか…高まる存在感 国際組織設立、トヨタも参画 https://t.co/s5IQ2PgEby @jidountenlab #自動運転 #Arm #トヨタ
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) October 11, 2019
■NVIDIA DRIVEとは?
プラットフォームの機能・特徴は?
高性能GPUで一時代を築いたNVIDIAにとって、画像処理を担うプロセッサー開発は十八番であり、ハードウェアとしての性能は申し分ない。優秀な車載コンピュータとして、これだけで顧客を集められるレベルだ。「NVIDIA DRIVE Platform」のプラットフォームとしての機能はどうなのか。
NVIDIA DRIVE Platformは、世界中の自動運転開発者向けのオープンな開発プラットフォームで、ソフトウェアプラグインを使用することで、パートナー企業は自社のテクノロジーを自動運転向けの「DRIVE AGXシステム」と統合することができる。NVIDIAによれば、パートナー企業は、自動車メーカーやティア1サプライヤー、スタートアップなど370社を超えているという。
ソフトウェアスタックは、オープンでカスタマイズ可能なソフトウェアレイヤーで構築されており、センサーによる認識や自己位置推定、マッピング、ルーティング、制御、ドライバーモニタリング、自然言語処理など、さまざまなアプリケーションを効率よくビルドし展開することができる。
自動運転に関するあらゆる機能の開発に対応しているため、自動運転システム開発企業をはじめセンサー開発企業、マップ開発企業など専門分野を有する企業も軒並み参加しているのだ。
60社超のセンサー開発企業がプラットフォームを活用
NVIDIAによれば、すでに60社超のセンサー開発企業がNVIDIAのプラットフォームを活用して製品開発に取り組んでいる。
イスラエルのLiDAR開発企業であるInnovizのOmer Keilaf CEOは「当社のソリューションをNVIDIA DRIVEプラットフォーム上で利用可能にすることで、ソリッドステート式LiDARをシームレスに統合し、大量に採用することが可能になる」とコメントしている。
自動運転開発企業は試行段階においてさまざまなセンサーを実際に取り付け、センサー数や配置などの構成を模索していくが、NVIDIA DRIVEの活用によってプラグアンドプレイが可能になり、手軽に各種センサーを試すことができる。
また、開発キットにはセンサーの抽象化レイヤーが含まれており、プラットフォーム上の新しいセンサーの起動プロセスを合理化する統一されたインターフェイスが提供されている。これにより各種センサーの比較が容易になり、開発者は検証する際の時間と労力を節約することができるという。
■【まとめ】業界標準としての存在感が増すNVIDIA DRIVE
AndoroidとiOSがスマートフォンにおいて「標準」扱いされるように、NVIDIA DRIVEも圧倒的な性能と機能、拡張性を武器に自動運転開発分野においてシェアを拡大し、「標準」となりつつあるようだ。
センサー開発企業は、この「標準」に対応して自社製品の取り扱いを容易にすることで、より多くの自動運転開発企業の採用につなげていくことが可能になる。NVIDIA DRIVEをハブに、さまざまな開発企業がつながりを持っているようなイメージだ。
将来、こうしたプラットフォームが開発用途から実用化用途に進化を遂げ、ミドルウェアとして自動車OSや自動運転OSに組み込まれる可能性も考えられる。OS化が進む自動車業界における象徴的な動向と言えそうだ。
【参考】関連記事としては「米半導体大手NVIDIA、中国NIOに自動運転向けプロセッサを提供」も参照。