独アウディが自動運転時代の新たなコンセプトカー「urbansphere(アーバンスフィア)」を2022年4月25日までに発表した。ラグジュアリーかつプライベートなレベル4をコンセプトとするモデルで、3部作を締めくくるモデルだ。
この記事では、アーバンスフィアの概要とともにレベル4オーナーカーの未来に迫っていく。
記事の目次
■アーバンスフィアの概要
インテリアファーストで乗車体験を格別に
アーバンスフィアは、「skysphere(スカイスフィア)」「grandsphere(グランドスフィア)」に次ぐ3代目のモデルで、未来のプレミアムモビリティのビジョンを示すために製作されている。主に中国のメガシティを走行することを想定して製作したようだ。
アーバンスフィアは全長5.51×全幅2.01×全高1.78メートルと3モデルの中で最大のボディサイズを誇る。広々とした室内スペースが最大のウリで、快適性を重視しながら乗員のニーズに応える広大なスペースを創出することに焦点を当てている。
デザインプロセスにおいても、乗員が車内で過ごす体験を最も重視し、インテリアを基盤にパッケージ、エクステリアライン、プロポーションを設計し、技術仕様を決定する徹底ぶりだ。
ドアは観音開きを採用しており、ドアを開くとインテリアすべてが解放され、外側に回転するシートが乗降性を高めている。また、レッドカーペットを模した光を地面に投影するなど、遊び心のある機能も搭載されている。
シートは2列に並んだ4座のセパレートタイプで、豪華なファーストクラスの快適性を提供する。会話を楽しみたい場合、シートを回転させて向き合うことができるほか、ヘッドレスト後方に取り付けられたプライバシースクリーンを使用して頭部エリアを隠すことで、プライベートな空間を確保することもできる。
各シートのヘッドレストにスピーカーを備えた独自のサウンドゾーンが設定され、フロントシートの背もたれにはディスプレイが内蔵されている。インフォテインメントシステムを一緒に楽しみたい場合、1列目と2列目シートの間に大型の透明OLEDスクリーンを設置することができる。
このスクリーンを利用し、リヤシートの乗員がビデオ会議に参加したり、映画を観たりすることもできる。スクリーンは透明で、使用していないときはスクリーンを通して前方を見ることもできる。リラックスモードとエンターテインメントモードを意識した作りになっているようだ。
自動運転モードではステアリングなどを格納
自動運転モード時は、運転席のステアリングホイールやペダル、ダッシュボードが格納され、よりクリアで広々とした空間を創出する。後述するが、こうした仕様は将来のレベル4以上のオーナーカーにおいてスタンダードとなるかもしれない注目の技術だ。
アーバンスフィアでは、円形のメーターパネルをはじめ、バーチャルディスプレイのブラックスクリーンも非表示となる。乗員が過度にデジタル機器に振り回されることのない「デジタルデトックス」により、「運転」とかけ離れた空間を演出するようだ。
車両を起動すると、手動モード・自動運転モードを問わずフロントウィンドウ下のウッドパネルにディスプレイが表示され、走行中に必要となるすべての情報が超高解像度で表示される。投影面下部にはセンサーバーが一体的に備えられており、音楽再生やナビゲーションなど異なるコンテンツを素早く切り替えられるよう工夫されている。
ドア開放部の近くにも革新的なコントロールエレメント「MMIタッチレスレスポンス」が装備されており、回転するリングとボタンを介して各メニューを物理的に選択し、各種機能をシンプルで直感的な方法で操作することができる。
シートを倒したリクライニングポジションでは、アイトラッキングやジェスチャーコントロール機能を組み合わせてコントロールユニットを作動させることもできるという。
これらの機能は各ユーザーに適応し、ユーザーの好みや頻繁に使用する機能を学習する。学習した内容に基づいて基本的な機能を効果的に補うだけでなく、各ユーザーに個別の提案を行う機能も備えている。
このほか、コントロールパネルはドアのアームレストにも組み込まれており、光学インジケーターによってタッチサーフェスが常に提供される。左右のドアアームレストにはVRメガネも収納されており、ホロライドシステムなどのインフォテインメントデバイスと組み合わせて使用することができるという。
■スカイスフィアとグランドスフィア
3部作の第1弾「スカイスフィア」は、2ドアコンバーチブルEVのレベル4モデルで、グランドツーリング体験とスポーツ体験を味わえる自動運転車だ。アダプティブホイールベースというテクノロジーにより、ホイールベース・車両全長を最大250ミリ伸長させることができるのが特徴だ。
第2弾の「グランドスフィア」はセダンベースの自動運転車で、そのテクノロジーやデザインは数年後のアウディモデルに実装されるという。
ドライバーを可能な限り運転操作から解放するだけでなく、コミュニケーションやリラクゼーション、仕事、プライベートといったさまざまな選択肢を提供し、自動車を「体験型デバイス」へ変化させるとしている。
【参考】スカイスフィアについては「車の室内が伸びたり縮んだり!Audiの自動運転コンセプトカーの未来感」も参照。
車の室内が伸びたり縮んだり!Audiの自動運転コンセプトカーの未来感 https://t.co/RykY9wNcN4 @jidountenlab #自動運転 #Audi #コンセプトカー
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) August 17, 2021
■アウディにおけるステアリング格納機能
ステアリングなどの格納機能は、アウディにおいてはスカイスフィアやグランドスフィアをはじめ、2019年に発表したレベル4コンセプトカー「Audi AI:ME」などでも採用されている。
自家用車におけるレベル4は、手動運転と自動運転が共存することになる。自由な移動が可能な従来の手動運転とともに、ODD(運行設計領域)内における自動運転を味わうことができるのだ。
手動運転用にステアリングやペダル類の手動制御装置が必須となることは言うまでもないが、自動運転時にはこうした装置類は無用となり、運転席の空間を圧迫する。
移動時間に自由をもたらす自動運転のメリットを想定した場合、自動運転中の運転席も助手席や後部座席同様ゆとりのある空間であるべき――とする考え方はごく自然なもので、そのためにはステアリングなどの装置を格納するギミックが求められる。
こうした格納技術の研究開発は各社が進めており、例えばジェイテクトは東京モーターショー2019に、ステアリング格納機能を搭載した「Future Concept Vehicle 2(FCV2)」を出展している。現代モービスは2021年10月、従来の円形ステアリングと異なる形状の「フォルダブルステアリングシステム」を発表している。
将来、レベル4を搭載したオーナーカーが市場化するころには、こうした技術がスタンダード化する可能性は十分考えられる。
【参考】ジェイテクトの取り組みについては「自動運転時代は「ハンドル格納機能」がアツい トヨタ系ジェイテクトの考え方」も参照。
自動運転時代は「ハンドル格納機能」がアツい トヨタ系ジェイテクトの考え方 https://t.co/I8BFWWiYoq @jidountenlab #自動運転 #ハンドル #トヨタ
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) October 9, 2019
■【まとめ】移動時間の可能性を広げる観点が重要に
自動運転コンセプトカーは、自動運転技術そのものより車内における移動時間に何ができるのかといった可能性を膨らませる観点が重要視されている。
こうした観点は、移動サービス車両はもちろん自家用車も例外ではなくなる。自家用車におけるレベル4はまだまだ先に思えるが、イスラエルの自動運転開発企業・モービルアイは2024年にも中国でレベル4市販車を販売する構想を明らかにしている。わずか2年後だ。各社の自動運転コンセプトが実現する日は、意外と近いのかもしれない。
【参考】関連記事としては「自動運転、欧州(ヨーロッパ)法律動向(2022年最新版)」も参照。